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第63話

 さて、剣の聖地に来たは良いものの、またしてもオレは牢屋の中。


 あの船、本体自体が魔道具になっていて、設定した場所へ自動で移動できるそうな。

 ただまあ、ロウさんが操作の仕組みをよく知らないそうで、一度設定したもを変更する方法が分からないそうな。

 しゃ~ないので、一旦、向こうに着いてから考えるかってなったんだが。


 着いたとたん、わらわらと兵隊さんがやって来た。


「おかしいわよねぇ……どうしてバレたのかしら、あの船には察知されないような魔法が幾つも掛かってたはずなのにねぇ」


 ふむ……もしかしてアレかな?


 ほら、オレが履いているパンツ。

 周囲の魔法を使えなくするって事は、迷彩かなんかの魔法を解除してしまっていたのかもしれない。

 動力部に近づかない様に、ほとんど船上で居たからなあ。


 たぶん、外からまる見えだったのだろう。

 そりゃ兵隊さん達もやって来るわ。

 完全な不法入国ですからね。


「というよりそのパンツ大丈夫なのぉ? トイレとかどうしてんのぉ?」


 それがですね……無駄にハイテクなようでしてね……


 パンツの内側に対しては魔法が有効の様で、転移魔法で出た者は消えて、クリーンの魔法でいつでも清潔なようなんですわ。

 まあ、魔法が有効じゃなきゃ、普通に脱げるわな。

 くっそアイツ、帰ったらリューリンちゃんにチクってやるからな。


 このパンツを加工したら、さらに脱げない仕様にできるだろうし。


 まあ、いたちごっこになるかもしれないが。

 ほんと、こういう事に関しては知恵が回る。

 その知識を、もっと他に活かせないものか。


「おっしゃ、でかしたぞお前ら! 久しぶりの男の犯罪者、しかも外様と来た。こりゃあ、何やっても問題あるめえなあ!! がっはっは!」


 どこからともなく不穏なセリフが聞こえてくる。


「やっぱここらへん、ああいう人が多いんですかね?」

「あ~……、う~……、む~ん…………ま、普段、抑圧されている分、弾ける時は酷いわねぇ」

「そっか~、ひどいか~、…………どうにか、ならないッスかね?」


「あんたの傍にいると、そのパンツの所為でまともに力がでないからねぇ……」


 離れりゃ良いじゃん? やっぱまだ、根に持ってますかね?


「その、脱げないパンツ履いてりゃ大丈夫じゃない? むしろ、返り討ちにできるぐらい」


 そう言うと、ピンッと何かを指で弾いて飛ばして来る。

 放物線を描いて落ちて来た物を手で受け取る。

 コレは――――コイン?


「それは一紋銭と言ってね、この国で使われている最低価値の通貨ヨ~」

「1円玉の様なものか……そんなものを貰っても何一つ買えないんじゃ?」

「いいえ、この国ではその一枚だけで全てを買える」


 この国ではどんなに貧しくとも誰もが持っている、その一紋銭。


 これ1枚あれば、何だって買える。

 豪華な料理、美しい男、高価な武具。

 ――――そして国さえも。


「ソイツを一番声のでけぇ奴にブン投げな」


 それで全てが解決する、と急に真顔になってそんな事を言う。


 もしかしてソレ、決闘の申し込みですかね?

 たしかこの国は力こそが全て、武力が全てを解決する、と言っていた気がする。

 ここの牢屋主に決闘を申し込んで、勝てば無罪放免とか?


「そんな上手い話があるのですかねえ」

「フッ、まあ、土地柄、こんな場所に来るような奴は少ないけど、たま~に来た奴はこれを乱発するわけよぉ」


 で、そんな事をすりゃあ、目も付けられる。

 決闘を申し込み出来るという事は、決闘を申し込まれる事にもなる。

 それこそ、無限に……


「この国の奴らはね、このルール上で生きているわけよぉ」


 なので、独自の基準が出来ている。

 弱い奴からは奪わない、男・子供を傷つけない、決闘を申し込む時は己の魂を掛ける時。

 義に反する行いをする者は、より強い者から粛清を受ける、特に偶に来た、ご無体な事をする奴らは。


 と言う。


「ダメじゃん!」

「力があるならそれでも良いのよぉ、向かって来た奴らは全部、返り討ちにすれば良いからぁ」

「そうは言っても、次から次へとやって来られたら……」


「決闘は神聖な物、彼らも魂を掛ける以上、弱った状態では申し込まれないわぁ」


 そうやって最後に辿り着く先には、この国の頂上を張っている者、そう剣王がやって来る。


「会いたいのでしょ? 今の剣王に」


 いや、もっと穏便に会いたいです。

 というか紹介してくれるんじゃなかったの?


「あたしゃ逃げ出した身ヨぉ、ノコノコ顔を出した日にゃ、首を刎ねられてもおかしくないわぁ」


 もしかして、そのつもりでオレを攫って来た訳なんか。


「そしてその剣王も倒せば初の男性剣王、それこそ、あの白いのが言っていた、ありえない出来事が起きる時」

「いくら身体強化が出来ないといっても、技巧派みたいなお方も居るだろうし、無理ではないでしょうか?」

「技巧派こそカモよぉ」


 剣術というのは型に始まり、型に終わる。

 一から十まで、正しい手順、正しい動きが必要。

 力の加え方、動かし方、何一つ欠けても技術は成立しない。


「技術というものはね、ネジ一本欠けるだけで完璧な物じゃなくなる。で、完璧じゃない技術を使う技巧派ほど、脆い奴はないわぁ」


 まっ、不完全な技術から新しい技術が生み出される場合もあるけど……身体強化と言う、力の根本ともなるものを抑えられてはそれも望みが薄い。


「そう、それこそ、ずっと身体強化を使わずに技術を磨いてきた奴でもいない限りはね」


 そうロウさんが言った瞬間だった。

 突如、背後の壁が爆発した。

 吹き飛ばされて仰向けになった先、見上げると一人の女性がオレを覗き込んでいた。


「あ~、やっぱりシフだあ~☆」


 その女性は、そう言いながらやっほ~と手を振って来る。


「えっ…………!? もしかして、…………シャンプー?」


 少し濁ったような緑色をした瞳。

 青みがかかった黒髪を無造作に切りそろえただけのずぼらさ。

 なにより牢屋の壁を吹き飛ばして、能天気そうに手を振って居る能天気さ。


「な、なんでココに……!?」


 そう、オレのこの世界のトラウマの元凶。

 オレを救ってくれた女神でもあり、オレを殺そうとしてくる魔王でもあった。

 同じ日に生まれ、同じ場所で育った幼馴染。


 そう、そこにいたのは、オレが生まれた村、そこの村長の娘――――シャンプ・ソーランだった。

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