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 直ぐに「寝坊したから一時間くらい遅れる」とメッセージを送り、家事を手早く終わらせる。飯を食べて、準備を済ませてSTOへと向かう。取り敢えず、全てを一時間以内に終えられたのはよかった。

「悪い、遅れたっ」

 拠点の居間に着いたと同時に、即頭を下げる。

 やはりと言えばいいか。既にサクラとアケビは居間にいて、ソファに腰を掛けている。

「いえ、大丈夫です」

「理由は大体分かってるから」

 サクラとアケビはどうやら怒ってはいないようだ。怒られる覚悟はしてたが、何故二人は怒っていないのだろう? と言うか、理由とは? 俺は寝坊したとしかメッセージに書かなかったが……?

「理由が分かった要因の一つは、それ」

 アケビは俺の後ろを指差す。後ろを振り返れば、なんかマネキン人形が突っ立っていた。え? 俺がいない間に二人はマネキンでも作成してたのか? と首を傾げかけたが、このマネキン普通に動いてるではないか。

 隠れているリトシー達に手招きをして呼び寄せようとしている。が、全然くる気配がなく、肩を落として落胆し隅に移動して体育座りをし始める。

 もしかして、こいつドッペルゲンガーか? あの時は俺の姿してたのに、今はマネキンて。

「見た事無い召喚獣がここにいる事」

 どうやら、アケビがこのマネキンを召喚獣と言っているから確実にドッペルゲンガーだ。何でマネキン化してるのか不明だが、今は置いておこう。

「あと、もう一つが、カンナギからメッセージ」

 そう言うとアケビはメニューを呼び出して一つのメッセージを俺に見えるように向きを変える。

 そのメッセージはカンナギからで、要約すると、朝五時に俺を借りて召喚具を使えるようにする戦闘イベントを行い、無事終了して俺も召喚獣を使えるようになった。という旨が書かれている。

「早朝からの御呼出しご苦労様です」

「あ、いや」

 メッセージを読み終えるとサクラが頭を下げて俺に労いの言葉を掛けて来るので、つられて頭を下げてしまう。

「で、その召喚具を使えるようにするのに戦って、それで疲れて眠りこけちゃった。って感じ?」

「あぁ、その通りだ」

 アケビが俺が遅れた理由を的確に当てたので、顔を上げて素直に是と言う。

「ただ、それでも遅れた事に変わりないから、すまん」

 改めて、二人に謝罪する。

「まぁ、そこまで気にする必要はないけど。約束は守らないとね」

 アケビの言葉が俺の胸に突き刺さる。……反論のしようが無い。

「そんな訳だから、遅れてきたオウカ君はボス戦をより一層頑張る事。それでチャラにするから」

「……了解」

 アケビの言葉に俺は力強く頷く。遅れてきた分を挽回する為に、今日のフォレストワイアーム戦は一層頑張らないと。

「頑張るのはいいんですけど。オウカさん、疲れとかは大丈夫ですか?」

「あぁ。大丈夫だ」

 俺はサクラの問い掛けにそう答えると、サクラは安心したかのようにほっと一息吐く。

 寝起き直後はまだ疲れてたが、家事をこなしてるうちに疲れは無くなって行ったから、体調は万全だし、フォレストワイアームと戦うのに支障はない。

「じゃあ、早速行くか?」

「はい」

「うん」

 俺の所為で予定より一時間遅れてしまったが、これより北の森のレイド部討伐に向けて動き出す。俺達は拠点の出口へと向かい、先に二人と二匹が拠点から出て行く。

「っと、その前に」

 俺は出て行く前に、俺はメニューを開いて余っているSLを消費して新たなスキルを二つ習得しておく。

「今は、これでいいか」

 現状では全く意味のないスキルだが、今後役に立つだろう。そう思いながら今の内に習得した次第だ。

 そして、今回は【テイマー】、リトシーを戦闘に参加させるように選択して外に出る。ドッペルゲンガーに留守番を任せてセイリー族の集落へと降り立つ。

 正確には、セイリー族の集落にある神殿内部に。北の森に一番近いポイントがここだから、少しでも時間短縮をと思ってここに降り立つ。

 イベントの後にもう一度集落に来た際に貰った【十晶石の力片】を持っているから、【縮小化】しても能力値に変化はないし、アイテムの使用制限も課せられない。

 先に来ていたサクラ、アケビ、フレニアを探して歩き、【妖精の十晶石】の前にいるのを見付けてリトシーを抱えてそちらの方に走る。スビティーは飛んでついてくる。

「あ、オウっちも来ましたね。今日も森の奥にいるワイバーンに挑むんですか?」

「あぁ」

 で、サクラ達と一緒にフチもいた。何か、神殿に来ると毎回フチと顔合わせをするな。それは拠点からここに来る時もだし、死に戻りでここに戻ってくる時もだ。

「いやぁ、何度も何度も頑張りますねー」

「あいつ倒さないと先に進めないからな」

 からからと笑っておばちゃん仕草をするフチに軽く息を吐きながら答える。あいつ倒さないと雪原に行けないからな。ツバキ達はもう雪原クリアして山に行ってるし。別に焦ってる訳じゃないけど、そろそろ行ってもいい頃合じゃないかとは思っている。

 だから、今日こそはフォレストワイアームを倒してやろうと意気込んでる。

「そうですかそうですか。では、選別にこれをどーぞ」


『ハニートレンキクッキー×1を手に入れた』


 なんか、フチから【ハニートレンキクッキー】を貰ったんだが。それも、俺達全員に。

「いいの?」

「はい。あの時は色々とお世話になりましたしね」

 アケビが首を傾げて訊くと、フチはやはりからからと笑いながら答える。

 あの時とは、多分イベントの事なんだろうな。とはいえ、こっちもフチには食住の面でかなり世話になったんだけどな。お互い様と言えるけど。

「貰いっ放しは悪いので、今度何か作って持ってきますね」

「えー、いいですよそんな気を遣わなくても」

「いえ、それにあの時僕達だってお世話になったんですから」

「そうそう」

 サクラの言葉にフチは首を横に振るが、サクラと、そして更にアケビの援護射撃。あと何度も頷く俺を見てフチは「……じゃあ、期待してますね」と折れた。作るとしたら、トレンキの葉とか花弁と使った菓子でも作った方がいいか? 確かセイリー族にとってトレンキの葉と花弁は好物って言ってたし。

 っと、それを考えるのは今じゃないな。フォレストワイアームを倒した後にゆっくりと考えよう。

「そろそろ行くか」

「はい」

「うん」

「しー」

「れにー」

「びー」

 サクラとアケビは頷く。リトシー達もやる気充分と言った感じだ。ただ、スビティーは戦闘に参加出来ないけど。

「じゃあ、俺達はそろそろ行くから」

「はい。お気をつけていってらっしゃーい」

 フチは手を振って、俺達を見送ってくれる。俺達も手を振り返して、神殿から出て鳥の発着場へと向かう。

 発着場に着き、イベントで手に入れた【鳥のオカリナ】で鳥を呼び寄せる。

「今日も頼むな」

「ピー」

 鳥に乗って下へと向かう。サクラとアケビを乗せた鳥はそのまま降下するが、こっちの鳥は俺が酔いやすい事を考慮してくれてゆっくりと降りていく。

 下に着き、鳥から降りて地面に立てば身体の大きさは元に戻る。

 手の平サイズに縮んだように錯覚してしまう鳥達は、はばたいて上の方へと飛び去って行く。

「今日は挑む前に、もう少しレベルでも上げる?」

「そうだな。少しでもステータス上げといた方がやられにくいか」

 アケビの提案に俺は頷く。昨日は実質同じレベルのまま連戦したが、それが原因ではないにしろ連敗した。流石はレイドボスと言った所だよな。

 だから少しでもレベルを上げてステータスを伸ばして、昨日よりもやられにくく、そして倒しやすくした方が得策だ。焼け石に水には絶対にならないと思うし。

「サクラはどうだ?」

「そうですね。確かに今のレベルのまま挑むよりも上げてからの方がいいと思います」

「分かった。じゃあ、北の森に入ったら、そこでモンスターと戦うか」

 ボスと戦う前の方針が決まったので、まずは北の森へと向かう。その際にセーフティエリアを使用せずに森を突っ切ってモンスターを倒していく。少しでも経験値を得る為にな。でもこの森のモンスターはそんなに苦戦する事はないから、すんなりと北の森へと行ける。

 北の森に着き、何体もモンスターを倒して経験値を得ていく。流石に直ぐにレベルは上がらないが、四十分くらいモンスターを倒し続けてレベルは2上がって、手に入れたSPでステータスを強化する。

 更に二十分、モンスターを倒して俺のレベルが46になった。

「しーっ」

 その時、同時にレベルが上がったリトシーの身体から光が発生する。もしかして、ついにリトシーも第一成長を?

 フレニアとスビティーの時と同じように眩しい程の光を放たれたので、目を閉じて、更に手を翳して光を遮断する。

 光が弱まっただろう頃合を計って、ゆっくりと目を開けてリトシーの方へと目を向ける。

「みー」

 鳴き声が変わり、外見は一頭身ではなく二頭身になって胴体が出来ていた。手に当たる部分が大きな葉っぱになっていて、足はリトシーの時と同じくらいに短い。と言うか、リトシーがつま先立ちしたような感じの足だな。頭にある葉の数は変わらないが、少し小さくなって微妙に垂れ下がっている。茎に嵌められてる【霊樹の葉飾り】は同じ位置に装備されたままだ。あと、リトシーの時よりも一回り大きくなっている。


『リトシーはパルミー成長した』


 俺の目の前にウィンドウが表示される。パルミーと言うのにリトシーは成長したのか。

 リトシーもといパルミーは成長した自分の姿を何度も確認している。

「パルミー」

「みー」

 呼び掛けるとパルミーはリトシーの時とは違い、飛び跳ねるのではなく短い脚を動かしてとてとてと俺の方へと向かってくる。ある程度近付くと跳んで抱き着いてきて、俺は跳んできたパルミーを優しくキャッチする。

「これからもよろしくな」

「みーっ」

 パルミーは笑顔を浮かべて、頷いた。


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