28.これは予想外(フィリン視点)
──魔王軍の侵略。
ああ確かに、これは予想外でした。
しかし、同時に納得もしました。
死霊術士の彼女が不気味なほどに静かだった理由。
レスタ王国周辺にまで調査網を広げても、影一つすら見つからなかった理由。
それは彼女が魔族領に行っていたから、だったのですね。
…………少し面倒です。
まさか魔王と手を組むなんて思わないじゃないですか。
しかも彼女の側に浮かぶあの骸骨。あれってもしかして不死者の王では? なんであんなものを──もしや先代魔王の死体を蘇らせたとは言いませんよね。…………言うのでしょうねぇ。
つまりは中に魔王、外にも魔王。
二人の魔王がこの戦場にいることと同じで……あ〜、考えただけで疲れが……。
いや、真に警戒するべきは──それを仲間に引き入れた死霊術士の彼女でしょうか。
魔王はかなり面倒な性格をしています。ただ頼み込んだだけであの人が受け入れる訳がありませんし、自分に利益があると思わなければ魔王は絶対に自ら動きません。
それは希少な死霊術士という理由だけでは薄い。何か他の理由もあるはず。ですが、先程も言った通り魔王はイヤぁな性格をしています。その本心はきっと誰にも……死霊術士本人にさえ言っていないのでしょう。
まぁいいです。
理由がなんであれ敵は斬る。私のお仕事はそれだけですから。
「それじゃあ後は任せたよ。……失敗しないでね」
『誰にものを言っている。我は失敗しない。我は必然の勝利しか望まぬ』
「ほんと、親子だな……」
『当然だ』
…………ん? んん?
「あの、戦わないのですか?」
「いやいや勘弁してよ。私はただの死霊術士だよ? この国の騎士ならまだしも、アンタみたいな化け物と戦うなんて自殺行為でしょ。だから私は下がらせてもらうよ──彼女と一緒にね」
そう言って、彼女はエレシアの体を抱きながら後方へ。
死霊術士は戦えない。
だからもし死霊術士との戦闘になれば、真っ先にそれを叩けばいい。
それはよく知られている情報ですが、素直にそれを信じられたらどれだけ楽なのでしょうか。
彼女は魔王と先代魔王を味方にしている。そんな彼女が戦えない? そんなわけがありません。何かしらの奥の手をまだ隠してあると見て間違いないでしょう。
でも、本当に下がるみたいですね。
油断を誘っているなら、あえてそれに乗ってあげるのも手ですが……それも難しい。
今、私の前の前には先代魔王だったノーライフキング。周囲には無数のアンデッドがいます。それらを強引に突破して彼女の懐へ潜り込むのは至難の技。
あーあ、こうなるなら最初から遠慮なくぶった斬ってしまえば良かった……と、後悔しても遅いですね。
『そう残念がるな剣聖よ。我が相手では不満か?』
「……ええ。むしろもっと嫌な気分になりましたよ」
単純な戦闘力ならばノーライフキングは私と同等。
聖なる魔力で多少私が有利とは言え、彼の能力によって強化されたアンデッドを同時に相手すると考えたらどっこいどっこいってところでしょうか。
それに加えて、これを終わらせたら次は魔王と側近が勢揃いの魔王軍が相手? あっはっはっ。陛下ったら前世にどれだけ多くの悪行を積んだのでしょう。…………いや、それは私も同じか。
「でもまぁ、やるしかないですよね──!」
剣に魔力を注ぎ、聖なる魔力を纏わせます。
これが無ければアンデッドを完全に滅することはできません。
準備は終えました。無の構えから即座に駆け出し、意表を突いてみようと思ったのですが流石は先代魔王。見えない防御結界のようなもので弾かれてしまいました。
詠唱している様子はありません。当然のように無詠唱ですかそうですか。本当に厄介な相手ですねちくしょうめ。
「では、これならどうです」
一度でダメなら何度でも。
弾かれても気にせず剣を叩き込み、アンデッドが近づいてきたら一度下がりつつ邪魔者を斬り刻み、ノーライフキングからの魔法を避けながら再び彼に近づき、また周りのアンデッドを相手に──ってああもう。一度にやることが多い!
「ほんと、これだから多数を相手にするのは嫌いなんです、よ!」
体を捻って頭を狙った精密射撃を躱し、独楽のように回転しながら周りのアンデッドを無造作に
斬りつけ、吹き飛ばす。これによってかなり多くのアンデッドをやれたのでは?
『ァ、ァア……』
と、そう思った矢先に増援です。
いったい、どれほどのアンデッドが控えているのでしょう。
やってもやってもキリがない。
こうなったらあれを、いや、そうすれば反動で動けなくなってしまう。だからこれは本当の────
『考え事をしている場合か?』
「しま、っ──ぐぅ!」
一瞬の迷いが命取りとは、よく言ったものです。
相手は先代魔王。その隙を逃すはずがなく、彼の手に持っている錫杖で横腹を思いきり叩かれました。骨だけの腕のどこにそんな力があるのか、攻撃をモロに受けた私の体は吹き飛び、建物の壁に激突して止まります。
視界が赤く染まりました。
どうやら激突した際に頭を切ったみたいです。
これはしてやられました。一瞬の迷いで油断するとは、私もまだまだですね。
しかし、ただでやられる私ではありません。
『…………む?』
ノーライフキングの頭部がパラパラと砕け落ちます。
吹き飛ばされる直前、咄嗟に剣の柄でぶん殴ってみました。お互いに頭部の損傷。痛み分けです。
『これは驚いた。我が反応しきれないとはな』
「ふふっ。自分とかっこいい頭部になりましたね。でもまだ不恰好なのでは? そのまま止まっていれば良い形に斬り揃えてあげますが……いかがでしょう?」
『折角の提案だが、遠慮しておこう』
「そうですか……」
私の美的センスは筋が良いと評判なのですが、残念です。
「ではいっそのこと、その汚らしい頭蓋ごと──斬り落として差し上げましょう」




