17 近所にあった何かの建物
記憶もそこまで定かではないが、これは俺が小学校低学年の時の話。
その当時の俺は、今にして思えばなんて危ない事を!と悲鳴を上げるような体験を結構してきたなと思う。
そして、恐ろしい事に、それが笑い話になる様な環境でもあったり
当時は学校が終われば、当時の親友の子と一緒に夕方まで遊ぶのが普通で、その日も待ち合わせして二人で遊ぶことに。
当時二人でハマっていたのは、忍びごっこ。
これは色々な所に忍び込み、世界の秘密(?)を覗くことを目的とした、今考えると卒倒しそうな遊びだった。
怪しい穴があれば潜り込み、高いところも平気で登っては、進入禁止エリアにまで入り込む。
勿論、見つかれば、知らないオジさんとかに殴られたし、高いとこから落ちて骨折したりもしたが、懲りない懲りない。
更に、当時はバブル期に建てられた(?)のか、廃墟になっている建物が多くて、何処もかしこも冒険には困らない環境だったのも懲りない原因の一つだった。
今考えると、全ての人に土下座をしたいと思っている程酷い。
それとよく死ななかったなと本気で思う。
そんな中、その懲りない忍びごっこを辞めるきっかけになった事件が、忍び込んだ廃墟で起きたのだ。
「少し離れた所に、すごい大きな建物があったんだ。
5階建てくらいかな?とにかくおっきな建物!」
親友のカイ君がそういって、両手を大きく広げた。
なんとカイ君は、お母さんと一緒に歩いている時、その正体不明の建物を見たという。
「へぇ〜!それってなんの建物なんだろう!……忍びする?」
俺がワクワクして聞くと、カイ君は大きく頷く。
「少し遠いから、午前中で授業が終わる日に行ってみようよ。」
「いいね!じゃあ、オヤツ持ってく。」
近々その日があったので、軽い計画を立てた俺達は、大人しくその日を待った。
そして、計画の実行日。
家でオヤツと水筒をリュックサックに入れて背負い、カイ君と合流した後は、謎の建物に急ぐ。
結構な距離を走り、そこに着くと、俺達は同時に「おお〜……。」とその存在感に声を漏らした。
「確かに大きいな……。マンション?」
「う〜ん……それにしたら、窓の位置がおかしくないかな?
マンションって同じ窓が沢山ついてる気がする。」
カイ君はそう言って建物の窓を指さす。
確かに言われた通り、窓は不均等に付いていて、マンションとはちょっと違う様だ。
更に────……。
「入口……なんか文字が書いてある?」
カイ君は建物の正面らしい場所に回ると、ドアの方を指さした。
その建物は、全体的に老朽化していて、民家から少し離れた場所にある建物だった。
だから、周りは木で囲まれていて、正面がどこにあるのかパッと見て分からない。
だから建物をグルっと回るようにカイ君は走り、入口を発見したらしい。
俺も直ぐに駆け寄ると、確かにそこは入口のような大きな扉があって、一軒家のドアとかではなくガラス製の扉で、お店や病院なんかによくあるような形だった。
「ほらほら、ここ。」
カイ君が指さす先にあったのは、鉄製のプレート?らしきもので、ドアの横に設置されている事から、どうやらこの建物の正体が描かれている様だ。
「……えっと……?────読めない〜。」
その漢字が、当時習ってない漢字だったから読めなくて、更に殆ど消えかけてて見えない。
流石に諦めるしかなくて、俺達は入り口からジッと中の様子を伺った。
中はとても散らかっていて、ノート?らしき紙や、瓦礫、むき出しの鉄?などなど、ザ・廃墟と言う感じ。
ただ、長い椅子が置いてあるのと、その正面にあたる所に受付?の様な場所があったので、恐らく病院だったと思う。
「もしかして元々病院だったのかな?近所の病院もこんな感じの作りしているもんね。」
「確かに……う〜ん、ここは開いてないねぇ。」
予想をしている俺の横で、カイ君はドアを押したり引いたりしていたが、びくともしない。
そのためココから中には入れなさそうだ。
俺達はそのまま建物を一周する様に回っていたのだが、裏の方には焼却炉?の様なモノがあって、カイ君がそれに近づく。
「小学校にもこれと同じ様なのあるよね。多分焼却炉だよ、コレ。
病院もあるんだね、焼却炉。」
「ゴミの処理とかしてたのかな。……なんか中黒い……炭?」
当時、小学校には焼却炉があって、よく用務員のおじいちゃんなどが枯れ葉やゴミを燃やしていたので、そう珍しい事ではないと思っていた。
だからこれ以上詮索するのはやめて、建物の周りをまた周り始めたが、カイ君が「────あっ。」と声を上げる。
「見て!二階の窓!アレ、開いてない?」
「えっ?…………本当だ!」
カイ君が見上げる先には、窓が並んでいたのだが、その一つが少しだけ開いているのが見えた。
俺達は、とりあえずそこから入る事にし、近くに生えている木に登り、その窓から中へと侵入したのだ。
中に入ると、まず聞こえたのが、ジャリッ!というガラスを踏む音。
それは自分たちが中に入った瞬間聞こえたのだが、それは中に砕けたガラスが大量に落ちていたからだ。
「窓が割れてる……。」
「だから窓が開けられてたんだね。」
カイ君と考察しながら長く続く廊下を見ると、やはり病院だったのは間違いないようで、診察室?の番号らしきモノが、ドアの上についていたのが見えた。
二人で顔を見合わせた後、1番近くの部屋に入ってみたのだが、そこにはお医者さんが座る机と椅子、他にも横たわる用のベッド?と、沢山の書類が開いたままの本棚らしきモノがあった。
その書類をパッと見ても、難しい漢字ばかりで見えなかったが、足元に落ちていた1枚の絵は見覚えがあったた手を叩く。
「コレ、レントゲンの絵だよ。テレビで見たことある!」
白い骨が透けた写真。
紛れもなくレントゲンの写真で、正直今思ってもそれは相当まずいのでは?と思うが、当初はテンション高く喜んでいた。
他にも面白いモノがないかなと、二人で見て回っていたその時────……。
──────ジャリッ……。
少し離れた場所から、ガラスを踏む様な音が聞こえた。
「────っ!?」
別の誰かが同じように入ってきたんだ!
そう思い、2人で息を殺しながら廊下の方へ顔をのぞかせた────が、見た限り誰もいない。
気の所為か……。
ホッとしながら緊張をとこうとした、その時────……。
─────ジャリッ……。
…………ジャリッ…………ガリッ……ジャリ……ジャリ……。
ハッキリとコチラに向かって近づいてくる音が聞こえたのだ。
「逃げよう!」
管理人とか、きっと大人の人が見回りに来たのだと、俺達は慌てて先程入ってきた窓から外へ出る。
その際、フッと音がした方を見たのだが…………何も見えなかった。
あんなにハッキリ音がしたのに??
「早く!」
先に降りたカイ君に言われ、慌てて下に降りると、俺達は脱兎のごとく走り去った。
その後は、よくよく考えれば色々おかしい事に気付いたが、お化けというモノが怖くて、俺達はそれを話題にすることなく大人へ。
今思い出しても、あの時ハッキリ聞こえた足音が何だったのか分からず、しかもその建物もすっかりなくなり、今は大きなマンションが建っているので確認する由もない。
ただ、近くに住んでいたおばあさんが。昔近くに大きな精神科病院があったのよと言っているのを聞いたことがあったので、もしかしてそれだったのかな?とも思ってる。
ただし、どうしてあんな夜逃げみたいな形で閉院になったのかは、少なくとも俺の周りでは誰も知らなかった。




