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【主な登場人物一覧】
蘭寮 寮長:神楽凜(8) 副寮長:蒼井茜(7)
向日葵寮 寮長:阿久津陽向(8) 副寮長:日向悠人(7)
葵寮 寮長:優木澪(8) 副寮長:緑川颯(7)
菫寮 寮長:橘立夏(8) 副寮長:一条優(7)
蓮寮 寮長:水瀬莉(8) 副寮長:水瀬藍(8)
楓寮 寮長:星宮柊(8) 副寮長:黒川伊織(7)
蓬寮 寮長:桜庭海(8) 副寮長:一ノ瀬南海(7)
学園の生徒の学年は、1年生から8年生までで、上記の( )の中の数字がそれぞれの学年です。
刀を片付け、保健委員に手当を受けてから選手の待機場を出ると寮長が来てくれていた。
優 「寮長。」
立夏 「お疲れさま。少し散歩しようか。」
優 「良いんですか?副寮長戦が終わったら寮長戦ですよ?」
立夏 「一条と話す方が大事。」
優 「…はい。」
寮長に付いて行くと、学園内の花畑に到着した。
ここには、アルセリア学園の七つの寮の名前になっている花がいつの時期にも満開で咲いている。
寮長は菫がきれいに咲いている場所の真ん中にあるベンチに座った。
優 「…寮長。すみません。」
立夏 「何を謝っている?」
優 「…偽物であったとは言え、寮長の首に切先を当ててしまいました。」
立夏 「…正直、ボレットが私に変身したのには驚いたが一条の本音が聞けて良かった。ボレットは変身したものと同等の力を持っている。それに対して切先を当てられるということは一条が私を越す日もそう遠くないな。」
優 「…ボレットにはあなたのような心の強さはありません。誰かを守らなければいけないという使命や焦りも無い。ボレットよりも寮長本人の方が強いです。」
立夏 「私は立場上、誰かを自分から頼ることはしないようにしてきた。無理をしてまで自分を作って自分を保っているときに頼って良いと言われると枷が外れたかのように自分の弱さを感じてしまう。鳴海先輩に守ってもらったあの日から誰かに守ってもらうことを避けるようになってきていた。一条が思っている以上に私は人を頼ることが苦手だ。それが自分の弱さであることをどこかで自覚していたのかもしれないが、一条に言われて人から見てもそうなんだと実感できた。」
優 「…りょ、寮長も私の弱いところ言ってください。私が寮長に言ってしまったように。」
立夏 「一条の弱いところか…そうだな…」
寮長は笑顔で笑いながら僕を見た。
立夏 「嘘が下手なところだな。それが一条の良いところでもあるが。」
優 「嘘が下手…何かばれていましたか?」
立夏 「私に隠せていると思っていたのか?私を尾行していたことも分かっている。」
優 「えっ…」
立夏 「射撃対決でもそうだが、気配を消すことも大事だ。敵に悟られず敵の弱点を突く。」
優 「…気配…」
立夏 「でも裏を返せば一条は自分が思っている以上に素直だと思う。隠しごとは全て顔や態度に出ている。私に言い出せないと自分で自覚しているものは特に。弱みは裏を返せば強みになる。」
優 「強みになっているように聞こえませんが…」
立夏 「いつも自分を素直に出しているように見えて、急に本音を言ったり本質を見せたりすることで相手の隙を突ける。今回のボレットや獣の隙を突くことや前に獣と戦ったときのほかの副寮長たちのように仲間さえも圧倒できる。仲間さえ圧倒できれば強力なリーダーになれる。」
優 「…」
立夏 「自分の本当の強さは、そういう場まで隠しておいて、発揮すべきときに最大限に効果を発揮する。一条は無意識にそれができている。」
優 「そ、そうですかね…」
立夏 「…今日の寮長戦、私にも私なりの意地があるから私自身で戦う。それは一条を頼っていないという問題ではなく、私自身との戦いでもあるからこそ戦わずに逃げることだけはしたくないんだ。でも、もし辛くなったら一条に代わってもらいたい。」
優 「…分かりました。」
立夏 「一条の豹変ぶりをほかの寮長たちは見ていない。その不意を突くんだ。」
優 「はい。」
立夏 「それと、なぜボレットと戦ったとき、自分の得意武器を使わなかったんだ?毒を使えば楽勝だっただろ。」
優 「私が学んだ毒の知識や毒を使った戦い方は、全て寮長に教えてもらったものです。あなたには全てお見通しでしょう?それに…寮長が毒で苦しむ姿なんて見たくありませんから。」
立夏 「ふふ。では、その技術を見るのも楽しみだな。」
優 「えぇ。本当に無理だけはなさらないでください。私も努力してきましたから。」
立夏 「あぁ。頼りにしている。」
寮長と寮対抗戦の会場に戻ると、副寮長戦最後の出場者である向日葵寮副寮長の日向悠人がボレットを倒したところだった。
寮長が寮長戦の準備に出掛け、副寮長が揃って待機しているとしばらくして学園長先生が出て来られた。
学園長 「副寮長諸君。全員とても良い戦いだった。どの戦いも自分らしさが出ていて見ていてとても楽しかった。どの戦いも順位を付けがたいが副学園長先生と話し合いを行った結果、副寮長戦の順位を決定したので発表する。優勝は、菫寮一条優。図らずも寮長との戦いとなったが良く勝利した。」
学園長先生から残りの順位も発表され、会場全体から拍手や歓声が上がり、ほかの副寮長たちも悔しがりながらも拍手してくれた。
そして、会場は寮長戦の準備が始まった。
今年の寮長戦は寮長同士の一騎打ちでトーナメント戦。
会場では保健委員会が常時待機していて、僕らも応援席ではなく選手待機場所の隣で観戦する。
誠 「いよいよ寮対抗戦の目玉となる寮長戦が始まります。今年の寮長戦はルール無用のトーナメント戦です。寮長同士が様々な方法で戦闘を行い、順位を決定します。尚、昨日菫寮寮長の橘先輩が怪我をされてしまいましたので、特別ルールとして橘先輩が戦闘を続けられなくなった場合、副寮長である一条優先輩が出場されます。こちらのルールについてほかの寮長全員が了承されております。では、寮長戦の組み合わせをくじ引きで決定します。ちなみに、寮の数は奇数ですので、一つの寮はシード枠になります。」
藤咲誠のくじ引きによって、寮長戦第一回戦の組み合わせが決定した。
楓寮対蘭寮、向日葵寮対葵寮、菫寮対蓬寮、そしてシード枠は蓮寮に決まった。
楓寮対蘭寮では、蘭寮、向日葵寮対葵寮では乱闘の末、向日葵寮が勝利し、ついに寮長の番が来た。
相手は蓬寮寮長の桜庭先輩。
寮長は片腕で刀を構えた。
桜庭先輩が空や地面に生物を仕込んでいてあらゆる場所から寮長を襲うように指示すると寮長は生物たちの攻撃を避けながら隙を見て地面に手を突いて呪文を唱えた。
地面が揺れ始め会場では地面がボコボコに隆起を始め、桜庭先輩もふらついて倒れそうになった。
地面にいた生物たちも揺れによって会場全体で暴走し始め、砂埃が巻き起こった。
僕らも砂埃で前が見えなくなり、少しして砂埃が明けると生物たちは地面で眠っていて寮長たちを見ると、桜庭先輩の上に寮長が座っていて首元に刃を当てていた。
誠 「す、菫寮の勝利!」
この短時間で何が起きたのか…
でも、相手を気絶させずに決着させるところは寮長らしい。
茜 「すげぇ…橘先輩、片手なのに圧勝かよ…」
優 「…」
でも、僕には分かる…寮長、相当無理をしている…
僕には、普段に比べて余裕が無くなっていることが表情から感じ取れる…
会場を副寮長で元に戻すと、次の蘭寮対向日葵寮の戦いが始まった。
僕は選手待機場所に向かい、中に入ろうとすると葵寮の優木先輩が出てきた。
澪 「あっ、一条。」
優 「あの寮長は大丈夫でしょうか。」
澪 「…」
優木先輩は選手待機場所の幕を上げて中を見せてくれた。
寮長は腕を押さえながら壁に体を預けて休憩していた。
澪 「無理はしていると思う。保健委員長としては止めたいところだけど、これまで一緒に努力してきた仲間としては立夏が無理だと言うまで頑張らせてあげたい気持ちもある。一条はどうしたい?」
優 「…準備だけしておきます。」
いつでも寮長と交代できる準備はしながら、僕は寮長戦の第二回戦を見ていた。
蘭寮と向日葵寮は、神楽先輩が怪我をしつつも阿久津先輩を倒し、蘭寮が勝利した。
次は、寮長と蓮寮寮長の水瀬莉先輩の戦い…
戦闘が開始すると、水瀬莉先輩は刀を構えた。
藍 「っ、ふっ…あいつ。」
寮長は少し驚きながらも刀を出して構えた。
水瀬莉先輩はなかなか動き出さず、寮長が先に動き出し、水瀬莉先輩は寮長の攻撃を避け続けていた。
寮長が距離を取って呪文を唱えて指を鳴らすと風が吹き始め花びらが吹き荒れ始めた。
優 「あれは…菫…」
菫の花が舞う中、寮長が水瀬莉先輩に回し蹴りをして刀を振ると水瀬莉先輩の首下で止めた。
誠 「菫寮の勝利!」
菫寮の応援席から歓声が沸く中、会場で舞っていた菫の花びらは急に地面に降り立った。
寮長は刀を落として急に倒れ込み、水瀬莉先輩が慌てて抱き留めると、寮長は腕を押さえて顔を歪めていた。
莉 「澪!保健委員!」
保健委員が駆け付け、僕ら副寮長も駆け付けると寮長は腕を強く抑えて顔を歪めていた。
澪 「救護室に運んで。一ノ瀬、薬持って来て。」
南海 「分かりました。」
立夏 「はぁ、っ、はぁはぁ…一条…」
優 「は、はい。」
保健委員の生徒たちを掻き分けて寮長の元に向かうと寮長は僕の肩に手を置いた。
立夏 「…頼む。」
優 「…はい、お任せください。寮長をお願いします。」
澪 「うん。」
先輩方や保健委員が寮長を連れて行くと、僕は寮長が落とした刀を手に取った。
少しして藤咲誠が実況席に立った。
誠 「えー、菫寮寮長の橘先輩が棄権のため、代わりに副寮長一条先輩が出場されます。最終決戦は、蘭寮対菫寮です。」
会場に入る前、蘭寮寮長の神楽先輩は僕の隣で会場を見ながら僕に話し掛けた。
凜 「一条相手なら私も手加減しない。本気で行かせてもらうぞ。」
優 「えぇ。本気でお願いします。」
会場に入り、僕は寮長の刀を構えて神楽先輩を見た。
試合が開始すると僕は神楽先輩に刀で襲い掛かり神楽先輩は簡単にその刀を飛ばし、僕に回し蹴りをしてそのままの流れで僕の腹を強く殴った。
優 「かはっ…げっほげほ…」
凜 「本気で行くと言ったはずだ。お前もどんな手を使ってでも勝ちに来い。」
優 「…はい。」
僕は、しびれ薬を含む毒を仕込んだ扇を構えた。
凜 「ほぉ…毒で来るか?」
優 「っ…」
凜 「毒での戦術は立夏が良く使用している。それをお前よりも間近で何度も見ている。普通の戦術では私に攻撃はできんぞ。」
優 「…」
神楽先輩は先ほどの向日葵寮寮長との戦いで腕を怪我している。
でもそこを突くのは卑怯…
凜 「…寮長に副寮長が挑んでる時点でかなりのハンデを抱えている。別に弱い部分を突いて構わない。遠慮するな。」
優 「…では、体術で勝負してください。」
凜 「分かった。」
僕は夏休みに水瀬藍先輩に稽古をつけてもらった技を用いて神楽先輩と体術のみで勝負した。
神楽先輩に何度か攻撃を与えられたけど、神楽先輩は顔色一つ変えず片腕を使わずに僕を気絶させた。
目が覚めると救護室に寝かせられていて蓬寮の一ノ瀬南海が僕を見ていた。
南海 「あっ、目を覚ましました。」
凜 「大丈夫か?」
優 「すみません。」
凜 「…私が腕を怪我していることを知っているのだから腕を攻撃すれば良いし、体術と組み合わせればお得意の毒を使っても良かった。なぜ、体術のみで?」
優 「…尊敬している先輩に弱点を突いて勝ってもうれしくないです。私にも意地はあります。」
凜 「ふっ、だそうだ。」
立夏 「意地では仕方ないな。」
優 「りょ、寮長…」
僕の隣で腕の治療を受けながら寮長がこちらを見ていた。
優 「寮長、すみません…」
立夏 「今回は相手が悪かった。戦術学に精通している凜が相手ではほとんどの戦術を見破られる。」
優 「…寮長、お怪我は大丈夫ですか?」
立夏 「あぁ。だいぶ痛みが引いた。ありがとう、一条。」
優 「良かった…」
僕らの元に先ほどまで本気で戦い合っていた寮長と副寮長が集まった。
藍 「こんな大事な場面で立夏の得意武器で挑むかね、この馬鹿兄貴。」
莉 「立夏は利き手じゃない手で刀を握る。実力差は同じくらいだ。」
藍 「圧倒的に負けてたけどね。」
莉 「地面の隆起といい、花の舞といい、どこで覚えたんだ?」
立夏 「ああいうときに発揮するために隠していた。な、一条?」
優 「ふふ、はい。」
海 「今度、俺にも教えて。」
立夏 「あぁ。」
陽向 「あれって、向日葵でもできるのか?」
立夏 「できる。」
たとえ、怪我をさせても勝敗がついても最後にはこうやって笑い合える人たちだと分かっているから戦闘でも力を発揮できるし遠慮なく戦える。
そして全員の手当が終わると、閉幕式が行われた。
誠 「皆さん、大変お疲れさまでした。寮対抗戦の全競技を終えて、最終的な順位を発表します。一位、菫寮。二位から、蘭寮。蓬寮。蓮寮。楓寮。向日葵寮。葵寮。ここで、学園長先生からのお話です。」
学園長 「三日間、どの競技も見応えがあり、そしてそれぞれの成長を見ることができた。戦いを行うということは、最終的には順位がついてしまうが、それは優劣を決めるものではない。アルセリアはそれぞれの良いところ悪いところを皆で考えそれを発揮し、補完し合う場所じゃ。それを見極める良い機会になったじゃろう。」
会場全体から拍手や歓声が上がった。
学園長 「それと、もう一つ。皆には秘密で副寮長たちに特別課題を課していた。各寮寮長の弱みを見つけるという課題じゃ。課題を合格した場合は特別に加点を行うと話していたが、今日までに合格したのは蓮寮、蓬寮、そして向日葵寮。よく寮長のことを調べ、観察した。寮長たちにも納得してもらいきちんと合格できたこの三つの寮には特別加点を行う。また、先ほどの副寮長戦でギリギリのところで課題に合格した者がいる。菫寮。締め切り時間ギリギリでよく寮長の本質を見抜いた。よって、この四つの寮に加点を行う。良いか?弱みは強みにすることもできる。副寮長を始めお前たちの支え方一つでもそれを左右する。これからも寮長のことをよく観察し、よく知って支えてやってくれ。」
副寮長 「はい。」
学園長 「では、最終的な順位を藤咲誠から発表してもらったら、大講堂に集まってくれ。今夜はごちそうを食べながら全員の有志を称えるとしよう。」
結果的に菫寮の順位は変わらず一位のまま寮対抗戦を終えることができた。




