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 結論から言えば、ツバキとカエデも【楽しいお菓子作り!】のクエストを受ける事が出来た。どうやら蜂蜜を届けたパーティーの紹介では即こちらのクエストを受ける事が可能らしい。

 中層の保育施設へと向かう際中、俺は囲まれ……はしたがフレニアが後ろ、リトシーとリークが前できまいらとツバキが横、と言う風に変わっていた。

 サクラ、アケビ、カエデの女性陣は三人固まってフレニアの後ろの方で話をしていて、所謂女子トークと言うのでもしていたのだろう。その代わり、こちらもツバキと男子トーク、もとい世間話を交わした。

 ツバキはどうやらカエデに誘われてSTOを始めたようで、【初級料理】のスキルを習得しているのは単純にこれから一人暮らしを始めるから少しでも料理に慣れる為、だそうだ。料理は菓子くらいしか作った事が無いらしい。

 二人のクエスト受託も完了し、俺達は武器の装備を外して保育施設の広場へと向かう。そこには大体四歳から六歳くらいの子供達がわいわいと座って喋っていたり駆け回っていたりした。全員に挨拶してから調理室へと移動。その際に子供達に質問をされたり、肩車をお願いされたりと色々あった。

 子供は全部で十八人で、それぞれ子供五~七人の三班に分かれての菓子作りとなった。班は俺とツバキの率いるわんぱく組、サクラ、アケビ、カエデが担当するおとなしい組、保育施設の女性――スモとまさかの俺達のパートナー、召喚獣が責任者を務める班分けとなった。

 なんでも、スモの班には人見知りの激しい子達で構成されているようで、知らない人と組むと泣き出したり動きが固まったりしてしまうそうだ。なので俺達ではなくファンシーなパートナー、召喚獣があてがわれた。今では彼等は子供達のいい玩具になっているが、案外嫌でもないらしく、流石に痛い事をされれば怒るがそれ以外では気前よく反応を返している。

 ただ、このパートナーと召喚獣の中にカエデの召喚獣はいない。カエデが【サモナー】だと教えてくれたツバキ曰く『この場に似つかわしくない姿だからさ』との事。【縮小化】の呪いを受けていても不気味さ満点の外見らしい。子供達が泣き出してしまうかもしれないから、妥当な判断だ。

 また、サクラはどうやら子供に対しては人見知りを発動する事は無いようで、俺達パーティーメンバーに接するように自然と振舞っている。ただし、同じ班のカエデにはこそこそしている。極端だな。

 今回作るのは蜂蜜を使ったクッキー。確か蜂蜜を使うと生地が固くなってしまうので、そこら辺は色々と工夫をしないといけない、と母から訊いた事はある。

 班分け終了後、それぞれの調理台に集まり、スモの説明と注意事項を全員で訊いて各班の責任者の代表――ジャンケンによって俺になった――が手順の書かれた紙を貰い、菓子作り開始となった。

「さぁ、あっちに負けない旨いクッキーを作るぞー!」

「「「「「おー!」」」」」

 ツバキの掛け声と共に俺達の班の子供五人は元気よく手を上げて意気込みを伝えてくる。因みにもう手は洗い終わっているので直ぐに調理が始められる。

「まずは溶かしバターに砂糖加えるんだっけか?」

「そうだ」

 ツバキの問いに俺は頷く。今回は蜂蜜百パーセントのものではなく、砂糖も加えて生地があまり固くなり過ぎないようにするらしい。他にも、注意事項として混ぜすぎないようにとも言われた。混ぜ過ぎると固くなるそうだ。

「よっし! 混ぜるぞ!」

「「「「「はぁーい!」」」」」

 ボウルは全部で五つあり、子供達全員が一つずつ混ぜる事が出来る。俺達は子供達のフォローと言う立ち回りとなっている。なので、サクラとアケビもこれならあまり気負わずに出来るだろうと思う。子供達はそのまま立ったのでは調理台に届かないので台に乗って高さを調整している。

「ほら、もう少し優しくやらないと飛び散るぞ」

 叩き付けるように泡立て器でバターと砂糖を混ぜている子供の手を取り、少し誘導しながら混ぜ合わせていく。ただ、それでも一気に混ぜたいらしく俺の誘導よりも早く手を動かしていく。

「混ぜる時はな、こうするといいぞ!」

 反対にツバキは子供の手に自分御手を添えて高速で泡立て器を回していく。飛び散らないように加減はされているので、調理台に被害は出ていない。高速で混ぜてバターと砂糖が混ざって色が変わっていく様が、どうやら子供達に受けたようて全員の視線がそちらに向く。

「おうかー、あたちもあーやりたいー」

「はいはい」

「つばきー、ぼくもー」

「おぅ!」

 何度か子供達に呼ばれて混ぜるのを手伝っていく。ふと、視線を他の班に向けて見る。サクラ達の所はあまり騒がずに、談笑しながら楽しくやってっている。スモの班も静かにだが、隣りにいるリトシー達の応援等でやる気は向上しているように見受けられる。

「次はこれに卵と蜂蜜を加えていく、と」

 調理台の真ん中に置かれている卵、蜂蜜が入ったボウルがそれぞれ五つずつ。子供達の手が届かない場所に置いてあったのでひっくり返って大惨事になるという事態にはなっていない。

 まず卵のボウルを俺達が手に取って、順番にバターと砂糖を合わせたボウルの中に投入していく。

「さぁ! 混ぜ混ぜタイムだ!」

 ツバキの掛け声で全員が泡立て器を持って荒ぶり始める。先程の影響か、高速で混ぜ合わせ、跳ね散らかしていく。このままじゃ小麦粉を投入する前に無くなると思い、俺がもう少しゆっくりやるようにお願いする。勿論理由も付けてだ。子供達も流石に食べられなくなるのは困るといった顔をして、俺の言う事を訊いてくれた。

 ただ、その代わり不満が顔に現れてしまっているが。そこまで速く混ぜたかったのか。蜂蜜も投入して混ぜ終わると次は小麦粉を入れる段階だ。既に篩には掛けられているそうでこのまま投入可能だ。

 俺とツバキで順々に入れていく。

「さぁ、次は手を使ってこねこねするぞ!」

 ツバキが隣りの子供のボウルを借りると手本を見せていく。

「こうやって、粘土で遊ぶようにこねこねするんだ!」

 ボウルを返して、子供達のターン。ツバキがある程度混ぜた生地では大丈夫だったが、それ以外では張り手をかますようにして小麦粉をバフッとぶちまけて顔面にダイレクトアタックを受けた。因みにダメージは0。

 そんな小麦粉まみれの互いの顔を見て子供達は笑っている。まぁ、楽しんでいるなら問題はないか? ただ、あまり楽し過ぎて小麦粉全部をぶちまけられるとクッキーが作れなくなるので俺とツバキで生地を混ぜる方が楽しいと興味が向くように誘導して意識を逸らす事に成功させる。

 ある程度まとまるとボウルから取り出して調理台の上でこねくり回す作業に入る。その最中に子供達の集中力切れとツバキの提案で本当に粘土のようにして遊び始める。鳥やリスの形にしたり、スモの顔を再現したりしていた。俺やツバキの顔を作ってくれた子供もいて嬉しかった。

 ……ただ、これによってこね過ぎた感があるのだが気にしない方向にしよう。売り物として作るのではなく自分達で食べるお菓子を作るのだから皆で楽しんでやった方がいいので水を差すような真似は今回はしない。

 完成したクッキー生地は一度冷蔵庫で寝かした方が型を取りやすいので、冷蔵庫にそれぞれの班ごとに作った生地を二十分仕舞う。この冷蔵庫は電力で動いている訳ではなく、なんと【十晶石の力片】を組み込み、氷属性の魔力を利用して物を冷やす仕組みになっているらしい。随分と便利だな【妖精の十晶石】の力は。

 寝かしている間に子供達は待ちきれなくて俺とツバキであまり暴れない遊びをして時間を潰す。他の班よりも賑やかだ。賑やか過ぎなのかもしれないが、子供は大体そう言うもんだ。

 二十分経って冷蔵庫から生地を取り出し、麺棒で薄く延ばしていく。均一に伸ばし終わったら丸、星、四角、三角、ハートの金属型で型を取り、残った生地も丸めて伸ばして全て使い、一定間隔を開けて並べて余熱を入れていたオーブンに入れる。オーブンは六つあって、それぞれの班が二つずつ使用する。

 大体十分くらいで焼き色がついて、完成した。俺と子供一人が流石に目を光らせていたので焦がす事はなかった。黒焦げでない事に俺とその子はハイタッチを躱す。その間他の子供はツバキと一緒に調理器具を洗う。

 他の班も焦がす事無く完成しているようだった。その様子にサクラとアケビが心底安堵してほっと胸を撫で下ろしていた。そこまで不安だったのか。

 それぞれで作った分のクッキーを皿に移して、布巾で綺麗に拭いた調理台の上に置く。

「じゃあ、皆で作ったクッキーを食べてみましょうね」

 スモの言葉で、全員がいただきますを合唱し、手を伸ばして食べ始める。俺とツバキもあげるとお裾分けを貰って口に入れる。

 やはりこね過ぎて少し固くなっていたが、それでもバターと卵の御蔭でガッチガチにはなっておらず、蜂蜜の甘さが出ていて旨い。

「おいしー?」

「おぅ、旨いぞっ。なぁ?」

「あぁ」

 クッキーを分けてくれた子供の質問にツバキはにかっと笑って答える。俺も首肯する。すると、ひまわりのように笑顔を咲かせていく。

「つばきー、あげるー」

「おうかー、はい」

 他の子供達も俺とツバキにクッキーを渡してくる。一時間半くらいしか顔を合わせていないのに、結構打ち解けたな。肩車とか一緒に遊んだりクッキー作ったりしたのが影響したかな。

 ツバキと共に全員から一枚ずつクッキーを貰って旨いときちんと伝えると全員から笑みがこぼれ出す。

 その後はクッキーを頬張る子供達と話し、家に持って帰る分を残してこのクエストは終わりを告げる。が、子供達が一緒に遊ぼうと誘ってきたので広場に行って鬼ごっこやかくれんぼ、両手をしっかりと掴んでジャイアントスイングの要領でぐるぐる回したり等、体力の続く限り俺とツバキは子供達の相手をする。女性陣もパートナーの方も一緒に遊んでいるようだった。

 それから結構時間が経ち、全力で料理し、遊んで疲れたようで、まだ昼を食べていないが早めのお昼寝タイムとなる。子供達は現在布団の中ですやすやと眠っている。

「今日はありがとうございました」

 保育施設の前でスモが頭を下げて礼をしてくる。

「いえ、こちらこそ急にお邪魔して楽しい思いをさせて貰いました」

 カエデもきびきびした動作で礼を返す。

「何時でも遊びに来て下さい。子供達も喜びますんで」


『クエストを達成しました。

 ハビニーハニークッキー×5を報酬として受け取った。

 Point 522                  』


 手を振って見送ってくるスモに手を振り返しながら、俺達は保育施設を後にする。



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