表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/445

五大国と神託の十三騎士【六】


『アレン=ロードル』対フー、ドドリエル。

 国同士のぶつかり合いに匹敵するこの戦いは――フーが先手を取った。


「――風絶封陣(ふうぜつほうじん)ッ!」


 彼が細剣(さいけん)を振り下ろした瞬間、アレンの四方から圧縮された突風が放たれた。


 恐ろしく出の早い、風の斬撃が四つ。

 並大抵の剣士ならば、即死するほどの一撃だ。


(最高最速の風絶封陣……っ! さぁ、どう出る……っ!?)


 フーは油断なく追撃の構えを取り、アレンの次の動きを待った。


 しかし、


「あ゛ぁ……?」


 彼は迫り来る風の斬撃を視認しながら、何故かその場を動かなった。


 そのコンマ数秒後、恐るべき威力を秘めた四つの斬撃が直撃した。


 耳をつんざく破砕音と共に砂煙が巻き上がる。


「……あ、当たっ、た?」


 予想外の結果に目を丸くしたフーはその直後、驚愕のあまり一歩後ろへたじろいだ。


「ば、馬鹿な……っ!?」


 砂煙が晴れるとそこには、無傷のアレンが凶悪な笑みを浮かべていた。


「――ぷっ、ぎゃはははははっ! なんだぁ、このぬりぃ風はよぉ!? 『氷遊び』の次は『風遊び』かぁ?」


 シドーとの戦いを思い出した彼は、楽し気に肩を揺らす。


「くくく、全くてめぇらはよぉ……っ! ――俺のこと舐めてんのか、あ゛ぁ!?」


 先ほどまで大笑いしていたアレンは、一転して身震いするような怒気を放つ。


(く、来るか……っ!)


 フーが全神経を集中し、彼の一挙一動に刮目(かつもく)した次の瞬間。


「……は?」


 目と鼻の先に――左拳を大きく振り上げたアレンの姿があった。


「お゛らぁ……っ!」


 思わず目を覆いたくなるような左ストレート。


「ふ、風衝壁(ふうしょうへき)ッ!」


 フーは咄嗟に風を圧縮した不可視の盾を展開した。

 強力な外向きの風の集合体であるこれは、物理攻撃に対して絶対の効果を発揮する。


 だが、


「薄っぺらい盾だなぁ……っ! やる気あんのかぁ゛!?」


 アレンの拳は軽々と風衝壁を叩き割り、フーの腹部へ深々と突き刺さった。


「が、ふ……っ!?」


 骨の砕ける鈍い音が響き、彼はまるでボールのように高く遠くへ飛ばされた。


「はっはぁ゛っ! よぅく飛ぶじゃねぇかぁ!」


 戦闘中にもかかわらず、アレンは悠長にそれを見ながら上機嫌に笑った。


 そこへ、


「――死ね、暗黒の影(ダーク・シャドウ)ッ!」


 ドドリエルの放った二十の触手が殺到した。


 触れるだけで皮膚を(えぐ)る影の連撃は――全弾アレンに命中した。


「……やったかぁ?」


 ドドリエルが唇を歪ませたそのとき、背後から笑い声が聞こえた。


「――くくっ。誰が、誰をやったってぇ?」


「なっ!?」


 慌てて振り返った彼の脇腹に――強烈な中段蹴りがめり込んだ。


「~~っ!?」


 かつて経験したことのない衝撃。

 ドドリエルは受け身も取れず、地面を何度もバウンドした。


「はぁ゛……? おぃおぃ、もう終わりかぁ……?」


 国家戦力級とさえ言われる神託の十三騎士、フー=ルドラス。

 次の十三騎士筆頭と評判の剣士、ドドリエル=バートン。


 その両者を一撃で仕留めたアレンは、大きなため息をつく。


 そして――。


「さてとぉ……次はお前らかぁ?」


 今の『蹂躙劇(じゅうりんげき)』をただ呆然と見ていた黒の組織の残党。

 次の玩具(おもちゃ)として、彼らに目を付けた。


「「「……っ」」」


 あまりの恐怖に言葉を失った彼らは――その場に崩れ落ちる者、静かに涙を流す者、泡を吹いて意識を手放す者、と様々な反応を示す。


「ぎゃはははっ! そう怯えんじゃねぇよ、なぁ゛? こちとら久々の『外の世界』なんだ。ちょっと(・・・・)した(・・)リハビリ(・・・・)に付き合ってくれても、バチは当たらねぇだろぉ?」


 今の激闘を軽いリハビリと言い放ったアレンへ――殺気の籠った突風が放たれた。


「……あぁ゛?」


 明らかに人為的な風を軽く受け流した彼は、その発生源に目を向けた。


 するとそこには、


「――化物よ。まだ、終わってはいないぞ……っ」


「アレェン……っ。君には絶対、負けないよぉ……っ!」


 先ほど受けたダメージから全快し、不安定(・・・)()魂装(・・)を握るフーとドドリエルの姿があった。


「お゛っ、まだ立てんのかぁ? 少しはマシな玩具じゃねぇか!」


 アレンは、目の前に置かれた壊れかけの玩具を少し見直した。


 そんな中、フーとドドリエルは小声で密談を交わす。


「お前は二個目(・・・)だろう……? ……やれるか、ドドリエル?」


「あ、はぁ……っ。正直、やりたくないねぇ……っ」


 先ほど瀕死の重傷を負った二人は、特製の霊晶丸を口にした。

 幹部とそれに近しい一部の者にのみ配られる最高品質の一品。

 これは数々の実験により、副作用を抑え、自己治癒能力を高めることに成功したものだ。


 しかし、その許容量は一日一個。

 それ以上は壮絶な痛みが全身を駆け巡り、まともに立つことすらできなくなる。


「ふっ……同感だな。今すぐ逃げ出したいところだが……。あの化物が見逃すわけがない」


 そうして戦う覚悟を決めたフーは、ドドリエルに指示を下す。


「あの馬鹿げた身体能力、接近戦で勝ち目はない。全霊力を注ぎ込んだ、最強の遠距離攻撃で葬るぞ……っ!」


「了解ぃ……っ!」


 その直後、二人は同時に渾身の一撃を放つ。


「――風覇絶刃(ふうはぜつじん)ッ!」


「――影の虚撃(シャドウ・ファントム)ッ!」


 全てを飲み込む『影』の濁流。

 全てを断ち切る『風』の刃。


 千刃学院を更地にするほどの攻撃に晒されたアレンは――首を傾げていた。


「あ゛ぁー……。クソガキの(・・・・・)アレ(・・)、何て言うんだっけか……?」


 そして――。


「お゛っ、そうだそうだ。確か……一の太刀――飛影」


 彼がそう言って、黒剣を振り下ろした次の瞬間。


 全てを無に帰す漆黒の『闇』が、フーとドドリエルの全身全霊の一撃を飲み込んだ。


「こ、ここまでとは……っ」


「……ははっ、終わった」


 闇は一瞬にして二人を飲み込み――千刃学院に静寂が降りた。


「――ぎゃっはははははははっ! お゛ぃお゛ぃ、軽く振っただけだぞ!? もぉ死んじまったってのかぁ、え゛ぇ!?」


 大笑いするアレンの背後に――血まみれのフーが降り立つ。

 全身に風を纏って天高く飛び上がった彼は、寸でのところで迫り来る闇を回避していたのだ。


()った――風覇絶剣(ふうはぜっけん)ッ!」


 ありったけの霊力を注ぎ込んだ究極の一振り――風覇絶剣。


 完璧な間合い。

 完璧なタイミング。

 完璧な狙い。


 アレンを殺すため。

 ただそのために練り上げた至高の一撃は――アレンが無造作に垂れ流す『闇の衣』を貫けなかった。


「ふっ……硬い、な」


 戦意を叩き折られたフーは、もはや笑うことしかできなかった。


「ったく……チャンバラじゃねぇんだぜぇ? ちゃんとやってくれぇよ、なぁ゛?」


 気軽に放たれた前蹴りが、フーの胸部を粉砕した。

 大きく真後ろへ吹き飛びながら、彼は力の差というものを認識する。


(はは、なんだこの化物は……。いったいどこから来たんだ……?)


 逆立ちしても勝てない。

 圧倒的な『差』をまざまざと見せつけられた彼は――二個目の霊晶丸を口にした。


(……っ)


 全身の血管が(きし)むような、凄まじい激痛が走る。


(さすがに二個目は、キツイな……っ)


 フーは気が遠くなるほどの痛みを(こら)え、部下たちへ命令を飛ばした。


「――撤退だ! 対象『アレン=ロードル』を『特一級戦力』に認定! 幻霊以上の脅威とする! 各員、なんとしても生き延び、この情報を本部へ持ち帰れっ!」


「「「はっ!」」」


 背後に控える彼らが返事をしたそのとき――黒剣が(・・・)飛んだ(・・・)


「……なっ!?」


 その直後、オーレストの街全体に響くほどの轟音が鳴り響き――百を超える黒の組織の残党は、たった一撃で全滅した。


 校庭に空いた底なしの穴をただ呆然と見つめるフーに対し、


「お゛ぃお゛ぃ……誰に言ってんだ、それ? 独り言にしちゃぁ、ずいぶんとでけぇ声だなぁ……え゛ぇ?」


 二本目の(・・・・)黒剣(・・)を手にしたアレンは、意地の悪い笑み浮かべた。


「……アレン=ロードル、か。ふふっ、こんな化物がいると知っていたら……。こんな仕事、絶対に引き受け無かっ……が、はっ!?」


 剣を捨て敗北を認めたフーの顔面に右ストレートが刺さった。

 凄惨な音が響き渡り、彼の意識は暗い闇の底へと沈む。


 そうしてなんら手こずることなく、国家戦力級の剣士二人を同時に薙ぎ払ったアレンは――強い物足りなさを感じていた。


「あ゛ーぁ……っ。全く、準備運動にもなりゃしねぇじゃねぇか……っ」


 そう言って舌打ちをしながら、大きく伸びをした次の瞬間。


 彼の眼前に千刃学院の理事長レイア=ラスノートが現れた。


 ほんの一分前にこの場へ到着した彼女は、ずっと『機』を見計らっていた。

 傲慢で自信家の『アレン=ロードル』が、見せるであろう『大きな隙』を。


無刀(むとう)流――(ぜつ)ッ!」


 狙いすました正拳突きは――虚しくも空を切った。


(私の拳を……っ。この距離、このタイミングで避ける、だと……っ!?)


 絶好の機を逃した彼女が青ざめたそのとき。


「――よぉ、黒拳。調子はどぉだ? ……え゛ぇ?」


 レイアの背後から、絶望的な声が掛かった。

 霊核が持つ唯一の弱点『初期硬直』を逃した彼女に、そもそも勝ち目など無かった。


「……おかげさまで最悪だよ。……どうやって『あの中』から出てきた?」


「ははっ、まぁ成り行きさ。運がよかったんだ……よっ!」


 アレンはつい先ほど見たレイアの正拳突き、無刀流――絶を完璧にコピーした。


「か、は……っ!?」


 音を置き去りにしたその一撃は、彼女の肋骨を砕く。


 そうしてレイアを軽く一蹴したアレンは、踵を返した。


「く、ま、待て……っ!」


 彼女は血反吐を吐きながら、なんとか立ち上がる。


「てめぇとくだらねぇ話をしてる時間は無ぇんだよ。もうじきに起き(・・)やがる(・・・)からな……。クソガキのことなら、心配すんな。そのうち返してやるさ」


 そう言ってアレンは、千刃学院から姿を消したのだった。



 人里離れた山奥。

 一人の老爺が、鼻歌まじりに釣りを楽しんでいた。


「ひょほほ、大漁大漁! 今晩はごちそうじゃのぉ……っ!」


 そこへ――今しがたひと暴れしてきたアレンが姿を見せた。


「よぅ、糞ジジイ。えらく半端な(・・・)仕事(・・)してくれたじゃねぇか……えぇ゛?」


「ひょ、ひょほほ……っ。ま、まぁまぁそう怒ってくれるな……っ。儂も『アレン=ロードル』が、ここまでの剣士だとは計算外じゃった……っ!」


「ちっ、んなこたどうでもいいんだよ。それよりおら、時間が無ぇ――さっさと始めんぞ」


「ひょほほ……っ! 承知した!」


 アレン=ロードルと時の仙人――二人だけの『時を超えた作戦会議』が始まったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ