決着と敗戦
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防御一辺倒からの劇的な逆転勝利に、魔王軍の兵士が喝采を上げる。
一方、集落の住人たちは、精神的支柱であるボルゾイの敗北に、呆然と立ち尽くしていた。
ただ、一人だけ――――怒りの感情を爆発させた者がいた。
父親が深手を負わされる瞬間を、真後ろで目撃したライカだ。
「っ! 貴様ぁぁぁっ!」
ライカはボルゾイが落とした剣を拾い上げると、そのままサルーキに向かって突進した。
(あいつ、また……!)
咄嗟に石を投げるべきか迷ったが、今からでは、どうやっても間に合わない。
サルーキは不快そうに顔を歪めると、言葉どおり、子供をあしらうように突進を払いのけ、ライカの首を掴んでそのまま吊り上げた。
「なんだ、貴様は? 半端者の分際で勝負に横やりを入れて、ただで済むと思ったか?」
「ぐっ……何が正々堂々だ……! この、卑怯者……!」
「子供ならば、殺されないとでも思っているのか?」
サルーキの手に力が籠もる。頸動脈を圧迫されて、ライカは苦しそうにもがいた。
(ちっ。こうなったら……)
『待ってください! 今、反撃したら、集落全体を巻き込んだ戦闘になりますよ!』
(そんなことを言っている場合か!)
制止する山田の声を無視して、俺は石を持った右腕を大きく振りかぶった。
その時――――
「っ!?」
久しぶりに、脳天を突き抜けるような電撃が、俺から自由を奪った。
(山田、てめぇ……)
全身の力が抜ける。
だが、音を立てるのはまずいので、俺は口を塞ぎ、土下座をするような体勢で地面に這いつくばった。
(どういうつもりだ。お前、マジでぶっ飛ばすぞ……)
『お叱りは後で受けますから! 少しは落ち着いてください! 今、戦闘になったら、確実に集落は全滅ですよ!』
(でも、このままじゃライカが……)
俺は何とか起き上がろうとするが、腕の関節に力が入らず、踏ん張ることができない。
回復するまで、早くても数分はかかるだろう。
(そうだ。山田、お前が奇跡の力を使って、魔王軍を攻撃すれば……)
『無理なんです。奇跡の力は、自分の守護対象にしか使えないんですよ』
(じゃあ、電撃攻撃があるのはおかしいよなぁ!?)
なぜ、当然のように自分の守護対象を攻撃できる仕様になっているのだろうか?
俺は思いつく限りの罵詈雑言を山田に浴びせながら、視線を元に戻した。
*
「……待てっ」
その時、傷口を抑え、未だに立ち上がれぬままの状態で、ボルゾイが声を張り上げた。
肩からの出血が酷い。一刻も早く手当てをしなければ、命に関わるかもしれない。
「頼む……。その子から、手を……放してくれ……」
言葉を発するだけでも辛いはずなのに、ボルゾイは息も絶え絶えになりながら、サルーキに懇願する。
それを目の当たりにしたサルーキは、恐らく、俺が今まで見てきたものの中で、一番醜悪な笑みを浮かべた。
「これは、貴様の娘か。――――ならば、丁度いい」
言うなり、空いた方の腕で、無防備なライカの腹を殴りつける。
ライカは突然の苦痛に耐えきれず、声を上げることもできずに失神した。
「この娘は預かる。貴様には、俺を楽しませた褒美に、治療と、ゆっくり考える時間をくれてやろう。――――三日後だ。それまでに、降伏して俺の配下に加わるか、戦って死ぬかを選ぶといい。もし、逃げたりすれば……分かるな?」
言外にライカを殺すことを匂わせて、サルーキは気絶したライカを肩に担いだ。
そして、すぐ近くで、放心したように立ち尽くしているハウンドに目をやる。
「おい、貴様」
「――――っ! はっ!」
ハウンドは即座に我に返り、サルーキに対して跪き、頭を下げる。
その頭上から、酷薄な命令が告げられた。
「俺は、貴様の覚悟も見たい。誰でもいい。この集落の人間の首を持ってこい。それをもって貴様の忠誠の証とする」
「っ! …………畏まりました」
今、ハウンドがどのような表情をしているのかは、俺には分からない。
だが、ハウンドは頭を下げたまま、抑揚の無い声で、サルーキの命令に応諾した。
「我々は先に引き上げる。次は、三日後だ。――――くれぐれも、期待を裏切るなよ?」
最後の言葉は、誰に向けて言った言葉だったのか。
サルーキは、下を向いたまま動かないボルゾイとハウンドを満足そうに見下ろすと、部下に撤収の命令を出した。
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