15.幹部
魔王との協力を改めて結んだ後、私は魔王に連れられてとある一室に案内された。
そこは会議室のような場所だ。中心に円卓があって、椅子が並んでいる。一番豪華そうな椅子に魔王が、その横にラスティアが、そのまた横に私が座る。
「ここで少し待て。もうじき来る」
「来るって……何が?」
魔王は答えてくれない。
どうせすぐに分かるから、説明する必要がないとでも思っているみたいだ。
『主人はドンと構えていればいい。愚か者は我が粛清してやる』
「うん、それはありがたいけどさ、もうちょっと穏便に行こうよ。魔族ってのは平和的解決って言葉を知らないの?」
『殺しはしない。十分平和だと思うが?』
「あ、もういいです」
これが人間と魔族の価値観の違いか。
ここまで考え方が違うと、平和とは一体なんだろうって真剣に考えたくなる。哲学だね。
「これから幹部会議が行われます。此度はアンリの紹介と、対剣聖の話し合いですね。今から来るのは少々荒っぽい人達ですが、みんな個性的で面白いんですよ」
「ああ、ラスティア……あなたが唯一の癒しだよ」
「え? ええ、ありがとうございます……?」
そうだよ。現魔王も元魔王も優しさが足りないんだ。流石は親子と言うべきなのか、嫌なところがそっくりだ。どうせなら良いところも似てほしいけれど、魔王の良いところってなんだろう?
……カリスマ? それしか思い浮かばないな。
『娘のいいところは可愛いところだ。我の真似をして高圧的な態度を取っているが、その節々にはしっかりとした優しさが見え隠れしている。約束事を破るのも昔から嫌いだったな。根は真面目で義理堅く、同時に頑張り屋なのだ。人間の言葉でこれをツンデレと言うのだったか?』
「…………うん、そうだね。確かにそうなのかもしれないけれど、ここで言うのはやめてほしいかな。魔王の視線がすっごく怖いんだ」
あと、当たり前のように心を読むのもやめて。
「アンリよ、その骨を外に出せ。うるさくて仕方ない」
『骨ではない。お父様だ』
「死ね」
『なんだ? 照れ隠しか?』
「あーやめやめ! 話が進まないっての!」
また被害が拡大する前に、私は二人の間に割り込んで制する。
それでも魔王の怒りは収まらなくて、どうしようかと思っていた時、一室の扉が豪快に開かれた。
入ってきたのは、魔王とはまた違った角を額に生やした筋骨隆々の大男。
『鬼人』っていう種族だったかな。これも魔族に分類されている種族で、見た目通り物理での近接戦闘ではどの種族にも劣らないことで有名だ。東の果てに住む種族で初めて見たけれど、本当に大きいな。
「おお! 魔王様とラスティア! 今来たぞ!」
大笑いしながら、どっかりと椅子に座る鬼人。
その拍子に椅子から激しく軋む音が聞こえたけれど、あれでよく壊れないなぁ……と、ちょっとだけ心配になった。
「──ん! なんだ初顔がいるなぁ!」
ようやく私の存在に気がついたらしい。
ギョロッと向けられた視線は獰猛な野生動物に似ていて、無意識に体が竦んでしまう。私はどう足掻いても人間で、死霊術士という点を除けば一度も戦ったことがない一般人なんだ。
「この人間は魔王様の協力者であり、客人です。無闇にちょっかいを掛けないようにお願いしますね」
「おお! この人間が噂のか! ワシはミカグラだ! よろしくな嬢ちゃん!」
「私はアンリ。こちらこそよろしくねミカグラ」
ミカグラは良い意味でも悪い意味でも、裏表が無さそうな印象を覚える。
私としては好ましい印象だけど、近くで話されるのは勘弁してほしいかな。鼓膜がいくつあっても足りないや。
「ミカグラは遊軍部隊の部隊長です。戦闘の際はアンリと組むことも多くなるでしょう」
遊撃で戦場を暴れまわるミカグラが容易に想像できる。
きっと、好き勝手に暴れすぎて周りを困らせているんだろうな。
「作戦を忘れて暴れまわるのが玉に瑕ですが、頼りにはなると思いますよ」
ほらね?
「余の幹部は其方を含めて六名。ミカグラが来たということは、他の者ももうじき集まるだろう」
「…………あの、私いつの間に幹部になったの?」
「二万のアンデッドを従えておいて、ただの一般兵と同じ扱いなのは無理があるだろう。だから幹部に任命した」
「……いや、その……うん。この功績を認めてくれるのは嬉しいけどさ、あまりにも急じゃない? 私、まだ魔王軍に入るって確定した訳じゃないんだけど」
「余は失敗しない。だから其方の想い人を取り戻すのは確定事項であり、それによって其方は余の配下となるのだ」
「わぁ、すっごい自信だぁ」
でも、それが魔王らしいって思えるのが不思議なところだ。
これが上に立つ者に相応しい態度なのかな。魔王が弱気だったら従うこっちも大丈夫なのかと不安になるし、それなら傲慢でいてくれた方が安心できる。
だから、魔王は傲慢でいるのかな。
もしそうだとしたら……たしかに魔王は真面目で義理堅い頑張り屋なのかもしれない。
「……なんだ。人のことをジロジロ見て」
「んーん、なんでもないよ」
心の内は本人にしか分からない。
私の予想が間違っている可能性もあるし、当たっている可能性もある。
でも本心がどうであれ、そんな魔王を慕っている人達がいるのは紛れも無い事実なんだ。
今まで、魔王ってものには最悪な印象しかなかった。
それは当然だ。人間は敵のことを良く言わない。死霊術士もそれは例外じゃなくて、小さい頃に読んでいた絵本はどれも、勇者や英雄が仲間と協力して魔王を倒す物語だった。
『魔王は悪い奴』
純粋だった時からそう教わってきた人間にとって、それは常識なんだ。
それが正しいのかは……分からない。
確かに魔王は人間にとっての絶対悪だ。
でも、それは魔王側も同じことが言える。「人間は魔族にとっての悪で、敵なのだ」と。
だから、どっちが悪か……なんて問題はどうでもいい。
私の望みは、エレシアとの永遠を過ごせる場所。
それが叶うのであれば、協力者が人間だろうが魔族だろうが関係ない。私は──私とエレシアのために。それだけが私の行動理由だから。




