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「あなた、上條くんと付き合っているって、本当?」

 いいえ! と全力で否定したい。しかし、安定した生活のためには首を縦に振らないといけないのだ。

「はい、一応」

 微笑んでみようと思ったが、顔がひきつってしまった。やめておけばよかったな。彼女、物凄く不審そうな面持ちになってしまった。

「こんなこと言うと、未練がましいって思うかもしれないけれど……」

 躊躇うように彼女が口を開く。

「あなた、彼と別れた方がいい。彼は、本当は女の子に興味がないって…………知ってた?」

「…………」

 咄嗟に言葉が出なかった。

 おい! 上條くん、元カノに気づかれていますよ!

「え、えーと……?」

 何のことだかわからないって風に、可愛く(当社比)首を傾げてみた。すると彼女は顔を近付けて、耳元で囁く。

「だから、彼、ゲイなんだってば」

 ず、ずばり言った!

 いくら小さな声だとはいえ、人が多い学食で話題にしないほうがいいな! 誰に聞かれているか、わかりやしないのだから。

 で、わたしはどう反応すればいい? 

 考えろ、考えろ! 必死に考えながら、同時進行で続ける言葉を振り絞る。

「もしそうだとしてもですね」

 そもそも、わたしは上條に惚れていない。最初の出会いからゲイだと知っているのだから惚れようがない。まあ、ノーマルだとしても、上條とわたしでは生息圏が違うのだから、恋愛には発展しないだろう。

 そう、上條と同居しているのはメリットがあるから。

「いいんです。わたしは、それでも」

 本当は付き合っているわけじゃないしさ。これに関しては、わたしにとってデメリットしかない。しかし生活のために仕方がない。

「本当に、いいと思っているの?」

 痛ましそうに元カノは目を細める。多分、わたしが無理をしているとでも思っているに違いない。

「はい」

 本当に大丈夫ですよ。という意味を込めて笑顔を浮かべてみました。すると、ますます元カノの表情は同情的になっていく。

「それほど彼のことが……好きなんだ」

 え?!

「わかったわ。彼の全てを受け入れる覚悟があるなら、もう何も言わないわ」

 どうして、そんな話になったわけ?!

「応援するわ、斎藤さん」

「あ、りがとう……ございます?」

 大きな誤解をされてしまったが、一応丸く収まった……のかなあ。冷や汗を掻きながら、お世辞に笑ってみせる。

「お食事中に、ごめんなさいね」

 そう、ここは学食。わたしの前には昼食……かき揚げうどんがあった。かき揚げはすっかりふやけ、うどんは汁を吸って膨張していた。

 貴重な昼ごはんが……まだ手を付けたばかりだったのに悲しい。箸でうどんを摘まんだら、ぐずっと切れてしまった。


 迷惑料として、上條に昼食代を請求してもいいですか?

今更ですが、上條の二つ名を「法学部のイケメン」から「法学部のプリンス」に変更しました。

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