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93 1994/11/30 wed 出雲町内:ふえっ、ふえっ、ふえええええええええええんんん!

前話の前書に、本話と前話の地図をアップしてます

もし文章だけでわかりづらければ御参照ください

 別れ際、二葉も「一七時前に戻ってくる」と駅前に向かった。

 待ってる時間で、授業出席代わりのプリントを終わらせたいとか。


 ──北西端のブロックに到着。


 こちらも四つ角の交差点が条件をみたしていた。

 角の一つが空き地で、一つにゴミ収集場。

 ただし空き地とゴミの位置が、さっきの交差点とは線対称になっている。


 条件みたしてなければ、金之助を先程のブロックへ連れていけば片付いたのにな。

 可能性だけとれば、どちらかの端で終点固定というのもありうる。

 しかし残念ながら、どちらも終点候補だろう。

 つまりゴミの回収ルートは、こことさっきの端、それぞれを終点とした二つが存在する。

 日替わりか週替わりか他の何かでルートが異なるのだ。


 というのも、おぼろげな記憶だと攻略本にあったBの出現パターンは三つ。

 燃えるゴミのルート二つとペットボトルの日のそれぞれに応じてなのだろう。

 ったく、無駄に凝りやがって。

 でも当時のギャルゲーはホント難しかったからな。

 実際にそのくらいじゃなければ、攻略本に頼らずとも割り出している。


 ──んっ?


 待てよ……今の俺はプレイヤーじゃない。

 この世界の住人だ。

 だったら原始的にして単純明快な絞り方がある。


 表札を確認、【出雲町一丁目 2】。


 電話ボックスは……あった。

 元の世界じゃすっかり見なくなった代物。

 これがすぐ見つかる辺りにも時代を感じる。


 電話帳を抱えて、ペラペラめくる。

 財布……いや、パスケースにテレホンカードが入ってたな。

 これを常備している辺り、やっぱり時代を感じる。


 受話器を手にして、目的の番号をプッシュ。


〔はい。出雲町清掃局です〕


「すみません。出雲町に引っ越してきたばかりの者なんですが、わからないことがあるので質問させてもらってよろしいでしょうか?」


〔どうぞ〕


「燃えるゴミの日は月水金ですよね? 何時までに出せばよろしいんでしょうか」


〔場所によって変わります。出雲町のどちらにお住まいですか?〕


「二番地になります」


〔少々お待ち下さい……今週でしたら一七時くらいまでに出していただければ〕


 正解ゲット!

 しかも法則のヒントを出してくれている。

 素知らぬ風で、このまま聞いてみよう。


「今週?」


〔一週おきに異なりまして。来週ですと一六時二〇分くらいですかねえ……〕


「わかりました。ありがとうございます」

 

 電話を切る。

 さて、二葉にケータイで──。


 って、ないんだった。

 せっかく正解がわかったというのに連絡できないなんて。


 ポイントの位置関係が対称的ということは、ルートもきっと対称的。

 さっきのポイントにもBが一六時二〇分頃に現れる可能性が高い。

 二葉に伝えることができれば、二人ともBさんを確認できるはずだ。

 しかし二葉は駅前のどこにいるのか。

 行き先がわからない以上、どうにもならない。

 やっぱりポケベル持つべきかなあ……。


 これ以上ボヤいても、時間と脳の糖分を無駄にするだけだ。

 公園に入って、時間まで休もう。


                ※※※


 この公園も土曜日以来だな。

 あの時寝ていたベンチに座る。


 砂場にはやっぱり子供達。


「ママー、あそこにぶーぶーがいるよ」


「こら、見ちゃいけません」


 そして全く同じやり取りが聞こえてくる。

 あの時と違うのは「ぶーぶー」が俺を指しているのがわかること。

 まったくもって、どうでもいい違いだ。


 ああ、もう一つ。

 子供の母親達は、全員が元の世界の俺よりかなり若く見える。

 一樹の年齢からでも十分攻略対象になりそうなくらいに。

 そしてタイプこそ違うものの、全員が美人。

 この辺りもやはりギャルゲー世界だ。


 ──一陣の風が吹く。


 砂場の女児のスカートが捲れ上がった。

 カボチャパンツが剥き出しになる。


 パアンと破裂音。 


「ユウタ君のエッチ!」


「カスミちゃん、ごめん!」


 涙目で顔を真っ赤にし、ふるふる震えるカスミちゃん。

 頬をさすりながらカスミちゃんを見つめるユウタ君。

 どうしたものかと苦笑いしながら顔を見合わす母親達。

 ああ、のどかな光景だ。


 そして、俺の下半身ものどか。

 パンツだけにスーパー一樹が発動するかもと思ったが、そんなことはなかった。

 リハビリの成果か、それともカメラを持っていることが前提なのか。

 とにかく安心した。

 俺自身にロリ属性は欠片もないだけに、これで聖剣が荒ぶってしまったら自己嫌悪で死にたくなるところだ。


 母親の一人がしゃがみ、ユウタ君とやらを見つめる。


「ユウタ君、ごめんね。カスミ、謝りなさい」


「だってユウタ君が悪いんだもん!」


「悪いのはユウタ君じゃなくて、風よ。こういうのを事故っていうの」


「ぶー」


 カスミちゃんが頬を膨らます。

 ラッキーエッチといい、女性が味方になってくれるとこといい。

 ユウタ君はギャルゲー主人公の素質十分だな。


 ──うっ、母親のスカートの奥に白い物が!


 とっさに目をそらす。

 下半身は……反応していない。

 体だけじゃない。

 心にも湧き上がってくるものが、まるで感じられない。

 こういうチラリズム的なエロなら、一樹でなく俺自身が反応してもよさそうなのだが。

 トラウマになったのは、逆レイプを想起させる押しつけがましいエロだし。


 うーん、もしかしたら欲望が飽和してしまったのかも。

 芽生みたいな極上ヒロインのパンツをあれだけ繰り返し見せられれば、せつなさを昇華させなくとも賢者気分になるというものだ。 


 ん? 母親達がこちらを睨んできた。

 ただ睨んでるだけで文句を言いに来る気配はない。

 パンツを見てしまったことに気づかれたわけではなさそう。

 単に不審者扱いされてるだけかな?

 通報されるのは困る。

 目線をそらすのをかねて、ベンチに寝転がる。


 目の前に広がる一面の空。

 あの時は晴れで、今は曇り。

 天気こそ違うが同じ光景。

 トイレで事態に気づいたときはひたすら絶望するしかなかったが、何だかんだとこうして生き延びている。

 クリスマスまでの限られた命にすぎないとはいえ。


 もしクリスマスを無事に過ごせたなら……二葉と牛丼食べに行くんだったか。

 そのときはお新香も奮発して注文することにしよう。

 普段は割高に感じるので滅多に頼まない。

 だけど、そのくらいの贅沢は許されてもいいはずだ。


 腕時計を見る。

 そろそろ頃合、現地に向かおう。


                    ※※※


 一六時五五分、予定していた場所に立つ。

 一七時になったら歩き始めよう。

 すれ違うことでBの反応を確かめたい。


 一樹とヒロインBが知り合ったのは、Bが万引きするのを一樹が写真に撮ったから。

 その写真は探した限り、手元にはない。

 恐らくまだ知り合ってないとは思うけど、絶対ではないからな。

 戦略もそれ次第で変わってくるし。


 一七時、よし歩きだそう。

 顔を上げ──。


「クサイお兄ちゃああああああああん!」


 えっ!?

 小学生が正面から走ってくる……一郎じゃないか。


「うわっ!」


 あっ、一郎が転んだ──って!

 脇道からトラックが!

 よりによって交差点で!


 ちっ、足を地面に叩きつける。


「一郎、大丈夫!」


 道路の向こうから出雲学園の制服着た女の子が小走りしてくる。

 恐らく一郎のお姉さん。

 トラックに気づいてる気配はない。

 転んだから心配して駆け寄るといった感じ。 


 くっ、間に合うか?

 こういう時こそスーパー一樹発動しろ!

 抑える特訓はしたけど、発動する練習まではしていない。

 一か八かだ。

 手にカメラを想像する。

 芽生のパンツを想像する。


 だめだ、反応しない。


 さっきの母親のパンツを想像する。

 空さんのパンツを想像する。

 若杉先生のパンツを想像する。

 月曜日の初めて発動したときの女の子のパンツを想像する。


 やっぱり反応しない。


 カボチャパンツうううううううううううううう!

 これもだめ!

 ちきしょう!

 動け! 動け! 動け!

 ああ、一樹の役立たず!


「逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「おにいちゃああああああああああああああああん!」


 一郎は固まってしまったのか。

 お姉さんもトラックに気づいたらしい。


「一郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 トラックはもう目の前、南無三!


 ──激しい空気の流れを感じた。


 突風、それとともに女生徒のスカートが捲れ上がった。

 縞パン!?




(ちゃあ~んす!)




 一樹の声が聞こえたとき、俺はイチローを抱きかかえながら宙に浮いていた。

 うぐっ! 足をちぎられるような衝撃!

 トラックがつま先をかすめた。

 そのままどこかへ吹き飛ばされていく。

 一郎を力一杯抱きしめる……ぐはっ!

 背中に激痛。

   

「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」


 意識が朦朧とする。

 ただ一郎は助かった、それだけはわかった。


「よかったな……」


 女生徒が駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 三つ編みの気弱そうな眼鏡っ娘が泣きじゃくりながら頭をぶんぶんしている。

 口元には八重歯が剥き出し。

 そういえばヒロインBって、こんな顔だったよな……。


 あ……もう、だめ……。


「ふえっ、ふえっ、ふえええええええええええんんん!」


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