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75 1994/11/29 tue 図書館:「かいしゃ四季報」

 教室へ戻るつもりだったのを急遽変更、図書館へ。

 館内に入り、雑誌置場へ向かう。

 本当は授業終わってから来る予定だったが、悠長に構えている場合じゃない。


 調べたいのは、ゲーム設定とこの世界がどこまで一致しているかだ。


 芽生は何かを企んでいる。

 さっきの手紙で、それはハッキリした。

 一方で無視するという選択はありえない。

 無視したところで、きっと接触は今後も続く。

 俺の時間には限りがある。

 長々と芽生に関わっていられないから、とっとと済ませたい。


 芽生の具体的な意図については皆目見当がつかない。

 しかし設定さえ押さえておけば、体育倉庫で相対しながらでも駆け引きのしようがある。


 実は先程の食事会でもゲーム設定と一致していると思えるフシはあった。

 ならば、その裏をとりたい。


 ──雑誌コーナー到着。


 ざっと眺め渡すと、週刊誌や月刊誌だけではない。

 電話帳から季刊誌・年報に至るまで本棚に並んでる。


 まずはすぐわかるところから見ていこう。

 ビジネス関係の分厚そうな本の並ぶところ……あった。

 目当てのものは「かいしゃ四季報」。

 元の世界と名前は微妙に異なるが、中身はきっと同じだろう。

 企業の基本情報はこれを見れば概ねわかる。


 芽生の銀行の名前なんて覚えてない。

 そもそも出てきたかどうかすらあやしい。

 ただこういうゲームでは「キャラ名+業種名」が一つのお約束。

 華小路だって「キミマロランド」に「華小路鉄道」だった。

 それなら芽生も「田蒔銀行」だろう。

 索引の「た」行を追っていく……あった。

 「たまき銀行」だったが大差ない。

 思った通りだ。


 さて「特色」から見ていこ……う?


【H道を地盤とする都市銀行で、S市に支店を置く】


 H道!?


 H道って、言うまでもなく北海道。

 S市は札幌だよな。


 いや、そこはまだいい。

 都銀なのか。

 元の世界だと、同族経営の都市銀行は戦後存在しないはず。

 だから「『一族が経営する大きな銀行』の頭取の一人娘」については地方銀行、この世界だと「Y銀行」とでも呼ばれていそうな銀行辺りだと思っていたのだが。


 まあ、都銀か地銀かに大した違いはあるまい。

 確か法律上は差がなかったはずだし。

 ただ、北海道の都銀ということは……。


【道外では政令指定都市を中心に支店を有する。都市銀行の中では最も規模が小さい】


 「最も規模が小さい」、これで決まりだ。

 たまき銀行のモデルは……北海道拓殖銀行か。

 北海道拓殖銀行──略して拓銀は、日本で唯一経営破綻した都市銀行。

 破綻は一九九七年一一月だったか。

 ライブで記憶しているわけではないが、ルクソール事件と時期が重なってるからたまたま知っている。

 ルクソール事件はエジプトで日本人が巻き込まれた大規模テロ事件。

 仕事柄そういうのは覚えてるから。


 経営破綻は確かバブル期の乱脈融資が原因だっけ。

 不良債権がどうとかこうとか。

 学生の頃に本で読んだ記憶はあるが、残念ながら曖昧。

 具体的に思い起こすには、調べてとっかかりを掴まないと無理だな。

 右肩下がりの株価を見る限り、元の世界の拓銀とこの世界のたまき銀行の現状はそう大きく変わらないんだろうけど。


 また芽生自身についても、この世界の芽生とゲームの芽生は割と一致してる様子。

 さっきの会食における「商用」のワード。

 そして、二度目に謝ったときの表情がカギだ。


 芽生はお嬢様といっても、家業の銀行は経営が危なくなっていた。

 また父親の頭取も体調を崩し、倒れてしまっていた。

 そのため芽生が、代理として時折商談に出席していたのだ。

 きっと実際に商談を進めたのはブレーンだろうけど。


 女子校生の身で、しかも部活やりながらどうやって?

 プレイしてた時は疑問に思わなくても、現在だと訝るところ。

 だが、VIPルームの存在を知れば合点もいく。

 A組なら授業の出席についても融通がきくことだし。

 普段から商用で使い慣れているからこそ、内部生の二葉より場馴れしていたのだろう。

 さっきのは商用ではないが、適当な口実をつけたのではなかろうか。

 口座開設の勧誘とかなんとか。


 また、二度目に謝った時の安らかな笑顔。

 あれは……ムダな見栄を張らずに済んだからじゃないだろうか。


 頭取代理を務めるということは、商業登記上も取締役として名を連ねているはず。

 いくら同族経営とはいえ、そんな立場の者が経営の苦しい時に学友とのランチ代を経費で落とすなんて真似はできやしまい。

 落ちるのは落ちるだろうが、もしやったら顰蹙モノだ。


 恐らくVIPルームで使おうとしたのはプライベートマネー、いわゆる「お小遣い」。

 そして本来使おうとした予算は、俺のとあわせて三〇〇〇〇円。

 そんな大きな金額使ってでも果たしたい目的があったのかもしれないが、二葉の乱入でおじゃんになった。

 つまり無駄金になってしまうのだから、使う金は少ないにこしたことはない。

 芽生は確かにお嬢様、しかしそのステイタスは虚飾で彩られてるにすぎないのだ。


 とりあえず四季報からわかるのはこんなところかな?

 残りは後で思い出すことにしよう。


 もう一つ調べないと。

 それは龍舞さんのこと。

 龍舞さんについてはルートをまったく覚えていない。

 それどころかキャラすら、見た目通り以外のことはほとんどわからない。

 こちらもわかることは調べておきたい。


 龍舞さんの家が大きかったことは何となく覚えてる。

 きっと龍舞さんもお嬢様。

 だったら四季報の中に龍舞さんの親の会社もあるはずだ。


 索引の「り」行を追っていく……あった。 

 【龍舞建設】、いわゆるゼネコンだ。


 本社は隣の天照町。

 株価は右肩上がり、かなり好調だな。

 従来より飛躍的に進化した耐震建築技術を開発したというのが、その原動力らしい。


 華小路が「手を出せない」とまで言うからには、間違いなくビジネスだ。

 それ以外なら全て自分の範疇の問題として片付けてしまうだろうから。

 一応は取引銀行の中に「華小路銀行」もあるが、バブル崩壊のこの時期においては、銀行の方が企業より圧倒的に強かったはず。

 これは恐らく関係ない。

 だとすれば他に何かあるわけだが……それが何であったとしても、きっと俺と二葉の運命には関係ない。

 当面、これ以上深く調べる必要はないな。


 時計を見ると、そろそろ放課後。

 体育倉庫に向かうか。


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