643話 矢になって飛び出した
「1回でもつるとクセになるんだよなぁ……運動してないと、普通に学生でもなるんだよなぁ……」
【苦労がにじみ出ているハルちゃん】
【ハルちゃん……つるの……?】
【つるんだろ だって羽生えてるし】
【あー】
【生物学的にそういう宿命が】
【よく使うから肩こりとかと無縁かと思ったら酷使してたのね】
【草】
【肩甲骨の筋肉がつったら痛そう】
【ああ……痛いぞ なにしろでかい筋肉だからな……】
【経験者だ! 囲め!】
【みんな、いいか 20を過ぎたら、肩周りはちゃんと鍛えてほぐすんだぞ デスクワークは必須だぞ でないと変な体勢になった瞬間に謎のつり方をして意味わからんもだえ方をすることになるからな 首、肩、腰、太もも……体の背面は地獄だぞ 1年経つごとに凝り固まっていくんだ】
【ひぇっ】
【がんばります……】
【分かる】
【若くても、疲れてると変なつり方をするんだ……休みは確実にな……】
【インドア派の学生、わかりみが深い】
【コメント欄がハルちゃんへの同情で満ちあふれている】
【ハルちゃんは数千歳のおばばばばばばば】
【ノーネームちゃん!!!】
【草】
【お、監視が復帰】
【さすがにNGワードだったらしいな】
【女の子に年齢のことはね……】
◇
「困った」
【草】
【かわいい】
【これっぽっちも困ってなさそうな声で草】
【でも現実は……】
【さすがのハルちゃんでもバテたか】
【全方位が無数の遠隔攻撃持ちドラゴンで、隠れるところすらないからなぁ……】
【ハルちゃん……】
結構な袋小路だ。
周囲は完全に包囲されている。
そこからひっきりなしに――移動していれば当たらないけども、移動を止めたとたんに集中砲火がたたき込まれる。
つまりは逃げられない檻の中で追い立てられている、いたぶられている獲物。
それが、僕。
避けられ続けるのは、元気で居られるあいだだけ。
疲れたら、眠くなったら攻撃を受け始める。
そういう拷問があったって記憶がちらりとしたから、こくりとお酒をひと呑み。
「………………………………」
――でも、このまま疲れてそんな目に遭わされるのは、嫌だ。
なら?
「……イチかバチか」
時間は彼らの味方で、僕の敵。
それなら、ここで決めちゃおう。
――ぶんっ。
僕は、僕の中で守ってくれているイスさんにお願いをして、僕の頭を先端にした円錐状の細長いバリアを形成。
【!?】
【なんだ】
【ハルちゃんの上にバリアが】
【イスさんが勝手に!?】
足下は完全に無防備なのは、このあとのことを考えていないから。
そして、
「よっと」
むんずと輪っかさんをつかみ、ぺいっと足下――サンダルの下へ投げると、良い感じにかちゃりと空中にはまる感覚。
「ぴったりフィット……ん。しっくり……これ以上無いフィット」
【ふぁっ!?】
【草】
【草】
【もしかして:輪っか、足の下にもぴったりフィット】
【草】
【足の下……そんなところに判定、あるんだ……】
【神様ってすごいね】
【体の外に設置箇所があるのか……】
【すごいか? すごいか……】
【ああ……俺たち人間には計り知れない感覚だからな……】
【草】
【これ以上ない快適さらしいぞ!】
【なにそれすごい】
【なぁにそれぇ……】
【輪っかが生えてるハルちゃんにしか分からない感覚だろうなぁ……】
【ハルちゃん……なにしようとしてるの……?】
「……よし」
僕は、そのまま足を広げ――そこへ向けて、残ってる魔力の大半を注いだ、ぶっとい矢を形成。
それを弓につがえて――限界まで絞る。
魔力も、相当に込める。
だって、イチかバチかだから。
【なにやってるんだろ】
【!?】
【まさか……】
【でも、脱出するにはもうこれくらいしか】
【さっきから攻撃の反動で後ろとかに下がって……あっ……】
――きりきりきりきり。
「……包囲網を突破するには、ピンポイントで高速の攻撃――そして何より、僕自身が」
――ひゅんっ。
矢を離したとたんに、真後ろへとものすごい勢いで加速し始める僕。
矢は、まず先に輪っかさんの中へシュート――真ん中を通過したとたんにさらに加速をつけ――僕自身もまた同じエネルギーで、輪っかさんに押されながら後ろへと加速。
僕たちはぐんぐんと反対側へと加速していき――
「イスさん」
――Roger.
あの低い声が頭に響くと同時に、頭の上にとんがって張っていたバリアを、極限まで硬化。
つまり今の僕は、頭のてっぺんから足先までの、1本の矢になって――
『――ギィ――!?』
――ぱすんっ。
ぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすぱすっ。
背中に――何かが次々と突き刺さり、その肉体にめり込む嫌な感覚が何回も何回も叩きつけられる。
その嫌な時間を終えるとまもなく、包囲網を突破。
ずいぶんと減速した僕は、ふよふよと――でっかい球体、玉の表面を眺めるともなく眺める。
それは、みっちみちなドラゴンさんたちそのもの。
まん丸にぎっちぎちになってるドラゴンさんたちの外側を固めてた個体たちが僕へ振り向き、ぎょっとしているのが分かる。
……体感で100体くらいがみちっと前後に張り付く厚さを備えた陣形だから――つまりは100体分を押しのけて、僕は包囲網からはみ出たんだ。
「……ははっ。こんな手は、思いつかなかったでしょ……?」
「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




