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キモオタでギャルゲー、それって何の罰ゲーム!?  作者: 天満川鈴
Chapter 2 回想その2(二葉視点)
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58 199?/??/?? ??? 二葉の教室:選択肢は二つだな

 さあ、昼休憩。

 おべんと、おべんと。


 エリカが声を掛けてくる。


「二葉さん、屋上庭園でランチするんだけど御一緒にいかが?」


 クラスで一、二を争うかわいい子。

 そして、お洒落で派手な子。

 いわゆるクラスの中心的な存在だ。


「お誘いありがとう。でも、いつも一緒に食べてる子達と先約あるから」


 少しゆっくり目の口調を意識しながら答える。

 慇懃無礼にならない程度に控えめに、機嫌を損ねないようにさり気なく。


「そう、残念ね。中等部チア部の部長ともあろう二葉さんが、あんな目立たない子達とつるむこともないでしょうに」


 大きなお世話です。

 もちろんそんなことは決して口に出せない。

 代わりに部活で鍛えた営業スマイル。


「ごめんね。エリカさんに誘われるのは嬉しいから、また一人の時に誘って」


 エリカも微笑みを返してきた。


「そうさせていただくわ。ごきげんよう」


 エリカが身を翻して仲間達の元へ向かう。


 ふう、今日も緊張の一瞬は過ぎ去った。

 これはもう数日おきの恒例行事。

 あたしがチア部の部長に任命されてからの……。


 つまりエリカは──正しくはあのグループは──あたしと友達になりたいわけじゃない。

 チア部の部長をグループに引き込みたいだけだ。

 出雲学園においてチア部部長の肩書はステイタスだから。 

 こちとらバカバカしいとしか思えないし、付き合う義理もない。


 正確には懲りた。

 一回だけ義理で付き合ったら「夕べクラブで引っかけてきたオトコはヘタだった」だの、どーのこーの。

 あたし達まだ中学生だよね?

 まるで話に加われず、かと言って別の話題を振られることもなく。

 友達になりたいのなら少しは気を使ってくれるはず。

 できれば距離を置きたい人達だった。


 と言うか。

 そもそも、あたしが部長に任命されたのは特に何かが評価されてではない。

 むしろその逆。

 部員達の中で、あたしがオミソと呼ぶべき存在だったからだ。


 チア部におけるあたしの学年は、二つの派閥に割れていた。

 率いるリーダーは英子と美子。

 決してA子とB子ではない。

 タイプこそ違えど二人とも美人で存在感があり、いかにも派閥の長。

 同学年の部員のみんなは、どちらかが次期部長で間違いないと目していた。


 あたしはどちらの派閥にも入らず、双方と程々の距離を保っていた。

 なんせ根っこは人見知りのチキン野郎。

 チア部に入部したのだって、それを直したいから。

 お陰様で表向きは明るく積極的に振る舞えるようになった。

 だけど派閥で固まっての行動なんて全然考えられる段階にない。


 ……てなわけで、あたしは傍から二人を観察する脇役に徹していた。


 面白いことに傍観者を決め込むと、それぞれのグループがよく見渡せた。

 例えれば英子はヒデヨシ、美子はイエヤス。

 自信家でぐいぐい引っ張るか、細やかな気配りでまとめていくか。

 その違いはあれど、二人の言動は大いに参考となった。

 あたしもこんな風になってみたいなあ、そう思わせる程に。


 しかし次期部長に指名されたのはあたしだった。

 青天のヘキレキなんてものじゃない。

 あたしだけではない、部員の誰もが耳を疑ったはずだ。


 もちろん裏にはカラクリがあった。

 だから同時に、誰もがその理由を察した。


 と言うのも、一つ上の学年とあたしの学年はとても仲が悪い。

 だから部長はわざと「部長に最も相応しい者」を指名せず、「部長に最も相応しくない者」を後継者に指名したのだ。


 つまり、「あてつけ」。


 加えると、あたし達の団結力を削ぐことで自らの支配力を強める目的もあった。

 出雲学園は中高一貫のエスカレーター。

 一旦引退するものの高等部では再び先輩後輩になる。

 しかも慣例として、中等部の部長が高等部でも部長を務めることになっているのだから。

 そして恐らく……これも部長の目論んだ通りだろう。

 プライドの高い英子と美子はチア部を辞めてしまった。


 あたしはあたしで「なぜ?」と思った。

 巻き込まれてメンドクサイとも思った。

 でも、考えを変えて「たなぼた」と思うようにした。

 あたしが変わるためには絶好のチャンスでもあるから。


 まず、観察してきた二人の言動を思い出した。

 二人とも動作として共通していたのは「常に胸を張っていたこと」、「常にみんなの目を見ていたこと」、「ゆっくり話していたこと」。

 自信満々な英子はもちろんだが、気遣いタイプの美子も遜った印象は決して与えなかった。

 これらトータルで威風堂々たるリーダーとしての振る舞いにつながったのだと思う。


 だから真似てみた。

 背筋を伸ばし、姿勢を正した。

 風呂に入れば浴室の鏡で、歯を磨けば洗面台の鏡で。

 鏡を見る度、「あたしは英子だ、あたしは美子だ」と言い聞かせた。

 発言すべき時は大声でゆっくりはっきりと言った。

 部員一人一人の様子を常に把握し、おかしければ事情を尋ね相談にのった。

 練習も準備も掃除も、自分から率先して行った。

 とにかく二人になりきろうとした。


 加えて先輩達の誤算もあった。

 残された二つの派閥の部員達は仲間割れせず、こぞってあたしに協力してくれた。

 内心では、あたしを面白くないと思っていたはず。

 現実にそれを口にする者もいた。

 でもそれ以上に先輩達がムカついたのだ。


 そんなこんなで、現在では何とかマトモな部長扱いをされている……多分。 


 おっと、いけない。

 早く行かないと、あたしのお弁当グループが食べ終わってしまう。

 教室の片隅でひっそりと集まっている三人組の所へ向かう。


「二葉おそ~い」


 アッコが頬を膨らませながら迎えてくれる。


「ごめん、お待たせ。と言うか、声掛けてくれればよかったのに」


「なんか考え込んでたみたいだから邪魔しちゃ悪いと思って」


 そんなこと言われると恥ずかしくなってしまう。

 全く考え込む必要のある内容じゃなかったから。


 あれ?

 寄せてくっつけた机の上を見ると、三人のお弁当は未だ包まれたまま。


「先に食べちゃってよかったのに」


「別に二葉を待ってたわけじゃないよ。ただ、みんなで食べた方が美味しいしさ」


「うんうん」


「そうそう」


 それを待ってたというのではなかろうか。

 嬉しく思いつつ椅子に腰を下ろし、弁当の包みを広げる。


「いただきます」


 四人揃った唱和の後、いつも通りの会話が始まる。

 夕べの音楽番組はどうだったとか、ドラマはどうだったとか。

 発売されたばかりのマンガやゲームはどうだったとか。

 駅前にできたケーキ屋さんが美味しいとか。

 たわいもなくありふれた話題。

 でも、あたしにはこの方が落ち着く。


 何より、エリカ基準言うところの「地味子」は、みんな人がいい。

 独りだったあたしが変わるため女子のグループに入ろうとしたとき、迎え入れてくれたのは「地味子グループ」だけだった。

 「派手子」も「普通子」も相手にしてくれなかった。


 「地味子」は悪く言えば競争心のない人達。

 だけど、それゆえおっとりまったりしている。

 びくびくおどおどしながら話すあたしを、のんびり優しく受け容れてくれた。


 今のあたしは、エリカの言う通り「地味子」に見えないだろう。

 だって自分でそう変えたのだから。

 でも根っこはやっぱり変わらない。

 あたしは今も「地味子」グループの方が過ごしやすいし、大切な居場所と思っている。


 ──ごちそうさま。


 お母さま、今日のお弁当も美味しかったです。

 さて食後の一時。


「アッコ、週マの最新号貸して」


「うん、いいよ」


 週刊じゃないのに週マとはこれいかに。

 目当ての「花男」のページを開く。

 花男は、ブルジョワ校に通う女の子がイジメられ、だけど負けずにやり返す話。

 あたしはブルジョワ校のモヤっとした閉塞感をリアルに絶賛経験中。

 それだけにたくましくイジメを打破するヒロインがスカッとする。


「二葉、ちょっといい?」


 モヤモヤの原因の一つ、エリカが戻ってきた。


「あれ? 屋上でランチしてたんじゃないの?」


 何の気なしに返す──も、なんか様子がおかしい。

 こめかみはぴくぴくしてるし、口調もきつめ。

 しまった、これは……。


 エリカが大声を張り上げる。


「そうしてたら一樹にスカートの中を盗撮されたのよ!」


 やっぱり。

 手で顔を覆い隠す、恥ずかしいやら悔しいやらで。


「ごめんなさい」


 そして、なぜかあたしが謝る。

 立ち上がって、深々と頭を下げて。

 悪いのはバカアニキであって、あたしではない。

 それでも謝らないと、さらに機嫌を損ねるだけだ。


「ま、まあ座ってよ。別に二葉を責めたいわけじゃないから」


「ありがと」


 その言葉に甘えて、再び椅子に座る。

 

「でも、あれホントに何とかなんない?」


「あたしも止めさせたいんだけど……」


 しかし止める手段がない。

 説教に耳を貸す人ではないし、例え鉄拳を振るったところで同じ。

 最初から何も持たない人に怖いものはないのだから。


「仕方ないよ、先生達すら見て見ぬ振りしてるものね」


 一見して、あたしを庇ってくれてる言葉。

 でも実は自らの保身のためそうしてるだけ。

 チア部部長のあたしは、いわば学園女子最強派閥を率いる身だから。

 そうでなければ今頃は「花男」のヒロインよろしくイジメのターゲットだ。


「お嬢様方、僕に名案があるよ」


 華小路がやってきた。

 どうやら側で話を聞いていたらしい。


「ホントに名案なら是非聞かせてもらいたいし、乗らせてもらうけど?」


「簡単なこと。二葉さんが一樹君の前で股を開き続ければいい」


「はあ?」


 この男は何をわけのわからないことを。


「聞くところによると、一樹君はシスコンと言えるくらい二葉さんをかわいく思っているとのこと。つまり二葉さんは一樹君にとって最高の被写体。その二葉さんが股を開いてパンツを『どうぞ』と差し出せば、一樹君はきっとその場から動けなくなるだろ──」


 エリカが叫ぶ。


「華小路君って頭いい!」


 しかしその時既に……華小路の顔面にはあたしの拳がめりこんでいた。


 しまった!

 殴って当然なんだけど、相手が悪すぎる。


 華小路は微動だにしない。

 ただあたしをじっと見ている。

 恐る恐る拳を下ろして、華小路の顔を見る。


 鼻血が流れていた。

 華小路はポケットからハンカチを取りだし、それを拭く。

 そして……。


「ふっ」


 それだけ言って、教室の外へ出て行った。

 エリカがその後を追う。


「華小路君、待って~」


 二人の姿が教室から消えた頃、アッコが話しかけてきた。


「二葉……まずくない?」


「大丈夫……だと思うんだけど……」


「華小路君って怒らせたら怖いって話じゃん」


「あ……あ、あいつって女の子には優しいって公言してるし」


 と言いつつ、自分でも声が上ずっているのがわかる。


「でも、出雲学園一の実力者だよ。赤札張られたらどうするの?」


 赤札は、「花男」で華小路みたいな立場の男子が使う全校生徒へのイジメの大号令。


「縁起でもないこと言わないで!」


「今からでも謝った方がよくない? 向こうが悪いのはわかってるけど……」


「できるならそうしたい。ああ、あたしのバカバカバカ!」


 いくらムカついたからって、いきなり殴るはない。

 だけど自分で自分にびっくりして謝るタイミングを失ってしまった。


 でも、やってしまったものは仕方ない。

 うん、きっと何とかなるよ。

 命まで取られることはあるまいさ。

 とりあえず華小路が教室に戻ってきたら謝ろう。


 しかしこの日、華小路は最後まで戻ってこなかった。


               ※※※


 翌朝、あたしの机には「赤札」が置かれていた。

 まさか本当にするとは!


 慌てて教室を見渡す。

 華小路はまだ来ていない。

 クラスの雰囲気も普段と特段変わったところはない。


「二葉、おはよ」


 金ちゃんが通りすがりながら挨拶してきた。


「あ……うん。おはよ」


「朝っぱらから辛気くさいなあ。元気がお前の取り柄だろが」


 人の気も知らずに……いや、そうじゃない。

 金ちゃんがいつも通り声を掛けてくるということは何も起こっていない?

 この人はどっちにしてもイジメになんて加わらないだろうけど。


「ねえ、金ちゃん。この赤札誰が置いていったかわかる?」


「赤札?」


 金ちゃんが赤札を手に取る。


「札じゃなくて封筒じゃないか」


「え?」


 受け取って確認する……ホントだ。

 あたしも慌てんぼうさんだなあ。

 でも札だろうと封筒だろうと謎の物体であるには変わりない。

 そしてどちらにしてもイヤな予感しかさせない。


「随分と悪趣味なラブレターだな」


「机の上に堂々と置くラブレターなんてないでしょ」


「ま、中身読めば、誰が出したかわかるだろ」


「そうだね、校舎裏行って読んでくる」


 ろくでもない代物なのは開ける前からわかってる。

 教室で読むのはイヤだ。

 朝のホームルームがもうすぐ始まるけど、ここは自分の事情を優先しよう。


 足を踏み出しかけると、金ちゃんが声を掛けてきた。


「……俺も付き合っていいか?」


 妙に決まり悪そう。

 事情はわからない、立ち入っていいかもわからない。

 けど心配はしてくれてるってところか。

 こんな毒々しい赤色の封筒の中身がろくな物じゃないことは誰でもわかるし。


 嬉しいな、ここは素直に甘えよう。


「ありがと。それじゃ付き合って」


 ──校舎裏。


 既にホームルームが始まっているので、辺りに人気ひとけはない。

 ここなら大丈夫だろう。


「つーか、お前もやるよなあ。華小路ぶん殴るなんて」


 金ちゃんがケラケラと笑う。

 昨日の噂は一気に学園中を駆けめぐったらしい。


「殴るつもりはなかったんだけど、ついね」


「ま、華小路がバカなんだ。お前は悪くない」


 もはやどちらが悪いかは問題にならない事態なわけで。

 でも、そう言ってくれるのはとても嬉しい。


「ありがと。金ちゃんにも読ませるかどうかは中身次第ってことで」


「おう」


 まさかってこともあるけど、本当にラブレターかもだし。

 不安九九.九パーセント、期待〇.一パーセントで封筒を開く。


【話がある。今日の昼休憩、体育倉庫に来い。 佐藤&鈴木】  


 ……ナニコレ?


 しかも「来い」って何様?

 あたしの脳内友人リストにあんたらの名前なぞ存在しない。

 これなら金ちゃんに見せても差し支えあるまい。


 手紙を受け取った金ちゃんが一言漏らす。


「やっぱラブレターじゃん」


「そんなわけないでしょ。佐藤と鈴木ってB組だっけ?」


 二人の父親は父さんと同じく官僚、だから名前だけは知っている。


「そんな華小路のしもべ連中のことなんか、いちいち頭に入れてねーよ」


 しっかりと頭に入ってるじゃない。

 やっぱり華小路絡み。

 残り〇.一パーセントの大穴が来ることはなかった。


「どうしたらいいと思う?」


「選択肢は二つだな。一番目は無視する」


 至極常識的で妥当な答えだ。


「二番目は?」


「俺を連れて体育倉庫に行く。二人をシメ上げて問い質してやるよ」


 ありがたい申出ではある。

 だけど半分はあたしの自業自得だし、殴っておいて未だに謝ってない身。

 これで金ちゃんを担ぎ出すのは卑怯者のやることだ。


「じゃあ一番目で。気持ちだけはありがたく受け取っとくね」


「なんだよ、つまんねーの」


 それって単に金ちゃんが二人を殴りたいだけじゃないのか。

 男の子だなあ……。


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