魔王軍の正体
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「ああ、それと――――
三々五々に要人が退室していく中、ボルゾイは思い出したように俺を呼び止めた。
「これは、遅かれ早かれ知られてしまうことだから、先に伝えておこう」
その方が誤解も少ないだろう、と。
ボルゾイは、この場に残っている俺とライカにだけ聞こえる声で打ち明けた。
「実は、魔王軍の中に、我々を仲間に引き入れようとする動きがある」
「は?」
思わず、間の抜けた声で聞き返してしまった。
「どういうことだ?」
「そのままの意味だ。交戦した偵察部隊の者たちが、何度か勧誘を受けたらしい。同胞である我々が、何故、争わなければならないのか――――とな」
「同胞……」
その言葉を聞いて、俺は事態が深刻で、より複雑であることを理解した。
――――人間は、我々のことを同胞とは認めていない。
――――そういった差別に対する反発から、魔王軍に与する獣人も多いようです。
それぞれ、ボルゾイと山田が言った言葉だ。
「つまり、魔王軍というのは……」
「うむ。港湾都市を占領している魔王軍は、どうやら獣人部隊のようだ。それも、殆どが私やハウンドのように獣の血が濃い獣人らしい。困ったものだよ」
ボルゾイは冗談めかして笑ったが、まったく笑えない。
「普通に考えて、魔王軍が私たちとの約束を守るはずがありません。労せずに、集落の場所を突き止めるため、聞こえの良いことを言っているだけですっ」
突然、ライカが怒ったような口調で断言した。
ライカは以前から、このことを知っていたのだろうか。
その表情は、何かに憤っているようにも、怯えているようにも見える。
それを見て、ボルゾイはライカの頭にそっと手を乗せた。
「そうだな。私もそう思う。だが、最前線で文字通り命をすり減らしながら戦っている者と、集落で平穏に暮らしている者の間では、やはり、受け止め方に温度差がある。こればかりは、どうしようもないだろう」
誰だって、死にたくはないはずだ。
もし、生きるか死ぬかの瀬戸際で、甘い言葉を投げかけられたら――――
死なずに済む可能性を提示されたら――――
罠かもしれないと分かっていても、気持ちが揺らぐのは仕方ないことだ。
「それじゃあ、結局、勧誘の話には乗らないのか?」
「乗るわけがない。娘の言うとおり罠かもしれないし――――何より、それは魔王軍に故郷を奪われて、この集落に身を寄せている者たちへの裏切りになる」
だから、もし、そのような噂を耳にすることがあっても、何も心配することはない。
ボルゾイはそう言って、力強く頷いた。
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