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キモオタでギャルゲー、それって何の罰ゲーム!?  作者: 天満川鈴
Chapter 2 回想その2(二葉視点)
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59 199?/??/?? ??? 二葉の教室:文部省、今すぐ潰れやがってください。

 さらに翌朝。

 今度は本人達が待ち構えていた。


 髪の短い方が鈴木で、ちょっと長い方が佐藤だっけ?

 かっこよくもなく、ブサイクでもなく、身長や体型にもとりたてて特徴がなく。

 もしここがマンガの世界なら背景に溶けこんでそう。

 容姿面はそのくらい印象に残らない人達。


 鈴木が口を開く。


「どうして昨日来なかったんだよ」


 台詞まで意外性なかった。


「『来い』と言われて誰が行くのよ。しかも学園七不思議に数えられてる体育倉庫に」


 誰もいないはずなのに変な声が聞こえてくるとか。

 片付けたはずの用具が散らかっていたりとか。

 床に石灰がぶちまけられていたりとか。

 ハードルの上が変に濡れていたりとか。

 正確には「学園七大エッチスポット」、尚更行きたくない。


 今度は佐藤が口を開く。


「俺達としては情けをかけてやったつもりなんだけどな」


「はん。情けって、何の情けのつもりさ」


「土下座して謝れってことだよ。今、この場でな」


 はあ!?


 鈴木が続く。


「人前で、ってのだけは勘弁してやろうと思ったのに」


 人前も何も……。


「なんであたしがあんたらに土下座しないといけないのさ」


 鈴木が妙にイヤったらしい笑みを浮かべる。


「二葉、お前って華小路君に何したかわかってるの?」


 お前に「お前」呼ばわりされる筋合いはない。

 アニキいるから下の名前で呼ぶのは仕方ないけど。


 佐藤も同じ様な笑みを浮かべる。


「そうそう。華小路君が受けた痛みは、その忠実なる僕である俺達の痛み。だからお前は俺達に謝らないといけない」


 この二人、頭湧いてる?


「やなこった。華小路には謝るけど、あんた達には全力で拒否させていただきます!」


 あたし達のやりとりを聞いてか、周囲に生徒達がぞろぞろ集まってきた。

 やだな……。


 逆に二人は顔が紅潮し始めた。

 注目されることで悦に入った様だ。

 鈴木の声が大きくなる。


「そう言えばさ。俺達のオヤジ、今日警察庁に行くとか言ってなかったっけ? 官房長に会うって」


「それがどうしたのよ」


 官房長は中央官庁における人事・総務関係のトップ。


 佐藤の声も大きくなる。


「そうそう。ああ、お前の父親って警察庁の下っ端キャリアだったっけ。偶然ってこともあるものだなあ」


「なっ!」


 ここまで聞いて、ようやく発言の真意に気づいた。

 二人は「警察庁に圧力を掛けて、お前の父親をクビにするぞ」と脅しているのだ。

 遠回しに、言質をとらせない様に。


 この二人の父親は法務省官房長に出向先の経済企画庁官房長。

 しかも将来の検事総長であり、大蔵省事務次官とまで言われている。

 一方で父さんは課長補佐。

 二人の父親に比べれば下っ端どころじゃない、ノミ以下の存在。

 そこは確かに間違いない。


 だけど……。


「父さんは関係ないでしょう」


「別に俺達はお前の父親がどうこうとか言ってないぜ」


「そうそう。単に俺達のオヤジが警察庁の官房長に会うって話をしてるだけで。ああ、『何かあったらポケベルで報せろ』とも言われてたっけ」


 どうする?

 こいつらは典型的なイジメっ子。

 この手合いは怒っても泣いても付け上がるだけ。

 相手の反応を見て喜ぶのだから。


 だったら無視だ。

 本当に父さんが飛ばされるかなんてわからない。

 だけど公務員は法律で身分保障されている。

 やろうとしたところで簡単に事が進むとは思えない。

 それでもなったらなった時だ。


 とにかく、こんなバカ達相手にしていられない。

 素知らぬ顔して席に着こう。


 ──踵を返しかけた時、アッコの叫びが耳に届いた。


「もうやめて!」


 慌てて声の方向へ目を向ける。

 顔は蒼白。

 両脚はX字になり、ガクガク笑っている。


「二葉があなた達に何をしたの!」


 いけない!


「何でも無いよ、ちょっと行き違いがあっただけ」


 二人に悟られないよう、さらりと言う。

 気持ちは嬉しい。

 だけどアッコが相手となると本気でまずいのだ。


 しかし鈴木がアッコに問う。


「お前の父親はどこに勤めている?」


 言っちゃダメ!

 でもそれは答えを教える様なもの。

 口に出せない。


「い、出雲銀行です」


 出雲銀行は地元の金融機関、いわゆる地方銀行。

 まずい、まずすぎる。


「鈴木、確か出雲銀行の頭取って大蔵省の天下りだったよな」


「ああ。オヤジと付き合いあるよ。現役時代にかわいがってもらったって……そう言えば、近々挨拶行かないとって言ってたっけなあ」


「ふ……ふええ……」


 アッコが二人の言葉の意味に気づいた。


 アッコの父親は出雲銀行の部長。

 世間的には偉い人だが、鈴木の父親の前ではノミどころか塵芥に等しい。

 しかも直属の上司たる頭取が大蔵省出身ときた。

 加えて、世間ではリストラの嵐。

 その名目を借りれば、いともたやすくこいつらの目的は実現する。

 現実に銀行の管理職のおじさんは続々クビになっているのだから。

 つまり、あたしみたいに「Maybe」とか「Perhaps」ではない。

 「Ten to one」。

 十中八九、アッコ一家は路頭に迷う。


 さすがにキレた。

 これはキレた。

 立ち上がり、声をあらんばかりにして叫ぶ。


「アッコこそ全く関係ないでしょう! どこまで父親の力を、ついでに華小路の力を振りかざせば気が済むの!」


「お前がそれを言うのか? 一樹が盗撮してもお咎めなしなのは、父親が警察庁キャリアだからじゃないか」


「くっ」


 事実だけに返しようがない。


「アッコとやら、こっちへ来い」


 アッコがおずおずとこっちへ向かってくる。

 いけない!

 もう仕方ない!


 膝を折って床につく。

 前方に両手をつき、その上に額を載せる。


「華小路、そして佐藤と鈴木に迷惑をかけてごめんなさい」


「今更遅いんだよ」


 ──うっ!


 後頭部に衝撃。


「そうそう」


 さらにもう一つ。


 このぐりぐりしてくる二つの固い感触。

 明らかに革靴の底だ。

 こいつら、頭を土足で踏みつけてきた。


「ヒャッハー、これが現実、現実、現実、現実、現実ぅ!」


「世の中上には上がいるんだよ。俺達みたく『強きにへつらい弱きを挫く』を心掛けていれば、こんなことにはならなかったのにな」


 上には上がいるのも、それを認めなければいけないのも同意する。

 だけど後段は全否定させてもらう。

 かつて男子からイジメられる弱者だった身として。

 自分がやられてイヤだったことを他人にできますか。


「おら、アッコも早くこっちに来いや!」


「二葉の隣で土下座しろ!」


「ひっく、ひっく……」


 涙を流すアッコがあたしの視界に入ってきた。

 つまり……アッコも土下座した。


 後頭部の感触が一つ消えた。


「ちょうどよかった。こいつの頭じゃ二人分の足を載せるには狭すぎる」


 ゲスが!


「アッコ、巻き込んでごめん……」


「そうだ。俺達は何にも悪くない。恨むなら二葉を恨め」


 クズが!


「よし、じゃあ次は『今後は偉大なる華小路様の領導に従い、その同志たる鈴木様と佐藤様に決して逆らいません』と大声で誓え」


 すぐさま復唱する。


「今後は偉大なる華小路様の領導に従い、その同志たる鈴木様と佐藤様に決して逆らいません」


 頭が痛く、重くなる。


「あっさり返してるんじゃねえよ。それじゃあ、みんなが退屈するだろうが」


「もっと泣け! 叫べ! 教室のみんなはそれが見たいんだよ!」


 「みんな」を台詞の中に織り交ぜる。

 これはイジメの常套手段。

 クラス全員を敵に回しているかの様に錯覚させ、心を折るのだ。

 しかも誰も止めようとしなければ、その言葉は事実に裏付けられることになる。

 その意味で、見ているだけの者は間違いなく共犯なのだ。


 でも、仕方ない。

 華小路の名前を出されたんじゃ、仮に止めたくとも動けまい。

 せめて内心は助けたいと思ってくれていると信じたい。


 それにあたしには、勇気を出してくれたアッコがいる。

 そして金ちゃんがいる。

 彼は本気で仲良くしてくれているし、こんなのヘドが出るほど大嫌いな人。

 今朝はまだ来てないけど、もしいれば絶対に黙って見ているはずがない。


「みんな、裏ではお前のことが大嫌いって言ってるぜ」


「みんな、お前みたいなオンナはかわいくないってな」


 二人が交互にあたしを罵倒し続ける。

 だが、何とでも言え。

 むしろありがたい。

 時間稼ぎになる。


 もう少しすればホームルーム開始の時間だから、先生が来る。

 そうすればバカ騒ぎを諫めてくれるだろう。

 この場さえ逃れられれば、あとはどうにでも手を打てる。


 だからあと少しだ。

 耐えろ。

 耐えるんだ、二葉。


 金ちゃん、昨日の言葉を訂正しておく。

 あたしの取り柄は「元気」だけじゃない。

 「根性」もだ。


 ──ガラッと扉の開く音がする。


「これは一体何の騒ぎなの? みんな席に着きなさい」


 数尾先生が来た!


「センセー」


 あれ?

 鈴木が自ら先生に呼びかけた。


「あら、鈴木君と佐藤君じゃない。どうしたの?」


 鈴木のトーンを落とした、いかにも申し訳なさそうな声が聞こえる。


「それが……僕達、昨日渡会さんにラブレター出したんですけど無視されちゃったんです」


 はい?


「あらあら、それはいけませんねえ」


 はい?


「でも、それを今、渡会さんが自分から僕達をここに呼んで謝ってくれてるんです。僕達はいいって言ってるんですけど、渡会さんが『どうしても土下座して謝らせて下さい。そして二人の好きにして下さい』って言い張って。なあ、二葉?」


 そう言えと言わんばかりに、足に体重をかけてくる。

 それもゆっくり、じわじわと。


「そんなわけあるか!」


 声をあらんばかりにして叫ぶ。

 しかし、続く数尾先生の言葉はあたしを絶望させた。


「あらあら、ごめんなさい。今何を言ったのか聞こえませんでした。最近すっかり耳が遠くなってしまって……女も三〇越えるとダメねえ」


「何を言ってるんですか!」


「二葉さん、もう一度言ってもらえるかしら? 私に聞こえる様に、今この場で求められている言葉を。もちろん再び聞こえなかった場合は何度でも聞き返します。ずっと立ちっぱなしになるであろう『みんな』に迷惑を掛けないでくださいね」


 か、数尾先生……くっ!


「はい、あたしがそう言いました」


 数尾先生が安堵したかのような息を漏らす。


「ふう……まさかイジメじゃないかと心配したじゃありませんか。ちゃんと『同意』をとってるのなら大丈夫ですね」


 なんで「同意」を強調するんですか!


「それで田中さんは?」


 田中はアッコの苗字。

 二人があたしの時と同様に見え透いたウソを並べ、やはりアッコも数尾先生から同じ台詞を言わされる。


 数尾先生が声を張り上げる。


「私はこの耳でハッキリと聞きました。渡会さんと田中さんが自ら求めているんです。鈴木君も佐藤君も、とことんまで(・・・・・・)謝ってもらいなさい。くれぐれも二人、特に渡会さんの父親が勘違いして我が校に出向いてくるヘマ──ことなどないように」


 ここまで露骨にあたし達と二人の親を天秤にかけるなんて!


「はい!」


「もちろんです!」


 先生がみんなに呼びかける。


「みなさん──」


 あたしも横目で先生を視界に入れる。


「今日のホームルームはイジメについてです。この学園、いやこの国にイジメは存在しません。仮に存在するように見えるのであれば、それはイジメられている様に見える側が悪いのです。例えば今回の二葉さんと田中さんに非があるように──」


 ゆっくりと諭す様に、それでいてどこか高圧的に話す。

 どこまで二人を庇うつもりですか。


「──仮に何かあったとしてマスコミから聞かれれば『仲良さそうだった』とか『じゃれあっていた』と、あなた方の見たとおりに(・・・・・・)答えなさい──」


 何が見たとおりですか。


「──これは文部省からも内々に伝えてきていることです。世間に誤りや誤解を正す、こうした不断の努力によって、調査における(・・・・・・)イジメ『件数』は減っていくのです」


 文部省、今すぐ潰れやがってください。


 ──あれ?


 先生がメガネを外して教壇に置く。

 そして拳を振り上げ、力一杯に叩きつけた。


「あらあら。うっかりしてメガネにヒビが入ってしまいました。新調したばかりなのについてない、ううっ──」


 ううっ、じゃないでしょうが!

 その白々しい泣き真似はなんですか!


「──次は私の数学の時間でしたが、これでは授業ができませんので自習とします。私は職員室に戻りますが、自習時間の間についての報告は一切不要です」


 今、この瞬間から、A組教室は治外法権となった。

 数尾先生がそそくさと教室から出て行く。

 出雲学園の教師に何かを期待したあたしがバカだった。


 ──教室の扉が閉まる。


「んじゃ佐藤、次はどうすっかね?」


 声の方向からして、あたしを踏んづけているのが佐藤。

 アッコを踏んづけているのが鈴木だ。


「モップ持ってこいよ」


「モップ? 何するの?」


「こいつらのアソコに突き刺して処女膜突き破る」


 ちょっ!


「ふざけないで! そんなことして許されると思ってるの!」


「だから『同意』をとったんじゃないか。処女膜をモップで突き破るのは強姦罪ではなく傷害罪。でも同意傷害は保険金の搾取とかでない限り、違法性が阻却されて罪にはあたらない。お前って警察官僚の娘のくせに、そんなことも知らないの?」


「佐藤、さすが検事の息子だけあるな」


「オヤジに教えてもらったんだよ。とにかく『同意』を取り付けておけば何かあっても不起訴に持ち込めるからって」


 子も子なら父親も父親だ。


「だから数尾先生も『同意』を強調してたわけね。要はSMプレイが逮捕されないのと同じ理屈だな」


「さすがは教師ってとこだよ。じゃ、モップ二本持ってきてくれ」


「あいよ」


 足音が聞こえた、つまりアッコから鈴木が離れた。

 今だ!


「アッコ、逃げて!」 


 駆け出す音が聞こえる。


「あっ、こら! 待ちやがれ!」


 あたしの頭が軽くなった。

 すぐさま体を捻って、佐藤の足にタックルする。

 その勢いで佐藤が前のめりに倒れた。


「離せ!」


「誰が離すか!」


 せめてアッコだけでも逃がさないと!


「てめえの父親がどうなってもいいのかよ!」


「御勝手に! アニキが更生するには丁度いいよ!」


 まずい!

 鈴木もアッコを追いかけている。

 一方のアッコは膝が笑ってしまっていて、まともに走れていない。

 扉は目の前なのに!


 ああ……鈴木の手がアッコの肩を掴んだ……。


 ──その瞬間、教室の扉が開いた。


「すみませんっす。ちと訳ありで遅れました」


「金ちゃん!」


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