飲んで呑まれて飲みこんで
例の如く時系列は158話と159話の間です。
視点は鳥海です。
飲んでます。
ご注意ください。
「まず、元の世界に戻ったら体の状態は多分元に戻るじゃん。だから身体的理由としては問題ないっしょ?そしてここは異世界だから、俺達の世界の法律を当てはめなくてもいいと思うんだよね。で、誰に見とがめられるでもないし」
「いや……なんか、良心が……?」
「刈谷あたり、酔ったら間違いなく下ネタで酷いことになりそうだよね」
「いやいやいや、俺もですけど、羽ヶ崎君も酔ったら酷いことになりそうじゃないですかねぇ」
俺達が囲んでるテーブルの上にはさ、瓶が、数本!
陶器の壺に入ってるのが1本。透明なガラスの瓶に果物みたいなのと一緒に入ってるのが1本。褐色のガラスの瓶に入ってるのが1本。クリスタルの瓶に入ってる綺麗な透き通った桃色が1本、っと。
瓶のデザインも凝ってるし、ガラスとかクリスタルの透明を透かして見える色合いがまた綺麗で工芸品っぽい。いやー、流石異世界ですわー。
「大体、貰っちゃったもんはしょうがなくない?ん?折角の異世界なんだし?」
今日ちょっと鈴本と羽ヶ崎君と、デイチェモールのコロシアムで殴り合いした景品としてもらってきた奴なんだけど。
……ま、ちょっと飲んでみたいよね?っていう。
「ちょ、ちょっと!君達未成年じゃん!お酒は二十歳になってからだよ!」
舞戸さんはこういうの、きっちりしたいタイプっぽい……っていうか、多分舞戸さん、弱いからなー、そういう事なんだろうけど。
「でも舞戸さんはもう社交界の時に飲んでるじゃん?」
でも針生に言われて言葉に詰まるあたり、甘いねー。
「ほら、折角の異世界だからさ。折角の」
針生は興味深々でちょっと面白い。
意外と強いんかね?いや、分かんないけど。
「……まあ、折角だ、もんねぇ……うん、いっか」
おっと、ここで加鳥が陥落!
「折角なので俺のアルコール許容量を測ってみてもいいかもしれませんね。急性アルコール中毒になったら解毒剤を飲めばいいだけですから心配もありませんし」
社長は別の方向で陥落っ!あー、社長にとってはお酒も毒物かー。いや、流石っすわー。
適度に飲んでる分には毒にならないと思うんだけどなー。おかしいなー、過度に飲む気満々なのかなー?
「まぁ、こんな機会だしな。戦利品を捨てていくのも癪だ」
「ま、いいんじゃないの、このぐらい」
「……まいっか」
で、結局、舞戸さん以外、陥落。
ま、折角だしさ。いいよね、こんぐらい。折角だし。
「じゃ、早速開けてみよっか。一番弱そうなの、これだよね?」
まだ傍観を決め込んでる人たちが半数ぐらい居る中で、針生がうきうきしながら果実酒っぽいのの封を切った。
ぽん、っていい音をさせて栓を抜いて、副賞だったっぽい魔鉱石のグラスに注ぐ。
透き通った透明なグラスは、中のものの温度を保ちつつ揮発させない効果があるんだってさ。
実験器具として欲しいかんじの代物だよね。
「じゃ、毒見って事で」
で、針生が飲んだ。
……みんなが注目する中、とりあえず一口飲んだ針生が、一言。
「んー、アルコール入ってるジュース。あー、こんなもんかー、ってかんじ」
うーん、夢もへったくれも無い!
「甘いって事?あ、僕も貰っていい?」
で、続いて加鳥がちょっと注いで、ちょっと飲む。
「……あー、うん。飲み物として、普通に美味しいと思うよ」
美味しい、の言葉で、舞戸さんが揺れてるのが分かった。
舞戸さん、甘いの好きだからなー、しょうがないよね。
「じゃ、俺も貰うわ」
……俺も甘いの嫌いじゃないし、しょうがないよね!
初めてお酒ってものを飲んでみたけど、やっぱり「へー」ってかんじ。
なんていうか、別にそこまで劇的に何か変わる訳でも無いなー、って。
でも、これの味は割と好きかな?
甘酸っぱくて、果物味で美味いと思う。
「ちょ、ちょっと味見だけ……」
で、遂に舞戸さんが折れた……と思ったら、違った。
「味の記憶だけちょっと……」
ん?あー……『共有』で味だけ知ろうってことかー。
「ん?そっち?まあいいけど」
頭突きしたがるんで前髪掻き上げたら、ちょこん、ってきて、そそくさ離れていった。
「……甘いんだね。果物味で美味しいみたいだね。酔っぱらいそうな味するけど」
おー、揺れてる揺れてる!
「俺も貰う」
あ、鈴本が参戦した。
「僕も」
あ、羽ヶ崎君も参戦した。
……全員参戦して、瓶の中身は着実に減っていく。
「舞戸さん、ほんとにいいの?多分これが一番弱い奴だと思うけど」
駄目押しに瓶の中身の残量を見せると、舞戸さんも、遂に。
「……ちょっと貰う」
よっしゃ、舞戸さんも陥落!
ほら、皆でやった方が楽しいからさ?こういうのって。
「こっち、開けてみてもいいですか」
それぞれ皆で果実酒の味見をした後、社長が陶器の壺の方にも手、出し始めた。
んー、そっちは強そうだけど、どうせ解毒剤飲むならちょっと挑戦してみてもいいかも。
「……これ、どうやって開けるんだろうねぇ」
「ええと……蓋がくっついてますよね、これ……」
なんか、壺の口を覆ってた紙を取ったら、今度はしっかり接着されてる蓋が出てきた。
石膏かなんかでくっついてるっぽいね。
「割りますか?」
「諸君、私の存在、忘れてないかね。『お掃除』」
社長が口の所割ろうとしたら、舞戸さんがハタキで蓋だけ綺麗に消してくれた。
やっぱ舞戸さん、便利だわ。
「あ、こっちも割と甘め」
壺に入ってるお酒って強そうな印象あったけれど、割と飲みやすい奴だったっぽい。
ちょっと貰ってみたら、花みたいな香りと甘さとちょっと苦さが混じった味だった。
さっきの果実酒みたいな爽やかな味じゃないけど、まろやかで割と美味しいよね、これも。
「こっちも開けるよー」
そして、同時進行で褐色の瓶も開いた。
「……苦い……」
「そうか、苦いか。じゃあ俺はやめておこう」
そっちは味見した角三君の反応を見る限り、あんまり美味しくなさそうだなー。
いや、お酒って苦いもんなんだろうけどね。
「これを飲む人が居ないならこれは俺が貰います」
皆でそれも味見して、「苦いねー」「ねー」って一頻りやった後、社長が瓶を持って行った。
……自分のアルコール許容量を確かめるんだってさー。
そんなさー、無理してやらなくてもいいんじゃないかなー。
いや、社長は楽しそうだから止めないけど。
「お、これ美味いな」
いつの間にか鈴本がクリスタルの瓶も開けてた。
「美味いの?じゃあ俺もらうわー」
で、ちょっと俺も貰ったんだけどさ。
……飲んだ瞬間、衝撃。
いや、だってさ、これさ……。
「砂糖水……!」
ちょっと、あまりの甘さに社長が持って行った瓶の中身が欲しくなるレベルで甘いんですわ。なにこれ。
「えっ、何それ気になる気になる」
針生が寄ってきて、味見。
「うわ、砂糖水!」
で、やっぱり衝撃。
「えっ、僕も気になるなあ」
「あ、俺も貰っていいですかね」
わらわら皆寄ってきて数mlずつ味見していくけど、その度に皆衝撃を受けてた。
いやー、これ、甘いどころじゃなくて甘いっていうか。
ちょっととろんとした液体かな、って位なのに、味は蜂蜜とか砂糖とかそういうかんじなんで、まー、そのまま飲むにはちょっとね?っていう。
「これ、割って飲むもんじゃないのかね、諸君。特に鈴本君よ」
「いや、俺はこのままでいい。美味い」
んーと、多分この部で一番の甘党って、舞戸さんじゃなくて多分鈴本なんだわ。
いつだったかの合宿の時、ケーキでロシアンルーレットやったことがあって。
その時、社長が何を思ったか、スポンジの間に砂糖挟んだ激甘ケーキを作って……それ、鈴本に当たったんだけど、普通に食べてて、その後に砂糖増量の生クリームも食べ始めるっていうね。
んー……ま、人って、見かけによらないよね。
少ししたら、急に教室の窓がバァンッ!とかいって、皆で見たらでかい鳥が窓に衝突したっぽくて、墜落してた。
皆、反応鈍いからなー、こりゃだめか。
「あれどうすんの?」
「捕まえてから揚げー」
「あー、じゃ、俺行ってくるわー」
この中じゃ一番俺が酔ってなさそうだし、1人で何とでもできそうだったんでちょっと外でてハルバード振ってくることにした。
結局、後から後から1体ずつでかい鳥が飛んできたんで、結局8羽位、ハルバードでばっさばっさやることになっちゃった。いやー、参ったね。すっかり酔いも醒めちゃって損した気分。
……で、室内に戻ったんだけど。
いやさ、別にこう、油断してた訳じゃないと思うんだけどね。
俺達が飲んでたのって甘かろうが苦かろうがお酒だったからね。
で、俺達って生まれて初めて(の人が大半だと思うよ?)お酒ってものを飲んだ訳だったもんで。
いや、全員、自制はできたんだと思うんだけどね?吐いたりする人は居なかったし。
刈谷と加鳥が、放送禁止用語が飛び交う会話してる。
刈谷がやったら饒舌になってて、加鳥は延々とにこにこしながら放送禁止用語ぼろぼろ零してる。
うん、そりゃ、俺達、男子高校生だから。しょうがないよね!
社長はさっきから凄い勢いでさっきの褐色の瓶の中身開けてはノートになんか記録してる。
んで、ちょっと見に行ってみた。
「社長―」
「どうしたんですか?飲みますか?俺は別に構いませんが多分これは氷か水で割った方がいいと思います。アルコール度数何度でしょうね、これ。砂糖入れたら舞戸さんも飲めますかね」
おー、酔っぱらってる酔っぱらってる。
「いや、ちょっと様子見に来ただけ」
「俺は大丈夫ですよ。酔ってはいますが正気は保ってます。本当にヤバくなったら解毒剤を飲むので俺より角三さんあたりをお願いします。数分前からあの状態なんで。寝るなら布団敷いた方がいいかもしれませんし、解毒剤が必要ならこれ使って下さい」
んー、めっちゃ饒舌だから絶対滅茶苦茶酔ってると思うんだけどなー。
ま、いいや。社長なら自分でなんとかするっしょ、多分。
解毒剤の瓶を貰って、角三君の様子見てくることにしよっと。
社長の言う通り、角三君がくてっ、としてた。
刈谷と加鳥の影になる位置で丸くなってたから分かんなかったわー。
「角三くーん」
「にゃだ……」
「角三くーんっ」
「……んゅ」
あっ、こりゃ駄目だ!
……とりあえず、事情を知ってそうな2人から聞いてみようかな!
「あ、角三君ですかぁ?俺達とさっきまで話してたんですけど、話が進むにつれて飲むペース速くなってこうなっちゃったみたいでぇ」
「結構ディープな話してたからなぁ。角三君には高度すぎたかもね」
んー?それって、一体どういう話なのかな?
……いや、大体分かるけどね?
「角三君、解毒剤飲む?」
「……ゃい……」
あっ、ほんとにこりゃ駄目だ!
「角三君、大丈夫かなぁ」
んー、ま、吐いたら吐いたで舞戸さんの『お掃除』一発だからそんなにリスクでも無いんだけど、本人が辛いならどうにかしてあげた方がいいよね。
「俺が口移しで飲ませたほうがいいですかねぇ?」
「うーん、それ、角三君が可哀相だと思うなぁ」
あ、本格的に刈谷酔ってるじゃん。なぁにこれぇ。すっごい面白いんだけど、やめてあげて!角三君がかわいそう!
「ところでさ、鳥海」
割と加鳥は普通なのかな?とおもーじゃん?
「鳥海は〈放送禁止用語〉派?〈放送禁止用語〉派?」
これだからなー。にこにこしながらこれだからなー。
「んー、〈放送禁止用語〉派かなー。えっと、とりあえず角三君、どうにかした方がいいよね?」
「そうだねぇ、とりあえず舞戸さんに起こしてもらうのが一番いいかな?お水かなにか、用意しておいた方がいい?」
……加鳥、酔ってんのかなー、正気なのかなー、分かんないな、こりゃ。
えーと、とりあえず舞戸さんに起こしてもらえばいいかな?ってことで、舞戸さん探したんだけど。
……ん?あれ?あれ……は、どういう状況なのかなー?
「羽ヶ崎君」
「何?」
「それ、どしたん?ん?」
「は?こいつが勝手に僕の上着被って寝だしただけなんだけど?」
「いや、どっちかっていうと俺はなんで羽ヶ崎君の脚が舞戸さんの枕になってるかの方が気になるかなー?」
「こいつが勝手に僕の脚使い始めただけなんだけど?」
「退かさないん?」
「は?なんで?」
「あ、いや、いいっす」
なんかキレ気味なんで、触らないどこっと。いやー、お酒って怖いね。
角三君起こす手段も無くなっちゃったし、なんかトランプ広げてる鈴本と針生の所に行くことにした。
「俺もまーぜて、っと」
「ははは、このゲーム終わったらな!」
「やー、もう終わりだからだいじょーぶ。8で切って2で4。あっがりー!あはははは」
……いつもより200%増量位の笑顔の鈴本と半笑いの針生に嫌な予感がしてみたら……あちゃー!クリスタルの瓶が空っぽになってるわ!あ、こりゃ駄目だわ!
……ここ2人は笑い上戸なんだろうなー。
なんかさっきから何も無いのに鈴本がけらけらけらけら憑りつかれたように笑ってるし、つられてか針生もずっと半笑いだし。
んー、なんかこわい。
……やー、参ったね。俺以外全員酔っぱらってんじゃん、これ。
暫く3人で大富豪してたけどさ、なんか気づいたら殆ど寝てるし。
「鳥海さん、これ、どうしますか」
社長だけは起きててくれたんだよね。いや、さっきまでヤバかったんだけど、解毒剤飲んで自分で復帰したんだわ、社長。凄い自制心と理性!チキンレースみたい!
「んー、とりあえず布団、掛けとく?」
「そうですね」
ってことで、生き残っちゃったものの使命っていうか貧乏くじにより、俺と社長で皆に布団を掛けて、俺達もそこら辺で寝ることにした。
ま、一生のうちにこういうことが一回ぐらいあってもいいじゃん?
「あ、おはよう」
起きたら、舞戸さんが味噌汁作ってた。
「……ね、鳥海。昨日ってさ……何があったん?あの果実酒飲んだとこまでは覚えてるんだけどさ、そこからぐっすり寝ちゃったっぽい」
あ、舞戸さん、けっこうさっさと寝ちゃったのかな?
……ということは、皆の豹変っぷりは知らないままなのかな?
「ま、色々あったよ?」
「その色々が気になるんだよ」
「んー……知らない方がいい事もいっぱいあるんじゃないかな?」
「余計気になるよ!」
……とりあえず、皆の名誉の為に俺は黙っとこっと。
その後二日酔いになった面子が社長謹製解毒剤を飲んだらあまりの不味さに余計酷いことになったとか色々あったけど、ま、教訓。酒は飲んでも呑まれるな、ってね。
やっぱ、お酒なんて飲むもんじゃないよね!




