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 次に辿り着いたサクラによって鳥のつつく攻撃は中断され、アケビが到着する頃には酔いも醒めたので、まずは蜂蜜を届けに向かった。

 蜂蜜を必要としているのは現実世界で言う所の保育所と呼ぶのが相応しい、一時的に子供を預かる施設の人から頼まれた。何でも明日子供達と一緒に菓子を作る予定なのだが、どういう訳か蜂蜜が何処に行っても見当たらない。なので、採って来てくれないか? と言うものだ。

 今思えばハビニーがああいう状態だったので蜂蜜を分けて貰う事が出来なかったのだろう、と思う。女王の言葉からハビニーはセイリー族とは知り合いのようであるし。

 保育所は中間層に位置しており、子供達か悠々と駆け回れる程の広場を内包していて、そこには滑り台や雲梯と行った遊具も設置されている。

 中間層に辿り着き、保育所の前に立っている年若い女性――とは言っても俺達より年上だが――にアケビが蜂蜜を渡すと、何度も頭を下げて礼を述べてきた。

「ありがとうござます! これで明日子供達と一緒にお菓子を作れます!」


『クエストを達成しました。

 ハニートレンキクッキー×10を報酬として受け取った。

 Point 212                   』


 で、ハニートレンキクッキーも報酬で貰う。これはフチの家でも食べた奴だろうな。取り敢えず料理アイテム確保で体力回復手段が増えた。

「あ、すみません。もう一ついいですか?」

 報酬もポイントも受け取った事なので、礼をして立ち去ろうとしたところで待ったを掛けられる。

「あなた達って料理出来ますか?」

「まぁ、それなりに」

 嘘は言っていない。【初級料理】は習得しているので料理は出来るが、だからと言っても上手い訳ではない。なので、それなりにと答える。

「でしたら、明日子供達と一緒にお菓子を作るのを手伝ってくれませんか? 少しでも料理出来る人がいれば、その分子供達に教えられるので」

 やや上目遣いで頼み込んでくる女性。子供はやんちゃであるし、確かに人手は大いに越した事はないだろうな。ただ、見知らぬ輩が増えても子供が大丈夫かと言う疑問もあるが。そのまま打ち解ける子供もいれば人見知りで距離を置く子供も当然いる。


『臨時クエスト【楽しいお菓子作り!】が発生しました。

 このクエストを受けますか?

 はい

 いいえ                      』


 ……まぁ、今あれこれ考えるのは止めにして、折角のクエストなので受けておこう。『はい』を選択する。

「「あ……」」

 俺の横にいたアケビと、俺の後ろに隠れているサクラが同時に声を上げる。何だ? どうしたと言うのだ?

「ありがとうございます! では、明日よろしくお願いしますね」

 女性は礼をすると、そのまま子供のセイリー族が遊んでいる広場へと足を向ける。

「「…………」」

「で、二人はどうして無言で俺を見てるんだ?」

 片やジト目。片やブレ目。何か言いたい事があるのならはっきり言えよ。

「……何でも」

「ないです……」

 二人で言葉を繋ぎ合わせる。いや、何でもない訳がないだろうが。とは言わない方がいいのだろうか? そこの所がよく分からない。まぁ、面倒なので触れないでおくとするか。

「じゃあ、次は族長の所に行くぞ」

「「……はい」」

 次の行動に移ろうと宣言すると、二人は何か言いたげに俺の方を見てくる。

「本当に言いたい事があるなら言え」

「「…………」」

 何も無し。ならこのまま族長の所へと向かうとするか。本人達がそれでいいならそれでいい。追及するのは面倒だし。

 族長の場所もここに来るまでに聞き込みをして把握済みだ。なので直ぐに行ける。曰く、族長は常に神殿にいるらしい。族長は大司祭も兼ねているとの事。モリュグ族といい、族長は兼任するのがこの世界の常なのだろうか? まぁ、モリュグ族の場合は働きっぷりからそう呼ばれているだけなのだが。

 神殿の入口は下層にあるので、ここからまた下に戻っていかなければならない。近くに蔦も梯子もないので暫く歩く事になる。

 集落を歩く際に、俺は頭にギザ葉を乗せている。未だに運営から何の連絡も来ないので、少しでもプレイヤーの多い場所では人の眼が付きやすいように高い所に陣取らせてる。こうすればギザ葉を見付けてくれるかもしれないし、逆にギザ葉の方がパートナーのプレイヤーを見付けるかもしれない。

 ただ、今の所何の反応もないがな。こいつのプレイヤーは今頃何してるのだろうか?

 と考えながら神殿へと辿り着く。

「あれ? 皆さんどうしましたかぇぶっ⁉」

 神殿に入ると直ぐにフチが俺達方へと駆け寄ってきて、盛大にこけた。別に何もないし、裾を踏んだようにも見えなかった。

「大丈夫か?」

「あ、あははは、これくらい慣れてるので大丈夫ですよオウっち」

 猫背になりながらも直ぐに立ち上がっておばちゃん手招きをしながら笑うフチ。と言うか、今慣れてるって言わなかったか? つまりは、フチはしょっちゅう転んでいる事になるのだが?

 と疑問に思っているとフチは視線を直ぐ様俺の頭に乗っているギザ葉へと向ける。

「って、あれ? 何かリトっちに似てる子を頭の上に乗せてますね? 新入りですか?」

「違う。こいつはただの迷子だ。一応こいつの相方が見付かるまでは預かっているつもりだ」

「そうでしたか。何でしたらここで預かっておきましょうか? ここ一応神殿兼迷子預り所ですので」

「迷子預り所兼ねてるのかよ」

「はい。私も子供の頃はよく迷子になって、その都度ここの人達に保護されてここで待機してましたし」

 フチはははは、と遠い目をしながら笑う。元当事者迷子がそう言うのだから、本当なのだろう。周りを見渡しても、現在は子供なんて見受けられないが。

「あ、迷子の子達は上の階にいますよ。で、子供と逸れた親御さんはまず神殿に来て保護されてないか聞くんです。で、いないとなると直ぐに神殿に遣えてる人達で捜索開始になります。魔法の御蔭で大体三十分も掛からずに見つけ出しますよ」

「そうか……」

 ここは迷子捜索に結構力が入っているようだな。その方が何か間違いが起きる可能性が低くなるだろうし。

 ……まぁ、多人数で捜索出来るのならそうした方が効率はいいだろうが、そうするよりも場所が分かっているなら自分だけで動いた方が早く解決する時もある。だが、それによって色々と他の問題も出て来るものだ。

 その所為で、迷惑を掛けたしな。

「オウっち、どうしました? なんかボーっとしてましたけど」

「いや、何でもない」

 俺は頭を振り、フチはそうですか、と軽く流す。

「で、どうします? その子預かりましょうか?」

「そうだな。そっちの方がいいかもしれない」

「しー!」

 と、俺がそこまで言うとギザ葉は俺の頭から飛び降りるとリトシーの後ろに隠れた。リトシーはそんなギザ葉の頭を撫でている。

「……が、こいつ自身はここでじっとしたくないそうだ」

 まぁ、俺はギザ葉に離れるのも自由だって言ったからな。こいつ自身が離れたくないっていうのなら意思を尊重するまでだ。こいつの御蔭でボスワスを倒せた訳だし、その功績も含めてな。

「そうですか。分かりました。でも、迷子の張り紙を張っておきますね。あるのとないのとではかなり違うでしょうし」

「それは助かる」

「いえいえ、仕事ですから。で、皆さんがここに来たのは迷子を届けに来たって訳じゃないんでしょう?」

「あぁ、実はセイリー族の族長宛てに言伝を預かっててな。それを伝えに来た」

「大司祭様にですか? ……んん」

 フチは目を見開くと、腕を組んで唸り声を上げる。どうしたんだ一体?

「で、族長に伝えたいんだが、会えるか?」

「あ、いえ。ちょっと無理ですね。他の種族の方と大司祭様が会う事は基本ないです。大司祭様は……他種族の方が苦手なようで、自らお会いになる事はありませんし、特別な紹介が無い限りは会う事も許されてません」

 少しの間が引っ掛かるが、ここで深く追及してフチを困らせるような事はしない方が言いか。別に直接会って伝える訳でもないし。

「分かった。じゃあ代わりに伝えてくれないか?」

「あ、それなら。で、どのような?」

「ハビニーの女王から『跡地に何やら力が渦巻いています』と言っていたと伝えてくれ」

「……跡地、ですか」

 組んでいた腕のまま顎に手を添え、暫し何やら考えるフチ。

「分かりました。今直ぐ大司祭様に伝えてきます。あと、私が戻ってくるまで皆さん待っててもらってもいいでしょうか?」

 フチの問い掛けに、俺はパーティーメンバーの意思を確認。誰も特に問題なさそうなので頷く。

「あぁ」

「すみません。ちゃちゃっと行って直ぐに戻ってきますので」

「転ぶなよ」

「転びません! 飛んで行きますんで!」

 顔を赤くしながらそう吠え立てると、フチは蝶の翅を動かして飛んで行った。

 さて、待っている間にこの後どうするか考えるべきか……。

「あ、そうだメッセージ」

 鳥が羽ばたいている時にメッセージを一通受信していたのを忘れていた。確認しておかないと。もしかしたら運営から迷子に関する事かも知れないしな。

 俺はメニューを開くが、予想とは全く違っていてつい指を止めてしまう。


『送信者:リース

  件名:調子はどうだい⁉ オウカ君!』


 俺はそっとメニューを閉じた。

「どうし、まし、た?」

 人が多いので先程から俺の服を掴んでずっと背中に隠れているサクラが問い掛けてくる。

「何でもない」

 俺は手を横に振って誤魔化す。まぁ、リースの事だから順位を自慢する為にメッセージを寄越したのではないというのは分かる。分かるのだが、文面からでも暑苦しいウザい感じが醸し出されているので見るのが躊躇われてしまう。悪い奴ではないと分かっていても、やはり自分には慣れない相手でやや引いてしまう。

 そんな事ではこの先駄目だろうとは思うのだが……どうもな。

「皆さんおまたせしました~!」

 と、フチがとんでもない速さで戻ってきた。あまりにも速過ぎて急ブレーキを掛けようものなら物凄い重力が掛かってしまいそうな、そんな感じだ。

「あ、あれ⁉ 止まらない~!」

 と言うか、スピードの出し過ぎで止まれないようだ。

「とぅ」

 それを知ったアケビは即座にきまいらを抱えて横に跳びずさる。ギザ葉もリトシーの葉を掴んで横に跳び、フレニアは上昇して範囲外に脱出する。

 俺も同様に避けようとするが、生憎とサクラが俺の服の背中部分をしっかりと掴んでいるのであまり動けなかった。

「あぎゃぶっ⁉」

「ぐっ」

「きゃっ!」

 フチはそのまま俺のどてっ腹に突撃し、軽く宙を舞って背中から落ちる。その際にサクラを下敷きにしないように空中で体を捻って俯せになるように落ちた。まぁ、その結果フチが一番下になってしまったが、自業自得だろう。

「す、すみません~~……」

 目を舞わしながらフチが謝ってくる。生命力が減らなかったからよしとするべきか、それともそれ相応の謝罪を要求するべきか?

 ……まぁ、フチの御蔭でここに来れた訳だし、女王からの伝言も族長に伝えに行ってくれた。集落と森の行き来の為に友達の鳥も貸してくれているので要求しないでおこう。

「……で、族長には伝えて来たのか」

「は、はい。そして皆さんにちょっと頼みがあるんですが、その前にこの状態をどうにかするべきですね」

「一番下にいるからな。さぞかし重い事だろう」

「それもありますが、その……オウっちとは種族が違うとはいえ異性ですからね。気恥ずかしさがあるんですよ。顔近いですし、胸当たっちゃってますし」

 フチは顔を横に逸らす。確かに今俺はフチと体を密着させて面と向かっている状態だ。服越しだが柔らかい感触が……胸と背中に当たってしまっている。

「因みに言えば、多分サクっちの胸も当たってません?」

「……当たってるな」

 俺の上にサクラが俯せの状態にいる訳だから、当然だ。

「ひゃぅ⁉」

 俺のすぐ後ろでサクラが変な声を上げて微動だにしなくなった。おい、そのまま動かなくなってどうする? このままだと俺も肺を圧迫されてきついんだが? 腕を動かして体を起こそうにも背中にサクラがいる時点で動けない。

「サクラちゃん、そろそろ退こう」

 と、回避に成功していたアケビがサクラを退かしてくる。ありがたい。

「ありがとう」

「……別に」

 礼を述べたが、アケビは微妙な間を開けて素っ気なく言う。あと声音も少し硬いような気も。……まぁ、気にしても仕方ないか。

 俺も体を起こして、一番下になっていたフチを助け起こす。

「ほ、本当にすみません」

「次からは注意してくれ」

「はい。善処します」

「で、頼みってのは?」

 フチは背中の埃を払うと、姿勢を正して真っ直ぐと俺達を見る。

「皆さんに確かめて来てもらいたいんですよ、跡地を」



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