うんざりしてます
「エドガー様。待ちくたびれましたわ」
「ああ、悪かった」
「どうして、私を使用人たちと同じところに整列させますの? ひどいですわね」
「まったくだ」
弱々しく、シアンさんがエドガー様に泣きついた。エドガー様は、シアンさんを愛おしそうに抱擁し、私をギラリと睨む。
「エドガー様。シアンさんは下げてください」
「彼女は、私の婚約者だ。お茶の席には呼ばれているだろう? 本来なら、君が下がるべきなのだ。もう婚約者ではないのだからな。エルドウィス伯爵の後継者の婚約者でなければ、同席はできないはずだぞ」
「確かに、エドガー様のおっしゃる通りエルドウィス伯爵家の婚約者も招待はされてますが……シアンさんはダメです」
「わけのわからないことを言うな」
「わけのわからないことではありません。お茶なら好きなところで飲めばいいじゃないですか」
「今回の訪問は、エルドウィス伯爵家の爵位を正式に殿下から認めてもらうためだ」
「ですから、手紙を読んでください。なぜ、私たちエルドウィス伯爵家の者が王都に出向かずに、殿下がエルドウィス伯爵邸までいらしたと思うのですか。お話しますから、シアンさんはすぐに下げてください。エドガー様も、さりげなくジョシュア殿下の隣に座ろうとしないでください」
「殿下の隣は、エルドウィス伯爵家の後継者の席だぞ」
なぜ、そこだけ間違ってないのですか。
「ですから、」
「何の騒ぎだ?」
レグルス様が言う。
エドガー様に頭の痛い思いをしていると、レグルス様との話が終わったのか、ジョシュア殿下がやって来た。
ジョシュア殿下は、殿下の席のそばにいるエドガー様に怪訝な顔を見せる。
「そこで何をしている」
冷たいレグルス様の声音が響いた。振り向けば、レグルス様が眉間にシワを寄せて睨んでいる。
ちらりとレグルス様の視線を追えば、エドガー様が彼の席に手をかけているのがわかる。
「……苦労しているようだな」
「ええ、まぁ……」
この状況を察したレグルス様が私に同情、いや憐んでいた。でも、今日でそれも終わりだ。
「確か……エドガーだったな。その席には、座らないでくれないか? そこは、俺の席だ」
「いくら、竜騎士団の団長の一人だとしても、ここはエルドウィス伯爵邸だ。わきまえてくれ」
「団長の一人として言っているのではない」
レグルス様は、戦で武功をあげられて実力で今の地位を手に入れられた方だ。
「そちらの女性も下がりなさい。同席を許した覚えはない。殿下の前だ」
「同席は決まっている。彼女は私の婚約者シアン・……」
「名前などどうでもいい」
ぴしゃりとエドガー様の言葉をレグルス様が遮った。
レグルス様に頬を染めているシアンさんに、レグルス様が冷たく言い放つ。すると、シアンさんがその視線にびくりと肩を揺らした。
レグルス様の端整な顔に頬を染めていたシアンさん。レグルス様は、まるでその様子に嫌気がさしているようにも思える突き放し方だった。
「結婚に反対するというのか? いくらシアンが平民だと言っても、貴殿に結婚を反対される謂れはない。これは、エルドウィス伯爵家の結婚だ」
きりっとエドガー様が言う。はっきりとシアンさんの身分を言わなかったから、平民だとは思った。レグルス様は、ジョシュア殿下を迎えるのに、私たちと並ばせなかったし……
「ルルノア!」
「何ですか。突然大きな声を出して」
「お前がシアンに嫉妬して、この無礼な竜騎士に追い出すように頼んだのだな! だが、残念だったな! シアンが平民でも、どこかの養女にしてしまえば彼女は貴族との結婚になるし、エルドウィス伯爵夫人はシアンだからな! お前の主人になるのだ!」
「だから、結婚を反対しているわけではないと、言いましたわ。好きに結婚なさったらいいじゃないですか」
「だったら、その態度はなんだ!」
「あなたにうんざりしているからです」
「ふざけるな!」




