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前回の更新からずいぶん時間が空いてしまいましたが、あと2、3話で完結します。
もうちょっとだけお付き合いいただけると嬉しいです。
飛び出したところで行く宛なんてなかった。
一応所持金はあったので、漫画喫茶で一夜を過ごすことにした。カラオケは危険だ。また一晩中歌ってしまいかねないからだ。
運よく個室……といってもパーティションで仕切られているだくだが……が空いていたので、一晩ゆっくり過ごせそうだ。
それにしても、これからどうしよう。
ドリンクコーナーから持ってきたコーンスープを飲みながら、ぼんやりと考える。
わかることは、もう上條の家には居られないってこと。
腹を括って実家に帰る? 間違いなく退学させられるだろうな。
お水系のバイトで資金を稼ぐ? 接客業って苦手なんだよね。
じゃあ、上條のうちに居座って、便利な女になる?
それは御免だ。絶対に嫌だ。
だったら、何とかしなくちゃ。
目の前に鎮座したパソコンの電源をONにする。
今のコンビニバイトよりも時給が高いバイトを探そう!
そう意気込んだはいいものの、なかなか都合のいいバイトなど見つからない。時給が高いのはお水だったり深夜だった。完全にフリーターなら選択肢も広がるものの、学業に支障をきたしては本末転倒である。
「はあ……」
疲れた。気がつけばネットを見始めてから二時間が経とうとしていた。疲れもするはずだ。普段ならそろそろ就寝時間だし。
眠い目を擦りながら、ドリンクバーへ向かう。
コーヒーでも飲んで目を覚まそう。ぼーっとしながらドリンクバーへ向かうと先客がいた。若い男性だ。ひょろっとしていて筋肉が無さそうだ。
あーあ、上條の背中の筋肉は見事だったなあ。
こんなややこしいことになる前に、ヌードデッサンのモデルを頼めばよかった。後悔、後に立たずだ。
ぼんやりと、先客がドリンクを淹れるのを待っていると、不意に男性が振り返った。両手には緑と茶色い炭酸飲料。たまにはメロンソーダもいいな。男性のグラスを眺めなから思う。
「…………」
あれ? なんでまだいるんだろう?
しかも、じぃっと見られている気がする……?
いや、まさかな。自意識過剰だな、と思いながらそおっと顔を上げると。
「あ、やっぱり!」
男性が大きな声を上げる。
「え?」
だ、誰だ?! そして相手の顔を見て数秒後。
「あ!」
思い出した!
セクハラ予備校講師だ!
「齊藤さん、久しぶりだね」
ニコニコと愛想笑いを向けてくる。一見好青年に見えるけど、本性を知っているから気持ちが悪いだけだ。
「ええと、どちら様でしたっけ?」
うん、ホントに名前を忘れていた。あの黒歴史はまるごと消去したい出来事だったから、きっと意識的に忘れたんだと思う。
でも、わたしの記憶から消したところで、相手の記憶からは消えてくれないんだな。残念ながら。
「あれからどうしてる? ちゃんと大学へは通っているの?」
「ええ、お陰さまで」
「そっかあ、よかったね」
セクハラ講師は悪びれもせず、ニコニコとしている。
「今日はどうしたの? 終電がなくなるには、まだ早いよね?」
「漫画を思いっきり読むために来ています」
「へえ、面白いね」
そして、楽しげに笑い出す。
一体何を考えているんだろうな、この人は。
早く席に戻りたいが、くっついてきそうで面倒だ。
「あのさ、ごめんね」
突然なんのことだかわからず、思わず「は?」と、滅茶苦茶感じ悪く言ってしまった。
「何のことですか?」
「ラブホに連れ込もうとしちゃったこと。反省しています」
と言いつつ、ニコリと笑う。言葉と態度が裏腹である。油断できない。冷や汗が背中を伝う。
「もう良いです。こっちも忘れてたんで」
じりじりと移動しながら笑顔で取り繕う。しかし、こっちが後ずさった分だけ近寄ってくるのはなぜだ!
「あのー……」
うわあ! 手を掴まれた! 超絶きもい! 勘弁して!!
絶叫は心の中で留めたぞ。わたしってば、えらい。
「ここで会ったのも何かの縁じゃない? どっか飲みにいかない?」
「い、いえ……あんまり手持ちがないので」
「それくらい奢ってあげるよ」
ひいいいい! 勘弁して!!
腕を捩じって逃れようとしているのに、全然払えない。ダメだ!
こうなったら大声出してやる!
すうっと、大きく息を吸い込んだ。その時だった。
「斎藤!」
その声に固まった。
だってこの声は、さっきまでケンカ(?)をしていた張本人。
上條だった!
なななな、なんで!?
前にも後ろにも敵がいる。こんな状況をなんていうんだっけ?
ずかずかと近づいてくる上條。そのままわたしを連れ去ろうとするエロ講師!
エロ講師は当然勘弁だけど、上條も……無理。
頭が真っ白になったわたしは、フリーズ状態。二人の顔を交互に見ると、天を仰いだ。
オーマイゴッド! と叫びたくなる外国人の気持ちがわかるような気がした。
神さま! この状況を何とかしてくれ!!




