12 義理の実家にいる何か
母方の実家は先祖代々ある家業を行ってきた家で、歴史がとにかく長い。
そのため、実家もその歴史を刻んできたまま残っているので、かなり古くて、なんと築は100年を超えると聞いた。
母が生まれる前からあったその家は、現在母の兄が暮らし、その子供たちが大きくなってもまだその家に住んでいる。
これは、そんな家にまつわる不思議な話だ。
母はその家で育ち、二階建ての二階部分に小学生に上がった時、初めて自分の部屋を貰った。
一人だけの部屋!
自分の好きな様に飾ろう!
今まで両親と一緒の部屋で寝ていた母は、自分のプライベート空間に喜んで使っていたのだが、直ぐに妙な事が起き始める。
夜就寝した後の事、フッと夜中に目が覚めた母は、自分の寝ている布団の横に誰かがいるのに気づく。
?……お母さん??
自分の母親がいるのかと思い、そちらを見ようとしたのだが、ここで全く体が動かない事を知った。
金縛りだ!
そう理解した瞬間、ブワッ!と大量の汗が滲み出て、頭の中は恐怖に支配される。
じゃあ、隣にいる人は……?
『お化け』という存在を思い浮かべた母は、震えながらもその存在を確認しようとしたそうだ。
視界の横に映っている全体像から、多分正座?しているんじゃないかという体制をしていて、色は黒一色。
ただ、その存在の背後には窓があったため、月明かり?かなんかのせいで黒かったのかもとの事。
だから顔なんかは勿論見えず……しかし、なんとなく骨格的なモノから、男性?なのではないかと思ったそうだ。
ソレが、自分の寝ている横で正座している。
更に自分の方をじっと見ている気がしたと言っていた。
南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……。
母はうろ覚えの御経を心の中で唱え、その存在が消えることを心から願ったが……その願いは虚しく、結構長い時間沈黙の時間が続いた。
どうしたらいいか分からず恐怖にかられていた母は、ひたすら御経を唱えていたらしいが────……。
『……〜………〜〜……。』
ソレは小さな小さな声で、何かを喋り始めたそうだ。
声が小さいのと恐怖とで、全く何を言ってるかは分からなかったらしいが、どうも悪口?や恨み言らしきものを言っている様に感じたと母は言う。
────で、結局目が覚めたら朝。
母は悪い夢でも見たんだろうと、その時は忘れることにしたそうだ。
しかし、その後も定期的に同じ体験をする様になり、両親にその事を相談したそうだが、取り合ってもらえなかった。
「俺が子供の頃に使ってた時は、そんな経験した事がないぞ。
多分一人で寝るのが不安で見たんだろう。」
母の父親はそう言って話を終わりにしてしまったため、最終的に母は、家を出るまで一人部屋には戻らず過ごしたらしい。
「結局、ソレって何だったの?」
俺が尋ねると、母は困った様に考え込んだ。
「さぁね。ただ、敷地内に祠みたいなモノがあってね、それ絡みだったのかもしれない。祖母が私を連れて拝みに行ったから。」
その祠は家から少し歩いた敷地内にあって、たまに拝みに行く場所だったらしいが、何を祀っているのかは分からない。
一応お稲荷様?らしいものだとしか教えてもらえなかったという。
「狐に化かされたんじゃね?」
「そうかもね〜。でも、もうおばあちゃんは死んでいるからもう分からない。
でも、古い家だったし、何かしらあるんだと思うよ、あそこ。」
母の話にブルっと震えていると、母は突然神妙な顔をした。
「実は、最近聞いた話なんだけど……ほら、アンタの従姉妹の花代ちゃんがあの家に住んでるじゃない?
それであの例の部屋を使い始めたらしいのよ〜。」
「あぁ、自室がそろそろ必要だもんな。」
花代ちゃんは、俺の従姉妹で、現在その家に住んでる小学校高学年の女の子だ。
花代ちゃんももうそんな歳か……としみじみしていると、母が続きを話す。
「そしたら、花代ちゃんがその部屋で寝た次の日に言ったらしいよ。『へんな男が横に座っていた。』って。
兄さんも義姉さんも、最初は誰も信じなかったんだけど、義姉さんがあんまりにも花代ちゃんが怖がるから一人で寝てみたら……やっぱり出たらしい。
で、その後従兄弟の子たちや兄が寝てみたららしいんだけど、なんにもなかったって。」
「えっ?こ、こわ〜。なんだよ、それ。
女の前にしか出ねぇって事?」
顔を引き攣らせた俺を見て、母は大きく頷いた。
「そうみたい。不思議ね〜。
だから今、その部屋は封印したんだって。男は害がないっていっても従兄弟達も気持ち悪いから嫌って拒否したから。」
「そりゃ〜嫌だろうよ。」
自分だったら死んでも使わない!と、思って首を振る俺に、母は笑う。
「でもあの家に泊まる時、毎回アンタその部屋で寝てたんだけど……。」
先に言って!!
その瞬間、楽しいお泊まり会だった記憶は、恐怖の記憶へと変わった。




