彼と彼女の衣類事情
時間軸は10話、118、119話、163話あたりです。
視点は針生です。
衣類というか、下着事情です。ご注意ください。
1.褌
「……どーすんの、これ」
「使い方が……」
「いや、でも無いよりはマシだよねえ……」
何の話か。
……褌の話だよっ!
舞戸さんは女の子だからさあ、男の下着の構造はよく分かんないんだってさ。
まあ、そりゃしょうがないよね。うん、だから舞戸さん、今まで舞戸さんのお父さんとお兄ちゃんのパンツは各人に干させてたっていう事を後悔しなくていいと思う。ましてや、パンツの観察してなかった事も後悔しなくていいからさ……うん、知ってたら知ってたでなんとなくちょっと……。
んで、俺達ってさ、この世界に来た時、それぞれの装備を装備した状態でスタートしててさ……。
……つまり、下着もろとも、元々の服は全部なくなってる、って事でさあ。
え?じゃあ新しい装備の方の下着はどうなってるのかって?
……えっとね。なんつーんだろ。体操着のショーパンのぺらい奴っていうか……。うん。構造としては不十分だった。
穴あけたら多分普通に出ちゃうし……はい!この話はもう終わり!はい!終わり!
で、俺達は……下着の構造について、舞戸さんに説明する能力と度胸を持っていませんでした!オブラートに包んで説明しようとして撃沈した鈴本に敬礼!
……えーと、あと、俺達の好みが統一されていなかったっていう問題もあったり。
ゆったり派と半ゆったり派の争いっていうか。あ、ブリーフ派はいなかったんだけど、むしろその方が舞戸さん的には分かりやすかったのかなー……。
それから、まだこの世界で伸び縮みする素材が見つかってないとか、そういう問題もあるみたいで……あ、そう、その時にさあ……『ゴムが無いから舞戸さんは今紐パン』っていうすごくいらん情報手に入れちゃってやっぱりちょっとあああああああやっぱ無し!今の無し!ああああああ!
……で、結局、汎用性のある形状、って奴になっちゃったんだよね。
つまりは、褌。
褌だよ、褌。分かる?褌。見たことある?俺は無かったよ。無いよ!普通ないよ!普通の男子高校生は褌なんて見た事無い人が多数だと思う!俺間違ってない!
「……で、これをどう使うんだろう」
「普通に考えたらこうじゃない?」
「え、いやでもさあ……」
で、俺達今、色々試行錯誤中。
……舞戸さんは本当にこれで何とかなると思ったのかなー……。ついてないからやっぱそこんとこが分からないのかなー……。
「……まあ、慣れれば何とかなるんじゃないですかね」
珍しく社長も歯切れが悪いよー。
「いっそ舞戸さんから布貰ってきてさあ」
「……作れる気がしないんだけど」
うん、だよねーあはははは……。
……まあ、慣れるまでが大変かもしれないけどさ、一応舞戸さん曰くそこそこ高性能らしいし。
なんでも、服脱がなくても履き替えられるから南極観測隊が使ってるらしいよ。褌。
うん、サイズとかも無いもんね。褌。そう考えれば割といいのかも。褌。
2.ビスチェ
「あ、お帰り……舞戸!」
「きゅ、救急車!救急車を呼んで!誰か!」
「先輩、救急車はこの世界にありません。刈谷!」
「分かってます!ええと、とりあえず患部を見たいん、です……が……ああああああもう!」
俺と社長が胸にナイフ刺さった舞戸さん連れて帰ったら、やっぱりこうなった。うん、舞戸さんがヘビに食べられた時もこうだったよね。
でもその時からかなり場数を踏んで成長した刈谷。半分自棄になりながら舞戸さんのドレスを裂いていく。おー、すごいすごい。俺にはそんな勇気ないわー。刈谷は割り切るの上手になったよね。うん。凄い。
……で。
「なんですか!これなんですか!うううおわああああああ!」
パニくった。
……うーん、なんだろ、これ。
下着、だと思うんだけど……えー、これ、どうなってんの?どこで留まってんの?
とりあえず縛ってあるところ解いたけれど緩まないし!
「これ、あれだよ!靴紐と同じだよ!」
「あああああもおおおおおお!なんで舞戸さんはこんな厄介なもの着ちゃったんですか!」
「私が着せたのよ!悪い!?ちょっと貸しなさい私がやるわ!……あ、ちょっと、何これ、血で固まっちゃってる」
「先輩退いてください。俺が斬りますから」
……結局鈴本が斬った。うん、刀で斬っておいて舞戸さんには傷付けてないんだから凄いと思う。
その良く分からない構造の下着を剥がしたら、傷を見た刈谷が早速治しはじめて、その間に社長は先輩に説明するために居なくなって。
刈谷が暫く回復魔法を使ったら、治療も終わる。
「……はい。多分これで大丈夫、だと思います」
「あー……良かった」
「ただ、心臓と肺が、ちょっと。その関係で血が沢山出ちゃってます。……でも、蛇の時よりはマシだと思います」
うん、そっか。
……うん。なら大丈夫。だって舞戸さんだし。あのヘビに食べられた後でも起きたし。これ、絶対起きるもん。そういう気がする。俺がそういう気がするときは絶対そうなるから、絶対大丈夫。うん。
……で、それから先輩にお説教と元凶装備の刑、食らって。
「全く……ねえ、針生。外では、こんな怪我も日常茶飯事なの?」
「そ、です、ね」
……うーん、そう、なんだよね。俺達ってさ、胸にナイフ刺さるとか、そういうレベルじゃない怪我もう何回もしてるし、舞戸さんだって全身溶けたりしてるんだけど、さ。
……先輩って、そういうの、慣れてないんだよね、きっと。
「そう。……この世界が変な所だっていうのは知ってたわ、でも、人が……人が、怪我するぐらいなら、分かってたけれど、そうじゃなくて、死んじゃうような世界だなんていうことは、知ってても、分かってなかった。考えてなかったのよ、わざと」
……その感覚は、分かる。
なんか、怪我とかまでは、許容できるんだけど、人が死ぬ、って、どこかで頭が考えるのを拒否しちゃうんだよね。
うん、今回の俺もそう。
「人って死ぬのよね。この世界に居ると、忘れそうになるわ」
先輩も、お説教してた側なのに、でも、やっぱりちょっと落ち込んでるみたいだった。
……って思ったのにさー。
「……ねえ、針生。あなた達、知ってるわよね?舞戸、今日付けてたのは肩紐のないタイプを私が貸した奴だったけれど、肩紐付きのビスチェ、いつも舞戸は着けてるわよ」
これだよ!
「私が居ない所でまた舞戸がああいう怪我したら、大丈夫なの?貸した奴は普通の下着だったけれど、舞戸が普段付けてる奴は防具なんでしょう?鈴本も上手に斬れないかもしれないわ……」
これだよ!これだよ!
ああああああもおおおおおお!
先輩って落ち込み方がさああ!こうやってねじれてんの!ねじれた方向に落ち込むことで徹底的に落ち込まないようにわざとそうしてるんだ、って分かるけどさあ!分かるけど!けど!
「ビスチェの構造、分かってないでしょう。万が一の時の為に教えておくわ」
これだよ!
……うん。えっとね。女の子って大変だね。うん。
金属入ってんの?服に?凄いよね。凄い。うん。
舞戸さんの奴とか、すっごいいっぱい金属の骨入ってるんだって。うん……それは聞いといて良かったかも。
3.紐パン
「な、なあ、なんで女子全員紐パンなんだ?」
「見たの!?」
演劇部の紫藤君との会話がこれで始まった。
「あいつらは女じゃないからな」
あはははは、紫藤君が遠い目してるー。
「あー、あれ、ゴムが無いかららしいよ。紫藤君達のも褌じゃん」
「……うん、まあ、そうだよな。うん、慣れれば悪くないよな、褌」
「あー、うん、まあ……」
……俺、未だにちょっと慣れない。
「女子も最初は紐パンが『寝っ転がるとごろごろするー』とかっつって不評だったが慣れたらしい」
演劇部ってこっちよりも男女の垣根が無いみたい。あはははは、紫藤君がやつれてるー。
「しかし、ゴムの部分を紐にするにしても、短パンの紐とかベルトみたいに前で締めるタイプにすれば良かったんじゃないか?何も紐パンにしなくても」
「いや、知らないし!」
そういうのは舞戸さんに聞いてよ!俺知らないし!
「やっぱり縫う箇所を増やさない為の工夫なんだろうか……」
「ちょ、舞戸さーん!舞戸さーん!」
ヘルプを頼もうとしたら舞戸さんが明石さんに肋骨をべきべきやられてる所だった。
わー……。うん、いつもの事なんだけどさ、ドンマイ。
「ああ、うん。紫藤君が正解。ゴム通す所作るのが面倒だから、ゴムの代わりに紐を前で締めるタイプは却下しちゃいました。特に女子の下着は量産が求められるからさ。うん」
後で紫藤君が舞戸さんに聞いてる所に遭遇しちゃってこれはこれでまた気まずかった。うん。
「女子も褌にすれば良かったんじゃないか?」
「褌と紐パンの布面積、比べてみ?ん?何なら男子のパンツも紐パンにしてやろうか?ん?」
……あー、そういう理由もあったんだ。やっぱ、布織るにも時間かかるだろうし、節約できるところは節約しないといけないんだよね、きっと。
そっかあ、うん、確かに面積が……あー……この話も無し!終わり!もう終わり!
褌は日本が世界に誇る高性能な下着です。
サイズフリー!単純なつくり!抜群のフィット感!着脱も簡単!




