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ロイヤル⚪ストのハンバーグステーキセット、プラスデザートは大変美味しゅうございました。とはいえ、純粋に味わえたのは最初の数口。後は味わうなんて、心の余裕なんてありませんよ。何故ならば、上條に強要されたいかにもカップルっぽい演技が実に……恥ずかしくてやってられないよ!
なにあれ、お互いの料理を一口味見するのに、いちいち「あーん」なんてやらなきゃいけない決まりでもあるの? まどろっこしいから自分で食えば? って声を大にして言いたい。
でも、ビーフシチューの肉の塊をスプーンに乗せた上條が「おら、さっさと食えよゴラ」なんて、目付きで睨むんだもの。笑顔のくせに、目が笑っていないって、初めて見ましたよ。もう食べるしかないでしょ。
恥ずかしさと恐怖の時間を終えたわたしたちは、再び仲良くお手て繋いで家路に着いたわけであります。
相手がゲイとは言えども、男女交際の経験がないせいもあるんだろうな。実は結構緊張しております。上條が無駄にイケメンなのも、また原因の1つかもしれない。
男の子と手を繋ぐのだって、マイムマイムくらいしかなかったし。
気を紛らわそうと、一歩前を行く上條の背中を眺める。なかなか良い骨格をしているし、引き締まった広背筋が形作る逆三角の背中が素晴らしい。なかなかモデル事務所のモデルさんでもお目に掛かれない。
一度ヌードデッサンをさせてもらいたいくらいだ。きっと油彩科の女子たちが泣いて喜ぶに違いない。
デッサンならヌードを見ても、ちっとも恥ずかしくないんだよね。最初は「きゃっ」と皆で恥ずかしそうでも、いざデッサンが始まると食い入るように見ながら鉛筆を動かすことに必死になる。多分、目の前の裸の人が、単なるモチーフになるからなんだろうけど。
もし、上條がモデルだったらどう思うんだろう? なかなか興味深い。
「あのさ、上條くん」
「ん?」
「ヌードモデルやってみない?」
「腐女子の餌食になるのは勘弁」
うーん、やっぱりダメか。
「ところでさ、高里くんとは」
「友達」
「え? もしや「せ」が付くお友達?」
「普通に友達」
「え、えええ?」
「いい奴だからさ、切れたくないんだ」
うん、高里くんはいい奴だ。だから縁を切りたくないって気持ちはわかる。
「好きなんだね、高里くんのこと」
あら無言だ。でも図星のようだ。握っている手が熱くなりましたよ。指摘すると、手を振り払われる。ようやく解放されてホッとする。あー心臓に悪かった。
「じゃあ、高里くんとはプラトニックで純粋な友達として付き合っていくってこと?」
「……長期戦でいく」
上條が、ふっと笑う。
ん? 長期戦? もしや友人として関係を深めて、そのような関係に持っていくつもりとか?
わ、わたしには出来ない高度な技だ。おモテになる人じゃないと不可能だ。
「たから、ちゃんと金は貯めておけよ?」
ああ、いつでも出ていけるようにしろってことだね。
やっぱりこいつも友情より恋愛を取るのか。女友達だけだと思っていたけど、ブルータス、もとい上條お前もか。
いやまて……わたしと上條の間に友情はあったのか?
……無いな。
「わかった」
わたしたちの関係は、お互いの弱味を握りあっているだけ。友情は存在しない。




