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 恐らくサクラがクエストをしているだろう場所。【荷物運びのアルバイト】を受けた郵便屋の前へと向かう。他にも【縫物を一緒にやろう】【倉庫の整理をお願いしたい】を現在進行形でやっている可能性もあったが、雑貨屋から程近い場所にあるのが郵便屋だったのでそちらに向かう。

 まぁ、メッセージやボイスチャットを使えば何処にいるのかは直ぐ分かるのだが、クエストをこなしている間に横槍を入れるのは効率を悪くするだろうと思ってやってない。

 で、郵便屋の前に行くと挙動不審人物を発見した。まぁ、サクラな訳なのだが。

「…………ぁ……ぅ……」

 サクラはフードを目深にかぶって視線を誰とも合わせようとしていないが、クエスト達成するには依頼主に話し掛けなければいけない。だが、依頼主を前に右往左往するばかりで、依頼主は笑顔を浮かべているが同時に疑問符も浮かべてしまっているぞ。

 そうだった。人見知りの事を忘れていたよ。こうなるんだったらサクラと俺がチェンジしてアケビと二人で組ませて集落のクエストを達成していくように仕向ければよかったな。まぁ、今となっては後の祭りとなってしまっている訳だが。

 と言うか、それでよくクエスト一つ達成する事が出来たな。あれか? 家の中の掃除だったから家人と一緒にやっていて、それでほんの少し打ち解けたから話し掛ける事が出来た……とかか?

 因みに、チームメンバーのリトシーとフレニアはサクラの後ろで葉っぱと胸鰭を曲げて無言で応援している。いや、応援する前に助けてやれよと思わないでもないが、二匹は人語を喋れないので仕方ないか。

 念の為に受託しているクエスト一覧を呼び出し、【荷物運びのアルバイト】の達成要件を満たしている事を確認する。まぁ、クエスト開始の際の配達物は既に受け取っていたから、サクラもこの依頼主に話し掛けずに始められた訳か。クエスト自体はあと報告するだけで達成するのか。しかし、このままでは無駄に時間を食ってしまうな。

「…………はぁ」

 溜息を吐きながら俺はサクラの隣へと移動し、サクラの代わりに依頼主にクエストが完了した事を告げる。同じパーティーメンバーなら誰が言ってもクエスト達成扱いになるし。

「配達終わったぞ」

「ん? あぁ、そうかい。御苦労さん。…………もしかして、この嬢ちゃんそれ言おうとしてたのか?」

「そうらしい。あと、配達したのは全部こっちがやった」

 そう言いながら親指で横に立っているサクラを指す。

「……そうか」

 依頼主――翅と足を怪我して完治するまでは自分で配達出来なくなった郵便屋はサクラに視線を移す。するとサクラはフードを更に深くかぶり直して絶対に視線を合わせないようにしている。

「……嬢ちゃん」

「っ」

「おつかれさん」

 視線を合わせないようにしているサクラの態度に不快な様子も見せず、依頼主は労いの言葉を掛ける。

「さて、これが礼だ。受け取ってくれ」


『クエストを達成しました。

 2500ネルを報酬として受け取った。

 Point 99            』


 2500ネルを受け取り、クエスト達成となった。

「……あと、嬢ちゃんな。人と話す時はきちんと顔を向けて言わないと失礼だからな」

 依頼主は後頭部を掻きながら溜息を吐く。その一言にサクラはビクッと震える。

「まぁ、俺の娘も物凄い引っ込み思案だから慣れてるってのもあって気にしないけどな。俺みたいな奴ばかりじゃないからそこん所は気を付けとけよ。人によっちゃ不快にしか思わねぇからな」

 そう告げてサクラの頭をガシッと掴み撫でくりまわして店の中へと去っていった。

「………………」

 サクラは無言で下を向いたままだ。……ここまで極度な人見知りだったか? リースとかフチとかにはどもりながらだが声を掛ける事は出来ていたのに。

 もしかしたら、俺やアケビが近くにいたのが関係してる……とか? 知り合いが近くにいれば少しくらいは緩和される……とかなのだろうか? そこのところはよく分からないな。

「……………………って…………です…………」

 と、聞き取れないくらい小さな声でサクラが何か呟く。下を向き、フードで表情を隠しているのでどんな顔をしているか分からなかった。

「サクラちゃん」

 アケビがサクラの肩に触れ、膝を曲げて手を当て、サクラの顔を覗き込むように見上げる。

「少しずつでいいから、頑張ろう?」

「………………はい……」

 優しくそう語り掛けると、サクラは頷く。そして目元を拭う動作をした。

 ……泣いてたのか?

「……れにー」

「……しー」

「ぐるらぅ」

 フレニアとリトシー、きまいらもサクラを気遣うように鳴く。

「……ん、大丈夫」

 フードを取り、目を赤くしながらも、サクラは笑顔を作ってフレニアとリトシー、きまいらに向ける。

 …………さて、ここで俺は何と声を掛ければいいのだろうか? どうしてサクラが泣いたのか理由は知らないし、下手に何か言ってしまったら余計に気負わせてしまう可能性がある。どうすれば……。

「……オウカさん」

 と、思考を掛け巡らせているとサクラの方から声を掛けてきた。

「何だ?」

「先程は、ありがとうございました」

 頭を下げて礼を言ってくる。

「気にするな」

 俺はそんな言葉しか口に出す事は出来なかったが。

 アケビのように慰めるような言葉は出ない。根本的にサクラがどうして泣いたのかを理解しないうちはそんな言葉を掛ける事が出来ない……と無意識に感じているからか。よく分からないが。

「……はい」

 サクラは俺の返答に少しだけ寂しそうな顔をしたものの、直ぐに何時もの表情を作る。

「で、オウカさんとアケビさんはどうして戻ってきたんですか?」

 どうやら気持ちを切り替えたようで、集落に戻ってきた俺達に疑問を抱いているようだ。俺は掻い摘んで説明をする。イワザルの群れの話をした際にサクラは引き気味になったが、きまいらの説明時には微笑んできまいらの頭を撫でていた。

「と言う訳で、俺達だけだと無理だったから一度戻って、準備を整えてからもう一度降りようと言う事になったんだ」

「そうでしたか」

「クエスト勧めるのは一時中断して、まずは武器を買いに行きたいんだが、いいか?」

「はい」

 サクラは頷いて了承してくれる。

「アケビは?」

「いいよ」

 アケビもOKだったので、パーティーメンバーに了承を得てまずはさっきの雑貨屋へと寄る事にした。

 未だに雑貨屋の前にいる婦人に軽く会釈をして中に入り、武器を探す。多分、ここならある筈だが……。

 戸棚を探していると、目的のものを見付けてそれを手に取る。


『セイリー族の包丁:セイリー族の身の丈に合わせて作られた包丁。魔力の伝達が少しだけよくなる。【小刀術】スキルがあれば武器として使用可能。筋力+2 器用+1 耐久度55/55』


『セイリー族のフライパン:セイリー族の身の丈に合わせて作られたフライパン。魔力の伝達が少しだけよくなる。【小槌術】スキルがあれば武器として使用可能。筋力+3 耐久+3 耐久度65/65』


 シンセの街の雑貨屋で売っているものよりも性能がいいな。それも二つ合わせて500ネルなのでお買い得だ。買っておくとしよう。

 サクラもアケビも自分の武器がここで売っていたようなのでそれを手にする。


『セイリー族の杖:セイリー族の身の丈に合わせて作られた杖。魔力の伝達が少しだけよくなる。筋力+1 魔力+4 耐久度42/42』


『セイリー族の短剣:セイリー族の身の丈に合わせて作られた短剣。魔力の伝達が少しだけよくなる。筋力+2 器用+3 耐久度46/46』


 サクラとアケビもこれでOKらしく、その他に【セイリー族の上着】と言う耐久と魔法耐久が2上がる防具を人数分買う事にした。

 あと、サクラに【セイリー族のスカート】を買う事になった。ローブの下は下着姿……だと思うので、流石にそれは可哀想だと。これで何かの拍子にローブが消えても大丈夫だな。

 全部で4500ネルで、買う寸前にサクラは靴すらも履いていない事に気付き、急遽中断。俺の分の防具を棚に戻して【セイリー族の革靴】を手にして再度会計に入る。今度は4400ネルとなり、俺達パーティー全体の所持金が残り100ネルにまで減る。

 因みに、このセイリー族の上着は男性と女性で異なる形をしているようで、男性だと長袖にVネック、そして木の葉のマークがプリントされている。逆に女性だと肘が隠れるか隠れないかギリギリの袖でボタンで首回りが調節出来るようになっており、花のマークがプリントされている。壁に飾ってあったのを見て確認した。

 店を出て早速装備する。腰に武器が佩かれる。包丁とフライパンの金属部分にはそれぞれ五角形を重ね合わせた――十晶石をあしらったマークが彫られている。

「……まぁ、後で作り直せばいいかな」

 同様にセイリー族の上着を着たアケビは自分の服を引っ張りながらそう呟く。アケビのは少し丈が短く臍が見えていて体にフィットしている。生地の色はオレンジで花は黄色だ。腰には鞘に納められた短剣が佩かれている。

 サクラは外見上は杖を持った事と靴を履いた以外何も変わっていない。何せローブを羽織ったままだからな。その下は先程買ったピンクの生地に白い花がプリントされた服濃い桃色のスカートを穿いているだろう。見えないから分からないが。

 雑貨屋だけで全員分の武器が調達出来てサクラの服事情も解消されたな。買い物が一軒だけで済んでよかった。これで時間の短縮になった。

 それぞれが装備し終えて、集落のNPCに声を掛けて達成したクエスト分新たにクエストを受託し、そのまま地上へと向かう事にする。地上に向かうには鳥の発着地点となっている場所で笛を吹かなければならない。そこ以外の場所で吹いても鳥は来てくれないそうだ(フチ談)。

 そう……地上へと。

 発着地点に着いた俺達は【鳥のオカリナ】を手に持つ。

「…………」

 俺はそれを凝視する。また、あれを味わうのか……。

「オウカく」

「ピィィイイイイイイイイイイッ!」

 アケビが俺に向けて何かを言う前にオカリナに口をつけて一気に空気を送り付けてうるさい音色を響かせる。時間は無駄に出来ないからもう自棄だ自棄。

「ピー」

 俺の笛の音を訊きつけて鳥が舞い降りてくる。

「また頼む」

 リトシーを頭に乗せ、勢いに任せて鳥の背中に乗ってリトシーを前に乗せ換える。

「ピー!」

 力強く一鳴きすると鳥は羽ばたいて集落から宙へと移動する。

 あぁ、また振動が俺に伝わってきて三半規管がかき乱されるのか……。

 …………と思っていたのだが、飛び上がってからは翼を動かさない。

 滑空の要領で、しかも急旋回せずにほぼ直線と見紛うばかりに大きく円を描くようにして下に降りて行く。

「……お前、もしかして俺に気を遣ってくれてんのか?」

「ピー!」

 鳥は頷きながら鳴く。

「……そうか、ありがとうな」

「ピー」

 と言う事は、集落に戻る時のハイスピードも俺を体質を思っての事だったのか。わざわざ苦労を掛けさせてしまったな。

 こいつには、謝罪の他に労いと礼の意味も込めてきちんとおやつを作ってやろう。そう誓った。



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