99話 『500階層RTA配信:下層』4
こちらは本日2回目の投稿です。今日の1話目がまだの方は前話からお楽しみください。
僕は浮いている。
猫みたいに後ろから抱っこされて。
「? 九島さん?」
「ハル様……」
「リリさん」
「ハルちゃん、普通の人はね、その穴に飛び込めないの……」
「リリさんにるるさん」
ぷらぷらする脚をぷらぷらしてみる。
何も変わらない。
僕はただぷらぷら浮いてるだけだ。
【だめだ、かわいすぎる】
【これこそ天使】
【きょとんとして脚動かしてるのかわいすぎない?】
【天使】
【だよね】
【分かる】
【ノーネームちゃんの推し力が半端ない】
【けどそうか、ハルちゃんを止めるには物理しかないか……】
【ああ……】
【自分が何してるかよく分かってない僕っ子だからねぇ……】
【非戦闘員なくしまさぁんでも持ち上げられる軽さのハルちゃん】
【装備とかもあるけど、全部隠蔽特化の軽装備だし……】
【武器とか弾薬もきちゃない袋で0グラムだもんな】
「九島さん、でも僕は」
「ハルさん」
とんっと降ろしてもらった僕は、くるっと半回転させられる。
目の前にはしゃがんでる九島さん。
いつも思うけど君、ほんとまじめな顔してるよね。
えみさんみたいに女の子にもモテる、いや、女の子にこそモテる感じな凜々しさじゃなくって、生徒会室とか図書室でじっとしてそうなタイプ。
これでメガネかけたら完全にそういうキャラだよね君。
伊達でも良いから掛けたら?
絶対モテるよ?
「そういうのは……最後まで取っておいてください。 攻略が間に合わなくなりそうだというぎりぎりまで、ハルさんの安全が最優先なんです」
「え、でも」
「――ハルさん」
「むぎゅ」
え?
【ああああああ】
【●REC】
【ハルちゃんがくしまさぁんにお説教されるのかと思いきや、まさかのハグ】
【はぐはぐしててあああああ】
【やばい、予想してなかっただけに尊すぎる】
【呆然としてるるるちゃん】
【るるちゃんのお目々が反応してない……これは一体!?】
【完全に予想外ということでしょうな】
【教授!】
【そうだよね、くしまさぁんって配信で声とかちょこちょこ出て来てたけど、いつもちょっと離れたところから見てたもんね……】
前が見えない。
九島さんの、想像以上に柔らかいのが目を覆ってる。
「???」
……え?
なんで?
「ハルさんは、いつも無茶をして」
「いえ、でも」
「何回も脱走をして」
「それについてはごめんなさい」
【草】
【えみちゃんが疑惑に包まれているこの瞬間、くしまさぁんが真の保護者】
【まま……】
【飾りっ気のないポニテな子が自愛にあふれて……ふぅ】
【今日の俺の心臓、何回も止まってる】
【成仏して?】
【え、やだ、まだ楽しみたいもん】
【草】
ちょっと強めに押して離れよう。
……そう思ったら……え。
髪の毛にあったかいのが……え?
涙?
え?
あ、体、ちょっと震えてる。
え?
なんで?
「……待つのは、つらいんです」
【ぶわっ】
【朗報・くしまさぁん、女神】
【天使を抑えられるのは女神だったか……】
【そうよね、前線に走って行けるえみちゃんるるちゃん、リリちゃんとは違って、くしまさぁんはねぇ……】
【救護班だから最低限の戦闘はできるにしても】
【そもそもここに来てるのだって相当怖いはずだもんな】
【いくら装備で固めても、不意打ち受けたら即リストバンドだもんな】
【それなのにこんなところまで着いて来てくれるくしまさぁん】
【女神】
【あー、えみちゃんポジが取られちゃった】
【大丈夫、えみちゃんは新しい属性を獲得したから】
【お前ら、感動の場面が台無しじゃねーか!】
【草】
【やべ、俺泣き笑いしてる】
【こんなにも情緒がかき乱される配信なんて初めてだよ】
「……………………………………」
思ってもみなかったことで、僕は動けない。
思考が追いつかない。
……女の子に泣かれたのなんて無いんだもん。
しかも、普段は表情変えないで淡々としてて、でもるるさんみたいにひっついて来ないで、えみさんみたいにおかしなところがなくって、リリさんみたいになんかちょっと変なところがある雰囲気とかもないこの子が……って。
「……ハルちゃん」
「るるさん」
僕のお目々は塞がれたままだけども、るるさんが近くに居るのが聞こえる。
「ハルちゃんって、いつも先に行っちゃうから……こわいの。 私のときだって、助けてくれたのにいなくなっちゃってて」
「……ハル。 私も……不安でした。 いくら強いとは言っても、レベルもスキルもあるとは言っても……気が付けば寝ている幼い貴方に、いつか何かがあるのではないかと」
「えみさん」
ぎゅ、と僕を後ろから抱きしめて来る感触と、ふわりと漂ってくるるるさんとえみさんの匂い。
【永久保存】
【保存拡散保存拡散保存拡散保存拡散保存拡散保存拡散保存拡散保存拡散】
【♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥】
【草】
【ノーネームちゃんが荒ぶってる】
【気持ちは分かる】
【尊すぎるもんね】
【やば、ちょっと泣いちゃった】
【今まで「ちょっとおかしい」って言ってたけど、確かにそうだよな】
【親しい子から見ればそうなるよな……】
【みんなで泣いてる……】
【うん、さすがにな】
【ハルちゃん、危なっかしいもんな】
「……ハル様」
「リリさん」
「己を慕ってくれる人々を心配にさせない。 それもまた、上に立つものの責務です」
「? あ、はい」
言い回しがちょっと変だったけど、多分翻訳機のせいだろう。
「みんなを心配させちゃダメです」って言いたいんだろうね。
【リリちゃんが1歩離れて眺めてる】
【リリちゃんってやっぱりりりりりり】
【おっと、この配信じゃ予想は厳禁だぜ?】
【じゃないとノーネームちゃんにないないされちゃうからね】
【♥】
【だって】
【草】
【そういやSNSとか掲示板でそういう予想とかしてもうまく書き込めないんだよな】
【書き込めなかったり、書き込んでもバグったり】
【消えるのがいたり】
【消えるやつら……帰ってこないもんな……】
【ネタにしちゃあSNSとか配信者とか、活動がぴたっと止まるしな……】
熱い。
暑苦しい。
……好き勝手できてた身からすると、ちょっとめんどくさい。
重たい。
うざったい。
社会人になってからの気楽な独り身生活と違いすぎて――学生時代の、母さんがいちいちうざかったころの感覚。
――でも。
なんだかちょっと……こそばゆい。
◇
「……4階層連続で、階段の出入り口が大部屋……しかも」
「モンハウ……だよね?」
「魔力の偏りにより、フロア全体ないし一部の部屋に大半のモンスターが集まる現象……」
あのあとしばらく……おしくら饅頭の中身の金色のあんこになってた僕はようやく解放され、みんなで階段を降りてきた。
……九島さんが手を引く形で。
さすがの僕でも逆らう気は起きなくって、素直に繋がれるしかなかった。
うん。
さすがに泣かれちゃったら……ね。
大の男、社会人な男がJKさんを公衆の面前で泣かせたってだけで、普通なら事案で通報で逮捕もんだけども、今の僕は幼女。
僕の羞恥心とか自尊心とかいろいろなものを犠牲にして、なんとかこうして生きているんだ。
……良かった。
もし男のままだったら今ごろお巡りさんのお世話になってるもん。
【尊い】
【ああ……】
【ハルちゃんのやらかしから一転、しんみりした配信】
【しかも一気に3階層攻略だもんな】
【ハルちゃんの1発の銃弾でな】
【しゅごい】
【でもこの光景……】
【ああ、既視感あるな】
【初手モンハウが何連続】
【もしもしノーネームちゃん?】
【ノーネームちゃん! 出てらっしゃい!!】
【口笛】
【難】
【草】
【ノーネームちゃん……それ、一応漫画とかの表現だからね……?】
【なるほど、学習素材にマンガとか取り込んでるのか、ノーネームちゃん】
【ネット上の全てはノーネームちゃんの学習素材】
【その素材、ノーネームちゃんの選択で偏ってませんかねぇ……】
【しかし今朝は10時の段階で3階層を】
【ロス無しで突破か】
【RTA感出て来たな】
【ああ】
【1週間経ってようやくだな……!】
【やっぱりハルちゃんが居るとさくさく攻略ね】
【さくさく(3階層ぶち抜き&ハルちゃんは飛び込んでショートカットしようとしてた】
【ハルちゃん……普通はダンジョンの床なんてさくさくできないのよ……】
【やっぱりちょっとおかしい幼女ハルちゃん】
【ちょっとおかしい(比喩表現】
【ちょっとおかしいとは一体……】
「……では、先へ進みましょう。 しかし、ハルさん?」
「勝手なことしません」
「よし」
気を取り直して、どさくさ紛れにさっきのをなかったことにしてるえみさんの元、僕たち先頭組で下への階段へ足を向ける。
……こそばゆいけど……なんかちょっと、あったかい。
いつもはやだけど、たまにならいいかもね。
100話くらいで終わると言いましたね?
20話くらい増えました。




