第19話 学園祭〜文化の部3日目〜
人口増加は止まらない。
ようやく学園祭も最終日。
文化の部、3日目です。
「じゃあ行ってくるね〜」
「適度に頑張るんだよ。頑張りすぎちゃダメだからねー」
「も〜、何回言うの〜! 分かったってばぁ!」
完全一般公開日の今日、治安維持の為にもブロウは駆けずり回らなければならず、早々に仕事へ行ってしまいました。
注意はしましたけど、無理しそうな雰囲気ですねぇ。休憩時に見つけたら休ませましょう。
『嬢ちゃん、準備出来たぜー』
「ありがとう、ハディくん」
『主様ぁ、開始はまだですかぁ? ヒマですぅ』
「喚ぶよ?」
『ぴっ?! ごめんなさいですぅ!』
『嬢ちゃん、それは…ちょいと…』
「冗談だよ」
『(嘘ですぅ、目が本気だったですぅ)』
クラスに残って手伝ってくれているハディくんが準備終了の報告を持ってきてくれました。
私の頭の上でだらけていたリンネを脅し…ゲフンゲフン、注意すると、ハディくんが困った顔をするので安心させるように微笑みました。
リンネ?何か言いたいことでも?
そんなに顔を真っ青にさせて全力で首を横に振るなんて、変な子ですね。
さて、今日はウェルたちが来るって言ってましたけど、どうなることやら。
初日、2日目を上回る来客数。
開始から僅か数分で校内は賑わいを見ています。
「キャリーちゃん」
「カルロさん!いらっしゃいませ!」
今日も今日とて穏やかな笑みを湛えるカルロさんが来店されました。
そんなカルロさんの隣には、柔和なご婦人が。
「そちらのご婦人はもしかして」
「うん、私の妻だよ」
「初めまして、カルロの妻です。お話は主人から聞いていますわ」
「キャロラインです。私の方こそ、夫人のお話は伺っています。カワイらしくて自慢の奥様だと」
「きゃ、キャリーちゃんっ」
顔赤くして焦るカルロさんカワイイ。
そんなことを思っていると、奥様が目に入りました。
「うふふ、………いくつになっても可愛いわぁ」
ニコニコしたカワイらしい微笑みの中にある、深い愛。
…あ。この人、同類だ。
気付いたのは向こうも同じようで。
私と奥様はニッコリ笑って、ガッシリと握手を交わした。
今度お茶会することを約束し、私は給仕に戻りました。
時々カルロさん夫妻を盗み見ると、お茶をしながらお二人とも笑顔でお話していて。
とても楽しそうで、周りには優しい空気が取り巻き、将来こんな風になりたいなぁと思いながら、私は給仕に戻りました。
忙しなく厨房とホールを行き来していると、廊下の方が何やら騒がしいです。
うるさいなぁと思っていると、我がクラスの前で一際大きな喜声が聞こえてきました。
ちらりと入り口を振り返ってみると…………げっ。
獅子の鬣のようなオレンジがかった赤髪が目立つ、逞しい男性。
荒々しい雰囲気は、騎士よりも傭兵や冒険者という言葉が似合い、事実そうである方。
そして、その方よりも目立つのはローブを羽織った体は一つなのに、上にある頭は二つ。
モノクロのおかっぱヘアをした、双頭の男性。
そんな3人が、キョロキョロと教室内を見渡し、私を目に入れると、にぃーっと笑いやがりました。
「よォ、キャリー」
「やっほぅ、キャリーちん!」
「遊びに来たのん、キャリーぴょん!」
「帰れ」
話しかけられた私にも視線が集まります。うざい。
冒険者支援組合、通称冒険者ギルドに所属している、数ある冒険者の中でも上位に立つ方たち。
赤髪の男性を、“赤獅子”。
ツートンカラー頭を、“双頭の蛇”。
実力者で見目も良い、多くの人に認知されている有名人なんです。
「何で来てんの」
「一般公開だからじゃんね!」
「精霊喫茶とかキャリーぴょんらし過ぎるのん!」
「趣味全開だなァ」
「カワイイでしょ」
『いらっしゃいませですぅ〜。これメニューですぅ』
「こいつらに丁寧に接客してやる必要ないよ、リンネ」
席に案内したあと、リンネが運んできたメニューを取って、テキトーに投げ渡しました。
「わわっ、危ないのん!」
「キャリーちんてば、テキトー過ぎるじゃん! シロたちお客さんじゃん!」
「ご注文は水ですね。かしこまりました」
「ひどいのん!」
双頭が私の接客に文句を言っている間に、赤獅子……レッドちゃんは近くを飛んでいたハディくんを捕まえて注文していました。
「俺はァ、テリヤキデラックスサンドとコーヒーなァ。ヨロシクゥ」
「赤獅子、抜け駆けはダメなんじゃん!」
「サッサと注文しねェからだろォ」
「じゃあじゃあ、クロはパンケーキにするのん!」
「シロはドーナツセットがいいんじゃん!」
「「飲み物はオレンジジュース!」」
『テリヤキにパンケーキにドーナツ、それとコーヒーとオレンジな。あいよ』
ハディくんが裏方へ行くと、様子を伺っていたリンネが3人に話しかけました。
『主様のお知り合いなんですかぁ?』
「あるじ…さま、なのん? 誰のことなのん?」
「リンネは私の契約精霊だよ」
「ハァ!? お前どこまで規格外になれば気が済むワケェ!?」
「失礼な。私はどこまでも普通で平凡な一般人だよ」
「ツッコミどころしかないんじゃん!!」
「もう全部がウソなのん!!」
言いたい放題か、こいつら。
「ア。そういや、決勝戦見たぜェ」
「ちょっ早で依頼終わらして、見に行ったのん!」
「大活躍だったじゃんね、キャリーちん!」
「暇人め」
「おォ? 誰が暇人だァ、毎日アホみてェに指名依頼が舞い込んでくる売れっ子だぞォ」
「なら依頼やってなよ、来んな」
「友達の活躍は見に来るものなのん!」
「あわよくば、からかうネタをゲット出来るかもじゃんね!」
「白蛇ちゃん、良い度胸だよ。今日ギルド寄るから、久しぶりに手合わせしようか」
「うぇ?! いや、遠慮するんじゃん!」
「シロぴょん、頑張るのん」
「頑張りなァ」
「嫌なんじゃ〜〜ん!!」
涙目で叫ぶ双頭(左)の白蛇ちゃんへ、レッドちゃんと双頭(右)の黒蛇ちゃんはおざなりなエールを送りました。
楽しみですね!
「………あ」
赤獅子、蛇コンビを追いだ……3人が帰った後、しばらく穏やかに仕事をしていると、私は契約精霊の気配を感じ、ふと窓へ視線を向けました。
ハルちゃんが来たってことは、チビッコたちも一緒ですね。あとで会いに行きましょう。
そう決めていると、裏方の一人が話しかけてきました。
「ティモールさん、休憩へ行って下さいましな」
「分かりました」
「そしてブロッサム様に…」
「ちゃんと捕まえて、一緒に休憩してきますね」
「宜しくお願いしますわ」
「お願いしますわね、ティモール様」
ブロウったら愛されてますね。
見た目や上辺でなく、私やメガネくんたちと居ることで出る素も、受け入れられてる証。
「春には想像もしていなかった状況ですね」
増えた周囲を思い出し、私は苦笑を零しながら、校内へと繰り出しました。
ブロウを探しながら、気配を頼りに遊びに来ているであろう子たちを迎えに行きます。
昇降口から外へ出ると、大きな泣き声が聞こえてきました。
「うわぁあああんっ」
「どーしたの?」
「何で泣いてるの?」
「ぐすっ、まま〜ままぁ〜」
泣いている女の子と、心配そうに声をかけているチビッコたちが10人ほど。
「泣くなってっ。…風よ、無より形なせ、其は五弁花へと【風花】」
男の子が、泣いている子の周囲に風の花を降らせると、驚きでその子の涙が止まりました。
「きれい…」
『母親と来たんだな? どんな格好をしてる? 一緒に探してやっから』
「う゛んっ」
話が一段落した様子なので話しかけに行きます。
「みんな」
「キャリー姉!」
「ねぇね!」
「いらっしゃい」
「いらっしゃった〜!!」
ぴょーいと抱きついてくる子を抱きとめながら、周りを囲んでくるチビッコたちの頭を撫でます。
『おう、キリ』
「ハルちゃん、引率ありがとうね」
『別にガキどもの世話くらい構わねぇさ』
青色の髪に水色の瞳の子がフンッと腕組みをして鼻息をつきました。
彼は私の契約精霊、ハルちゃんです。
自由奔放なのが精霊ですが、ハルちゃんは人間に理解があるしっかり者で、気ままな精霊たちのストッパー役を買って出てくれています。
そして本人は隠してるつもりですが、子ども好きです。なので、よくチビッコたちの相手をしてくれています。
「はいはい」
『頭撫でんな!』
と言いつつ、手を払い除けないところがカワイイ。
さて。
「キャリーちゃん、この子迷子なんだ」
「母ちゃんがいるはずなんだ、探してやってよ!」
「分かった分かった、だから飛びついてくるのはやめようか」
背中に乗っかってくるチビッコたちを降ろしながら、迷子の女の子の前で膝をついて目線を合わせました。
「初めまして、この子たちの友達のキャロラインです。キャリーって呼んでね」
「きゃ、りー…ちゃん?」
「そう。お母さんと逸れちゃったのかな?」
「うん」
「そっかそっか。ちょっとごめんね」
「?」
私は女の子の頭に手を置くと、その子の魔力を読み取ります。
その魔力の波長と似た魔力を校内で探索すると。
「見っけ。行こうか」
「「「はーい!」」」
「えっ?」
『おらチビども、手ぇ繋げ! 逸れんなよ!』
魔力の波長に、同一はありません。
しかし、魔力は遺伝性が高く、保持量や質、波長などは似通うんです。
つまり、この子と似た魔力の波長を探せば。
「ママ!!」
「え、あっ、どこ行ってたの!!」
「ママぁ〜!うわぁあああん!!」
「心配したのよ、怪我はない!?」
ご家族が見つかるという訳です。
「あのね、キャリーちゃんスゴイんだよ!すぐにママ見つけてくれたの!」
「キャリーちゃん?」
女の子が興奮したように言うと、その子のお母さんは首を傾げました。そりゃそうです。
と、そのセリフにチビッコたちが得意げになって捲し立てました。
「当たり前だろ!キャリー姉だぜ!!」
「お姉ちゃんに出来ないことないんだから!」
「キャリーちゃんは反則だって、赤獅子さんも言ってたしね」
「そうそう!」
「誰が反則ですか」
レッドちゃんめ…、白蛇ちゃんと一緒にシメる。
ペコペコと頭を下げてお礼を言うお母さんの隣で、チビッコたちは和気藹々と挨拶を交わしています。
「またねー!」
「遊びに来いよー!」
「うんー!」
『もう迷子になんなよー』
すっかり打ち解けたチビッコたちは、別れ際に次遊ぶ約束を取り付けていました。
女の子とお母さんが居なくなり、チビッコたちは私を見上げて話しかけてきました。
「キャリーちゃん、ぼくたちメルちゃんたちのとこ行ってくるね」
「着いていこうか?」
「大丈夫だぜ!」
「変な人が声かけてきたら…」
「「「問答無用でオーバーキル」」」
「よし」
ちゃんと教えたことを覚えていて、偉いですね。
『俺も居るし、変なことにはなんねぇだろ』
「頼りにしてるよ、ハルちゃん」
『ふ、ふんっ!』
赤くなっちゃいました。カワイイー。
「ハルくん、ありがとう!」
「あちがとー」
『か、勘違いすんなよ!別にテメェらが心配だとかじゃねぇからな!』
「うんうん」
「そうだねー」
相変わらずテンプレートなツンデレですね。そこがいい。
チビッコたちも生温い目です。
「キャリー!」
とそこに、聞き慣れた声が切羽詰まった様子で飛んできました。
「ウェル?」
「ちょっと匿え!」
「いいよ」
匿えという単語から、使い慣れた隠蔽の魔法をウェルにかけます。
すると、息を切らした青年が何かを探す素振りをしながら走ってきました。
青年は周りを見渡すと、私に話しかけてきました。
「すまない、ここに茶髪に右目下に傷のある男が来なかっただろうか?」
「傷までは見てませんが、茶髪で勢いよく走って行かれた男性ならあちらの方へ」
「ありがとう」
私が示した方へとまた走って行く青年を見送ってから、魔法を解きました。
「何したの」
「何もしてねぇよ」
うっそだあ。
「「うっそだあ!」」
「ウェルくん、また遊び半分でからかってたんでしょう」
「ウェル兄、人をおちょくるの大好きじゃん。キャリー姉もだけど」
「アクシツなユカイハンだって、ギルマス言ってたよなー?」
「なー」
「ゆかりごはんー?」
「それは普通にご飯だね。愉快犯だよ」
レッドちゃんといい、ギルマスといい、あの大人たちチビッコに何吹き込んでくれてるんですか。
「で、誰なの? からかい甲斐のありそうな人だったけど」
「うちの首席。何でか知らねぇけど、やたら絡んでくるんだよなー」
「ウェルの実力に気付いてるんじゃない? 手抜きとか嫌う人種でしょ、あれ」
「面倒くせー」
げんなりとするウェルの顔には、先ほどの青年が言っていたように右目の下に一文字傷が出来ていました。
「目の傷は?」
「…授業でウッカリやった」
「ぷっ! 珍しいね、ウェルが師匠以外から喰らうなんて。ウケる」
「うっせ」
『キリだって、人のこと言えねぇだろ。この前加減ミスって捕獲対象を木っ端にしてたじゃねぇか』
「ハルちゃん! それは内緒にって言ったでしょ!」
あれはちょっと、その、ウッカリしてたんですってば!
「ほれみろ! キャリーだってやってんじゃねぇか」
「うっさい! それ言うならウェルだって、採取依頼なのに害虫と一緒に斬り刻んでたことあったし!」
「はあ? いつの話だよ、森林破壊しかけたキャリーに言われたくねぇー」
「それだって3年前じゃん!」
「どっちもどっちだよ、ふたりとも」
「「「「うんうん」」」」
ウェルと言い合っていると、チビッコたちに呆れた顔で頷かれました。くっ、あれはたまたまなのに!
「じゃあ、またねー」
「ウェル兄、明日ギルド来る?手合わせしてくれよな!」
「いってきましゅ!」
『チビども、バラけんなよ。おいそこ、言った側から!』
中等部校舎へ向かうハルちゃんたちと別れ、ウェルと一緒に出店を見て回ります。
「なんつーか、こういうとこは前と一緒だよな」
「そうだね。基本洋食だけど、たこ焼きとかあるしね」
「流石ファンタジー」
「まさに魔法」
平民が開いている買い食いの出来る店でフランクフルトなどを手にしながら、人混みの中を進んでいると知った姿が見えました。
「あ、ヘブン先生ー!」
手を振って名前を呼ぶと、先生が振り返ってくれました。ついでに連れの方たちも。
「ティモー…ル……さ、ん…」
「お、男連れじゃん。彼氏か?」
「あら」
ヘブン先生、アイスカ先生、保健医の先生3人が揃っていました。
「見回りですか?」
「……ん…」
「お疲れ様です。ヘブン先生、うちのクラス見ました? 結構お客さん来てくれてますよ」
「見ま、した…よ……」
「そりゃ、精霊があんな近くで見られるなんて、そう無い機会だしなー。よく考えたもんだぜ」
「カワイイんですよ、精霊ちゃんたち!」
「………趣味丸出しねぇ」
それまで口を開かなかった保健医の先生がボソリと言いました。
私はヘブン先生たちに向けていた身体を動かし、保健医の先生へニッコリと笑いかけました。
「……こんにちは、先生」
「……こんにちは、ティモールちゃん」
「…………ブフフッ!」
ず、ズルイ!ウェル!
私だって爆笑するの必死で堪えてるのに!!……ぷぷっ!
「そ、それじゃ、先生たち。また後で………くふっ」
「あ、ああ。…ティモール、大丈夫か?」
「突…然、どう……し、た……の…?」
「何でもないですよ。大丈夫です!」
「そうそう、通常運転だよな!」
「…………あんたたち…」
「あー! あっちは何やってるんだろー」
「気になるなー、じゃっ失礼!」
ヘブン先生たちに心配されながら、私たちはその場から逃げ出しました。
逃げた先で二人思う存分爆笑した後、私は目撃情報を元にブロウ探しを再開しました。
「くっそ笑ったわー」
「だね。私普段、絶対寄り付かないようにしてるもん。我慢なんて出来るわけない」
「だなー」
「それにしても、ブロウ見つからないなぁ。色めいてる女子がいっぱい居るから、通ったとは思うんだけど」
「探知はしねぇの?」
「ブロウの実力ならすぐ気付かれる。今バレると面倒くさい」
「既にバレかかってんじゃねぇの?」
「言えないことが多分にあることはね。内容は知らないよ」
「リェチル伯爵家だったよな? あそことは面識ないけど、確か……割と上の方に居た気がする」
「当主はそろそろ官位を子息に代替わりさせて、領地に専念する予定みたいだよ」
「へぇ。どこ所属だっけ」
「代々法務省勤め。当主は政務官で、子息たちも官僚」
「マジか。エリートだな」
たわいもない世間話をしながら進んでいくと。
キャアアアアアアアッッッ
…………うるさい。
「おお、スゲェ。蜜にたかる虫みてぇ」
女生徒のみならず、学外の女性にも囲まれて身動きが出来なくなっているブロウが居ました。
アレの中に突っ込んでまで救出するの、ヤダなー。
「どうすんの?」
「どうしよう」
教室にリンネを置いてきたのは失敗でしたね。居たらあの中目掛けて投げつけられましたのに。
「とりあえず呼んでみようかな。ブーローウーちゃーん」
すると、女性の群れの中心から、澄んだイケボが返ってきました。
「その声…っ、キャリーちゃん!?」
「ブロッサムくーん、出て来れるかー?」
「ウェルスくん!? あ、ちょーっとごめんねぇ〜? 友達があっちに居るみたいだから、通してくれるぅ?」
「…………そういえばチャラ男だっけ」
学園ではほぼ私と一緒に居るのに加え、最近は男遊びもしてないみたいなので、すっかり忘れてました。
「ご、ごめんっ、キャリーちゃん!連絡出来なくて」
「いいよ。何か奢ってね」
「え!? いや、いいけど…」
「ブロッサムくん、甘やかしてちゃダメだぞ。コイツ遠慮なくたかってくるからな」
「でも僕が悪いし、今回くらいは…」
「そう言って奢ってくれること早十数回」
「ゔっ」
「キャリー、甘いもんばっか食ってると太るぞ」
「運動してるもん」
チビッコたちと遊んだり、精霊たちと遊んだり、ランちゃんやレッドちゃんたちと狩りに出掛けたり。
「キャリーちゃん細いから大丈夫だよ」
「ねー」
「いやキャリーはこれでも゛ッ!!!」
「…………」
「何か言った?」
「ナンデモアリマセン…」
ふふふ? 変なウェルですね?
「あ、美味しそう…」
「ん? 一口ドーナツか、食べてみる?」
「う、うん」
「俺買ってくるから、ベンチで座ってろ」
「はーい」
「ありがとうっ」
パシリに行ってくれるウェルを見送り、ブロウの腕を掴まえて、空いたベンチへ誘導します。
「あそこ座ろう」
「うん」
2人並んで腰掛けると、何となく話題がなくなり、沈黙が降りました。
話題は出そうと思えばあるんですが…。
わいわいと騒がしくも楽しい雰囲気の学園をぼーっと眺めます。
チラリと横目で隣を見ると、私と同じようにぼーっと眺めていました。
うんうん。楽しそうな人を見るのって、何故だか面白いんですよね。楽しい、が伝染してきます。
「ねぇキャリーちゃん」
「うん?」
「僕ねぇ、去年や中等部の今頃、女の子たちと遊びながら、生徒会の仕事サボって、真面目に参加しなかったんだ」
「ふーん」
「準備は面倒臭いし、体育の部も文化の部も興味なくて、ただ時間が過ぎるのを待ってた」
「ほー」
「ヘラヘラ笑いながら、心の中で馬鹿にしてた。こんなのに頑張って、こんなのに必死になって、って」
「へー」
「でもね、キャリーちゃんやメガネくんたちと団体戦に出たり、個人戦の決勝でふくかいちょーの実力を目の当たりにしたり、生徒会の仕事をやりながらクラスの子たちと出し物の準備をしたり…」
ふわりと、花が綻ぶように、微笑んで。
「楽しい。今すごくすごく楽しいんだ」
無邪気に今を喜ぶ彼は、とても綺麗でした。
「今まで勿体ないことしてたなぁって思ったんだけど」
「うん」
「でも、楽しいのはキャリーちゃんがいるからだよなぁって」
「ん?」
「キャリーちゃんと友達にならなきゃ、メガネくんたちと友達になれなかったし、クラスに馴染めないままだったし、生徒会なんて……」
生徒会は未だ副会長さん以外ドンマイ☆って言いたくなる状態ですからね。
仕事もブロウと副会長さんの2人で回してるみたいですし。見兼ねた親衛隊の方たちも手伝ってくれてるみたいですけど、リコールはいつですかねぇ。
「だから改めて。ありがとう、キャリーちゃん。大好き」
「ふふふっ、こちらこそ」
ふにゃりとしたカワイイ笑顔を向けてくれるから、私もつられて笑顔を返しました。
「………おい」
「あ、ウェル。パシリありがとー」
いつの間にやらウェルが戻ってきていました。
お礼を言って、ウェルの手にある丸いドーナツがコロコロと入ったカップに手を伸ばし……、遠ざけられました。おいこら。
寄越せと訴えるため、不機嫌のまま顔を上げると。
「何いちゃついてんだよ」
「は?」
「えっ」
同じく不機嫌そうなウェルの顔と合いました。
「いちゃっ、違うよ!?僕とキャリーちゃんは友達だから!心配しないでっ!」
「友達と話してただけじゃんか」
「…良い雰囲気だった」
ブロウが慌ててフォローしてますが、んもう、この婚約者様は。
私はベンチを立つとドーナツが落ちないよう気を遣いながら、ウェルの頭をわしっと両手に挟みました。
そのまま、わしゃわしゃわしゃと撫でくりまわします。
「ウェルスくんのヤキモチ焼きー」
「……んだよ、悪ぃかよ」
「面倒くさい」
「…………」
「でもカワイイよ」
「……どっち」
「間を取って、愉快かな」
「……ばーかばーか」
「はいはい。ドーナツちょうだい」
「ん」
「はい、ブロウも」
「………………」
機嫌が浮上してきた頃を見計らい、ドーナツをゲットしました。
その一つブロウへと差し出しましたが、中々受け取ってくれません。
「? ブロウ?」
「えっと、その…」
何故か頬を赤らめながら、ブロウは視線を彷徨わせ。
「ホントに、キャリーちゃんとウェルスくんは仲が良いね」
微笑ましそうにそう言いました。
さて。
時刻は夕暮れ。
お客様が帰られ、片付けもあらかた終わり、放送で学園長からの有り難ーい締めのお言葉が。
「諸君、数日の準備から本番までご苦労じゃった。今回で色んなことを学んだ者も多いじゃろう。疲れた身体をゆるりと休めて、また休日明けからは学業に励むように。以上!」
学園祭、これにて終了。
保健医については、そのうち…。




