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あなたと生きた世界  作者: 仙夏
日和

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12

【主な登場人物一覧】

蘭寮   寮長:神楽凜(8) 副寮長:蒼井茜(7)

向日葵寮 寮長:阿久津陽向(8) 副寮長:日向悠人(7)

葵寮   寮長:優木澪(8) 副寮長:緑川颯(7)

菫寮   寮長:橘立夏(8) 副寮長:一条優(7)

蓮寮   寮長:水瀬莉(8) 副寮長:水瀬藍(8)

楓寮   寮長:星宮柊(8) 副寮長:黒川伊織(7)

蓬寮   寮長:桜庭海(8) 副寮長:一ノ瀬南海(7)


学園の生徒の学年は、1年生から8年生までで、上記の( )の中の数字がそれぞれの学年です。

次の日から寮長と毒のことを学んだりほかの毒の毒慣らしを行ったりした。

その日からしばらく経って、ほとんどの毒の毒慣らしが終わってきた頃だった。

朝食の時間、大講堂で朝食を食べていると突然、雨の音が聞こえた。

大講堂の窓に近い席の蓬寮寮長が立ち上がって外を見た。

海 「雨。ひっさしぶりに見た。」

柊 「雨には不吉な言い伝えがある。知っているか?」

海 「あぁ。でも噂だろ?」

澪 「分からないよ?この世界は不思議がいっぱいだから。」

大講堂全体がざわざわし始め、寮長が立ち上がって二回手を叩いた。

大講堂は静かになったが好奇心旺盛な笹沼が手を挙げた。

俊 「不吉な言い伝えって何ですか?」

立夏 「…雨の日は、獣が姿を変えることができる。人間の姿に変わることもあり、道に迷った旅人だと言って学園に侵入することもあると。また、雨の日の獣は活動が活発になるという話もある。」

凜 「ただの噂だと聞いたが今日は学園長と副学園長がルーゼルクに会議に出掛けている。警戒はしておくように。」

すると、大講堂の扉が開き、監視役の向日葵寮の生徒がびしょ濡れの人間を二人を支えていた。

陽向 「…その二人は?」

向日葵寮寮生 「道に迷ってしまったと…」

陽向 「っ、離れろ。すぐに離れろ!」

阿久津先輩が走りながら大声を出すと、その二人はだんだんと姿を変えて獣に変わった。

二人を連れていた向日葵寮の寮生は阿久津先輩が抱き留めて助けたが大講堂は大パニックになった。

上級生で生徒たちを後ろに下げると、扉側に座っていた最上級生が武器を出して獣を抑え、寮長たちも戦っていた。

けれど、向日葵寮の寮生は何度も旅人に扮した獣を連れてきてしまい獣がどんどんと増えていった。

凜 「陽向!門を閉めさせろ!」

陽向 「お、おう!」

阿久津先輩は助けた向日葵寮の寮生を僕らに預けると、門の方に走った。

大講堂から下級生を逃がそうにも、ほとんどが獣の迫力に驚いて腰を抜かしていた。

寮長たち含め最上級生の間を抜けた獣をほかの上級生が相手し、それをすり抜けた獣は僕らが相手していた。

ここを通したら下級生が危ない…

僕が相手していた獣が急に巨大化し、抑えるので精一杯になっていると寮長が獣を刀で斬り、獣が消えた。

寮長は、周りを見ながら僕の方へ手を伸ばし、僕を起き上がらせた。

優 「寮長。どうしたらよいでしょう…?」

立夏 「…獣を外に出す。ほかの上級生と一緒に下級生を大講堂から避難させてくれ。」

優 「しかし、動けない生徒の方が多いです…」

寮長は近づいてきていた獣を回し蹴りで突き飛ばし、刀で倒した。

立夏 「ここよりかはどこも安全だ。引っ張ってでも避難させてくれ。」

そう言って寮長はほかの副寮長が相手していた獣を次々に倒していった。

立夏 「獣を外に出して相手しろ!」

寮長が最上級生に指示を出すと、最上級生は窓を突き破り獣を外におびき寄せた。

獣が大講堂からいなくなると、僕らは下級生を引き連れて大講堂を抜け出し、大講堂から離れた場所にある蘭寮に集まった。

腰を抜かして動けなくなってしまった下級生はほかの上級生が抱き上げたり担ぎ上げたりして連れてきてくれていた。

最後尾で大講堂を出た上級生からの報告を受けて、全員の避難が完了したことを確認し、僕は蘭寮副寮長の蒼井茜と蘭寮を出た。

茜 「寮長たち、まともな武器を持っていない。緊急時に備えて持っている小さな武器だけだ。」

優 「うん。用具倉庫の鍵を借りてきた。そこから武器を持っていこう。」

用具倉庫に走り、武器を持てるだけ持っていくと外の雨は止んでいて、校庭で戦っていた寮長たちと獣の戦いは粗方方が付いていた。

寮長たちはびしょ濡れになり、何だか弱っているように見えた。

獣が全て消え、寮長の元に走って寮長を支えると、何人かの最上級生が急に倒れこんだ。

立夏 「はぁはぁ…医務室に…」

優 「分かりました。」

寮長を抱き上げようとすると寮長は僕の手を止めた。

寮長の手は弱々しく震えていた。

立夏 「ほかの皆を…早く…」

優 「しかし…」

寮長は僕から離れ、ほかの最上級生を支えて立たせ、医務室に向かっていた。

優 「全く…」

僕もほかの最上級生を支えながら医務室に運び、手伝いに来てくれた副寮長たちと最上級生を運んだ。

保健委員である蓬寮副寮長の一ノ瀬南海が順番に診察を始め、ほかの保健委員も手伝いに来ていた。

副寮長たちがタオルを配り、寮長の指示でほかの上級生が監視役に回った。

寮長は髪を拭きながら僕ら副寮長を集めた。

立夏 「下級生の人数の確認を。」

茜 「下級生は全員蘭寮に避難しています。」

立夏 「嫌な予感がする。確認してくれ。」

茜 「わ、分かりました。」

茜たちが走り出すと寮長は最上級生の怪我の確認をしていた。

優 「…」

寮長を見ていると、副寮長たちがすごい勢いで入ってきて、寮長は僕の手を引きながら副寮長たちと医務室の外に出た。

藍 「人数が足りない。菫寮で一人、蘭寮で二人、蓬寮で一人。」

立夏 「やはり…放送で名を呼んでくれ。」

藍 「分かった。」

立夏 「門を見てくる。」

優 「わ、私も行きます。」

寮長に付いていくと、雨を浴びて動きが活発になった獣が門のところまで迫って来ていた。

立夏 「…一条。行けるか?」

優 「もちろんです。」

そして上級生の手当をしている一ノ瀬南海を除いた副寮長たちが集まった。

悠人 「足りない生徒は上級生に任せました。」

茜 「頼りないかもしれませんが、私たちも一緒に戦わせてください。」

立夏 「…雨に濡れると獣は荒っぽくなる。無理に倒そうとしなくていい。弱らせてくれ。私がとどめを刺す。」

優 「しかし、寮長も限界なのでは…」

立夏 「ここが安全になるまでは倒れない。雨に濡れると私たちは生気を吸われるかのように苦しくなる。木から落ちる樹雨にも気をつけろ。」

伊織 「分かりました。」

水瀬藍先輩は寮長と僕に刀を渡してくれた。

立夏 「もう少しで門が破かれる。落ち着いて。いつもどおり戦いなさい。」

寮長の隣に僕らが並ぶと寮長は獣を見た。

立夏 「っ…」

獣の中には一人人間がいて、それは…鳴海先輩そっくり…というか鳴海先輩だった。

優 「鳴海先輩…」

茜 「えっ、例の?」

藍 「…なわけない。あれは獣だ。獣の扮装。」

寮長の手は震えていて、僕は寮長の手を握った。

立夏 「っ、わ、分かっている。獣だ。」

優 「寮長。大丈夫ですよ。寮長は一人じゃない。」

立夏 「一条…」

寮長は僕らを見た。

伊織 「私たちも一緒です。」

颯 「…昔、本で見たことがあります。人間に変われる獣は、前に見たことがある人間にしか変われない。特に、獣は消した人間の姿に変わる可能性が高い。」

茜 「じゃ、じゃあ、あの獣は…あの日、鳴海先輩と橘先輩を襲った獣かもしれないってことか?」

颯 「可能性の話だけど。でも、橘先輩があの日を忘れるには良い相手なのかもしれません。」

立夏 「…あぁ。私が相手する。」

獣によって門が破られ、獣がぞろぞろと学園に侵入してきた。

立夏 「…行くぞ。」

皆で走り出し、獣と真正面からぶつかった。

普通、それぞれで得意武器が異なるけど僕の場合は寮長に憧れて普段から刀を選んで戦ってきた。

今僕が勉強している毒では、戦術まではまだ習っていない。

でも、常識の通じない相手だからこそ、こちらも常識を捨てても良いか。

僕は獣に刀を飛ばさせて毒を忍ばせた扇を構えた。

この毒にどれくらいの効果があるか、どれくらいの時間に効果を発するか既に検証済み。

それを計算して獣に毒を盛る。

真っ向勝負で勝てない相手なら、少し意地の悪い手段でも自分の使える手段を用いて弱ってきたら弱点を突く。

僕は何体かの獣を倒した。

寮長を見ると、逃げ出していた下級生の一人である菫寮寮生を庇いながら戦っていて、鳴海先輩に扮した獣もまだ残っていた。

寮長は下級生を後ろに下げて、獣を下級生から遠ざけるように場所を移り、僕は下級生を安全な場所へ避難させた。

門の方へ戻り寮長を見ると寮長は副寮長たちの様子も見ながら戦っていて、寮長が相手をしていた獣は一斉に苦しみ出して光となって消えていき、副寮長たちが相手していた獣もどんどんと倒していった。

残りは…鳴海先輩に扮した獣だけ。

その獣はだんだんと鳴海先輩から巨大な獣に姿を変えた。

寮長は応戦しようとする副寮長たちを制し、刀を構えた。

寮長は、普段体術や剣術、弓術など様々な戦い方を混ぜた戦術で戦う。

おそらく今回は獣の扮した姿が鳴海先輩だったから刀のみで戦っている。

鳴海先輩の得意武器で、寮長も鳴海先輩の影響から刀を得意武器にしている。

寮長にとって、この戦いは鳴海先輩の弔い合戦。

寮長は刀で獣を斬ると、獣は光となって消えていった。

副寮長たちが気が抜けてその場で座り込むと寮長はその場に倒れ込み、僕が走って駆け付けた。

優 「寮長…!」

寮長を抱き起こすと寮長は僕に気づいて我慢できなくなったようにうつ向いて涙を流し始めた。

僕が寮長を抱きしめると寮長は久しぶりに声を上げて泣いていて、副寮長の皆も驚きながらも優しく僕らの周りに集まってくれた。

僕が寮長の背中を摩っていると水瀬藍先輩が寮長の頭を撫でた。

寮長が声を上げて泣いているのを見たのは、あの日以来…


---六年前(寮長が二年生の頃)

ホリデーウィークの三日目。

当時は、獣の動きがそこまで警戒されていなかったため町に行く際に通る森も上級生の付き添いがなくても下級生だけで通ることができていた。

凜 「立夏!行くぞ!」

澪 「初めての町だね。」

莉 「冒険だ!」

はしゃぎながら町に出かける先輩方を僕は図書室の窓から見ていた。

先輩方が走り出すと、当時の代表寮である菫寮の寮長だった鳴海京先輩が引き留めた。

京 「立夏。」

立夏 「寮長。」

京 「町で何かあったらすぐに連絡しなさい。必ず迎えに行くからな。」

立夏 「どこにいてもですか?」

京 「あぁ。どこにいても見つけるよ。」

立夏 「ふふ、約束ですよ?」

京 「あぁ、約束。気を付けていくんだぞ。」

立夏 「はい!」

あの二人の指切りは今でも鮮明に覚えている。

その日の夕方、神楽先輩や阿久津先輩が慌てた様子で大講堂に入ってきて泣きながら鳴海先輩に泣きついた。

京 「お、落ち着いて。何があったんだ?」

凜 「立夏たちがいなくなってしまって…」

京 「えっ…?」

ほかの上級生や寮長たちも集まって皆で橘先輩たちの捜索が始まった。

僕は心配になって、こっそりと部屋を抜け出して先輩方の後を追って森に向かった。

町に到着し、星宮先輩が発見され上級生が話を聞くと獣に襲われて逃げるときにほかの先輩方とはぐれてしまったと言っていた。

星宮先輩が数人の上級生と学園に帰り、僕は先輩方の後を追って森に入った。

上級生はいくつかの班に分かれて捜索を始め、上級生の速さに追いつけずに僕は森に取り残された。

少し森を歩いていると上級生の一人が見つけてくれて驚きながらも僕をおんぶしてくれた。

上級生 「菫寮の一年生か。」

上級生 「驚くほどの勇敢さだな。」

上級生 「結構、森の奥まで来てしまったし学園に戻す時間はないぞ。」

上級生 「あぁ。橘以外は無事見つかったんだ。足の速い橘であればこの辺にいてもおかしくない。橘も見つけてすぐに帰ろう。」

上級生に必死に掴まっていると上級生は物凄い速さで森を駆け抜け、しばらくして急に止まった。

横から上級生の視線の先を見ると上級生の一つの班が獣と戦っていて、その真ん中で鳴海先輩が弱々しく座り込んでいて、その腕の中には橘先輩がいた。

橘先輩は過呼吸を起こしていて、鳴海先輩は橘先輩を宥めるように背中を摩っていた。

京 「大丈夫…大丈夫だよ…立夏…」

上級生 「嘘だろ…」

上級生 「京…!医務室に…」

鳴海先輩は近づこうとするほかの上級生を制止し、ただただ橘先輩を宥めようと笑顔で橘先輩の頭を撫でたり背中を摩ったりしていた。

何体かの獣は逃げてしまい、戦う相手がいなくなった上級生は顔を背けて泣いている人もいた。

僕はここから何が起こるのか分かっているようで分かっていなかったのかもしれない。

鳴海先輩の背中には深い傷があり、だんだんと鳴海先輩の身体は光に変わっていった。

立夏 「鳴海先輩…」

京 「約束…してたからな…もう大丈夫だから…」

上級生の一人が僕の目を隠したけど、その手は震えていて隙間から鳴海先輩がだんだんと消えてしまうのが見えた。

上級生は皆泣き出し、明け方になって学園に戻ると、ほかの上級生や学園長先生たちが待っていてくれた。

橘先輩のことは鳴海先輩がいち早く見つけて最初に保護し、ほかの上級生が駆け付けたときには手遅れの状況だったそうだ。

橘先輩はあの日から何も話さなくなり笑顔も見せなくなった。

学園の生徒は誰一人として橘先輩を責める者はいなかったけど、橘先輩自身が自分を責め続け何度か倒れたこともある。

当時の副寮長は鳴海先輩の代わりに仕事をしながらも橘先輩を気に掛けていて橘先輩と二人で話したり町に出かけて気分転換を図ったりしていた。

ある日、副寮長が橘先輩を連れ出しているのが見えて、僕は隠れて付いていった。

副寮長 「立夏。これ、見てごらん。」

立夏 「…日記?」

副寮長 「そうだよ。鳴海先輩の日記。立夏のことがたくさん書いてあるんだ。」

立夏 「…見て良いんですか?」

副寮長 「良いよ。鳴海先輩、僕と立夏は見て良いって言っていたから。」

立夏 「…」

あの日記に何が書いてあるのか、今でも分からないけど橘先輩は日記を見ながら、涙を流し始めた。

副寮長 「…鳴海先輩ね、立夏のことを本当に大切にしていたんだ。立夏が入学する前から立夏たちの遊び相手もしていたし立夏が熱を出したときは夜遅くまで看病してた。鳴海先輩、本気かどうか分からないけど、立夏を守るためなら消えても良いって言ってたよ。それくらい立夏が大切で立夏が好きだったんだよ。」

立夏 「…」

副寮長 「だから、立夏にはいっぱい笑って元気に過ごしてほしいんじゃないかな。自分のせいで立夏が悲しんでるって知ったらきっと鳴海先輩も悲しんでしまうかもしれないよ。」

副寮長は橘先輩の頭を撫でていた。

副寮長 「でも悲しくなることも大切なことだと思う。だから、悲しくなったら僕のところにおいで。思いっきり泣いて良いよ。思いっきり泣いてすっきりしたら、前のように笑顔になってくれるとうれしいな。」

立夏 「…はい…」

橘先輩は声を上げて泣き始め副寮長は自分の涙を拭いながら、橘先輩を落ち着かせるように背中を摩っていた。

あの日から徐々に橘先輩は神楽先輩たちともこれまでのように話したり笑ったりするようになった。

でも、これまでと完全に同じようなところまで橘先輩が復帰したとは誰も思っていなかった。

おそらくそれが橘先輩なりの弔い方で鳴海先輩はいつも橘先輩の心のどこかにいるんだと思う。

---回想終わり

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