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しばらく滞在することになる

毎日投稿できるように頑張ります。

「――――ということだ。覇王丸、我々は君を受け入れる」


「それはどうも」


「それで、君はこれからどうするつもりなのかね?」


「そうだな。取り敢えず、俺をこんな目に遭わせた元凶――――魔王はぶっ殺すつもりだ」


「……」


 俺が出し抜けに最終目標を伝えると、ボルゾイをはじめ、その場にいる全員が呆気に取られたような表情を浮かべた。


「……そ、そうか。それは豪気だな」


「本気だぞ」


「うむ。信じるとも」


 ボルゾイは子供の戯言を聞くように、笑顔で相槌を打った。


(絶対に信じていないな)


『まあ、普通はそうですよね。別にいいんじゃないですか?』


 たしかに、ここで下手に食い下がっても、危険人物に認定されるだけなので、嘘か冗談だと思われていた方が好都合なのかもしれない。


「ところで、こちらから一つ、君にお願いをしてもいいだろうか?」


「何だ?」


「この集落に滞在している間、君の行動に制限を付けさせてもらいたいのだ」


「それは断る」


 きっぱりと。


 俺が拒絶の意思表示をすると、ボルゾイよりも周囲の要人たちがざわめきはじめた。


 まさか断られるとは思っていなかったらしい。


 信じられないという表情を浮かべている者もいれば、さすがに無礼だと顔をしかめている者もいる。


『話くらい聞きましょうよ』


 山田からも窘められた。


「ちなみに、制限というのはどういうものだ?」


「う、うむ。断る前に、その質問をしてほしかったが……」


 まったく動揺していないように見えたが、ボルゾイも内心では焦っていたらしい。


「こちらの要望は二つ。一つは、単独行動を取らずに、常に集落の中の誰かと行動を共にすること。もう一つは、当面の間、この集落に滞在すること。これだけだ」


「それなら別に構わないぞ」


「じゃあ、最初から断るなよっ!」


 山賊のおっさんに背中を引っ叩かれた。


「いてーな。また、牢に入れられるのかと思ったんだよ」


 最初は雨風が防げればいいと思っていたが、やはり、牢屋は牢屋だ。


 暗くて、狭くて、天井が低くて――――正直、野宿の方がマシなくらいだ。


「客人に牢で生活などさせるわけがないだろう。それならば、今日からはこの家に泊まりなさい。毎日、着替えを届けさせる手間が省ける」


「じゃあ、そうさせてもらおうか」


「なんで、そんなに偉そうなんだよ……」


 山賊のおっさんが、呆れたように呟いた。


     *


 何はともあれ、これで当座は衣食住の心配をする必要がなくなった。


 着の身着のままで異世界に転移した俺にとって、これは大きなメリットだ。


(この集落にいる間に、こっちの世界のことをいろいろと覚えないとな)


 一週間ほどか、それとも一か月くらいは滞在することになるのだろうか?


「さっき、当面の間と言っていたけど、それはどれくらいの期間だ?」


「む……」


 俺としては、全身の怪我が治癒して、今後の方針が決まったら、さっさと魔王を倒すために出立したいと考えている。


 だが、質問に対するボルゾイの返答は、かなり歯切れの悪いものだった。


「そうだな……。こればかりは、当面の間としか言えないな。すまない」


「何か事情があるのか?」


「……うむ」


 踏み込んだ質問をした瞬間、風が吹いて蝋燭の炎が消えるように、ボルゾイの顔から笑みが消えた。


 見れば、周囲の要人たちも、複雑そうな表情を浮かべている。


「そうだな。こちらの事情も話しておかなければ不公平か。――――君は、我々獣人が、町に住む人間たちにどう思われているか、ご存知かな?」


 ボルゾイがそう問いかけると同時に、その場にいる全員の視線が俺に向けられた。


 試すような、値踏みするような視線だ。ちょっと怖い。


「……獣人が差別されているという話は聞いたことがある」


「そう。町の人間は、我々のことを同胞とは認めていない。獣の血が混じった下賤な種族だと見下しているのだ。特に、私のような獣の血が濃い獣人が町に行こうものなら、化け物が現れたと、上を下への大騒ぎになることだろう」


「父上! そんなことは!」


 ライカが非難するような眼差しで、ボルゾイを睨み付けた。


 それを、ボルゾイは手で制して黙らせる。


「娘のように、人間とさほど見た目の変わらない獣人でさえ、人間の町で安全に暮らすことは難しいだろう。故に、我々はこうして森の中に集落を作り、暮らしている」


 ボルゾイが言うには、大森林には森人をはじめとする少数部族の集落が幾つも点在しているらしい。


 そして、それらに対する国の対応は、基本的に不干渉。


 自治を黙認する代わりに、積極的な支援もしないのだという。


 ボルゾイたちは、その不文律を逆手に取って、大森林の奥深くで誰にも知られることなく、ひっそりと隠れ住んでいるらしい。


「要するに、俺がこの集落の場所を誰かに教えてしまうかもしれないから、当面は監視付きで行動させるし、出立もさせないってことか?」


「いや、違う。それだけの理由であれば、別に集落の所在を知られてもよいのだ。こちらから交わろうとしない限り、人間は干渉してこないからね」


 そこまで言うと、ボルゾイは大きく息を吐いた。


「だが、魔王軍となると話は別だ」


「魔王軍?」


「港湾都市を占領した魔王軍が、次はこの大森林を支配領域に加えようとしている。既に森の外周で伐木をしていた者たちや、港湾都市と交易のあった村落は、先遣部隊の襲撃を受けた。この集落にいる森人や人間の殆どは、魔王軍の襲撃から逃れたところを、たまたま我々の偵察部隊に保護された者たちなのだ」


 ボルゾイの言葉に、森人の二人と、山賊のおっさんが無言でうな垂れた。


(もしかして……。山賊のおっさんって、木こりのおっさんだったのか!?)


『衝撃を受けるところ、そこですか?』


 見た目にそぐわない小心者だとは思っていたが、実は山賊ではなかったらしい。


「今、大森林は事実上、魔王軍に封鎖されており、敵の探索部隊と我々の偵察部隊が散発的な戦闘を繰り返している状況だ。勿論、監視の目を掻い潜って、君を森の外に連れて行くことは不可能ではないと思うが、万が一ということもある。――――なので、当面は危険を冒さず、この集落に滞在して欲しいと思うわけだ」


「そういうことか。やっと分かった」


 俺としても、助けてもらった恩を仇で返したいわけではない。


「しばらくは、おとなしくしていることにする」


「そう言ってもらえると、ありがたい」


 こうして話はまとまり、俺の事情聴取は終了した。

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