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あなたと生きた世界  作者: 仙夏
日和

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【主な登場人物一覧】

蘭寮   寮長:神楽凜(8) 副寮長:蒼井茜(7)

向日葵寮 寮長:阿久津陽向(8) 副寮長:日向悠人(7)

葵寮   寮長:優木澪(8) 副寮長:緑川颯(7)

菫寮   寮長:橘立夏(8) 副寮長:一条優(7)

蓮寮   寮長:水瀬莉(8) 副寮長:水瀬藍(8)

楓寮   寮長:星宮柊(8) 副寮長:黒川伊織(7)

蓬寮   寮長:桜庭海(8) 副寮長:一ノ瀬南海(7)


学園の生徒の学年は、1年生から8年生までで、上記の( )の中の数字がそれぞれの学年です。

医務室に駆け付けた生徒を掻き分けて医務室に入ると、寮長がベッドに寝かされていた。

陽向 「痛そうだな…」

澪 「うん、痛み止め飲もうか。」

痛み止めを飲むとだんだんと寮長は落ち着いてきたようだった。

凜 「大丈夫か?」

立夏 「あぁ。」

上級生 「すまん、立夏…」

寮長は、この上級生を守ろうとして態勢を崩し、腕を強く打ったとのことだった。

立夏 「いや、怪我はないか?」

海 「他人の心配より自分の心配。腫れてんじゃん。」

立夏 「前は支えられたんだが、支えきれなかった。」

寮長が笑いながら言うとほかの寮長たちは呆れていた。

すると、生徒たちを掻き分けて学園長先生や副学園長先生が入ってきた。

学園長 「橘、怪我の具合はどうじゃ?」

立夏 「大丈夫です。」

副学園長 「にしても腫れていますね…明日の寮長戦、どうされますか?」

澪 「寮長が出られない場合は副寮長か最上級生から一人出場させると言うのが規定ではあるけど…」

寮長たちは、僕を見た。

優 「えっ、えっと…」

立夏 「いえ、私が出ます。」

副学園長 「でもこの怪我では…」

立夏 「これくらい大丈夫です。」

学園長 「…分かった。」

副学園長 「しかし、学園長…」

学園長 「特別ルールを設ける。ほかの寮長全員がそのルールをのめるのであれば橘の出場を認める。特別ルールは橘がこの怪我が原因で戦闘を続けられなくなった場合には副寮長である一条が代わりにその後の戦闘に参戦する。」

優 「そ、それは…」

上級生 「…頼む。皆。立夏は俺のせいで怪我したんだ。立夏がいなかったら俺がもっと酷い怪我をしていた。」

寮長が怪我から守ろうとした生徒はほかの寮長たちに頭を下げていた。

陽向 「そんなことで頭下げんなよ。」

澪 「そうだよ。僕らが断ると思った?」

海 「俺ら、もちろん勝ちたいけどさ、フェアに戦いたいんよ。だから、立夏が完全じゃないなら勝っても意味ない。」

莉 「そのルールがあれば、こいつも無理しないだろ。」

凜 「我々はそのルールで構いません。」

柊 「一条は大丈夫か?」

優 「…は、はい。」

立夏 「…一条。一条を出すことはしないから。」

優 「…」

怒涛の寮対抗戦二日目は、菫寮が一位で幕を閉じた。

でも、この寮対抗戦は副寮長戦と寮長戦で順位が大きく変動する。

ほかの行事でも寮の順位を上げられる可能性はあるにはあるけど、寮対抗戦との影響力は比にならない…そんな大切な行事でヘマをしたら…

僕は、果てしないプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。

夜、ベッドに入ってもなかなか眠れずにいると、寮長は灯りを点けた。

立夏 「一条。眠れないのか?」

優 「は、はい…すみません、起こしてしまって…」

立夏 「謝ることではない。どうした?」

優 「…」

立夏 「明日のことか?寮長戦のことなら一条は出さないようにするから大丈夫だぞ。」

優 「…寮長。そんな怪我で戦って無理をしてしまったら大変です。」

立夏 「棄権して不戦敗になれば菫寮の歴史に傷が入る。」

優 「それは…分かりますが…私はあなたの代わりに寮長戦に出場して成果を残す自信はありません…でも寮長に無理をさせたくないのも本音です…」

立夏 「…一条は副寮長戦だけに集中すれば良いよ。寮長戦は私の責任だから私が責任を持ってやるから。」

優 「…少しは怒っていいんですよ。弱気になるなとか、もっと自信を持てとか。ほかの寮長たちは口癖のように言っているんですから。」

立夏 「言うべきときは言うよ。そのときがまだ来ていないから言ってないだけ。」

優 「…寮長にとって私は役に立てていますか?」

立夏 「えっ…?」

優 「…」

すると、部屋の扉が開いて下級生が入ってきた。

下級生 「寮長、すみません…」

立夏 「あっ…どうした?」

下級生 「同室が体調を崩してしまって。」

立夏 「そうか、部屋に行こう。」

寮長が出て行くと、僕は布団を被った。

朝起きると寮長の布団は昨日、寮長が出て行ったときと同じままだった。

優 「帰ってない…」

ベッドを直して部屋を出ると上級生は僕に声援を掛けてきた。

そのままの流れで校庭に到着し、寮対抗戦三日目が開始した。

学園長先生が副寮長戦の説明を行い、くじ引きで決まった順にボレットとの戦いが始まった。

蓬寮の一ノ瀬南海、蓮寮の水瀬藍先輩はボレットが獣に変身し、蘭寮の蒼井茜のボレットはお化けに変身した。

誠 「副寮長戦では、ただいま三人がボレットとの戦いを終えて、会場の熱気も高まってきました。次は、楓寮の黒川伊織が登場です。」

ほかの寮の寮長たちはそれぞれ自分の寮の応援席で見守っているのに、菫寮の応援席を見ても寮長はいなかった。

優 「…」

昨日部屋に来た下級生は二年生。

菫寮に行き、昨日の生徒の部屋に行くと上級生が熱を出した下級生を見ていた。

上級生 「どうした?お前、副寮長戦の真っ最中だろ。」

優 「はぁはぁ…寮長は?」

上級生 「さっき出て行ったけど。お前のこと応援に行ったんじゃないか?」

走って校庭に行くと、僕の番が来ていた。

誠 「菫寮の一条優先輩はいらっしゃいますか?一条先輩。」

放送が流れ、走って会場に行くと学園長先生がいて、その前に立つと学園長先生はボレットに呪文を唱えた。

誠 「菫寮副寮長の一条先輩が到着されました。さぁ、菫寮副寮長の一番恐れているものは何でしょうか。」

ボレットは、だんだんと形を変えた。

優 「っ…」

僕のボレット…僕の一番恐れているもの…

誠 「え、えっと…橘先輩?」

優 「…寮長?」

僕のボレットは、寮長に姿を変え、僕の前でいつもどおり笑顔で笑った。

優 「…」

菫寮の応援席を見ると、寮長は立ってこちらを見ていて寮長も目を見開いて驚いている様子だった。

優 「…」

立夏ボレット 「一条。どうかしたか、そんな顔して。」

優 「…寮長が僕の一番恐れているもの…」

立夏ボレット 「ん?聞こえないぞ。」

優 「…偽物製造機。これは偽物…偽物…っ、偽物なら聞いて良いですかね。寮長にとって、私には何が足りませんか?やはり私の決断力や能力でしょうか…」

立夏ボレット 「一条?一体何の話だ?」

優 「…あんな怪我をして私を頼らない理由を聞いているんです。あんな怪我で寮長戦を戦い抜けるわけないじゃないですか。どうして何でも一人でやろうとするんですか。私はあなたにとってそんなに頼りないですか…」

立夏ボレット 「…」

優 「…そりゃ、寮長戦で成果を絶対に残せる自信はないですし、とてつもないプレッシャーで押しつぶされそうですよ。だけど…怪我を負った寮長の代わりを務められないほど私は廃れていません。あなたに頼っていただけたら私だって全力であの先輩たちにぶつかりますし、たとえ結果が駄目だとしても何でも責任を取ります。それくらいの覚悟は私にだってあります。少しくらい私を頼ってくれても良いじゃないですか…」

立夏ボレット 「一条。私が一条を頼っていないというのか?」

優 「えぇ。違うとは言わせませんよ。昨晩だって寮長戦前の大事な日に夜通し下級生の面倒を見ていたんでしょう?徹夜越しのしかも怪我をした状態で寮長戦に出場するつもりですよね?私が気づけなかったのかもしれませんが叩き起こしてでも私を頼ってほしかった。」

立夏ボレット 「何を言っているのか分からないが…」

優 「えぇ、分からないでしょう。私は私と寮長の話をしているんです。一刻も早く寮長と面と向かって話をしたい。だから、偽物は邪魔です。」

立夏ボレット 「ふぅ…一条お前が何を言っているか分からないが、お前には寮長になって学園を守る力などない。寮長として学園を守ることがどういうことか、ちっとも理解できていない。咄嗟の判断力も臨機応変に対応する力も全く備わっていない一条が寮長にでもなれば学園を守ることなどできない。学園が壊れるのも時間の問題だな。一条には、その能力も覚悟もない。そんな一条を頼る気はないし、そんな一条が寮長に選ばれるわけがない。学園の末路が心配すぎて卒業したくても卒業できない。」

優 「っ…」

僕は急に自分が想像していたことを真正面から言われ、心臓が破裂するほどドキドキしているのが分かった。

優 「…それがあなたの本音ですか?」

立夏ボレット 「あぁ。寮長に選ばれるには素質も必要なんだよ。一条にはその素質の欠片もない。努力する前に自分がどういう人なのか自覚しろ。」

優 「…」

僕は震える手で刀を出して構えた。

でも、前が良く見えない…刀を握る手を見ると涙がこぼれてきていて自分が泣いているのが分かった。

優 「…あなたには到底敵わないことは分かっています。あなたは本当に勇敢で強い。寮長の強さと勇気と優しさに何度も救われました。私はあなたをずっと追い掛け、あなたを慕い、あなたを支えようとしてきた。あなたの背中を守れるくらいの存在にはなりたいとそう思って努力してきた。自分がどういう人間かなんて知っています。私は弱く、自分が傷つくことを恐れ、ずっと逃げてきた人間です。でも、寮長に出会って少しずつ変わろうと思って…」

言葉が出なくなって前を見ると寮長は僕をめがけて刀を構えて襲い掛かってきた。

僕が顔の前でその刀を止めると寮長の力に押しつぶされそうになった。

優 「っ…」

立夏ボレット 「言ったろ?一条には臨機応変さが足りないんだよ。だからすぐに私に倒される。相手の弱いところを突いて相手を倒す。それが戦い方だよ。一条はそれができない。それをする前に一条は自分に負けて消える。自分に負けて、また消えるんだよ。また、自分自身から逃げるか?」

優 「…」

力を入れて寮長を刀ごと押し退けると寮長はバック転して態勢を整え、またすぐに僕に斬り掛かって来た。

気づけば寮長は僕の後ろにいて、僕の頬からは血が流れた。

立夏ボレット 「私に倒される前に降参する?」

優 「…この一か月間、あなたを見ていて橘立夏という人間が本当に隙や弱みを見せない完璧そのものに見えました。でも、寮長は怪我をしたり倒れたりしなければ誰かを頼れない。誰かに手を差し伸べてもらわなければ誰かを頼れない人間です。負けず嫌いはあなたの強みでもありますが、同時に弱みでもある。私は負けず嫌いなあなたも好きですが、自分から助けてと言えるのもまた強さだと思います。気持ちや心が弱っているかどうかは他人には分からない。私が今回の準備期間で体調を崩したように私もあなたに似て助けてと言えなかった。でも、それが私の弱さでもあり、寮長の弱さでもあると思いました。泣きたくなることなんて誰にでもあります。泣く姿を見られたからってあなたを弱い人間だとは誰も思いません。もっと素のあなたを見たい。もっと素直に正直にぶつかり合いたい。私はそういう関係でいたいです。」

僕が寮長に刀でぶつかりに行くと寮長は刀で応戦した。

寮長の刀を僕が飛ばし、倒れた寮長の首の前で刀を止めた。

立夏ボレット 「…こ、降参。」

優 「…降参なんて言葉、あなたから聞けるとは。」

僕は刀を下ろして、寮長に手を差し伸べて寮長を立たせた。

優 「私は、あなたが完璧な寮長であることに心のどこかで恐ろしさを感じていたのかもしれません。あなたを超える存在になれるのか、あなたが完璧であればあるほど勝手に自信を無くしていた。でも、あなたを超える必要はない。あなたを目指してこれからもっと努力していきます。」

立夏ボレット 「…倒さないのか?」

優 「いくら偽物であれ、寮長の姿をしていますから。寮長を傷付けることなんてできません。」

すると、学園長先生が現れて寮長のボレットをボレットの家に帰した。

学園長 「一条。見事だった。」

優 「…こちらこそありがとうございました。これからはもっと素直に寮長とぶつかります。」

学園長 「…分かっていると思うが、ボレットは一条が今一番恐れているものに姿を変える。ボレットがした発言は、橘の本心ではなく、一条自身が橘はこう思っているのではないかと想像して作り上げたものじゃ。」

優 「はい。分かっています。」

学園長 「それは良かった。橘に斬り掛かるのではないかとひやひやしたぞ。」

優 「そんなことしません。私の役目は寮長を傷つけるのではなく守ることですから。」

寮長を見ると、菫寮の最上級生の間で泣いていて最上級生が僕の戦いに歓声を上げながら、寮長の背中を摩っていた。

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