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 いつもこっちのことなんて気にもしないくせに、今日に限って察しが良すぎる。

 わたしに関心を持ち始めた……わけないか。

 冷や冷やしながら「別に」と答え、カレーを食べることに専念しようとした矢先だった。

「風の噂だが、高里と一緒にいたらしいな」

 やっぱり! しかもそれ、風の噂かな?!

「ああ、学食で会っただけだよ」

「昼時以外にわざわざな?」

 こちらを見ようともせず、カレーばかり見つめながら質問を重ねる。

「コーヒーにモンブランか」

「お、美味しかったよ。今度食べてみれば?」

「手を握って、親密な雰囲気だったらしいな」

 あれは復讐話から逃げようとしたら、取っ捕まっただけですよ。

「裏切るとかなんとか……随分深刻そうだが、一体何の話をしていたんだ?」

 風の噂じゃなくて、覗き見していたんですか?!

「……わかった。話すよ。実は高里くんは、わたしのことが好きで。でもわたしは上條と付き合っているから付き合えないとお断りしたところ、上條を裏切ってでも付き合って欲しいと迫られていました」

「嘘だな」

 ばっさりと切り捨てられた。

 ……やっぱりバレるよね。まあ、バレるように話を作ったから当然なんだけど。

「吐け」

「ごはん中に相応しくない発言はやめてください」

「もっともらしい発言で誤魔化すな」

 いつのまにか上條のお皿は空っぽだった。食べるの早いなあ。

「おかわりする?」

「誤魔化すな」

 スプーンを持った腕を強く握られ、そのまま床に押し倒される。

 壁ドンならぬ、床ドンだ。すごいな上條、アップにも耐えうる顔面が羨ましい。

「高里と付き合え」

 はい? 話が見えないぞ。

「高里を傷付けるなんて許さない。今から土下座して訂正してこい。あいつの気持ちを受け入れて……欲しい」

 何を冗談を……と言えない。

 怖いくらい真剣な面持ちだ。怒っているというか、泣き出しそうな。ギリギリなところで踏みとどまっているような、危うい表情。

 もしかして、さっきの冗談を真に受けているとか……? 

「か、上條さん」

「なんだ」

「さっきの冗談だよ」

「あ?」

「高里くんがわたしのこてが好きで、ってあれ。冗談です……すみません!」

 沈黙が痛い。上條と見つめ合い、ならぬ睨み合いがさらに辛いです。

「本当に?」

「はいっ」

「冗談なんだな?」

「アメリカンジョークです!」

 なんだそれは、と息を吐くように呟くと、わたしの肩に額を押し付ける。

 重たいし……近いってば!

 しかも髪の毛が当たってくすぐったいし。

 でも、わたしの冗談でダメージを与えてしまったのかもと思うと、重たくても文句が言いにくい。

 重たいだけなら多少は我慢しようと思ったけれど、くすぐったいのは難しい。

 上條が吐いた息が首筋に当り、そのくすぐったさに耐えかねて、ビクッと反応してしまった。

「へえ……」

 上條が顔を上げる。何かを企むかのような、面白いものを見つけたかのような、何やら危険な目をしている。

「……なんでしょう?」

 ニヤリと笑うと、今度はわたしの首筋に顔を埋める。

「ここ、弱いんだ」

「ちょ、ちょっとやめ……っ!」

 首筋に生暖かい感触。なっ舐められた!

「ぎゃーっ! やめてよ! やめてってば、もう!」

 一体何の冗談だってば!

 必死に逃れようともがこうにも、ダメだ力じゃかなわない。

 その間にも、舐めたり吸い付いたり噛み付いたりと好き放題だ。最初はくすぐったいだけだったのに、段々変な気持ちになってくる。

 やめて欲しいのに、もっとして欲しい。

 上條が触れる度に、身体が跳ねてしまう。わたしが反応を見せると、上條の動きがエスカレートしてくる。

 身体が熱くなって、力が入らない。

 これは……不味い。貞操の危機だ!

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