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【主な登場人物一覧】
蘭寮 寮長:神楽凜(8) 副寮長:蒼井茜(7)
向日葵寮 寮長:阿久津陽向(8) 副寮長:日向悠人(7)
葵寮 寮長:優木澪(8) 副寮長:緑川颯(7)
菫寮 寮長:橘立夏(8) 副寮長:一条優(7)
蓮寮 寮長:水瀬莉(8) 副寮長:水瀬藍(8)
楓寮 寮長:星宮柊(8) 副寮長:黒川伊織(7)
蓬寮 寮長:桜庭海(8) 副寮長:一ノ瀬南海(7)
学園の生徒の学年は、1年生から8年生までで、上記の( )の中の数字がそれぞれの学年です。
寮長たちが解散し、少ししてから夕食が終わり担当寮が食器を片付けると寮長たちの指示で、机を大講堂の端に移動させて大講堂のステージの側に集まった。
料理担当だった寮も戻ってきて皆で座ると、星宮先輩がステージに上がり、寮長たちは生徒の後ろで並んで座りながら星宮先輩を見ていた。
柊 「学園の七不思議について話が広がっているようだが、この話は代々、上級生が語り継いでいる話だ。いろいろな場所でその話も変わっているし、何が正確な話なのか検討もつかない。そもそも七不思議なんて存在せず、これまでの上級生たちの中で作り出されただけの可能性もある。それでも知りたい者は残りなさい。俺が知っているだけの話はしよう。ただ、少し会談めいた話もあるから怖がらせてしまうかもしれない。話を聞きたくない者や途中で抜けたくなった者は後ろの寮長たちに声を掛けるように。」
星宮先輩は懐から本を出した。
柊 「これは俺が昔、上級生から七不思議について聞いたことをまとめていたもの。ホリデーウィークの騒ぎによって、七不思議のうち六つまで分かったから皆に話そう。」
星宮先輩は、ステージの机の上に六つのろうそくを並べ、ろうそくに火を点けて大講堂の明かりを消した。
僕らには、ろうそくの灯りとその灯りに照らされた部分だけが見えていた。
柊 「一つ目。図書室の本には全て何かしらの想いが込められていて、夜になるとその想いによって本が勝手に動き、次の日に図書室に行くと前日の夜から本の位置が変わっている。本に込められている想いにはプラスの感情だけでなくマイナスの感情もある。マイナスの感情で最大のものは怨念だ。怨念の込められた本は、その想いに気づいた人間を本の中に閉じ込める。もちろん学園を卒業することはできないし、学園の生徒からは忘れ去られ存在が消される。何人かの生徒はまだ本の中にいるかもしれない。」
フッとろうそくが一つ消え、また一つ、また一つと話が終わる度にろうそくが消えた。
ホリデーウィークに大騒ぎを招いたノクスストーンの話、夜中の生物小屋では亡くなった生物が走り回り飼育している生物数の倍以上の鳴き声が聞こえる話、例年ホリデーウィ―クで提出されている外出届を学園長先生がコレクションしていて夜な夜な読んでにやけているという話、ろうそくに見入ってしまい消えてしまうまでろうそくを見続けた生徒が今でも夜中になると一秒、二秒とろうそくの時間を数え校内で動いているろうそくが見えることがあるという話。
柊 「そして、最後。昔、自分の兄を先に亡くした生徒がいた。この世界に来て自分よりも早くに亡くなった兄を探し続け精神をおかしくしてしまったそうだ。今でも前世の家族を探し学園内を彷徨っているという噂がある。夜中になるとその生徒の声が聞こえることがある。その声に振り向くと同じようにこの学園から出られなくなる。」
ろうそくが全て消えて大講堂の明かりが戻ると下級生のうち何人かは後ろの寮長たちの元に集まっていた。
柊 「七不思議は、これが正解じゃないかもしれないし、まだまだあるのかもしれない。そして七不思議ではないが、ずっと伝わっている伝説として、何百年、何千年に一度、学園を始めこの世界に大きな災いが訪れるというような話もある。俺たちがこの世界に来たようにその災いも鏡からやってくると言われている。俺も話を追い求めることは好きだが、鏡やろうそくに引き込まれるのは訳が違う。しっかり自分を持ち、今を生きることが大事だ。そして、自分に向き合うことも。明日は、全校生徒で試験結果発表を行う。しっかりと自分と向き合うように。」
星宮先輩がステージを降りると明日の試験結果発表という別の恐怖を感じている生徒が大半だった。
机を動かし、大講堂を元に戻すと一年生の飛翔晴樹と笹沼俊が僕の元に来た。
晴樹 「あの、副寮長。寮長はどこに行かれたんですか?」
優 「寮長なら、寮長会議だよ。どうかした?」
晴樹 「…寮長の時間が空いているときっていつでしょうか?」
飛翔があまりにも深刻そうな顔で言うため僕は思わず笹沼を見た。
俊 「聞きたいことがあるみたいです。ずっと気になっていたこと。」
優 「そ、そうか。今夜の寮長会議は明日以降の計画も入るから夜中にならないと終わらないと思う。明日、時間を取ってもらえるよう僕から話しておくよ。それで良いかな?」
晴樹 「はい。ありがとうございます。」
優 「あぁ。部屋でゆっくりおやすみ。笹沼、頼んだよ。」
俊 「はい。晴樹、行こうぜ。」
二人が行き、僕も片付けをして部屋に戻った。
消灯時間も過ぎた頃、静かに飛翔たちの部屋を覗くと二人は眠っていて、僕は寮の見回りを始めた。
談話室で火の始末をして部屋にいると、夜中に寮長が戻ってきた。
優 「寮長、おかえりなさい。」
立夏 「寝ていて良かったのに。今日は遅くまで掛かるの分かっていただろ?」
優 「寮長がお疲れなのに先に休むなんてとんでもないです。」
立夏 「ふっ、ありがとう。何も問題は無かったか?」
優 「一年生の飛翔が寮長に聞きたいことがあるようで、明日のどこかでお時間を取っていただけますか?かなり真剣な様子だったので。」
立夏 「分かった。面談のときの悩みの件かな。前に聞いたら、今度で良いって言われてたんだ。」
優 「そうだったんですね。では、明日よろしくお願いいたします。」
立夏 「あぁ。人がいないところで話そう。リゼリア室にしようか。」
優 「分かりました。」
次の日の朝、大講堂に向かうと大講堂には中間試験の順位表が張り出されていた。
上位15名の名前が記載されている学年ごとの順位表と試験ごとの順位表、そして寮の順位が発表された。
大講堂で朝食を終えると、寮長たちが一人一人に封筒を配った。
アルセリアでは、全ての試験が一気に封筒に入って返される。
そして、寮長たちが順番に問題の解説と試験の講評をすると、その日は終了し次の日から通常の授業が始まる。
全学年分の試験の話が終わり、皆がぞろぞろと大講堂を出て行き、僕は寮長と飛翔、そして心配で付いてきた笹沼と一緒にリゼリア室に向かった。
リゼリア室は奥に長く、左右に鏡が立て掛けられていて、校庭側には大きな窓がある。
部屋の広さは想像以上に広く、無数の鏡があると言われている。
俊 「何の部屋ですか?」
優 「リゼリア室だよ。この鏡は下界と繋がっているとされていて、前世で亡くなってこの世界に送られるときにこれらの鏡の一つを通って送られるんだ。」
俊 「俺らもこの鏡を通ったってことですか。」
優 「そう。何というか、下界にも無数にこの鏡と対になる鏡が存在し、その鏡を通ってこの世界に送られるってイメージかな。」
俊 「へぇ…」
優 「なかなか人が来ないからね。外に漏らしたくない相談ごととかはここで聞くことも多いんだ。」
僕は、寮長と飛翔が話している姿を少し離れた場所で笹沼と見ていた。
立夏 「それで、聞きたいことがあるそうだな。」
晴樹 「は、はい。あの…聞きたいことというか知りたいことなんですが、僕らがしなくちゃいけないことって獣を倒すことですよね。そのために、強くならないといけない。」
立夏 「あぁ、そのとおりだ。」
晴樹 「でも、死んでまでも獣退治なんて大変じゃないですか…どうしてこんなことしなくちゃいけないんだろうって思うし、でも学園で過ごす日々は楽しくてときどき獣の恐怖すら忘れてしまうこともあるくらい…」
優 「…」
この手の質問はこれまで何十回と聞かれてきた。
実際、僕も疑問に思って当時の菫寮寮長に聞いたこともある。
立夏 「…その答えは飛翔にしか分からないと思う。飛翔の飛翔なりの答えを出すべき疑問だ。この世界に送られた理由は前世の使命を果たし切れなかったから。でも、獣を倒すことは使命を果たす手段に過ぎない。その手段を達成できるのならば、この世界でどう過ごそうと自由だ。飛翔が感じているように楽しく過ごしてもいいし、極端だが誰とも話さず一人きりで過ごしても良い。前世の自分自身と向き合う者もいれば、思いっきり楽しもうとする者まで、考え方は人それぞれだ。私は、獣を倒すことだけが自分の使命だとは思っていない。この世界で様々なことを体験し、皆と楽しく過ごすことも大事なことだと思ってる。」
晴樹 「…僕は分かりません。楽しく過ごして授業を受けて、自分が成長している感じはするけど、それじゃあ寮長たちみたいに獣を倒せるようになれないと思って…」
立夏 「これまで数えきれないほど、同じような質問を受け、私なりにやっと出せた答えだ。今すぐに答えを出す必要はない。皆と過ごしているうちに何かしら答えの欠片でも見つけられたら上出来だ。それくらい難しい疑問だと思う。」
晴樹 「じゃあ、僕は今のままで良いってことですか?」
立夏 「あぁ。無理に変わる必要はない。この世界は全ての人間が前世の記憶を持ちながら生きている不思議な場所だ。前の自分と変わりたいと思う人も多い。もちろん、変わることも素敵なことだが、変わらないこともとてもすごいことだ。自分を変えずに自分を強く持てる人間も必ず強くなれる。」
晴樹 「っ…寮長、それ…」
急に飛翔は涙を流し始め、さすがの寮長も少し驚いた表情で飛翔を見ていた。
寮長が飛翔を宥めようとすると急に鏡が割れる音が聞こえ、部屋の奥の方から徐々に鏡が割れ続け、ガラスの破片が飛び散り、強い風も寮長たちの方向へ吹き荒れてきた。
僕は傍にいた笹沼を覆い被さるように抱きしめ、寮長の方を見ると寮長は飛翔を抱きしめた瞬間に飛翔を抱きしめたまま風に飛ばされ、校庭側の大きな窓も割れて外に飛ばされた。
優 「寮長!」
しばらくして風が落ち着き、笹沼と校庭に向かうと寮長は飛翔を抱きしめたまま意識を失っていて背中にガラスの破片が刺さっていた。
校庭で鍛錬していた上級生たちも集まり、その中に阿久津先輩もいた。
陽向 「立夏?立夏!」
阿久津先輩が地面の所々に落ちていたガラスの破片も気にせずに寮長の方に駆け付けると、寮長に抱きしめられていた飛翔は辛うじて意識を保っていた。
陽向 「澪を呼んでくれ。」
上級生 「わ、分かった。」
優木先輩が来ると、優木先輩は寮長の怪我を診ていた。




