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 森の中、進軍するアンデッド軍団との戦闘。

 プレイヤー連合(取り敢えず、そう呼称しておく)は一進一退の攻防を繰り広げている。

 実際、アンデッドの動きは遅いとは言っても俊敏性だけが失われているだけで、攻撃速度自体は変わっていないように見受けられる。油断をして重い一撃を受け、一発で死に戻りしたプレイヤーを開幕直前で目撃してしまった。そのプレイヤーはその後見ていない。

 最初は大まかに区画を分け、長期間組んできて連携がそつなく出来るパーティー単位で対応……しようという流れに傾いたのだが、ここで一つの問題が。

 気絶したり腰を抜かしたりしたプレイヤーは接近戦には不向きである。ゲーム内とは言えリアルな質感に匂いまで、果ては音とかも現実と遜色がないので戦場で即戦闘不能になり、お荷物となってしまう。

 なので、そう言った人を後ろの方へと集め前線で戦っている者への回復係、もしくは遠距離攻撃が出来るのならば援護射撃を打ち続ける係。モンスターの動きを阻害する補助係等に分けて対応。

 そうなるとパーティーによっては一人で接近戦を強いられてしまうプレイヤーも出て来てしまうので、大まかに前衛、中衛、後衛を緊急クエスト参加プレイヤー全体で決めてアンデッド軍団と戦っている。

 前衛は剣や格闘術などで近距離主体、そして耐久のあるタンカーのプレイヤー。中衛は遠距離攻撃が得意且つ、前衛の体力が回復するまで接近戦も可能となっているプレイヤー。後衛はアンデッドとかそう言ったグロいモンスターが生理的に駄目で接近戦闘で戦力外通告を受けた回復、補助、援護の役目を担うプレイヤー達となっている。

 俺のパーティーでは俺とアケビが前衛、フレニアときまいらが中衛、サクラとリトシーが後衛となっている。因みに迷子のギザ葉は中衛に位置している。

 俺とアケビは戦闘開始早々に別々の場所へと散って行き、現在何処にいるのかまでは把握できていない。一応、この緊急クエストに限りマップでプレイヤー側の位置が青、アンデッド側の位置が赤の斑点で表示されている。これによって何処の戦線が圧されているか、何処が比較的余裕があるか等の情報が収集可能だ。

 また、指揮を担当するプレイヤーに限り、マップで範囲を選択し、ボイスチャットを飛ばせるようになっているので情報は指揮プレイヤーにある程度頼る事が出来、戦闘に集中し、マップを開くような真似をしなくても済む。

 太陽が完全に隠された上空では恐らく矢が放たれ、魔法が飛び交っている事だろう。

 倒しても倒しても、数が一向に減らない。煙で視界が悪くなったこのフィールドでは無限に湧いているのではないか? と錯覚してしまう。エンドレスに続く戦闘は気が削がれていくだろうな。今の所、集中を切らす事はないが。

 また、この煙の効果か、十秒くらいで生命力が1減っていく。なので前衛はモンスターの攻撃を受けなくとも生命力の減り具合に目を配らなければならない。煙の範囲外に中衛と後衛がいるので、そいつらは生命力の減少はないだろう。

 俺は一度生命力と体力が二割を切ったので一度前線から外れ、全快してから戻ってきた。

「このっ」

 俺の周りにも何人かアンデッドを相手している。直ぐ隣りで戦っている悪態を吐く刀使いを傍目で見る。短い黒髪で日本人的だが水色の瞳が異彩を放っており、年の頃は同じくらいだろうと思われる男性プレイヤー。名前は知らない。戦い始めてから自己紹介とかはしてないからな。

「全く、数が多過ぎるだろ」

 刀を振り下ろし、アンデッド化したダヴォルを光に変えて消滅させる。倒した事に軽く息を吐く。その瞬間に光の陰からもう一体のダヴォルが飛び掛かっていく。

「やべっ――――」

 視界の悪さと一瞬の気の緩みが反応を鈍らせ、足を硬直させてしまったようだ。このままでは直撃を受けてしまうだろうと思い、目の前のアンデッドを屠り、即座にダヴォルの横っ腹に跳び蹴りを入れて進路を変更させる。

「サンキュな。助かった」

 刀使いは俺に礼を言うと、地面に転がったダヴォルを切り付けて光に帰す。その間に俺は目の前を歩くイワザルへと向かってフライパンで叩き潰す。

「にしても、お前って変わったの武器にしてんのな」

 と、俺の隣りに戻ってきた刀使いがそんな事を言ってくる。

「悪いか?」

「いやいや、悪かないさ」

 頭を振り、新たに現れたトレンキを切り付ける。

「ただ、こんなゾンビ軍団を相手にしている中でかなり異色を放ってるなぁと思っただけだっと」

 刀使いはトレンキが攻撃を開始するよりも素早く何撃も繰り出し、即行で倒した。そして後ろに控えていたイワザルを切り付けながら俺にこんな言葉を投げ掛けてくる。

「もしかして縛りプレイとかネタプレイでもしてんのか?」

 俺は直ぐにこう返した。

「してない」

「え……」

「何年も使い続けてきて馴染んでる武器だから、今の所使っているだけだ」

 結局の所、イベントをやっている今でも包丁とフライパンをメイン武器にしている。初めは慣れるまではこれらでと思っていたが、対応した隠れスキルも習得してしまっている。折角習得したスキルを無駄にするのもSLが勿体ないので、このまま使い続けた方がいいだろう。いや、それともイベントが終わったら心機一転してやはり別武器を試してみるか?

「……何か、変な人生でも送って来たのか?」

「初対面で失礼な事を言うな」

「いやだって、包丁とフライパンを武器として何年も使い続けてるって、一般人の生きる道じゃないだろ」

「お前はやんなかったのか?」

「何を?」

「姉弟と台所戦争」

「何だよそれ⁉」

「言葉のままだ」

「……ぜってー普通の人生送ってないよお前」

 遠い目をしながらそんな事を口にする刀使い。俺としては普通の人生を歩んでいると思うんだがな。ただまぁ、その普通と言う基準が人によって違うから、この刀使いからすれば俺の人生は変わっているのだろう。

「あんたら結構余裕だなオイ⁉」

 と、がっしりと筋肉質な体格の大剣使いがアンデッド化したトレンキの攻撃を受け止めながら叫んでいる。茶色の髪を後ろで束ねた強面の男性。こちらも名前なんて把握していない。

「そりゃ、気を緩めなけりゃ避けれる程度の攻撃だしな」

「確かに」

 互いに相手をしているチルアングール――蛇型のモンスター――がアンデッド化したモンスターの攻撃を避けてその際に切り付けながら会話を続ける。

「話しながらでもいけるって気付いたから、こんな調子でやり始めたってのもあるけどな。正直誰かと会話してないとこんなグロいモンスターとの連戦なんてしたくもない」

「俺は別にこいつらの容姿は気にならないがな」

「あ、そうなの?」

「ただ、感触が気持ち悪い」

「それは同感。何かねちゃずるっとする」

 そう言いながら刀をアンデッド化イワザルに振り下ろす刀使い。俺もバッドットの一匹を切り付ける。ずぶずぶと刃が沈み、粘液に塗れ微妙に滑りのよくなった刃がバナナを切ったような何とも言い難い感触を伝えてくる。

「普通そんな事言ってられる余裕ないだろ!」

 大剣使いは見た目通りに筋力と耐久が売りなようで、トレンキの攻撃はきっちりと大剣で受けている。避けようとするがそれよりも早く大剣でガードしてるし、敏捷はあまり高くないようだ。

「いやいや、雪原でも行ってみろ? 視界の悪い中で四方八方から襲い掛かられてくるからな? いやでも慣れるっての」

「まだ俺は北の森越えてねぇんだよ!」

「あ、そうなの? なら仕方ないか?」

 恐らく、雪原では結構吹雪いているのだろうな。未だに言った事が無いから憶測でしかないが。雪原エリアがある事はウィキで知った。確か北の森を抜けると一面銀世界らしい。この季節に雪が見れるのは稀なので、早いうちに行きたいものだな。

「まぁ、そんな訳で俺達はそこである程度鍛えられたからこうやって話せんだよ」

「俺はまだ北の森に行ってないぞ?」

「あれぇ?」

 誤解されていたようで即座に否定すると、刀使いは首を曲げて疑問符を浮かばせる。

「そんだけ動けてんならお前はてっきり雪原組かと思ってたんだけど」

「まだクルルの森と横穴くらいしか行ってない」

「……なら、その動きとかはリアル補正って奴か?」

「まぁ、これくらいなら現実でも出来るが」

 ただ、やはり動きは少し鈍い。ステータス下降が痛いな。本来ならもっとスムーズに行けそうなんだが……動きを工夫するべきか?

「マジかぁ……」

 刀使いは盛大に溜息を吐きながらチルアングールを屠っている。

「もしかして、見た目以上に歳食ってるとかか? あ、いや。これ訊くのはマナー違反だよな。悪い、訊かなかった事にしてくれ」

 こういったゲームの中でリアルの年齢や性別を訊くのはプライバシー云々、他にも色々と問題が生じてしまうので極力はしないようにと注意書きが為されていたな。

「別に気にしてない」

 そうは口にしたが、見た目以上に歳を食っているという誤解は解いておきたいな。高校生目前の歳な訳だし。

「あと、俺はまだ十五だ」

 そしたら普通に年齢を言っていた。

「え? あぁ、そうなの、か?」

 歯切れ悪く刀使いは微妙な相槌を打つ。まぁ、俺の言葉が本当かどうかなんて分からないからな。曖昧な反応にもなるか。

「こっちちょっと手伝ってくれませんねぇ⁉」

 と、トレンキを相手している大剣使いが大声を上げる。って、まだ倒してなかったのか。

「まだ倒してなかったのかよ」

 刀使いは呆れ混じりに俺と同じ感想を口にしている。

「手数が豊富な相手だと俺の場合は防御にしか回せねぇんだよ! 俺の大剣の振りの遅さ舐めんなぁ!」

「知るかっての」

 と言いつつ、刀使いは大剣使いを攻撃しているアンデッドトレンキを瞬殺する。

「取り敢えず、今後器用と敏捷上げとけよ」

「あぁそうしとくよ!」

 そう言いながら目の前に現れたダヴォルに向けて大剣を振り下ろして攻撃を仕掛けていく。が、動きが鈍くなっている筈のダヴォルは易々と避けてしまう。確かに、大剣を振り下ろす速度が遅いな。

「くそっ!」

「まぁ、頑張れ。危なくなったらフォローしてやるから」

 大剣の攻撃を避けたダヴォルに数撃切り付ける刀使い。

「そういや、そこの包丁とフライパンを使う奇妙なお前さ」

「何だ?」

「お前って【サモナー】? それとも【テイマー】?」

「唐突な質問だな。俺は【テイマー】だ」

「あ、マジで? 俺も【テイマー】だよ。そこの大剣使ってるのは?」

 今度はホッピー相手に攻撃が当たらずに地団太踏みそうになっている大剣使いに質問を投げつける。すると大剣使いは大口を開けながら声を発する。

「後にしろ!」

「了解。で、お前って……あぁ、名前訊いてなかったな」

「オウカだ」

「オウカね。俺はツバキ。よろしく」

「よろしく」

 ここにきてようやく自己紹介をする。互いにアンデッドモンスターを屠りながら会話を交わしていく。

「で、オウカのパートナーってどんなのだ?」

「見た目球根に足が生えて頭に葉っぱが生えたようなリトシーって名前のモンスターだ」

「へぇ、オウカもリトシーなのか」

「ツバキもか?」

「そうそう。俺のパートナーもリトシー。けど、逸れちまってなぁ」

 …………ん?

「セイリー族の集落でクエストこなしてたら、リーク……あ、俺のリトシーのニックネームな。が足を踏み外して下に転がっていっちまってなぁ。探しても見当たらなくさ」

 ……もしかして。

「セイリー族に訊いたら神殿に行けば会えるかもしれないってんで来てみたら張り紙が貼ってあって、プレイヤーが預かってるらしいんだよ。誰かまでは書いてなかったけど。だからこの緊急クエストはリークを預かってるプレイヤー探しの意味も含めて参加したんだよ」

「……そのリトシーの葉っぱはギザギザしてないか?」

「あぁ、してるしてる。オウカのリトシーの葉っぱもギザギザ?」

「いや、俺のパートナーは丸っとしてる。ギザギザしてるのは……迷子で預かってるリトシーの方だ」

「マジっ⁉ もしかしてリトシー預かってくれてるのってオウカだったのか!」

「そうみたいだな」

 何だこの偶然は? 結構な低確率な気がするぞ。まぁ、兎にも角にもギザ葉――リークのパートナーを見付けたな。だが、リークは今この場にいないがな。中衛で恐らくフレニアときまいらの近くにいる筈だから、終われば引き合わせる事が出来るだろう。

「サンキュな! 後で礼すっから」

 そう言いながらツバキはまたトレンキの相手をしている大剣使いを助ける。

『エリアAに報告』

 と、ここで指揮しているプレイヤーからボイスチャットが入る。いくつかのエリアにマップを分けてそう呼称するように言っており、選択ボイスチャットでの指示の際はまずエリアの名前を言うようにしている。

『他よりも大きいマーカーの敵が五体出現。小さい奴よりも移動速度が速く、うち一体はおよそ二十秒程でエリアAに到達する。現在エリアAのモンスター数は他方よりも少ないので、囲まれる前にそちらを集中的に討伐』

 所謂、中ボスの登場か?

『また、モンスターの数が少ない今のうちに体力、生命力が三割を切ったプレイヤーは速やかに後退して回復に専念。その間に中衛が戦線を維持』

 それを最後にボイスチャットは切れる。

「さて、俺達の目の前に現れるかな?」

「知らん」

 ツバキの期待している声に俺は素っ気なく返してイワザルを光に帰す。

「それもそうか」

 刀を振り下ろし、ツバキもトレンキを切り倒す。これで大剣使いが相手をしているアンデッド以外のモンスターは視界から消えたな。


「フしャァァあああアアアアアアアアアああアアアアアあアアアアあああアアアアッ!」


 大蛇が上げるような咆哮が右方から聞こえてくる。

「どうやら、あっちの方に出て来たみたいだな」

「そうだな」

 胸を躍らせているように見えるツバキは大剣使いの相手しているアンデッドを一掃する。

「ほら、さっさと行くぞ」

 俺と大剣使いに視線を向けて一直線に走っていく。

 生命力と体力の数値を確認。二つとも六割くらい残っている。一度下がって回復させていたから、まだ行けるな。

「行くか」

「俺は役に立てそうにないけどな!」

 大剣使いは自分を卑下しながらも、咆哮のした方へと走っていく。



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