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あなたと生きた世界  作者: 仙夏
黎明

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03

【主な登場人物一覧】

蘭寮   寮長:神楽凜(8) 副寮長:蒼井茜(7)

向日葵寮 寮長:阿久津陽向(8) 副寮長:日向悠人(7)

葵寮   寮長:優木澪(8) 副寮長:緑川颯(7)

菫寮   寮長:橘立夏(8) 副寮長:一条優(7)

蓮寮   寮長:水瀬莉(8) 副寮長:水瀬藍(8)

楓寮   寮長:星宮柊(8) 副寮長:黒川伊織(7)

蓬寮   寮長:桜庭海(8) 副寮長:一ノ瀬南海(7)


学園の生徒の学年は、1年生から8年生までで、上記の( )の中の数字がそれぞれの学年です。

部屋に戻って体操着に着替えて校庭に向かうと寮長と蘭寮の神楽先輩が待っていた。

立夏 「揃ったな。まずは、上体起こしから。」

学校での体力測定のような種目で測定をしていると、向日葵寮寮長の阿久津先輩を先頭に上級生がマラソンしているのが見えた。

陽向 「走れ、走れー!休み中、怠けすぎだぞー!」

俊 「恐ろしいほど良い笑顔で走ってるな。」

晴樹 「う、うん。」

凜 「笹沼。飛翔。次は、お前たちだ。」

神楽先輩は僕らの長座体前屈の記録を記録した。

凜 「陽向を見ていたのか?」

俊 「は、はい。すごく元気そうで…」

凜 「あれでも物足りなくなって夜中に一人で走っているくらいだ。」

俊 「ま、まじすか。こ、ここの人って皆そうなんですか?」

凜 「あいつが異常なだけだ。次、立夏のところで持久力測定。」

晴樹 「じ、持久力!?」

凜 「どうした?ほら、立夏が待ってる。」

神楽先輩に背中を押され、寮長のところに行くと、菫寮の新入生が走る用意をしていた。

立夏 「次は持久走だ。合図をするまで、走ってくれ。よーい、スタート。」

俊 「げ、マラソンか…」

皆が走り出したとき、僕は寮長の元に行った。

立夏 「飛翔?どうした?」

晴樹 「…寮長、僕、持病があってマラソンは止められているんです。」

立夏 「…飛翔晴樹。呼吸器系の病気だったみたいだな。」

晴樹 「えっ、知っているんですか?」

立夏 「昨晩、新入生の前世については確認した。飛翔。この世界には、前世でどのような亡くなり方をしたか、前世でどのような状況だったのかに関わらず、病気や怪我など何もない健康な状態で送られてくるんだ。だから、持病など心配することなく思いっきり走って大丈夫だ。」

晴樹 「そ、そうなんですか!」

立夏 「あぁ。だから、気にせず走ってきなさい。」

晴樹 「は、はーい!」

僕はうれしくて自分の限界を考えず、走り出した。

寮長は僕らの走り方を見ながら何かメモをしていて、しばらくして笛を吹いた。

立夏 「菫寮!ゆっくり歩いて戻ってきなさい。」

菫寮の新入生が戻ると皆座り込んだ。

俊 「はぁはぁ。俺、限界…」

晴樹 「ぼ、僕も…」

立夏 「最近の若者は体力が無いと聞くが本当だな…陽向の授業なんて受けたら大変なことになるぞ?」

俊 「ひ、ひぇぇ…」

立夏 「息を整えた者から、次の測定項目に進んでくれ。」

しばらくして皆が立ち上がって次の測定項目であるボール投げの場所に向かった。

僕も立ち上がろうとすると、立ち眩みがして急に目の前が真っ暗になった。

目を覚ますと真っ白い天井が見えた。

澪 「目が覚めたみたいだね。大丈夫?」

晴樹 「あ、えっと…」

澪 「あっ、ごめんごめん。葵寮寮長兼保健委員会委員長の優木澪です。ここは、医務室。君、急に倒れて立夏が運んできたんだよ。」

晴樹 「倒れ…すみません…」

澪 「授業中に倒れる新入生はまれにいるけど、体力測定で倒れるのは初めて見たよ。相当、体力がないみたいだね。」

晴樹 「…小さい頃から、外に出るのも禁止されていて走ることがあまり無かったんです。全てにおいて駄目と言われてきて…最近になってやっと普通に学校に通えるようになってきたところだったんですが…」

澪 「…さっき、君の前世を見させてもらったよ。持病で亡くなったんだね。」

晴樹 「…はい。」

澪 「なるほどね。立夏が君を特に心配している理由が分かったよ。」

晴樹 「えっ?」

すると、急に扉が開いた。

陽向 「澪!怪我人だ!怪我人!」

澪 「陽向、また?陽向の授業はどうしてこうも毎回毎回…」

阿久津先輩は、誰かを抱えながら医務室に入ってきた。

陽向 「転んで、頭を打ったみたいだ。」

澪 「全く…って、一条じゃないか。」

優 「ど、どうも…」

阿久津先輩は、副寮長を僕の隣のベッドに寝かせた。

陽向 「じゃ、ゆっくり休め。」

澪 「陽向、もう怪我人出さないでよ?新学期早々、もう三人目だからね?」

陽向 「はーい。じゃあな。」

阿久津先輩が出ていくと、優木先輩は副寮長の怪我の手当をしていた。

優 「すみません…」

澪 「一条が謝ることないよ。陽向が初日からぶっ飛ばすから…でも、一条がミスするなんて珍しいね。」

優 「いやぁ…って、飛翔。」

副寮長は、ふと後ろを向いて僕に気づいた。

澪 「さっき、目を覚ましたところだよ。」

優 「今日って体力測定だけですよね?どこか怪我を?」

澪 「体力が乏しかったみたい。」

優 「あぁ…たしかに、飛翔の前世を見れば納得です。」

晴樹 「副寮長も僕の前世を?」

優 「当たり前だ。寮長と副寮長は全ての寮生の前世を把握している。」

晴樹 「そうでしたか…」

澪 「さっき、立夏と飛翔君は似ているって話をしていたんだ。立夏が焦るほど心配していたから。」

優 「そうですね。私も飛翔の前世を見ていて、寮長が重なりました。」

晴樹 「どういうことですか?」

澪 「立夏も同じだったんだよ。君と同じように呼吸器系の病気を患っていた。でも、君よりもずっと重い病気で、生まれてすぐに亡くなったんだ。」

晴樹 「えっ…では、赤ん坊のときにこの場所に?」

優 「そう。新入生としてこの学園に入学できる年齢になるまで、この学園で育ったんだ。」

澪 「今は、小さい子専用の学校も新設して、適齢期になるまではそこで学べるようになったんだけど、あの頃はそんなもの無かったからね。」

晴樹 「そんなこともあるんですね…」

優 「寮長は、何度もあの鏡を見に行くんだ。飛翔たちも入学式で見ただろ?」

晴樹 「…はい。何だか、不思議な感覚でした。自分が死ぬ瞬間とその後が映って…」

優 「…寮長はご両親の顔を見ることができなかったんだ。何度、鏡を見ても映るのはご両親の後ろ姿だけ。ご両親の泣き声だけが聞こえるそうだ。」

澪 「…立夏も僕らも前世で過ごした年月よりも、ここで過ごした年月の方がずっと長いんだ。ここで先輩方に育ててもらった。」

優 「優木先輩も赤ん坊のときに亡くなったんでしたね…」

澪 「うん。今年の寮長は皆そうだよ。皆、生まれたばかりのときに亡くなってここに来たんだ。」

晴樹 「そうだったんですか…」

澪 「…立夏は、唯一の女の子でそれを気に食わない先輩もたくさんいた。その度に苛められて立夏が倒れるまで僕らはそれに気づけなかった…だから、何かと僕らは立夏に過保護でさ。入学式でも感じたでしょ?」

晴樹 「は、はい…まぁ…」

優 「寮長は、あまり人に心を許しませんけど、優木先輩たちを頼りにしていますよね。」

澪 「そうだと良いね。」

晴樹 「寮長は、この場所には優しい人しかいないと仰っていました。やはり、そんなことはないんですか?」

澪 「さっきの苛めの話で心配させてしまったかな。大丈夫。僕ら寮長たちで学校を統制するから。君たちにそういう思いはさせないよ。立夏のときは、女の子がこの学園に来るって不測の事態だったからね、思いもよらないことが重なって当時の寮長たちもなかなか対処しきれなかったんだ。」

優 「寮長は、毎年それを言いますね。」

澪 「君たちを守る意思表示だよ。特に、二年連続の代表寮寮長だ。それなりに気も張っているはずだし。それに根っからの悪人はこの学園には送られてこないから。」

優 「そうだ、優木先輩。明後日の寮長会議は、やはり獣が議題ですか?」

澪 「うん。最近特に増えてるって話だから。」

優 「そうですね。寮長も心配されていました。」

澪 「最近は多いね。何が原因なのかな…」

晴樹 「…」

すると、また勢いよく扉が開いて阿久津先輩が飛び込んできた。

陽向 「澪―!また怪我人!」

澪 「たっく…何人の怪我人を出せば気が済むの?」

陽向 「まぁまぁ。そうだ、獣の会議、今日やるってさ。前倒しになった。柊が調べただけでも想像以上の獣が増えていたらしい。」

澪 「そうか…分かった。」

陽向 「んじゃ、また後でな。」

阿久津先輩が医務室を出ていくと、優木先輩は生徒の手当を始めた。

澪 「ふぅ…今日も徹夜か。」

晴樹 「徹夜…」

優 「大変ですね…」

澪 「まぁ、仕方ないけどね。」

生徒の手当が終わり、優木先輩は片付けをしていた。

澪 「僕も授業の準備があるから行くね。蓬寮の一ノ瀬が来るから。」

そう言って優木先輩と手当の完了した生徒も出ていった。

優 「はぁ…寮長、大丈夫かな。」

晴樹 「徹夜ですもんね…」

優 「寮長、この時期は体調を崩しやすいんだ。忙しいっていうのが一番の理由だけどね。」

晴樹 「新入生も入って大変でしょうし…」

優 「うん。それにこの時期の獣は気性が荒っぽくてね。獣は、この学園の仕組みのように新学期とかはないんだけど、この時期に多く増えるんだ。それで、自分の縄張りに新しい獣が入ってくることが気に障るらしい。」

晴樹 「なるほど…」

優 「それに新入生も弱音を吐き始めるだろうし。そっちの対応もしなくてはいけないんだ。」

晴樹 「弱音…ですか?」

優 「何で死んでまでこんなことしなくてはいけないんだとか思う子が多いんだよ。寮長たちだって同じ気持ちなのに、そんなことばかり言われてさ。」

晴樹 「…」

すると、扉が開いた。

南海 「すみません、遅くなりました。って、優だったのか。」

優 「よっ。蓬寮副寮長の一ノ瀬南海。」

寮長は、僕に向かって一ノ瀬先輩を紹介してくれて、僕と一ノ瀬先輩は互いに会釈した。

南海 「何をしたの?」

優 「転んで頭打っちゃって。」

南海 「当てようか。阿久津先輩の授業でしょ?」

優 「大正解。」

南海 「やっぱり。あの人の授業は荒っぽいからね。」

優 「今日は、僕を含めて怪我人を四人出したよ。」

南海 「初日から元気だなぁ。ほかの寮長たちは休みたいくらい疲れてらっしゃるのに。」

優 「うん。寮長たちの会議、今日になったって聞いた?獣が多くなっていて今日に前倒しになったらしい。」

南海 「聞いた聞いた。うちの寮も今日まで監視役だから、寮長がクタクタで。心配していたところだよ。」

優 「桜庭先輩か。昨日も監視が緩んでいたって寮長たちに怒られていたね。」

南海 「そう。で、この子でしょ?抜け出したの。」

晴樹 「あっ、えっと…」

南海 「いや、わざとじゃないし怒ってないんだけどね。事実、監視が緩んでいたのは認めざるを得ないし。入学式でうちの寮長もバタバタしていたから疲れちゃったんだよ。」

優 「そうだね。本当、この時期は寮長たち、気の毒になるほど忙しいから。」

南海 「…落ち込んでもいるだろうし。」

優 「うん…」

そしてしばらくしてから優木先輩が戻ってきた。

澪 「一ノ瀬、ありがとう。もう戻っていいよ。海が呼んでいた。」

優 「寮長が?分かりました。では、失礼いたします。」

澪 「うん。」

そして一ノ瀬先輩が出ていくと優木先輩は、腰を下ろした。

澪 「ふぅ…」

優 「お疲れですね。」

澪 「まぁね…昨日も夜中に泣いちゃった子がいてね。全然眠れなくて…菫寮は大丈夫だった?」

優 「あぁ…新入生ではいなかったんですが、下級生で一人いました。ろうそくの長さに怯えていて寮長が何とか宥めてくれたんですが、寮長も帰ってきて早々に倒れるように眠ってしまって。相当、お疲れみたいで…」

澪 「でも、今年の新入生の神経が図太くて良かったね。今年は、蓮寮と蓬寮がすごいらしいよ。」

優 「やはり、自分が亡くなったことを理解できない子が多いんですね。ここはどこなのかも理解できず知らないところに来れば、大人であっても怖くなりますからね。」

澪 「君は怖くなかった?」

優木先輩は僕を見て言った。

晴樹 「…怖くはなかったです。僕は、知り合いがいたので。彼のお葬式にも出て、彼が亡くなっていることも知っていたから、何とか理解できました。」

澪 「そっか。君は、獣も見たというのに良い根性だ。」

優 「ふふ、たしかに珍しい新入生ですね。獣も見て自分の死んだ姿さえも見たのに怖くないなんて。」

晴樹 「…」

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