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 屋根を伝って三叉路へと向かう。

『御免。キマイラの召喚終わった』

 その途中でキマイラの召喚時間が終わってしまった。グリフォンよりも遥かに短い召喚時間故に、仕方ないと言えば仕方ないか。

 事前に訊いていた情報では、キマイラはグリフォンの四分の一程度だそうだ。レベルが上がって喚び出せる時間が増えてもそこまで長くは持たない。一応、召喚時間内に呼び戻せば、その十秒後に再び喚び出す事は出来る。先に召喚していた時間は消費しているが、戻していた分は当然減らない。

 だからアケビはボス戦ではなるべくこまめに召喚しては戻しての繰り返しをして疑似的に召喚時間を延長していた。今回はそれが出来なかったので、早々にキマイラは退場と相成った。

 ドリットの相手はまたスビティーとフレニアの二匹となった。召喚時間を使い果たしたグリフォンを再度召喚するにはまだまだ時間が掛かるので、ここからは二匹だけで相手をしなければならない。

「びー!」

 ドリットの音波をスビティーは【初級風魔法】の【エアカッター】で難とか散らして直撃を免れている。先のキマイラが魔法で相殺していたのを見て対応したみたいだ。

「れにー!」

 フレニアはその隙に炎を吹いてドリットを牽制する。あくまで牽制で当てにいっていない。どちらにしろドリットには当てる事は出来ないので適当に吹いて注意を自分に逸らそうとしている。

 ドリットはフレニアへと向き直り、スタン効果のある音波を放つが、フレニアはギリギリで避ける。連続でフレニアに音波を当てようと息を吸い込むも、その瞬間にスビティーが針を発射して妨害をする。

 俺はショートカットウィンドウを開き、【ハニートレンキクッキー】をスビティーとフレニアの二匹に使用して体力を回復させておく。これで体力が切れる心配は少しなくなった。

 だけど、やはり二匹だけで相手するには荷が重すぎるな。早く怪盗をとっ捕まえないとな。

『三叉路に到着したぜ』

 ツバキはサクラの待つ三叉路に到着したようで、これでアケビがそこに怪盗を追い込めば挟み撃ちが完成する。

『今の所、順調に追い込めてる』

 アケビの方も怪盗を上手い具合に三叉路へと向かわせているようだ。このまま上手く事が進めばいいが。

「れに~……」

 と思っていたら、フレニアはとうとう音波の直撃を貰って撃墜されてしまった。これでドリットを相手するのはスビティーただ一匹だけになってしまった。

「びー!」

 スビティーは頑張って【エアカッター】で音波を散らしているが、完全な相殺は出来ていない。あくまで散らしているだけで、場合によっては音波がそのままスビティーの方へと向かって行く場面もあった。そうなるとスビティーも回避をしなければいけなくなり、その先へと更に音波を放たれてしまう。

 そうならないようにフレニアが牽制していたんだが、フレニアは現在スタン状態で身動き一つ取れない。

「…………」

 俺は逡巡し、進行方向を三叉路からドリットへと変更する。もうサクラとツバキが待機しているし、俺がいなくても怪盗を捕まえられる筈だ。今はサクラとツバキが待ち構えている事を怪盗に知られないようにする事を優先させないと。

 ただ、俺の遠距離攻撃は【シュートハンマー】と木と無魔法だけ。【シュートハンマー】は以前のように音波で防がれるだけだから、実質二つの魔法だけが頼りだ。そして、俺の場合は屋根伝いだけでしか移動出来ないから音波を避けにくい。そこを念頭に置いてスビティーを援護し、ドリットを妨害しないとな。

「無よ、我が言葉により形を成し、彼の敵を撃ち貫け。【シュートスター】」

 音波を放とうと息を起きく吸い込んだドリットへと【シュートスター】を発動する。それに気が付いたドリットは即座に回避行動を取り、溜めていた空気を音にして俺へと放つ。

 俺は横に跳んで回避して、直ぐに前へと進む。ドリットは更に俺へと音波を放って来て、それを強引に前へと加速して躱す。その際に傾斜に足を取られて屋根から落ちそうになるも難とか堪える。

「びー!」

 丁度スビティーが針でドリットを攻撃したのでその隙をドリットに狙われなくて済んだ。ドリットは邪魔をしたスビティーへと音波を発射。【エアカッター】で散らすもそのまま突き進んでいったのでスビティーは慌てて回避をする。

「無よ、我が言葉により形を成し、彼の敵を撃ち貫け。【シュートスター】」

 俺はスビティーに狙いを定めているドリット目掛けて【シュートスター】を放ち、標的をこちらに変えさせる。

「れにー!」

 と、ここでスタン状態から回復したフレニアが戻ってきた。これで三対一になったので、攪乱しやすくなった。


『00:02:56』


 残り三分を切った。けど、まだ怪盗は捕まえられていない。アケビはまだ三叉路に着かないのか? そう思いながらマップを確認すると、怪盗のマーカーはそろそろ三叉路へと差し掛かる所だった。

「っと」

 マップから目を離して放たれた音波を後退して避け、スビティーに【マナタブレット】を使い精神力を回復させる。俺、スビティー、フレニアで上手く狙いを分けて個々の負担を減らしながら足止めをする。

『あー、オウカ悪い。捕まえられなかった』

 ドリットの相手をしていると、ツバキから謝罪の言葉が届く。

「マジか」

『マジで。ドッペンの奴華麗なフェイントを使いやがってサクラの横を綺麗にすり抜けていきやがった』

 マップを見ると、確かに怪盗はサクラが待ち構えていた筈の三叉路を抜けて南の方へと向かっているのが分かる。

『すみません……』

『あ、いや。別にサクラが謝る事じゃないから。あんな綺麗なフェイントされたら誰だって呆気に取られるから』

『そうそう。追ってた私だって見てるしかなかった。だからサクラちゃんは悪くない』

 謝るサクラにアケビとツバキはフォローを入れる。と言うか、そんなに凄いフェイントだったのか? ちょっと見てみたかった気がする。

 いやいや、そんな事よりも怪盗をどうにかしないと。幸い、怪盗が進む方にはドリットが……つまり、俺がいる。このまま俺が屋根の上から怪盗へと跳び掛かれば捕まえられるんじゃないか?

 タイミングを逃してしまえば、この回では怪盗を捕まえる事は出来ないだろうな。時間的に。


『00:01:36』


 残り約一分半になった。徐々に徐々に怪盗は俺のいる方へと向かってくる。

「スビティー、フレニア、悪い。あとはお前達に任せた」

「びー!」

「れにー!」

 ドリッとの足止めを二匹に任せ、俺は屋根から見下ろして怪盗が来るタイミングを見計らう。

「運よく怪盗が向かってる方向に俺がいるから、屋根から奇襲掛ける」

『分かりました。……あの、気を付けて下さい』

『分かった。私はそのまま追ってるから』

『了解。俺も追ってる』

 サクラ達に奇襲の旨を伝えると、怪盗、そしてアケビとツバキが俺の視界に入ってくる。

 まだだ。まだ遠くにいるから跳び出すタイミングじゃない。今降りてもただの挟み撃ちにしかならないし、下手すると冷静に対処されて脇の小道に逃げられてしまう。

 なるべくギリギリまで近付けてから、目の前もしくは怪盗の上に落ちるように跳ばないと。

 もう少し、もう少しと距離を測っていると、不意に俺に向けて音波が放たれる。しまった。二匹が攪乱してても俺に攻撃してくるんだった。

「くっ」

 咄嗟に後退して避けるも、屋根の出っ張りに足を掛けてしまい躓いてしまう。なんとか転ばずに踏ん張る事に成功したが、その隙を突かれて音波が放たれる。

「木よ、我が言葉により形を成し、寄り合わ……」

 避けれないと即座に判断して【カバーツリー】で防ごうとするが間に合わず、俺は音波の直撃を貰ってスタン状態になってしまう。

 踏ん張る事も出来ず、屋根の傾斜の影響で俺は転んでそのまま屋根から落ちてしまう。

「ぐっ」

「ぐぇっ」

 背中から落ちたが、どうやら誰かを下敷きにしてしまったようだ。もしかして、ツバキ当たりの上に落ちてしまったか?

「えっと、悪い」

 スタン状態故に直ぐに退ける事が出来ないので、上に乗ったまま謝る。

「いやいや、大丈夫だよ」

 と、そんな言葉が返ってくる。……のだが、この声はツバキじゃない。サクラとアケビでもない。

 そうすると、消去法で残ってる人物は一人だけになる。


『00:00:48』


 ふと見た時間は残り四十八秒を残して止まっている。

 つまり俺は偶然怪盗の上に落ちて接触し、クエストクリアしたって事か。

 …………何か、釈然としない。



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