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第73話 去来する虚しさ

 竜司の瞳が輝きを増した。

 酷くなる頭痛。

 隣のアリアもつらそうだ。

 

 だが、赤い鎧を見にまとった鬼灯朽長にはほとんど効いていないようだ。

 このまま竜司が出力を上げたら、俺たちが鬼灯朽長より先にくたばりかねない。


「俺の鎧は結界の力も物理攻撃も防ぐ。

 その上このちび二人の結界の中なら、お前の攻撃はほぼ無効だ」


 竜司はアルとエルに目を向ける。


「その子供二人は、ただの子供ではないようですね。僕の結界の影響下にあっても、顔色一つ変えないなんて」


「今からくたばるお前にはどうでもいいことだ」


 鬼灯朽長がそう言うと、鎧の腕の部分が竜司まで伸びる。

 そして、竜司は。


「ぐぅ」


 その一撃に数メートルふきとんだ。

 

「はっはっはっ、ようやくお前の苦しむ顔が拝めたぞ、生徒会長様。ぐっ」


 誇らしげにしていた鬼灯朽長が突然嗚咽をもらすと膝をついた。


「どういうことだ、この鎧でも防ぎきれないのか?」


 竜司が立ち上がりながら、不気味な笑い声をあげる。


「僕を傷つけておいて、なにも傷を負わずに済むわけがありません。

 僕が死んだら、鬼灯先輩も死にます」


 どういうことだ?

 竜司の力は自分を殺す相手を道連れにもできるのか?


「ちっ!」


 鬼灯朽長の舌打ちが闘技場にこだました。

 ‎

「だったらしかたねえな! なんとか俺の力で倒したかったが。アルやっちまえ!」


 鬼灯朽長がそう言うと、アルはうなずいた。

 ‎すると、竜司がなんの兆しもなく、後方に10メートルほど吹き飛んだ。

 背中から床に叩きつけられ、竜司が声を漏らす。


「ぐっ」


 アルのサイコキネシス。

 だが、アルは竜司にダメージを負わせたというのに、なんの傷も負う様子はなかった。

 叔父の言ったようにアルは敵意なく相手を攻撃できるような訓練を受けてきたのだろう。

 ならば、あのエルという子も同じなのだろう。

 やはり、鬼灯朽長はあの二人を竜司戦の有効な武器となりうるという情報を得て、二人を奪ったのだろう。

 どこからその情報を得たのかがかなり気がかりではあるが。


 アルのサイコキネシスによって、竜司は何度となく床や壁に打ち付けられ、全身傷だらけであった。

 あの竜司がこんな状態になるとは。

 圧倒的強者だったあの竜司がここまで一方的になぶられる。

 その光景が信じられなかった。

 なんだこのあっけなさは。  

 俺はこんなやつに復讐するために生きてきたというのだろうか。

 俺は頭痛よりも、むしろその失望感で頭を抱えた。


「大丈夫か?」


 アリアがそんな俺に声をかけてくれる。

 

「大丈夫」


 そう返したが、正直この上なく俺は気落ちしていた。

 

「うわあ」


 情けなく声をあげ床の上を転がる竜司の様子は、哀愁すら帯びて見えた。

 


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