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あなたと生きた世界  作者: 仙夏
日和

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【主な登場人物一覧】

蘭寮   寮長:神楽凜(8) 副寮長:蒼井茜(7)

向日葵寮 寮長:阿久津陽向(8) 副寮長:日向悠人(7)

葵寮   寮長:優木澪(8) 副寮長:緑川颯(7)

菫寮   寮長:橘立夏(8) 副寮長:一条優(7)

蓮寮   寮長:水瀬莉(8) 副寮長:水瀬藍(8)

楓寮   寮長:星宮柊(8) 副寮長:黒川伊織(7)

蓬寮   寮長:桜庭海(8) 副寮長:一ノ瀬南海(7)


学園の生徒の学年は、1年生から8年生までで、上記の( )の中の数字がそれぞれの学年です。

そして、副寮長としての仕事として、今週から下級生との二者面談が始まる。

上級生との面談は寮長が担当していて、下級生は僕の担当。

二週間に渡って四年生から二年生までの面談を無事に終え、最終週で一年生との面談をしていく。

そして今日は面談最終日。

優 「今日は、笹沼俊に飛翔晴樹か。」

談話室で笹沼俊との面談を終えて、最後の面談者である飛翔晴樹が談話室に来た。

この子にはずっと聞きたかったことがある。

優 「飛翔。そこに座って。」

晴樹 「はい。」

優 「入学して、四ヶ月が経とうとしているけど最近はどうかな?」

晴樹 「勉強はできるんですが実技が何とも…」

優 「何が得意で何が苦手?」

晴樹 「んー、薬草学は得意です。で、剣術とか体術とかが苦手です。」

優 「飛翔は暗記が得意だよね。剣術も体術も今は体力づくりしかしてないと思うから体力が必要なものは苦手なんだね。」

晴樹 「はい。体力って僕にもつくものですか?」

優 「大丈夫。笹沼が飛翔と走りたがってたよ。一緒に走ってみたら楽しく走れるんじゃないかな。」

晴樹 「なるほど。勉強と同じですね。授業以外でどれくらいできるかが大事。」

優 「ふっ、さすがな答え。そうだね、僕もそう思うよ。一年生でその答えに自分から辿り着くのはすごい。」

晴樹 「ふふ。」

優 「何か、心配ごとや悩みごとはある?」

晴樹 「…いえ、大丈夫です。」

飛翔は何か言いたげな感じがした。

優 「…隠さなくても良いよ?何かあれば話してみて。」

晴樹 「…」

これは…寮長に任せた方が良さそうかな…

優 「…無理に話さなくて良い。また今度話せるようになったら話してみて。」

晴樹 「す、すみません…」

優 「ううん。ほかに話したいことはある?何でも良いよ。愚痴でも弱音でも。」

晴樹 「…あの、入学式で見た鏡ってもう一度見れますか?」

優 「えっ、見たいの?もう二度と見たくないって人が大半だけど。」

晴樹 「…僕、入学式で見入っちゃって。寮長に手を引かれて最後までは見れてなくて…」

優 「最後って葬式?」

晴樹 「いえ、その後…」

優 「…前世の鏡は葬式で終わるのが普通だけど…飛翔のもそうじゃなかったかな…」

晴樹 「…」

優 「…今度、見てみる?一年生の場合、寮長と副寮長の付き添いの元なら見れるよ。」

晴樹 「み、見たいです。」

優 「分かった。寮長に話しておくね。ほかには聞きたいこととかある?」

晴樹 「ほかに…いえ、大丈夫です。」

優 「そう。じゃあ、僕から聞いても良いかな?」

晴樹 「はい。何でしょうか?」

優 「飛翔は兄弟いた?」

晴樹 「いえ、一人っ子です。」

優 「あっ、そうなんだ…」

晴樹 「どうかしましたか?」

優 「あぁ、ううん。何でもない。じゃあ、面談は終わり。片付け手伝ってくれる?」

晴樹 「は、はい。」

談話室の片付けを一緒にしていると飛翔は急に動きを止めた。

晴樹 「あっ、でも、僕が生まれる前はお姉ちゃんがいたみたいです。」

優 「っ…お姉さんのこと、何か知ってる?」

晴樹 「うーん…あんまり聞いたことはないんです。生まれてすぐに亡くなっちゃったみたいで。」

優 「…ほかに何か知らない?」

晴樹 「えっ?えーと…家に仏壇はありました。お墓参りも行ってましたし…」

優 「…生まれてすぐ亡くなったんだね。」

晴樹 「え、ええ。僕と同じ病気を患っていたみたいで。」

優 「そっか…ありがとう。」

晴樹 「…もしかして寮長が僕のお姉ちゃんだと思ってますか?」

優 「えっ?」

晴樹 「前に俊君にも話したら、もしかしたらそうかもしれないなって言われて。」

優 「…飛翔はどう思う?」

晴樹 「でも寮長の苗字は飛翔じゃないし。名前も違います。」

優 「…今年の寮長たちは、生まれて間もなく亡くなったから両親に名前で呼んでもらえる前にこの世界に来た。だから、皆この世界で名前を付けてもらったんだ。寮長たちの苗字は当時の寮長から取ったんだよ。名前も当時の在校生が考えて名付けた。」

晴樹 「じゃあ、本当の名前も苗字も分からないんですか?」

優 「…そう。」

晴樹 「…」

優 「…飛翔のお姉さんが寮長かどうかは分からないけど、飛翔のお姉さんの名前、教えてくれる?」

晴樹 「…円香です。飛翔円香。正直、僕が生まれる何年も前だから一人っ子のように育ってて…お姉ちゃんって言われてもピンと来ないんですが…」

優 「うん。僕らもそれを確定づけることは難しいんだけど、一つの可能性として寮長に希望を見せてあげられたらって思うんだ。」

晴樹 「…希望?」

優 「前にも話したかもしれないけど、寮長だけは両親の顔を見れずに亡くなった。鏡にも両親の顔は映らなくて見えないんだよ。」

晴樹 「…そっか、僕のお姉ちゃんであれば僕の両親が寮長の両親である可能性もあるんですね。」

優 「…怖がらないんだね。こういう話をすると警戒されると思ってた。」

晴樹 「両親は大好きだったんです。お姉ちゃんのこと。毎日のように仏壇に向かって話し掛けていました。そんなお姉ちゃんがあんなにも立派な人なら僕もうれしいです。」

優 「…優しい人だったんだね。飛翔の両親。」

晴樹 「はい。とても。」

優 「ありがとう。いろいろ聞かせてくれて。」

晴樹 「こちらこそ聞いてくれてありがとうございました。」

飛翔が行くと僕は、寮長と自分の部屋に戻った。

寮長は机で課題をしていて、手を止めてこちらを見た。

立夏 「おかえり。面談どうだった?」

優 「無事終わりました。何名かは寮長に再面談をお願いしたいです。後でまとめて報告します。」

立夏 「分かった。」

優 「それと…寮長の姉弟の件ですが…」

立夏 「本当に調べてるのか?」

優 「えぇ、もちろん。それも私の立派な仕事です。」

立夏 「所掌範囲外だと思うが。」

優 「まぁ、聞いてください。飛翔晴樹に生まれてすぐに亡くなったお姉さんがいたそうです。しかも飛翔と同じ病気を患っていたそうですよ。」

立夏 「…それだけでは私と飛翔が姉弟だという証拠にはならない。」

優 「もちろんそうです。でも、寮長の経歴にとても良く似ています。」

立夏 「…だから?」

優 「とても愛されていたみたいですよ。毎日話しかけてもらって、後に生まれた弟にもお墓参りをしてもらって。ちなみに、飛翔円香さんという名前らしいです。」

立夏 「…」

優 「寮長と同じように亡くなった女性も立派に生きた証です。寮長も立派に生まれて生きたんです。物凄く短い時間だったかもしれませんが生きていないなどと卑屈になる必要はありません。私はそれを伝えたかったんです。それだけでも飛翔の話を聞いた甲斐がありました。」

立夏 「…ありがとう。」

優 「お望みであればもう少し細かく調査しましょうか?」

立夏 「いや、私と同じような生き方でそんなに愛された人がいたなら私もうれしいよ。それだけで十分。」

優 「そう仰ると思っていました。寮長はこの世界で立派に寮長をされています。前世に振り回される必要はない。」

立夏 「…うん。鏡を見るのはもう止めるよ。」

優 「止めなくても良いですよ。前世も寮長の立派な過去です。見に行くのであれば一緒に行きます。」

立夏 「…飛翔は気味悪がっていなかったか?」

優 「年も離れていますし、一人っ子のように育てられたみたいで気にしていなかったです。それに愛されていたお姉さんが立派な寮長であればうれしいと話していました。」

立夏 「…そう。真実がどうであれ、私も愛されていたのかもしれないと想像できてうれしい。」

優 「お役に立てて良かったです。寮長は面談順調ですか?」

立夏 「あぁ。一人を除いて終わったよ。」

優 「私ですね。今やりましょうか?」

立夏 「いいや、明日の放課後じっくりやろう。」

優 「じっくりですか?わ、分かりました。」


次の日の放課後、寮長に付いて行って到着した場所は鏡の部屋だった。

寮長は、僕の鏡を出すと僕と鏡の前に立った。

立夏 「この世界で頑張ることはもちろん大事だ。でも、過去の自分と向き合うことも大事なときがある。」

優 「…特に私はそうだと言いたいのでしょう?」

立夏 「一条は、過去の自分と向き合うことでより強くなれる。というより、今より強くなるには過去と向き合うことが一条には必要だ。」

優 「…分かりましたよ。」

…僕は鏡の前に立った。

これまで、鏡に映る前世を全て見れたことはない。

いつも、葬式の前の自分の死んだ姿を見て吐いて終わってしまう。

鏡には学校が映り、僕が苛められている姿が映った。

両親も僕には無関心で学校にも家にも自分の居場所はなかった。

僕は学校の屋上から飛び降り自殺をした。

この瞬間に僕は鏡から目を反らし、寮長は僕の背中を摩ってくれた。

優 「はぁはぁ…もう少し…」

鏡を見ると僕の葬式が映り、両親や学校のクラスメイトも映った。

誰一人として泣いていない。

誰一人として僕が死んだことを悲しんでいない。

僕が六年も掛けて最後まで前世を見れなかったのは、この光景を自分の目で見るのが怖かったから…?

目を背けようとすると寮長の声が響いた。

立夏 「まだ。鏡を見て。」

その声が聞こえて、薄目を開けて見ると葬式に参列した祖父母は泣いていた。

優 「っ…」

立夏 「…死んでからじゃないと分からないものもあるよな。」

優 「…祖父母は泣いてくれていたんですね。」

立夏 「あぁ。」

優 「…初めて見ました。私の人生は無駄なことばかりじゃなかったのかもしれない。」

立夏 「…前世に向き合ってみて今思うことは?」

優 「…あの苛めっ子、今なら倒せる気がします。」

立夏 「ふっ、あぁ、今の一条なら楽勝だな。」

優 「…強くなれましたかね。私も。」

立夏 「あぁ、立派になったと思う。入学式で泣いていた新入生と同一人物だとは思わない。」

優 「ふっ。懐かしいですね。」

立夏 「忘れないよ。寮長に手伝ってもらって鏡に手突っ込んでバッチ取る人、なかなか見ないからな。」

優 「戻りたいと思う過去じゃなかったので。でも、今なら戻って苛めっ子たちを一発殴ってやりたいです。」

立夏 「当時はどれだけ手が掛かるか上級生も心配していたが、心配は無用だったみたいだな。」

優 「寮長たちのご指導のおかげです。」

立夏 「違う。一条の頑張りのおかげだ。これにて面談は終了とする。それと、報告書を読んだが、飛翔は自分の鏡を見たがっているのか?」

優 「えぇ、葬式の後に映るものが見たいそうです。」

立夏 「葬式の後?飛翔の鏡は普段どおり葬式で終わっていたはずだが…」

優 「飛翔は葬式の後に何か映っていると思っているようで。それに入学式では寮長に止められて全部見れなかったようなので。」

立夏 「あぁ、あれ飛翔だったか。」

優 「何年かに一度は、入学式の鏡に見入ってしまって対応が大変になる生徒がいます。特に入学したての頃はその生徒に対する情報も少なく対処が難しい。適切な判断だと思います。」

立夏 「飛翔のように自分が亡くなったことを理解できない生徒は特にその可能性が高いからな。」

優 「はい。明日にでも鏡を見せる約束をしてよろしいでしょうか。」

立夏 「あぁ、準備しておく。」

次の日、寮長と飛翔を連れて鏡の部屋に行くと寮長は飛翔の鏡を出した。

立夏 「飛翔。先に言っておくが、自分の前世と向き合う授業は上級生になったら受講する。それだけ自分の前世と向き合うことはとても辛い場合もあるということだ。目を背けたくなることも逃げたくなることもある。それが普通の反応で、それで良い。だから、少しでも辛くなったらすぐに言いなさい。」

晴樹 「分かりました。」

飛翔が鏡の前に立ち、僕と寮長は傍でその様子を見ていた。

晴樹 「…やっぱり、見てください。お葬式の後も映像が続いてる。」

飛翔が鏡を見たまま鏡に向かって指を指していて僕と寮長は顔を見合わせ、飛翔の横から鏡を覗いた。

飛翔の鏡は、家にある仏壇に飛翔の写真と赤ん坊の写真が横並びに並んでいて、ご両親がそちらを見ている姿を映していた。

晴樹 「…僕のお姉ちゃんです。」

立夏 「…」

晴樹 「僕が死んだ後も僕は愛されてたんですね。」

優 「…そうだな。今も話し掛けてくれているかもしれないな。」

晴樹 「やっぱり鏡を見れて良かったです。ありがとうございました。」

飛翔が満足気に鏡の部屋を出て行き、僕は飛翔の鏡を仕舞った。

優 「…入学式の日、飛翔の鏡はたしかに葬式までしか映していませんでした。それに葬式の後まで映し出されるなんて話聞いたことないです。」

寮長を見ると寮長は物思いに耽ったように外を見ていた。

優 「寮長?大丈夫ですか?」

立夏 「…」

優 「寮長。」

寮長の隣に立つと、寮長は僕を見た。

立夏 「あっ、ごめん。何?」

優 「大丈夫ですか?どうかされましたか?」

立夏 「ううん、大丈夫。」

優 「…そ、そうだ。今夜は寮対抗戦について発表があるんですよね。寮長も内容をご存じですか?」

立夏 「寮長戦と副寮長戦は学園長先生たちが話し合って決定されるから分からない。一条が気になっているのは副寮長戦だろ?」

優 「はい。昨年は桜庭先輩の圧勝でしたが、今回は私が勝ちます。」

立夏 「あぁ。一条なら大丈夫だ。」

優 「ふっ、じゃあ、夕食前にもう少し毒について教えてください。」

立夏 「昨日の夜に毒慣らししたばかりだろ?大丈夫なのか?」

優 「これくらい何とも無いですよ。もっと試してみたいです。」

立夏 「分かった分かった。」

僕は寮長の背中を押しながら鏡の部屋を出て、明かりを消した。

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