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【主な登場人物一覧】
蘭寮 寮長:神楽凜(8) 副寮長:蒼井茜(7)
向日葵寮 寮長:阿久津陽向(8) 副寮長:日向悠人(7)
葵寮 寮長:優木澪(8) 副寮長:緑川颯(7)
菫寮 寮長:橘立夏(8) 副寮長:一条優(7)
蓮寮 寮長:水瀬莉(8) 副寮長:水瀬藍(8)
楓寮 寮長:星宮柊(8) 副寮長:黒川伊織(7)
蓬寮 寮長:桜庭海(8) 副寮長:一ノ瀬南海(7)
学園の生徒の学年は、1年生から8年生までで、上記の( )の中の数字がそれぞれの学年です。
リゼリア室の事故があってから、この世界に送られてくる人が急激に増え、ある冬の朝、僕ら副寮長と寮長たちが学園長室に集められた。
学園長 「この世界に送られてくる人数が急増している。下界で何かが起こっているようじゃ。」
副学園長 「何が起こっているかは新入生が目覚めるまで待つしかなさそうですが、その前に爆発的に急増している獣を何とかしなければなりません。」
学園長 「そうじゃの…獣が増えすぎて町や学園が危険になってしまうのも時間の問題じゃな…」
立夏 「…何か手立てはありますか?真っ向勝負では犠牲者が多く出てしまいます。」
学園長 「…このような事態になったことが過去にも滅多にないのじゃが…学園長になった際に引継ぎで一つ話を聞いたことはある。この世界の均衡を整える強力な蝶がいる。ただ、森の奥底の水辺にしか生息していない蝶で、夜にしか姿を見せず昼は見つけることができない。引継ぎで聞いただけで雲を掴むような話じゃ。あまりにも危険すぎる。」
澪 「ホリデーウィークでのノクスストーンよりも強力ですか?」
学園長 「あぁ。比にならないほど強力じゃ。その蝶を学園のリゼリア室の鏡に向かって飛び立たせることで保つべき均衡に戻すことができる。そう聞いたことはあるが、その蝶の場所だけは、わしも探すことができない。」
柊 「その蝶の名前は何というのでしょうか?」
学園長 「…エリュシアじゃ。しかし、本当に危険すぎる。獣が急増し、気性も荒くなり、元々秩序が無かった場所ではあるがそれ以上に酷くなっている。その上、夜に行くとなると多大な犠牲を出すことになってしまう…」
立夏 「…少し時間をください。今回はすぐに決断することができません。」
学園長 「あぁ、わしももう少し調べてみる。」
学園長室を出ると、最上級生が揃っていた。
上級生 「…立夏。状況は分かってる。俺らも作戦に入れろ。」
立夏 「…」
凜 「…皆、寮長室に。」
皆で寮長室に入ると寮長は頭を抱えていた。
陽向 「…世界の均衡を保つ蝶がいるそうだ。森の奥深くの水辺に生息していて、夜にしか姿を見せない。学園長にも蝶の居場所は分からないし本当にいるのかも分からない。」
上級生 「手分けするしかないんだな。」
澪 「…でもその蝶に頼るには犠牲者を出すのは避けられないよ。」
上級生 「…どうする?立夏。立夏の判断なら従うよ。」
立夏 「…その蝶に懸ける。この世界が壊れるのも時間の問題だ。でも、澪の言うとおり犠牲者を出すことになると思う。その覚悟がある者だけに手伝ってもらいたい。凜たちも。後三日、準備も含めて返事を待つ。行かないという選択をしても誰も責めない。」
最上級生が立ちすくむ中、寮長が寮長室を出て行き僕は後を追った。
階段を上がり、寮長は展望室に入った。
夜にはきれいな星空が広がり、人もそれなりに集まるけど昼間はほとんど人が来ない。
部屋に入ると寮長は長椅子に座って窓から外を見ていた。
優 「…寮長。」
立夏 「っ、一条…」
優 「…大丈夫ですか?」
僕は寮長の隣に座って寮長を見た。
立夏 「…分かってはいる。自分がするべきことが何かということは。でも…やはり怖いものだな。」
優 「…」
立夏 「…一条。時間は無いが引き継ぐべきことをこの三日で引き継ぐ。何かあれば学園を頼む。」
優 「っ、勘弁してください…嫌です…あなたが消えてしまうなんて…」
立夏 「…今までで一番自信が無い。皆を守り切れる自信が無い。でも、学園だけは守らないといけない。皆やこれから送られてくる者たちの居場所を守らないといけない。」
優 「…あと少しじゃないですか。あと少しで卒業者発表です。あなたは卒業して生まれ変わるべきですよ。前世でできなかったことをたくさんして、友だちをつくって皆に愛されて生きるべきです…」
立夏 「…私は愛されることが何なのか、この学園で学ぶことができた。先輩方や凜たち、同級生を始めとして皆が愛してくれた。一条も。だから、私にとって大切なこの学園を守り切りたいんだ。それに…学園やルーゼルク、町にもたくさんの守るべきものがあって皆が生まれ変われるかどうかの未来も懸かっている。時間を掛けて犠牲を出す前に世界の均衡を戻さないといけない。躊躇している時間はない。」
優 「…私は自分の入学式の日を鮮明に覚えています。苛めを受けて精神的にボロボロだった私の横に座って寮長は優しく話し掛けてくれました。初めてでした。初めて、自分に優しくしてくれる人に出会ったんです。あれから、寮長にとっては鬱陶しいと感じることもあったかもしれませんが私は寮長の元を離れたくないほど、寮長を慕っていました。私は学園も同級生もほかの仲間も皆のことが大切ですが、あなただけは特別です。何よりもあなたが大切です。」
立夏 「…」
優 「私も学園で愛されることが何かを学びました。寮長、あなたに教えてもらいました。私はこれまで絶望も幸せも感じて生きてきた。寮長がいてくれて幸せを感じられました。私はあなたを守りたいです。」
立夏 「…一条。ありがとう。やはり私はこの身に代えてでも戦うよ。私を大切に思ってくれる人のために戦う。一条を守るためにも。」
優 「…まぁ、これだけ一緒にいれば止めても無駄だということは知っています。でも、寮長。私も行きます。寮長を戦いに行かせて安全な場所で指を咥えて待っていることなんかできません。」
立夏 「い、一条は行かなくていい。危険すぎる。」
優 「それだけ危険な場所なら尚更行きます。寮長が一人にならないよう私がずっと傍にいます。」
立夏 「…ふ、ふふ。私も知ってる。一条は一度決めたことをどんなに止めても曲げないこと。でも、後三日でもう一度考えてくれ。自分の選択で後悔しないか。」
優 「寮長…私はもう覚悟ができています。」
立夏 「それくらい大きな選択だ。よく考えてからもう一度答えを聞かせてくれ。」
優 「…分かりました。」
すると、展望室の扉が開き、神楽先輩たちがこちらを見ていた。
凜 「やはり、ここか。」
陽向 「立夏は悩むとよくここに来るもんな。」
立夏 「皆…」
澪 「…立夏。僕らも覚悟はできてるよ。」
莉 「立夏や俺らの大切な学び舎を守ろう。俺らが生きてきたこの学園と世界を。」
海 「スケールがでかい話だな。」
柊 「それくらい敵も多い。作戦を立てよう。」
立夏 「…ありがとう。皆。」
寮長たちが行き、僕も行こうとすると展望室に入ってきた水瀬藍先輩に止められた。
藍 「待った。ちょっと、俺らで話しようか。」
水瀬藍先輩の後ろには副寮長たちが集まっていて、展望室の床に七人で円形に座った。
藍 「俺は一緒に行く。莉たちと一緒に過ごしてきたし、消える可能性があるなら尚更。俺は、俺の人生は莉と一緒だったから、最後まで莉と一緒にいたい。でも、皆は無理する必要はない。俺らよりも学年が下だし、皆にはこれから学園を引っ張るという使命もある。」
皆が黙り込み、僕は水瀬藍先輩を見た。
優 「…私も行きます。私は寮長のおかげで一人にならずに学園に居場所を見つけることができました。私は寮長を一人にさせたくありません。」
南海 「…僕も。この一年、寮長の強い部分と同じくらい弱い部分も見てきたからこそ、最後に一人で泣かせるようなことはさせたくない。」
颯 「…たしかに、一人で消えていくのは嫌だよね…寮長にそんな思いはさせたくないなぁ…」
茜 「…でも、怖いのも本当なんです…寮長たちが犠牲になることを覚悟しているような戦いに行って自分には何ができるか自信が無くて…何もできずに足を引っ張って逆に寮長を危険にしてしまうのではないか不安なんです…」
悠人 「…俺らがすべきことって寮長たちと一緒に戦うことなのかな…俺ら、今まで寮長たちと一緒に戦ったことなんて滅多に無いし…」
沈黙が流れ、僕は震えていた自分の手をもう片方の手で押さえた。
伊織 「…寮長たちが俺らの立場ならどうするんだろ。学園を守るのか、学園に残って今後の学園を引っ張るのか。」
藍 「…正直、どういう結果になるか分からない。学園長先生の話し方からして全滅もありうる。そうなると学園も安全じゃないし、学園にもこの世界にも未来はない。」
優 「…もちろん、寮長たちを守り切るほどの戦力は僕らにはないし、寮長たちの方が比にならないくらい強い。茜の言うとおり、寮長たちの足を引っ張る可能性もあるかもしれない。でも、僕は寮長の姿を最後まで見たい。この世界を守れても守れなくても寮長たちにとって最後の戦いになると思うから、最後まで僕は寮長の雄姿を傍で見守りたい。」
茜 「…そうか…もう少しで卒業者発表なのか。寮長と一緒に戦えるのもこれで最後なのかもしれないんだな…」
藍 「…副寮長の立場は学園に残る選択をすることも良い選択だと思う。学園もきっと大パニックになるし、寮長たちを送り出し学園の皆を守ることも大切で勇気のいることだ。後三日しかないけれど、自分と向き合ったり寮長と話したりして決めると良いんじゃないかな。」




