潜入作戦開始
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オターネストには太陽が昇りきる前に到着した。
大森林の東側を南北に伸びる街道と、南の山脈から海に注ぐ河川が交わる場所。
河口付近を覆い隠すようにして、石造りの城壁が立ちはだかっている。
しかも、城壁の外側には、海と川、どちらの水を引き込んだのか分からないが、堀が張り巡らされている。
城壁はそれほど高くないし、外堀も大がかりなものではない。
ただ、その両方があることによって、陸側の守りはかなり堅牢であるように思えた。
(これは、隠密行動なんて最初から無理だったな)
『見つからないようにするどころか、そもそも潜入できませんでしたね』
俺とハウンドが堀に架けられた跳ね橋を歩いて渡ると、城門の前に立っていた獣人の門番が行く手を遮るように歩み寄ってきた。
「止まれ。――――何だ、お前らは」
門番はハウンドに話しかけてきたが、その視線はチラチラと俺に向けられている。
まあ、無理もないだろう。
一般的な獣人の体格がどれくらいなのかは知らないが、目の前の門番はハウンドと比べても一回り小さい。
俺にとっては、子供の頭を撫でるくらいの感覚で、首を宙づりにできてしまうほどの身長差だ。
(コイツは雑魚だな)
『体の大きさで強さを判断するのは止めた方がいいですよ』
(槍を持ってるし)
『武器は関係ないんじゃないですかね。……まあ、素人が使うなら剣よりも槍ですけど』
俺と山田が緊張感の足りない雑談に興じている間に、ハウンドは得意だと自画自賛していた口八丁で門番と会話を始めていた。
「そんなに警戒しないでくれ。俺はこの大陸出身の獣人で、名前をハウンドという。西の大森林に進駐しているあんたの御同輩に勧誘されて、今回、獣人の隠れ里までの案内役を務めさせてもらった者だ」
「大森林……? ああ、そういえば」
ハウンドの言葉に、門番は心当たりがありそうな様子で頷いた。
この門番をうまく言いくるめることができれば、この先の展開がぐっと楽になる。
さしずめ作戦の第一関門と言ったところだ。
「事後処理の報告にやってきたんだが。サルーキ様はもうお戻りになっているか?」
「ああ。昨日、お帰りになった」
門番の返答に、俺は内心でほくそ笑んだ。
(やっぱり、ハウンドを連れてきたのは正解だったな)
『そうですね』
獣人は同族意識が強く、それは魔王軍に所属する獣人も例外ではない。
ハウンドがいることで、門番の警戒の度合いも「ほんの気持ち」程度は下がっているようだ。
それに、サルーキに随行した獣人の多くが大森林に駐留しているため、現場で起きたことの詳細を知っている者がこの場にいないことも大きい。
もし、ハウンドが「人間の首を持ってこい」と命じられていることを門番が知っていたら、交渉のハードルは格段に上がっていただろう。
サルーキもまさかハウンドが自分を追いかけてオターネストまでやって来るとは、想定していなかったに違いない。
(まあ、こいつは魔王軍に寝返った内通者だから、どうなろうと言い逃れはできるし)
俺はお手並み拝見とばかりに、ハウンドと門番の会話に耳を傾けた。
「それで、サルーキ様がこう――――ずばっと剣を横に薙いでだな。相手の武器を弾き飛ばして、見事に勝利したわけよ」
「そんなことがあったのか」
「さすがの剣さばきだと、俺は感服したね」
「まあ、あの方は実力だけで今の地位にのし上がったような人だからな」
単なる雑談か、それとも魔王軍に心酔しているふりをしているのか。
サルーキとボルゾイの決闘の一部始終を自慢げに語るハウンドとは対象的に、門番の反応は淡泊だった。
普通、尊敬する上司が褒められたら自分のことのように嬉しいと思うのだが、門番にそのような素振りは見受けられない。
(案外、部下に慕われていないのかもな)
断定はできないが、可能性としてはありそうな話だ。
「その後、相手リーダーの娘を人質に取って、ひとまずその場は引き揚げたんだが。――――サルーキ様、これくらいの獣人の娘を連れて帰らなかったか?」
「ああ、そういえば連れていたな」
(おお)
雑談からの自然な流れであっさりと重要な情報を聞きだしたハウンドの口八丁に、俺は舌を巻いた。
「なるほど。何事かと思ったが、人質だったのか」
「はははっ。サルーキ様に変な趣味でもあるんじゃないかと思ったか?」
「馬鹿っ! 軽口を叩くな!」
狼狽する門番を尻目に、ハウンドは「悪い悪い」と謝りながら、背中を掻くふりをして俺にこっそりと親指を立てて見せる。グッジョブ。
(こいつ、思ったより有能だな)
『これで、ライカちゃんがオターネストにいることも確定ですね』
今のところ、すべてこちらの予想通りだ。
「それで、サルーキ様に報告をしなければならないんだが――――」
「ああ、分かった。ただ、その前に……後ろのデカブツは何だ?」
ここで初めて、後ろに立っている俺のことに話題が及んだ。
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