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日曜日。不本意だが行かなければいけない所があったのでまずそちらに赴き、その後に家に戻ってきた。今日は母が休みで家事はしなくていいから遊べ、と言われたのでそのままSTOへと向かう。
時刻は午後の一時半で、集合より三十分は遅くなってしまった。
拠点の中には誰もいないので、外で遊んでるんだと思う。
扉を開けて外に出れば、サクラとアケビがリトシー達と遊んでるのが見て取れた。何かかーごめかごめをしている。新参者のミビニー……じゃなかった、スビティーとも遊んでいるから、もう打ち解けたか?
「あ、オウカさん」
と、サクラが俺に気が付いて遊びを一時中断してこちらにやってくる。続いてアケビとリトシー達も続いて行く。
「お久しぶりです」
「久しぶり」
「あぁ、久しぶり」
一週間……ではないけど、それくらいは顔を合わせてなかったな。本当に久しぶりだ。声を聴くのもな。
「びっくりしましたよ。草生えてますし、新しい仲間も増えていて」
「うん。しかも蜂だし」
サクラとアケビは拠点の変化と新しい仲間にやはり驚いていたらしい。そりゃ、自分が知らない間に変わってたり増えてたりすればびっくりするよな。
「草はメッセージ通りサモレンジャーと拠点を連動させた結果だ。で、こいつはスビティー。この間卵を孵化させたんだけど、その時はミビニーって言う奴で、昨日レベルが15になったら第一成長した」
「そうだったんですか」
「と言うか、オウカ君はパートナーの卵持ってたの?」
「持ってた。ほら、あのビーワスの大群を相手にした時俺が手に入れた【ビーワスの卵】ってのがあったろ? あれがそうだったんだよ」
俺の説明にサクラとアケビは納得したように頷く。そう言えば、【ビーワスの卵】がパートナーの卵だって言うの忘れてたな。まぁ、今言ったからいいか。
「……ん?」
納得していたアケビが、ふと片眉をやや上げて首を傾げる。どうしたんだ?
「……つまり、この子はビーワスになるの?」
アケビの質問に俺は首を横に振って答える。
「いや、ならないと思う。多分。こいつ凶暴じゃないし、固有技【花粉団子】だし」
見た目は蜜蜂じゃなくて雀蜂に近付いてしまったが、まだ子供の無邪気さが残ってるこいつはどうしてもビーワスになるとは思えない。ただ、第二成長が起こるまで分からないから断言は出来ないんだよな。
「なら、よかった」
「そこまでビーワス……雀蜂は嫌いか?」
「大嫌い」
即座にってのけるアケビ。養蜂をする上では雀蜂は害虫にしかならないしな。もしくは、ローズと同じで過去に刺された事があるとかか? まぁ、深くは詮索しないけど。
「で、今日はどうする?」
「私は皆と遊ぶ。最近構ってあげられなかったし」
「僕もアケビさんと同じです」
アケビとサクラはそう言うとそれぞれの召喚獣とパートナーの頭を撫でる。ここ数日は一緒にいられなかったからな。互いに寂しかったと思うし、いい機会だろう。レベル上げは何時でも出来るから、別に今日でなくてもいいか。
「そうか。なら俺はちょっと街に行って食材アイテム買って来るな」
昨日のスビティーのレベル上げで色々と食材アイテムを入手したからな、料理アイテムに変換しておこうと思う。ただ、それだけだと肉類が多くなってリトシーが食べられない。なのでシンセの街で植物系の食材アイテムを入手しようと言う算段だ。
因みに、昨日も結局クルルの森で赤い実を採取する事は出来なかった。どうして俺が手を伸ばす赤い実をつけた木は絶対トレンキなんだろう? これは運営の虐めと取るべきか、もしくはバグと疑った方がいいか?
「一緒に遊ばないの?」
「いや、買い物終わって、料理し終えたら遊ぶよ。今思えばここ最近こいつら料理食べてないし」
この頃は一緒に遊んだり一人で外に出たりPvPしたしで、料理してなかったからな。そろそろこいつらも何か食べたいって思ってる筈だ。
「と言う訳で、ちょっくら行ってくる」
そう言いながら片手を上げ、出口へと向かう。すると、リトシーとスビティーが俺の後についてきた。ただの買い物だから、別にこいつらが無理してついて来る必要なんだよな。
「リトシーとスビティーは俺について来なくていいぞ。皆と遊んでろ」
「しー……」
「びー……」
「って、何でそんな残念そうな声出すんだよ?」
俺の言葉にリトシーとスビティーが声を揃え、更に瞼をやや閉じて視線を下に向ける。何なんだよ? 俺は二匹を気遣ったんだけどな。
「オウカさんと一緒に買い物したいんですよ、きっと」
と、サクラが二匹の後ろに立ってそんな事を言ってくる。
成程、こいつらは俺と一緒に買い物に行きたかったのか。
「……でも、連れて行けるのは一匹だけだしなぁ」
昨日はスビティーと一緒に外に出たから、連れていくとしたらリトシーだな。イベント終了後はリトシーと一緒に外に出てないし。スビティーとは孵化の時も合せたら二回出てるからな。
ただ、スビティーは孵化して間もないからリトシーよりも一緒にいた時間が短い。だから、もう少し仲を深める為にはスビティーを連れていくべきなんだけど……。
「俺はどっちを連れてけばいいんだ?」
「いや、僕に訊かれても」
サクラに訊いても、頬を掻いて困るだけだった。
……仕方ない。俺一人で決めるしかないか。
「ジャンケンで勝った方……って、こいつらの手じゃジャンケン出来ねぇか」
くそ、こんな時に【テイマー】の制約が恨めしいな。パートナーは一匹しか連れて歩けないなんて言う制約が無ければ、ここまで悩む必要もないのに。
どうする? どっちを連れていく?
いっその事どちらにしようかな? で決めるか? いや、それだと花占いと同じで最初に指差した方で結果が決まってしまうから駄目。あみだくじ……は地面に線を引いても直ぐに消えるから出来ないし、紙もペンも残念ながらアイテムとして持ってないから無理だ。駆けっこで勝った方……はスビティーが勝ちそうだな。いや、リトシーが【初級木魔法・補助】で妨害すれば勝ち目はあるか。でも、スビティーも【初級風魔法・攻撃】と【初級風魔法・補助】があるからな。スビティーが有利な事に変わりないか。大縄跳びで多く跳んだ方……ってスビティーは元から飛んでるから意味ない。
いや、そんな方法で決めずに、きちんと考えてリトシーかスビティーのどちらかを連れていくか決めないと。腕を組み、目を閉じて暫し考える。
「…………」
決めた。
「…………」
俺は無言のままリトシーとスビティーを抱き抱える。
「しー? しー♪」
「びー? びー♪」
いきなり抱えられた二匹は不思議そうな顔をするも、直ぐに笑って顔を俺の胸に擦り付けてくる。毒気の抜かれるこいつらの笑顔を見ると、胸にぐさぐさと罪悪感が突き刺さって来るな。
「……御免」
俺はそんな二匹に謝りながら少し遠くで傍観していたキマイラの背中に優しく乗せる。
「やっぱり俺一人で行くっ」
そう告げて出口へと一気に駆け出す。
「しー⁉」
「びー⁉」
リトシーとスビティーが驚愕の声を上げるが、振り返らずにシンセの街へと降り立つ。その間五秒。全力で走ったから体力が一気に減った。
どちらかを選ぶなんて、俺には出来なかった。結局どちらもつれて行かないと言う結論に達してしまった俺は不甲斐無さに自己嫌悪する。
「……あいつらの好きなの、作るか」
リトシーはケーキで、スビティーは……何だろうか? 少なくとも【花粉団子】が固有技だから甘いものでも大丈夫そうだから、甘いのでも作ろう。
さっと買ってさっと帰ろうと決め、中央広場から食材アイテムが売っている場所へと駆けていく。




