表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/193

114

「えっと、この髑髏ボスなのか?」

 サモレンジャーの【オーロラブレイク】を受けても平然としてるから並みのモンスターじゃないと思ったけど、まさかボスとは。

 俺の質問にサモレッドは首を傾げて腕を組む。

「ん? オウカ君は知らずに挑んでたのかい?」

「いや、そもそもこいつと遭遇したのは偶然なんだが……」

 挑むにしても、もう少し……いや、大分レベルを上げてからだ。そうしないと本当に瞬殺される。

 というか、偶然ここのボスと遭遇してしまうとは、今日は本当に運が無いな。山道の穴に落ちて山の中を進む事になったし、そこでもう二度と遭う事はないだろうと思っていた変態コート女と遭遇。……あぁ、忘れろ忘れろ。もう今度こそ遭わないから大丈夫だ、うん。

 で、今こうして望んでもいないのにボスと遭遇してサクラとフレニアが離脱、スビティーがやられてしまった。改めて、運が無いな今日は。

「そうなの? 偶然出会っちゃうなんて運がいいね」

 と思っていたら、サモイエローが笑顔で的外れな事を口走った。ボスに挑もうとしてる方からすれば運がいいと思うけど、こっちからすれば何の前情報も無しで、山の中から出て来て直ぐに出遭いパーティー壊滅寸前になるまで追い詰められた訳だから運がいいとはお世辞でも言えないぞ。

「いやいや、流石に運が悪いと思いますよ」

「確かに。何の情報も無く出遭ってしまったら不運以外の何者でもないな」

「……どんまい」

「サモイエロー、ボスを捜している人だけじゃないんだからな」

「そうですよ」

「……まぁ、どんまい」

「皆さん、喋っている暇はありませんわ」

 サモブルー、サモレッドがサモイエローとは真逆の事を口にし、サモ緑が俺を労うように肩に手を乗せてたが、直ぐにサモマリンの言葉で微妙に緩みかけていた空気が霧散する。

 ゆっくりと近付いている巨大な髑髏へと全員が目を向け、各々何時でも動けるようにする。

「さて……」

 軽く拳を握り、サモレッドは髑髏を見据える。

「退却するか」

 そしてこう言い放った。

「ちょっと待て。逃げるのか?」

「あぁ」

「はい」

「うん」

「えぇ」

「……勿論」

 俺の確認に、サモレンジャー全員が逡巡する事なく、ほぼ同時に頷いた。俺と違って、普通に攻撃が通じているし、俺よりも強くて遥かにレベルが高いから戦っても何ら問題ないように思える。

 ……が、それはサモレンジャーだけならの話だろう。

「それは、俺がいるから、とかか?」

 今現在はここに俺もいる。レベル的にはお荷物も同然だろうな。サモレンジャーの正義の味方と言う性格上、俺の安全を度外視してボスと戦うってのはしないし。こうして俺がいるだけでも戦闘で俺がやられないかどうかの気配りも必要になってきて、全力では戦えないのかもしれない。他人の足を引っ張るのは嫌だから、俺の事は完全に気にしないで戦ってくれと進言しようと口を開く。

「いや、オウカ君は関係ない。単に勝てないからなんだ」

 が、それよりも速くサモレッドは俺の問いに首を横に振る。俺の事は関係ないとの事で、自分が足手纏いになっていない事に関して少し胸を撫で下ろすが、どうして勝てないと断言出来るのだろう? 先程のサモブルーの言葉からするとサモレンジャーもこの髑髏と相対するのは初めてみたいだけど。

「中腹辺りにある村で訊いたんですけど、どうやらこのボスは聖なる力でないと攻撃が通らないらしいんです」

「聖なる力……光属性って事か?」

「多分そうです」

 サモレッドに代わり、サモブルーが説明してくれる。このキリリ山には村が存在するのか。で、サモレンジャーはその村のNPCにボスの情報を訊いて、知ったと言う事か。サモレンジャーは全員が魔法を使えるがそれぞれが炎、水、氷、雷、風の属性だけを使えるから有効打にはならない。それを分かっているから逃げの一手を選んだのか。あと、この山に村なんてあるのか。とすると、そこが開始ポイントとして設定出来るのか。

 ……ちょっと待て。さっき、普通に攻撃当たったよな? しかもダメージ入ったように見えたし。

「【オーロラブレイク】は効いてたみたいだが」

「あれは炎、水、氷、雷、風の五属性だけど、耐性無効の効果もあるから効いたんですよ」

 疑問を素直に口にするとサモブルーからそのような回答が得られた。

「でも、あれはディレイタイムが長いし、前も言ったけど精神力もかなり使うから連続使用には向かないんだよね」

「アクセサリで軽減していますけど、それでも膨大な量を消費する事に変わりませんわ」

 サモイエロー、サモマリンが補足する。確かに、イベントの時もそんな事言ってたな。

 因みに、こんな会話を繰り広げている間にも髑髏は着実にこちらに近付いてきている。そろそろ駆け出さないと髑髏が突進してきたり大口開けて呑み込んで来たりするだろう。

「……鎌鼬」

 と、サモ緑の傍らに鎌鼬が出現し、鎌状の腕を振るうと俺達全員に風が纏わり付く。敏捷力アップの効果がある補助が掛かったようで、これであの髑髏から逃げやすくなった筈だ。

「さて、取り敢えず村まで戻るか。サモイエロー」

「はいよー」

 サモレッドに促されたサモイエローは何故か俺の傍らにまでくると、左腕を俺の腹に回し、そのまま俺を軽々と肩に抱えてしまう。

「うわっ」

「口閉じてないと舌噛むから気を付けてねっと」

 そして一気に駆け出してしまう。他のサモレンジャーの面々も同じようで並走している。確かに俺の方が敏捷はまだ遅いかもしれないから、こうやった方が取り残される事はないんだけど如何せん……結構、振動が……。

 ただ地面走ってるだけならまだ酔いもマシだったのだが、生憎とサモレンジャーは全員が全員身軽だ。なので、そこらに生えている木を蹴って空中を掛けているかのように縦横無尽に林の中を駆け廻る。もう木を足で蹴る瞬間の反動がもろに俺にも来る訳で、そして自分で色々と制御が出来ない状況にされてしまっているから

「追い駆けてきますね」

「相手も相当速いですわね」

「さて、どれだけ移動すれば向こうは諦めてくれるか」

「もしかしたら、村に入るまでかもしれませんよ」

「というか、村に入っても普通に侵入してきたらトレイン行為扱いでMPKにならないかこれ?」

「なると思いますわ」

「そうならない事を祈りましょう。が、その可能性を無くす為に一度セーフティエリアに入り、近付いて来ないかどうかを確認しましょうか」

 あぁ、早くその村とやらに着かないだろうか? 口からは変な息が漏れ出している。乗り物酔いは今日だけで二回か……イベントの時はもっとだったが……うぷっ。

「…………」

「あれ? オウカくーん?」

 俺を担いでいるサモイエローが俺に話し掛けてくる。やめろ、今はマジでやめろ……。受け答えなんて出来ないから。あと更に揺さぶりかけないでくれ酔いが増す……。

「……暫く声は掛けない方がいい」

「何で?」

「……酔い」

「え? 酔い?」

「……オウカは、乗り物酔いが酷いらしい」

「あー、そうなんだ。ってか、よく知ってるね?」

「……イベントの時に偶然」

「そっか」

 …………はやく、はやくついてくれ。

 たのむから。

 もしくは……もう、おいかけてくるな、どくろ。

 あぁ、はきたい。

 はいてらくになりたい。

 でもはけない。

 はきたくてもはけない。

 これがぶいあーるのけってん。

 ただ、げんじつせかいのことをかんがえればまわりをよごさないですむからいい。

 とかグロッキー状態な俺がつらつらと気を逸らそうと頑張っていると、急に止まる。やめてくれ、その反どうでよけいにはきけが……。

「……さて、セーフティエリアまで来たが、ボスも例外なくこちらに来ないようだな」

「そうですね。……あ、去って行きますね」

「これで一安心ですわ」

「流石に襲えないから諦めたんじゃない?」

「……もう、平気」

 どうやら、髑髏は退散したようで……もう肩に担がれて縦横無尽に動き回られる事も無くなった、か……。このまま酔いが続くのは勘弁なので、【醒め薬】の効果で早く元の状態に戻りたい……。


『着信:アケビ』


『オウカ君? 聞こえる?』

 目の前にボイスチャットの着信を告げるウィドウが表示され、ぶらついていた手が触れて通話状態になる。

「…………さ」

『さ?』

「…………【醒め薬】……くれ……」

 逸早くこのグロッキー状態から抜け出したい衝動にあった俺は、この場にいないアケビに【醒め薬】をねだってしまった。

 もう、誰でもいいから【醒め薬】使って下さい……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ