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当事のわたしは卒業を控えた高校三年生、上條はこの春三年生になる大学二年生。
大学生である上條は、えらく大人っぽくみえたし、高校生のわたしはえらく子供っぽく見えたらしい。
つまり上條から見たわたしは、中学生に見えたらしい。久しぶりに意気投合した相手とこれからお楽しみだったらしいが、さすがにいたいけな中学生が手込めにされるのを、見てみぬ振りはどきなかったんだって。
上條、なんていい奴だ。
ホテルから連れ出された後、ファミレスで事情聴取された。そして散々説教されたものの、教育ローンや奨学金のことなどレクチャーしてくれた。最後に「もっと自分を大事にしろよ」と頭を撫で撫でして食事まで奢ってくれた。
なんていい人なんだ……ゲイじゃなかったら惚れてしまうぞ。
そんないい人の顔を、半年後にはすっかり忘れてしまうなんて、わたしってばなんて白状なのでしょう。
無事入学してから半年後、学食で再会するわけだけど、法学部のプリンスが、わたしを窮地から救ってくれたゲイのイケメンが同一人物だとはまったく気付いていませんでした。
だって、いつも女の子を……当事の彼女なんだけど……はべらせているんだもの。こっちはゲイって認識だったからピンとこないってば。
まあ、この彼女もカムフラージュだったわけなんだけど、問題は上條の性癖を知らなかったことと、ちゃんとお付き合いしていると思っていたこと。つまり上條に騙されていたってこと。
これは上條が悪い。圧倒的に悪い。
しかもきちんと別れもせず、何となくフェイドアウトしていって、業を煮やした彼女が連絡をくれない理由を突き詰めたら「普通わかるでしょ?」などとのたまったらしい。
上條、女の敵!!
わかる。彼女の気持ちは痛いほどわかる!
でもさ、そのとばっちりがわたしに来るって……あんまりだ!
いつもぽつんと学食で寂しい食事を取っているわたしの目の前に綺麗なお姉さんが座った。
「あなたが、芸術学部の斎藤さん?」
「…………」
人違いです、と言いたい。
しかし、こんな油絵の具まみれの白衣を着て、今更違うもないだろう。
やだもう、この人上條の元カノだ。きっとそうだ、間違いない。
どうしてわたしが、清楚な美人に笑顔で凄まれなきゃならないんだ?!
どれもこれも、ゲイのくせに女の子と付き合って世間の目を誤魔化そうとする上條が悪い!




