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第65話 弱みを見せられる相手

 いつも通り、通学路を俺と鏡美とアリアの3人で歩いていた。


「どうしたの、お兄ちゃん?」


 見慣れた黒いツインテールに日焼けした顔が俺の視界に侵入してきた。

 ‎それで俺はふと我に帰る。


「あ、いや、大丈夫だ」


 俺はあれ以来、言い知れぬ不安感と戦い続けていた。

 ‎何をしていても、しなくても、とにかく気分が落ち着かない。

 ‎

「本当に大丈夫なのか? このところ明らかにおかしいぞ」


 アリアも不安げに俺を見ている。

 ‎端から見たら、ぼうっとして見えるのだろう。


 鏡美は俺と自分の額に手を当てる。


「熱はないよね?」


「ほんと大丈夫だって」


 俺が鏡美の手を振りほどいて歩きはじめる。

 ‎本当になんでもないはずだ。


 俺のことが気がかりなのか、鏡美は放課後、部活を切り上げてまで俺とアリアの二人と一緒に帰っていた。


 数歩先を歩いていた鏡美が、ふわっとツインテールを風に浮かせて、こちらを振り返る。

 

「お兄ちゃん、全部話して。なにがお兄ちゃんを苦しめているのか教えてほしい」 


 こちらを真っ直ぐに見つめてくる。真剣な表情だ。


「気にしすぎだよ、鏡美。俺は特に」


「ううん、絶対絶対変だよ! 言ってほしい」


 絶対譲らない。

 ‎そんな顔をして上目遣いにこちらを見てくる様子があんまりかわいいので、つい頭を撫でてしまう。


「ありがとう、心配してくれて」


 頬を赤らめる鏡美。

 そこで隣で咳払いをする女騎士様。

 ‎

「私だって心配しているのだからな」


 アリアは視線を合わせない。

 ‎そんな彼女の横顔はなんともきれいだった。

 ‎

「どこ見てるの、お兄ちゃん」


「いてててて」


 鏡美が俺の頬をつねる。

 ‎そういや、魔王が言ってたな。

 ‎相手の中に自分を見いだせ的なことを。

 ‎そう思いながら、俺は鏡美をじっと見つめ始めた。

 ‎

「ちょっと、お兄ちゃん? 

 ‎そんな急に見つめられても」


 俺は構わず見つめ続ける。

 ‎顔全体を真っ赤にし、胸の前で両手の人差し指の先同士をくっつけたり離したりする鏡美。

 ‎それを見ていると、これまでの鏡美の一途な態度をいろいろと思い出す。

 ‎それと同時にわき上がってくる罪悪感。

 ‎優柔不断な自分。

 ‎つまらないプライドから鏡美を受け入れきれない自分。

 ‎せめてここでは向き合うべきだ。


「俺は……」


 だが、そこから声が出ない。

 ‎鏡美に弱みを、弱みを見せることはできないんだ!

 ‎それだけは俺にはできない!

 そこから俺は黙ってしまった。



 結局、鏡美には打ち明けられず、真夜中になった。

 ‎俺はベッドに寝そべっていた。

 ‎すると、暗闇で光る青い2つの輝きがこちらを見ているのに気づいた。 


「アリア」


 それに対して聞き慣れた声が返ってくる。


「竜一、お前は何に苦しんでいるんだ? 私でよかったら話してほしい」


 ‎俺は鏡美に対してはできないことをやってのけた。

 ‎

「俺は不安なんだ」


 アリアに対してはなぜか弱みを見せることができた。

 ‎理由は分からない。

 ‎だが、思えば最初からそうだった。


 

 次の日、俺たちが学校に行こうと玄関を出ると、見覚えのある2人が待ち構えていた。

 結界学園高等部と思われる女子2人。

 1人は黄色の瞳と髪で軽くウェーブのかかった長髪が、もう1人は紫の瞳と髪で3つ編みに丸い眼鏡が特徴的だった。

 この2人は上記の特徴以外が瓜2つというくらいに似ていた。

 生徒会の会計と書記をしている家戸(いえど)姉妹だ。


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