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 さて、今日こそは怪盗ドッペンのチェインクエストを進めて、カーバンクルの召喚具を手に入れよう。そんな予定が午後にある。

 が、俺は一足先に。正確には十一時にSTOの世界へと足を踏み入れている。

 理由は、リュックを返しに来た椿がフォレストワイアームを倒して新たに仲間にしたモンスター達を見せろ、と言うので招待した。因みに、椿はわざわざDGを俺の家に持って来た。

「おー、オウカのリトシーも成長したのか」

 拠点へと来たツバキはパルミーを見て感嘆の声を上げる。

「ツバキのリークも成長したみたいだが……パルミーじゃないのか」

 ツバキの傍らにいるのはリーク。パルミーと同じ体系だけど違う所は葉っぱが片目を隠すように垂れ下がり、目も少しキリッとしてる。あと、手の葉っぱが切れ味鋭そうになっている。

「おぅ。リークはリーミルに成長したんよ」

 ツバキはリークの頭を撫でながら紹介する。

 成程、同種の成長でも個体によって違う成長をするをするのか。これもプレイヤー側の行動パターンとかが起因してるんだろうな。

「何かバランス良いステータスの伸びになっててな。耐久と魔法耐久が少し減って筋力と敏捷が上がった」

「パルミーは補助系、リーミルは直接戦闘系って感じか?」

「多分な」

 攻撃魔法を得意としていたリークらしい成長だな。今後は手の葉っぱでツバキと一緒に敵を切り付けるんだろう。

「みー」

「りー」

「みーみー」

「りーりー」

 で、パルミーとリーミルは久しぶりに会ったと言う事で、ハイタッチを交わして一緒に小川の方へてちてちと走って行った。

「相変わらず仲いいなこいつら」

「だな」

 二匹は小川に入って水の掛け合いを始めている。

 で、その様子を拠点の岩陰からドッペルゲンガーが羨ましそうに覗いている。傍目から見ると完全に不審者と化してるぞ、ドッペルゲンガーよ。一緒に遊びたいならそう言え。あいつらは絶対無碍にしないから。

 と言うか、こいつって俺と戦った時とかなりキャラが違くなってないか? 何か無口になってるし。どうしてだ?

「何か大所帯になったなぁ、オウカの拠点」

 なんて考えているとパルミー達の方を見て、その後に天を見上げたツバキがぽつりと呟く。

 確かに、昨日で一気に仲間が増えたな。拠点自体は広いからそこまで仲間が増えても狭くは感じない。どちらかと言えば賑やかになっていいと思える程だ。

「昨日ボス倒したからな。召喚獣とパートナーが増えた。まぁ、パートナーの方はまだ卵だけどな」

 俺はそれとなく視線を拠点の方に向ける。現在、卵は居間の方に安置されている。サクラがいないので、ここで駄弁っていても孵る事はない。

「卵は誰のだ?」

「サクラのだ。今日孵す予定だそうだ」

「へぇ~……って、今日は怪盗ドッペンと追いかけっこするんじゃなかったっけ?」

「あぁ。…………多分、卵抱えて走るか、完全に後方支援に徹するかのどちらかじゃないか?」

 と自分で言ったものの、流石に卵を抱えて怪盗を追うような事はしないと思う。

 と言うか、まずは各々が怪盗を追い駆ける際の役割を決めないとな。そうしないとこの間の俺のように延々と追い掛ける羽目になる。

「リークもウィングも楽しそうで何よりだ」

 ツバキは小川と空中で遊んでるパートナー達を見て満足そうに頷く。

 ウィングとはツバキが召喚獣につけてる名前で、グリフォンだ。

 ツバキはフォレストワイアーム討伐の際に【鷲獅子の羽飾り】を選び、グリフォンを仲間にしたそうだ。今はアケビのキマイラとグリフォン、そしてスビティーとフレニアと一緒に空で鬼ごっこをしている。

 傍から見れば空中大決戦みたいにかなりアグレッシブな動きをしているが、本人達は全力で遊んでいるだけだ。キマイラとグリフォン二匹は迫力満点だが、スビティーとフレニアは必死になって追い掛けたり逃げたりする様が微笑ましく見える。

「……所で、一つ気になってんだけどよ」

 パートナー達から視線を逸らし、ツバキはややジト目になりながら俺の方を向く。

「何だ?」

 俺の問いツバキは俺の頭上を指差す。

「お前はどうして幼女を肩車してんだよ?」

「幼女じゃなくて、メリアスだ。知らないけど、せがまれたからやってるだけだ」

 俺が肩車をしているのはメリアス。召喚獣だ。フォレストワイアームを倒して得た召喚具【トネリコのお守り】で喚ぶ事が出来る。見た目は髪の毛が生い茂った葉っぱになっている以外はワンピースを着ている幼女そのもの。機甲鎧魔法騎士団(アーマードマジカルナイツ)のモミジちゃんよりも頭一つ分低い。

 ツバキが来る前に、先に拠点に来た俺を最初に出迎えたのがこのメリアスで、必死に手を伸ばし、ぴょんぴょんと跳んで肩車をしてくれと身体全体でせがまれた。言葉は発してない。言葉は喋れないのか、もしくは無口なのか。それはまだ分からない。

 せがまれたので肩車をするとメリアスは満足そうに笑って現在に至る。そして、前髪を引っ張ったり、頬を抓ってたり、口の中に指を突っ込んだりしてくる。まんま人間の幼子だよ、こいつは。

 と言うか、一応召喚者になっているのは俺だけど、初対面でここまでフレンドリーに接してくるか普通? そこに疑問を覚えるが、実際に臆せず俺に懐いているので考えるだけ野暮か。この調子だとパルミー達とも早期に打ち解けるかもな。いや、もしかしたら俺がいない間に既に打ち解けてるのかもしれない。今も空で鬼ごっこを繰り広げているアケビのグリフォンのように。

「お前、現実世界だと事案発生ものじゃねぇか?」

「何で事案が発生するんだよ?」

「そりゃ、幼女と戯れてたらな」

「それ言ったら保育士や幼稚園の先生はどうなるんだ?」

「資格あるからいいんじゃね?」

「そう言う問題か?」

「そう言う問題って事にしとけって」

 そんな冗談を言いながら、ツバキは丁度俺の顔を覗き込んでいるメリアスの頭でも撫でようと腕を伸ばす。

 …………が。

「いてっ」

 メリアスは咄嗟に頭を上げ、ツバキの手を叩いて撫でられるのを阻止する。

 しかも、何か威嚇を始めた。俺からはよく見えないが、ガサガサと頭上から音がするのでメリアスの頭の葉っぱがうごめいているような気がする。

「お前、警戒されてるみたいだな」

「…………何でだよ」

 ツバキは露骨に崩れ落ちて地に手を付く。ツバキも初対面だけど俺とは違って召喚者じゃないからバリバリ警戒されてる……のか?

 まぁ、初対面の輩にいきなり触られるのは誰だって嫌だろう。今回はツバキの接し方が悪かったと言う事で。

「さて、皆のおやつでも作るか」

 落ち込んでいるツバキを尻目に、拠点の傍に設置されてる石窯と調理台の方へと向かう。折角リーミルとウィングもいる事だしな。もてなさないと。

「一緒に作るか?」

 威嚇を解いたらしく、俺の頭に顎を乗せているメリアスにそれとなく訊く。すると、メリアスは俺の顔を覗き込みながらにんまりと笑い、何度も頷く。

「じゃあ、一緒に作ろうな。…………ドッペルゲンガーはどうする?」

 今も尚岩陰でパルミー達を見ているドッペルゲンガーにも声を掛ける。ドッペルゲンガーは逡巡する素振りを見せたが、そそくさとこちらにやってきた。どうやら、一緒に菓子を作りたいようだ。

 因みに、メリアスはドッペルゲンガーには威嚇はしない。ツバキよりも見た目怪しいが仲間だときっちり認識しているようだ。

「クッキーでも作るか」

 クッキーならそこまで難しい工程はないし、俺がいるから黒焦げになる心配はない、か。

 俺はメニューを開いて調理台の上に材料を用意する。

「…………俺も、作る」

 地の底から這い出してきた亡者のような呻き声を上げながら、ツバキもこちらに寄って来る。

 では、四人(?)でクッキーを作るとしよう。



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