表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/80

74話

コミケ編ももう終わりそうです。

っていうか……

もうしばらくお付き合いを。

 

 会場は静まり返っていた。

 確かに音としては静かであった。

 だが空気は……


 異様な圧というか、オーラというか。

 いや、もう、怨念とかに近いんじゃないかって程のパワーを感じる。

 四方のお姉様方から、ゴゴゴゴゴゴゴという様な効果音が聞こえて来そう。

 そんな集中した熱視線を一身に受けているのだ。


 ちらとダイヤ先輩の方に目を移す。

 ひょっとしたら回避のヒントをくれるかも。

 まあ、無いとは思うけど。


 じいいいいいっと、興味津々でこっちを見てた。


 あんたのせいだろが!


 思わず叫びそうになった。


「ミチ」


 ミッキーが囁いてきた。

 最近この男は慎みが無い。

 僕を好きだという事を隠そうとしていない。


「ミチ、観客は求めているぞ」 


 やはりである。

 昔はこんな事なかった。

 感情を表面に出さず、常に仏頂面。

 本当は優しい性格なのに、それが知られるまでは避けられる。


「江藤も恥ずかしいのに頑張ったぞ」


 やっぱり僕のせいなのかな。

 ミッキーを拒絶して、傷つけちゃったからかな。

 本当に、本当は、やっぱり本当の事だったのかな。


「今、俺達はカズキとブラックアンドウトロワなんだからさ」


 ミッキーはずっと僕を好きだったらしい。

 ともかちゃんを好きだというのは僕の勘違いらしい。

 僕をともかちゃんに重ねてって指摘された時も、何故そんな事を言われるのか分からなかったらしい。


「ねえミッキー」


「ん、なんだ?」

 ミッキーは顔に喜色を浮かべた。

 僕がやっと口を開いたのが嬉しかったのか。


「僕の事、好き?」


 つい、このタイミングで聞くのはどうかという質問をしてしまった。 


「当たり前だろ!」


 即、返ってきた。


「「「キャアアアアアアアア!」」」


 会話が聴こえていたのだろう。

 黄色い声が一斉に響く。


 僕はミッキーを見詰めた。

 ギャラリー達は息を飲む。

 端から見れば、ふたりは先程のバカップルみたくキスをする。

 そう思われても仕方がない。


「ミチ……怒ってるのか?」


 が、長い付き合いのミッキーだけは僕の感情に直ぐ気付く。


 だって……

 怒るよ……


「どうしたのさ!」


 思わず僕は語気を荒らげた。

 予想とは真逆な展開で、周りの空気の温度が一気に下がった。

 そんな事、今の僕にはどうでもいい。


「最近どうしたのさ!

 こんな人前で……恥ずかしげもなくっ」


 カヨ先輩やダイヤ先輩の前ならまだ、ちょっと嬉しいとか思えるけれど、こんな公衆の面前での隠さない好意は軽薄に感じてしまう。


「すまん。

 確かに焦りすぎていた。

 だが、俺は、もう隠すのは嫌なんだ」


 ミッキーは素直に謝った。が、直ぐに反論してきた。

 この男は良くも悪くも頑固者。

 ホントこの石頭は、たぶん一生変わらない。


「俺は、気持ちを隠して、誤解されて、お前と離れてしまう事が怖いんだ!」


 こ、この男は、なんて発言を、なんて状況で、す、するんだ。


 でも分かる。

 ミッキーが嘘だったり、大袈裟に言ってるんじゃないっていうのは。

 やっぱり本当だったんだ、ミッキーがずっと僕を想ってたって事。

 もちろんあの日も。


 あの日、初めてキスした日……

 僕は勘違いでミッキーを非難して、ミッキーが言ってた言葉を全て無視した。

 聞く耳持たず絶交した。


「こんな人前で恥ずかしいとは思う。

 俺もめちゃくちゃ恥ずかしい」


 じゃあ、もうちょっと控えろよ。

 と思いはしたけど口には出さない。

 僕の中に少し嬉しい気持ちも出て来てしまっていたから。


「でも、お前を好きだと思うこの気持ちを、恥ずかしいなどと言いたくない」


「バカ、ちょっとは隠して」


 キャアアと周囲がまた、黄色い悲鳴を上げて喜び出す。

 さすがに直球過ぎるだろ。

 たまらず僕はツッコミを入れた。


「そんなストレートに……

 僕ら男同士なんだよ」


 後半はやや言い澱んでしまったけど。


「おいミチ!」


 ミッキーは急に強い口調で僕の肩を掴んだ。


「男じゃオカシイのか!」


「……」


「お前が男だったら好きになっちゃいけないのか?

 結婚出来ないからか? 子供が出来ないからか?」


 ミッキーは真剣に質問、いや、自問した。


「俺が誰を愛し愛さないを、他人に、国に決められてたまるか!」


「……うん」


 そうだね。その通りだと思う。


「大事なのは世間が、国が認めてくれるって事じゃない。

 お前が、俺を愛してくれるかって事だけだ」


 さっきまでまた賑やかになっていた会場が静寂につつまれ、ミッキーの声だけが矢鱈大きく響いている。

 でももう僕の胸は熱い気持ちで一杯で、周りの反応なんかに意識が向かない。


「俺は男を好きになったんじゃない。

 好きになったのが……ミチ、お前だっただけだ!」


「僕も! ミッキーだっただけ!」


 僕は溢れる想いそのままに、愛する人の胸に飛び込んだ。

 もう人の目なんかどうでもいい。

 常識なんて、普通の恋愛なんて意味がない。

 今僕の両手の中にある、そして更にその僕ごと包んでくれているこの愛情こそが全てだと信じられる。


 ふたり見詰め合いながら、少しだけ抱擁を解く。

 そしてまたゆっくり互いを引き寄せる。


 優しく頬に添えた手のひらも……

 綴じた瞳と止まらぬ涙も……

 ふたり重なったその唇からも……

 温かく、熱を以て、僕にその事を教えてくれた。


「僕ね、ずっと前からこうなりたかったんだよ」


 そっと体を離して、僕は照れながら白状する。


「ああ、俺達は初めから、そしてこれからもずっと一緒だよ」


「うん!」


 もう一度ふたり強く抱き合うと、周りから拍手やら祝辞やらが降り注ぐ。

 ちょっと落ち着いたら、そういう反応が非常によく見えてきた。

 恥ずかしくて、更にミッキーの胸に埋めて顔を隠す。


「ミチちゃん!」


 人混みの隙間からほぼ親友の女友達が現れた。


「と、ともかちゃん……」


 稲月高校演劇部、女神姿の八重洲ともかだ。

 彼女に見られていたとしたら、少々気まずい。

 以前彼女は好きだと告白する位に、異性として僕を見ていたのだから。


「ミチちゃん、おめでとう。

 お似合いじゃない。私、嬉しいよ」


 ともかちゃんはニッコリと、笑顔でそう言ってくれた。

 嫌味の欠片もない、純真な、小6の頃と変わらぬ笑顔だった。


「ありがとう、ともかちゃん」


「でも汚ないわよ、こんな公開告白。

 お陰でお客さん、みんな持ってかれちゃった」


 いや、今ちょっと悪い笑顔が混じってた。


「うふふ、稲高演劇部の完敗ね」


 ともかちゃんの脇にいた演劇部部長の大野さんが、主人公のライバル然とした腕組みポーズで台詞を吐いた。


「大野ちゃん! 私がその立ち位置で登場しようとしてたのに」


 隠れて登場の機会を窺っていたカヨ先輩が、友にイチャモンをつける。

 どういう立ち位置なんだか。

 

「おいおい、組み手はどうなったんだい?」


 急な展開についていけない、おじさん警備員。


「ハイハーイ皆さん、危ないので解散して下さーい。

 佐藤さん、仕事再開するッスよ」 


 若い警備員の鈴木さんは仕事モードに切り替えたようだ。

 後輩に先手を取られ、釈然としない顔の佐藤さんも仕事に戻る。


 今回の祭り一番の盛り上がりとなったダイヤ先輩の作戦は、予想出来ない着地を果たし……

 僕とミッキーも、めでたく着地を果たしてしまった。 

コミケ編どころか作品自体が終わりそう。

もうちょっとだけお付き合い下さいませ。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もどうか、よろしくお願いいたします。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ