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「…………っと」

 鳥が穴から飛び出して直ぐに俺は飛び降りた。出来るだけ乗らずに酔わないように注意を払った結果だ。

 幸い、ラミアはここからでも見える場所で進行を止めている。巨大な体は木々の合間からでも存在感を放っており、炎や水、雷に氷の魔法をその身に受けているのが確認出来た。プレイヤーが必死になって仕留めようとしているのだろう。そして、ラミアの方もプレイヤーが目障りらしく、律儀に立ち止まって反撃している。

 ラミアの反撃は闇属性の攻撃魔法と水属性の攻撃魔法。またそのデカい胴体を使った薙ぎ払いに押し潰し、両手での払い除けに意思があるように動く髪での攻撃。流石に即死攻撃の丸呑みは使用しないようで、それが救いだった。もし、セレリルとかと同じように使っていたら舌で絡め取る以外に両腕を使えるので即死者が多数出ていただろうな。

 プレイヤーは地上で応戦している者も当然いるだろうが、枝の上もしくは鳥に乗りながら攻撃を仕掛けている者もいるようだ。この戦闘限定で【鳥のオカリナ】で呼んだ鳥に乗りながら攻撃を仕掛ける事が出来るようで、これにより真上から矢を放ったり、首筋を剣で切り付けたり出来るようになっている。

 枝の上で攻撃する利点は安定した足場でしっかりと狙いを定める事が出来る。反面移動に制限があるのでラミアの攻撃を避けにくい。鳥はその逆。足場が不安定……と言うよりも足を着いていないので体重移動があまり出来ず武器主体ではそこまでダメージが期待出来ない。だが、常に動き続けられるので攻撃を喰らう事があまりなく、様々な方向からの攻撃が出来る。

 あれだけデカいのだから、ラミアには面白いくらいに攻撃が当たり続けている。あいつの放つ魔法は大きいが、鳥に乗っていれば大方回避が出来ており、欲を張らずに攻撃したら即退避とやっていればダメージを受ける事は無いように見える。

 ただ……いくら攻撃してもラミアの生命力が減っているように見えない。いや、ダメージは与えているんだろうが、それら一つ一つが微々たるものでほんの僅かにしか減ってない気がする。

 攻め続ければ勝てる気はするんだが、それでも時間が掛かりまくるだろう。そして、生命力が一定数減ったら攻撃パターンが変わると言う事も考えられる。大抵のゲームでのボスはそんな仕様だから、恐らくSTOでもそれを採用していると思う。

 俺達に掛けられている【縮小化】の呪いが解けていればそれこそ袋叩きにして勝つ事が出来そうだが、生憎と継続されている。恐らく現在【縮小化】の呪いは十晶石の魔力を吸収したラミアによって付加されているのだろう。だから俺達は小さいままだ。

「…………おい、お前」

 と、鳥に乗ったままのカウロが俺に声を掛けてくる。

「何だ?」

「名前は何と言う?」

「オウカ」

 そう言えば、まだ名前を名乗っていなかったな。別にそんな必要性が無かったから言わなかっただけだが訊かれたので素直に答える。

「オウカ、か。オウカ。頼みがある。スケアリーアングールへと俺を連れて行ってくれ」

「何する気だ?」

「あいつの体に俺と繋がるパスを作る。そこから幻塊から吸収した魔力を奪って弱体化させる」

「そんな事出来るのか?」

「あぁ。そして、魔力を奪うのはまだ馴染んでいない今を狙うしかない。今ならまだ、俺との方が馴染んでいるからこちらに流れ込む筈だ」

「そうか」

「ただ、パスを繋ぐにはあいつの額に触れないといけないがな。あいつの魔力はあそこに集まっているようだからな」

 魔力を奪う為のパス、か。そう言えばカウロは【妖精の十晶石】から【十晶石の幻塊】へと魔力を流すようにパスを引いた。だからカウロが自分とラミアにパスを引く事も出来るのだろうな。

「因みに、【妖精の十晶石】に直接魔力を戻す事は?」

「出来ない。一度パスを繋いでしまった対象に再度パスを繋ぐにはかなりの時間を要する。十晶石は幻塊とパスを繋いだからあと一週間はパスを繋ぐ事が出来ない」

 無理、か。だからフラトの魔力が混ざっている【妖精の十晶石】の魔力を引き寄せるには長い間それを僅かに体内に残していたカウロにパスを繋ぐのが必要になると言う訳か。

 カウロのやろうとしている事は分かった。しかし、俺に頼む事ではない気がしてならない。

「あと、別に俺に頼まなくても鳥に飛んでって貰えばそれで済むだろ」

「……それも、そうだな」

「鳥、いいよな?」

「ピー」

 一鳴きして了承する鳥。これでカウロがラミアにパスを繋ぎやすくなったな。そして魔力を奪って弱体化させれば倒すのも簡単になっていく。

「じゃあ、俺は陸路行ってサポートするか」

「オウカは乗らないのか?」

「乗ったら酔って戦闘不能になる。お前はさっきまでの俺を見てただろ」

「……あれは酔ってたのか」

 カウロは同情するような目を向けてくる。正直言えば、お前の所為でもあったんだからなあれは。お前の傀儡を倒す為に腹くくってジェットコースターに乗って轢き逃げアタックをかました……筈だ。

 でも、地上でサポートするのは大体が攻撃して意識を逸らすくらいしか出来なくないか? しかも、今の俺は包丁もフライパンも所持していないから蹴りオンリー。俺なんかよりもきちんと装備を整えているプレイヤーよりもサポート出来る自身も無い。

 正直、このラミアとの戦闘に置いて、俺は荷物以外の何者でもないんじゃないか? 俺より未だに鳥に乗ったままのリトシーとリークの方がサポートに向いている。

 万が一に備えて、リトシーとリークは鳥に乗せたままの方がいいかもしれない。

「リトシー、リーク。こいつと一緒に乗ってて欲しんだがいいか? 今回はこいつがやられると恐らくヤバい事になるから、そうならないようにサポートして欲しい」

「「しー」」

 リトシー達は了承してくれた。

「なら、行ってくれ」

 俺が鳥の横腹を軽く叩くと、力強くはばたいて飛んで行く。

 さて、俺は俺なりに頑張るとするか。

 普通に地面に立ったまま攻撃しても絶対意識をカウロから逸らす事は出来ない。今のラミアはプレイヤーの攻撃に鬱陶しさを感じているが、自分の眼前までやってきた奴を放っておきはしないだろう。

 だから、少しでも気を逸らさないとな。

 普通ではなく、何かするか。勿論、搖動は地上からよりも空中でウザったく動きまくった方が有効的なんだが、何かいい案は無いか?

「…………………………あ」

 腕を組んで思案していたら、思いついた。

 しかし、これはちょっとサクラとアケビに頼んでみるしかないな。

 俺はパーティーチャットを使用してサクラとアケビに同時に通話をする。

『オウカさん、もう大丈夫なんですか?』

『何かあった?』

「ちょっと、二人に頼みがあるんだが」

 俺は簡潔に説明する。

「……と言う訳で、協力してくれないか?」

『『…………』』

 何故か無言の二人。

「駄目か?」

『いや、駄目ではないんですが』

『そんな事出来るの?』

「三角跳びの応用で出来るだろ」

『『…………』』

 また無言になる二人。俺は可笑しい事言ったか?

『……出来るなら、いいですけど。今何処ですか?』

「ラミアの真後ろから少し距離が離れている」

『分かりました。今から向かいます』

『くれぐれも、落ちないようにね』

 呆れ気味の二人はそう言うと通話を終了させた。どうやら、協力してくれるそうだ。

 通話終了後、俺は走ってラミアへと近付いて行く。近付いて行く毎にラミアの体の大きさが異常だと思える。まるで蟻とライオン……は言い過ぎだと思うが蟻と猫くらいの違いはある。

「オウカさんっ」

 ある程度近付くと、上から誰も乗せてない鳥とサクラとアケビ、きまいらを乗せた鳥が降りてきた。そう言えば、サクラはアケビの鳥に乗って行ったんだったな。フレニアも付き添うように高度を下げる。

 サクラは降りると、そのまま誰も乗ってない鳥に乗り換える。

「本当、悪いな」

 そう言いながら、俺もサクラの乗った鳥の背中に攀じ登り、両足で立つ。悪いとは鳥達にも向けて言った。何せ、何度か痛い思いをしてしまうからな。

「「ピー」」

 だが、それでも鳥二羽は気にするなと言わんばかりに鳴いてくれた……と思う。もしかしたら終わったら何か御馳走しろよと言ったのかもしれない。まぁ、終わったらカリカリビーワスフレークを迷惑料としてあげようと思っているが。

「じゃあ、頼むぞ」

 俺はしゃがみ込み、足に力を溜める。その間に、アケビときまいらを乗せた鳥が先にはばたいて飛んで行く。

「オウカさん、落ちないように気を付けて下さい」

 サクラの心配に頷き返し、そのまま鳥の背中を蹴って宙に躍り出る。俺が跳んだ先にはアケビを乗せた鳥の背中。

 その背中に着地すると直ぐに蹴り、また宙へと跳ぶ。そして先回りしたサクラの乗った鳥の背中に一瞬だけ乗り、また跳ぶ。それを繰り返しながらラミアへと向かって行く。

 こうすれば、酔う事も無く空中にいる事が出来る。流石に安定性はないが、要よりはマシだ。

 また、現実よりも跳べているのは俺が跳ぶ瞬間に合わせて鳥達が背中で反動をつけてくれているからだ。こればかりは俺が頼んだのではなく、鳥達が自らの意思でやってくれている。この御蔭で俺は予想以上に速く上へと目指し、速く前方へと向かう事が出来ている。

 跳ぶ毎に体力が減っていくが、サクラとアケビが料理アイテムを使用してくれているので体力切れの心配はない。

 鳥達の背中を交互に蹴って空中散歩をしながら、ラミアの眼前までやってきた。そこには既にカウロを乗せた鳥がいたが、うごめく髪の攻撃を避けるのに必死で近付けずにいた。

 俺は少しでも意識を逸らす為に一度ラミアの頭上へと向かい、脳天目掛けて【蹴流星】を放つ。サクラの鳥の背中の上で発動し、真っ直ぐとラミアの脳天へと蹴りが落ちていく。

「ぬっ?」

 髪がクッションになり、あまり有効打は与えられなかったが、意識が少しだけ俺に向いた。スキルアーツ終了間際の動作で後方に跳び、丁度良くそこに来てくれたアケビを乗せた鳥の背中へと着地し、直ぐに跳ぶ。

「また小賢しい奴が現れたか」

 ラミアは俺を斜に見据えると、髪の毛の一部を俺に向けて伸ばしてくる。

 俺はそれを何度も跳んで回避していく。回避する際にサクラとアケビにも危ない目に遭わせてしまっているので、出来るだけ二人を乗せている鳥に当たらない方へと跳んで避け、髪には触れないようにする。

「水よ、我が言葉により形を成し、彼の敵を撃ち抜けっ!【ウォーターシュート】!」

「ぐるらぅ!」

 サクラときまいらも魔法を発動させ、出来るだけ意識をカウロから逸らすように攻撃し続ける。

「チィ、ちょこまかと」

 目の前で動き続ければ目障りだ。段々と苛々してきたラミアは俺に向けて伸ばす髪の量を増やした。これでまた少しカウロに向けられる意識が減ったが、その分避ける苦労が増えた。

 それでも避け続けたが、段々と増えてく髪が掠り始める。掠る度に髪が巻き戻り、俺を絡め取ろうとしてきたがそれよりも速く上昇していた為今の所は捕まらずにいるが、時間の問題かもしれない。

「オウカさん! 後ろです!」

 不意に、サクラが俺の名前を叫ぶ。空中で振り返るのと同時に、俺は背後から近づいていた髪の毛に捕まってしまう。まさか、回り込ませていたとは思わなかった。

「このまま締め殺してやろう」

 身動き出来ない俺はそのまま締め付けられ、生命力を減らされていく。不味い、このままだと為す術もなくやられる。

 そう思った時だった。

「「「「「ファイヤーッ!」」」」」

 五色の光が突如現れ、俺を締め付ける髪の毛を消失させた。

 締め付けが無くなり、それによって俺を支えるものも同時に無くなって地面に落ちていく。

「逃がすかっ」

 落下していく俺にラミアは髪の毛を伸ばして再度捕まえようとする。

「オウカっ!」

 が、それよりも速く、何時の間に近くに来ていたのだろうか? ツバキが手を伸ばして俺の手を掴んで振り子のように大きく振り遠くへと飛ばす。

「変な事するんだね」

 飛ばされた先にいたのはカエデ。カエデも手を伸ばしていたので俺はその手を掴み、同様に遠くへと向かって迫り来る髪の追撃を振り切ろうとする。

「オウカくんは一体何をやってるんだ?」

「さぁ? 物凄くハチャメチャですね」

「まぁ、何か意味があると思うけどさ」

「でしたら、ワタクシ達も手助けをしますわ」

「……人は、助け合いで生きてる」

 呆れ気味のサモレッドの乗る鳥の背中に乗り、次にサモブルー、サモイエロー、サモマリン、サモ緑の乗る鳥へと跳び移っていく。あの五色の光はサモレンジャーの【オーロラブレイク】だったのだろう。あれの御蔭で俺は脱出出来た。

「ありがとう」

 俺は跳び移りながらも礼を述べて行った。

 次に向かう先はアケビの乗る鳥。

「……そろそろ、いい頃合?」

「かもな」

 いい具合にラミアの意識が俺達に向いている。そろそろ、大丈夫な筈だ。

 背中を蹴り、次にサクラの乗る鳥へと向かう。

「……無茶し過ぎですよ」

「そうか?」

「そうですよ」

 サクラは少し呆れ気味に、だが大部分は心配そうに俺にそう言ってくる。

「まぁ、もうすぐ終わるだろ」

 俺はまた【蹴流星】を発動させる。

「喰らえっ」

「目障りだっ!」

 降下しながらとラミアの頂点へと向かって行く俺を捕まえようと大部分の髪を集結させて一気に伸ばしてくる。足と髪はぶつかり、そのまま俺の全身を包み隠し、一気に締め付けてくる。


『スキルアーツの再現に失敗しました』


 行動が封じられた事によりスキルアーツ再現が失敗し、体力が0に、生命力が二割減る。

「ははははっ! 今度こそ、一気に締め殺してくれよう!」

 生命力がみるみる減っていくが、俺は役目を果たしただろう。

「十晶石の――フラトの魔力は返して貰うぞ」

 そんな声が聞こえたのと同時に、髪の力は緩み、俺は解放された。


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