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    胸中群:いと甘き王命を下すは

 ● ● ● ● ●


 エクリクシスは、力の遣り場を失いかけた。

 無茶をするルカへの怒りと、彼の言葉で紡がれた命令の恍惚のおかげで、爆発しそうだった。


 ――ルカ……ああ、ルカ!

 ――今なら爆ぜて死ねそうだ!


 そう、今ならば、派手に死ねそうだった。けれど、エクリクシスはそれをしない。

 なぜなら、ルカの命令は、『爆ぜて死ね』ではないからだ。

 

 零れる炎は、アルヴァとケネスの剣に閉じ込める。それから、周囲の鉄塊たちに振りまく。

 そうして、今すぐ爆ぜ死にたい衝動を何とかやり過ごす。


 炎の渦の中で揺蕩いながら、エクリクシスは己の魔力の権限を全てルカに渡した。 



 ● ● ● ● ●


 フォンテーヌは、歓喜していた。

 ルカが無理をしていることへの悲しみの奥底で、確かに歓喜していた。


 ――だってルカが、あのルカが!

 ――あたしたちに……命令を!


 その事実に打ち震えるほどの歓喜と恍惚を感じて、フォンテーヌは自分を抱きしめる。

 自分の胎で守っているまだ幼き地精霊(ノーム)も一緒に抱きしめる。


 命令されてしまったのだから、もう、従うしかない。

 だって、ルカからの――愛おしい愛おしいルカからの、命令なのだから!


 悦楽に身を震わせながら、フォンテーヌは自分を司る魔力の一切を、ルカに委ねた。


 ● ● ● ● ●


 アルデジアはフォンテーヌの胎の中で、なるほどこの心地よさが、と思った。

 フォンテーヌという膜に包まれてなお、アルデジアの心はルカの声に揺らされている。


 ――これが、これが精霊の幸福か。

 ――これが、これが精霊の恍惚か。


 温かい手で包まれているような、幸福。魂の底から揺さぶられるような、恍惚。

 フォンテーヌに包んでもらっていなければ、確実に自我を失い暴走するほどの、悦び。

 

 精霊としてリュヒュトヒェンの次に幼いアルデジアは、拒めない――拒まない。

 脳内に直接響くルカの甘い命令に否を言う事なんてできない。


 己を形作る魔力の全てをルカに明け渡し、アルデジアは静かに目を閉じた。


 ● ● ● ● ●


 リュヒュトヒェンは、楽しくて仕方なかった。

 空気に溶け込み、風を起こし、嵐を繰り、触れる異物を切り刻むのが楽しくて仕方なかった。


 ――切ッテ、引キ千切ッテ、捻ジ切ッテ!

 ――るかノ為ニ!


 ああこれが精霊の幸せなのだ! と信じて疑うことなく、身に宿す異界の魔力を繰って暴風を振るうのが。

 ルカの為に! と振るうのが、楽しくて楽しくて仕方がない。


 楽しくて仕方ないから、リュヒュトヒェンは己を作る魔力の流れの変化に気が付くことはなかった。


 ● ● ● ● ●


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