第63話 対話
アリアの世界で会い、契約した魔王が俺の部屋に現れた。
「お前は魔王……! どうしてお前がこちら側の世界に!?」
「我が友よ。
余とお前は契約を結びし間柄だ。
余がこちらの世界に姿を現せるからといって驚くことはない」
いや、夜にいきなりその不気味な風貌で現れたら、大抵のやつは驚くだろう。
これは魔王なりのジョークなのだろうか?
もちろん、そんなことは今はどうでもいい。
「魔王、俺は結局力が使えない。どうすればいいんだ?」
こいつに会った以上、このことを訊かずになにを訊くのか。
「余を信じよ、そして、余を信じるとはお前自身を信じることに他ならない。
お前はそれを女と愛し合うことで果たそうとしているようだな。
が、うまく行かぬと悩んでおる」
こいつにはなんでもお見通しなのか。しかし、この感じがなんとも心地よい。
「俺はどうしたらいい?
身近に魅力的で好意を示してくれている女の子が3人いるが、誰ともちゃんと向き合えていない。
俺は誰を選べばいい?
どうすればいいんだ?」
不思議だ。
この魔王になら、なんでも相談できてしまう気がする。
しかし、やたら面倒見がいい気もする。
よほど気に入られてしまったのだろうか。
「ならば、その3人をお前の心を映し出す鏡と思うがよい。
その者たちの中に真の自分を探せ」
「真の自分?」
「お前は心に傷を負い、自分の姿を鏡で見ることが出来ぬ身であろう」
そのことまで知っていたのか。
だが、もう驚かなくなっていた。
「それはすなわち真の自分を見れぬということだ。
お前は親を殺した弟の中に自分を見てしまった。
自分が力さえあれば親をも殺しうると悟った。
自分が恐ろしくなった。
だから、鏡を見ても自分の姿から目を背けるのだ」
それが心の傷の正体だというのか。
自分を恐れる心。
「信じることの反対は疑うことではない。恐れることだ。
お前は真の自分を恐れている。
逆に恐れないなら、真の自分を見つけることができよう」
恐れずに自分と向き合うことをしろということか。
「3人の女のうちの誰かから真の自分を見つけたとき、その女がお前の真実の鏡であり、ともにあるべき存在であることを知るだろう。
そうすれば、お前は全てを知って、全てを失うだろう」
全てを知って、全てを失う……。
何かゾッとするような言葉だ。
それが代償なのか。
前回は代償について何も語ってはいなかったが。
「ではな、我が友よ。私はお前とともにある」
そこで俺は目が覚めた。
夢、だったのか。
だが、夢とは思えないほど一言一句、魔王の言葉を鮮明に覚えていた。
しかし、あそこまで相談に乗ってくれるとは。
アリアの宿敵とこういう関係になっていていいものか、少し考えてしまう。
だが、魔王は俺に多くのヒントをくれたと思う。
その日の朝、叔父から連絡が入った。
「竜一、君の力のことで非常に重要なことが分かった。
できるだけすぐ話がしたいから、学校が終わったあと、研究所に来てほしい」
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