664話 舞い降りる「ちょうちょ」
『……魔王様。かの女神の使用しておりました「配信」というものを解析致しました。……複数の上位魔法を使用しての新たな魔法ツリーを構築しているようでございます』
『ふむ、流石は神族……だが、解析してしまえば』
『はっ――部下に命じ、まだ擬似的ではありますが念話魔法の組み合わせで再現したものを、今この瞬間にも支配する世界の隅まで拡大中でございまする』
『良い。全軍の到着と「配信」が整ったならば――彼奴らを、葬ろうぞ』
【えっ】
【それって……】
『彼奴らが、我が魔に属する存在を屠る姿を喜ぶために開発し、これまで数多の同胞を嬲る姿を満喫してきた「配信」――「ダンジョン配信」。それを、今度は我ら魔が心ゆくまで満喫するのだ。神族に属し、裏切った元同胞たちの最後の1匹が果てるまで』
『流石は魔王様でございます――「ダンジョン」という神族の鳥籠、その中に捕らえ絶滅させる姿を支配下の者共へ、畏怖と「娯楽」のため、絶滅させるその瞬間まで……』
再度に嗤う魔王――それに追従する、もはや数千万に達した魔族の兵士たち。
その声は「ダンジョン配信」によって、届いてしまう。
全ての世界、すでに滅ぼされ、滅ぼされようとし、支配され、支配されようとしている世界の隅々にまで。
【……それでも、抵抗するんだ】
【ああ】
それでも――「女神/『ハルちゃん』のダンジョン配信」を観てきた「視聴者」たちは、諦めない。
【ダンジョン配信だって、強いボスモンスターたちには人気がある】
【推したちが撤退を余儀なくされたって、みんなで「つぇぇ」って喜ぶよな】
【古代から、剣闘士だけじゃなくて猛獣にでさえ人気はあったんだ】
【敵国の名将軍とかは、前線に居る敵国の兵士でさえ恐怖と同時に敬うんだ】
【だから、抵抗する】
【最後の、1人まで】
【魔族だろうとなんだろうと、精神構造はそう変わらない――ならせめて、絶滅させられても記憶に刻まれる そんな存在に、なりたいから】
『――魔王様。人間共は、この期に及んでも未だ恐怖を理解できておらぬ様子でございまする』
『で、あれば――――――全軍、構えよ』
――――――ノーネームたちの全周を取り囲む、赤い炎が揺らめき始める。
それらは1匹1匹のドラゴンたちの口元で燃えだしている、ブレスの種。
『神族よ――最後に問う。ハルを、どこへ逃した』
「ないない」
魔王の最後の問いにも、特に毅然とすることもなく、彼女は淡々とその言葉を口にする。
『言うはずがない――そういうことか。最後まで神族らしい幼体であった』
「ないない」
【ないない】
【ぶわっ】
【泣いた】
【ないないだもんな!】
【ノーネームちゃんだから言うわけないよな】
【ハルちゃんだけは生きててほしいんだからな】
【人生で1番心強い「ないない」だよノーネームちゃん】
【かっこいい】
【「ないない」は永遠なんだ】
【ノーネームちゃん……俺たち、忘れないから】
【死んでも忘れないよ、ないないのこと】
「貴様に教えてやるはずがない――と、そういうことです、魔王。むろん、私もです」
くっころの――人間の少女の姿になっている、本体そのものの姿。
ノーネームを抱きかかえる形で毅然として言うも、その声は震えており、手脚も震えている。
魔力が尽きれば、その装甲は脆弱な人間と大差ない。
「死」が、近い。
ゆえの、恐怖。
――魔王たちは、それに触れない。
女神とつるむ反逆者とはいえ、元同胞だから。
視聴者たちも、それに触れない。
彼らも、同じ気持ちだから。
『……ならば、そのまま死ぬが良い』
魔王は目を閉じ、そして言う。
『あの幼体は、我ら魔の勝利の象徴として捕縛し、我らの世を永遠に眺めさせよう――何、異界を1つずつ丹念に耕していけば、必ず何処かで手中に収まる。ほんの数千数万年の先のことよ』
魔王が、命令を下す。
『――此所に、神族勢力の消滅を宣言する。総員――――――!?』
いや、下そうとした。
――――――だが、「異物」が入り込んできた。
『な、何事か!?』
『わ、分かりません!』
『謎の存在が、女神の元へ』
『なんだ、あれは!?』
突如として何処から流れ着いたらしい「それ」は――ひらひら、ひらひらと、光りながらノーネームたちの元へ舞っていく。
『……なんだ、あれは。本当に……なんだ』
『ファイヤフライの一種……でしょうか』
『見たことのない魔物だ……』
『あまりにも小さいが、独特の光を放っている』
『み、見たことがある! あれは神族の世界にて精霊種の元となった……』
『力が抜けていく……』
「……それは、蝶……ですか? 昆虫の……いえ、魔物でもない……?」
「ちょうちょ」
ひらり。
ノーネームの人差し指に止まって、休憩でもしているのか――羽を休めているのは、半透明に光る――――――
「ちょうちょ」
「ち、ちょうちょ……? こんな戦場のど真ん中へ……完全に包囲された空間へ……?」
【ちょうちょ!?】
【!?!?】
【草】
【草】
「ちょうちょっ」
黒き女神が――赤い目をきらきらと輝かせている!
【力が抜ける……】
【もうだめだ……】
【わーい! ちょうちょ! ちょうちょ!】
【かわいいね】
【かわいいね】
【脳が……羽ばたいていく……】
「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




