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辛口令嬢は辺境で花開く〜妹に婚約者を奪われ追いやられたので無口で不器用な伯爵と子育てをはじめますからお好きにどうぞ〜  作者: リーシャ


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13 小さな積み木も積み上げれば立派な城になる。心ない者が手を出せば。不在を狙った明らかな嫌がらせ

 視線は明らかに侮っている。隣でルカスが不安そうに服の裾を握りしめた。


「何よ、人の足元を見るような真似はおよしなさい。軽んじれば後で痛い目を見るわよ。あなたのような小物にヴァルター伯爵家を好きにさせるつもりはない」


 毒舌を吐きながら一歩後ずさると、ザンドルはフンと鼻で笑った。


「小物、ですと? ははは!恐れ入った。私には貴女が、傷物花嫁として辺境に捨てられた哀れな女にしか見えませんな。伯爵様もご自分の領地のことよりも、美しい花嫁の行く末が心配なのではありませんかな?」


 ザンドルの言葉は転生前の妹の策略を匂わせ、深く侮辱するものだった。怒りで奥歯がギリリと音を立てる。ルカスの手がさらに強く服を掴む。


「黙りなさい! あなたのような卑しい男に、城に足を踏み入れる資格はないわ。今すぐ立ち去りなさい。でなければ私がこの手で、あなたを叩き出して差し上げる」


 怒気にザンドルの顔から笑みが消え、すぐに冷たい笑みを浮かべる。


「ほう、随分と気の強いことですな。残念ながら私は中央の監査官。あなた方に拒否権はありませんぞ。大人しく監査に協力していただくことですな」


 ザンドルは従者らしき男たちを数名引き連れて、城の中へと入っていこうとした。怒りは頂点に。

 男の企みはディートリッヒの不在を狙った、明らかな嫌がらせだ。しかも、侮辱してルカスまで不安にさせている。


「待ちなさい!」


 思わず声を上げるとザンドルは振り返った。


「何を、お嬢様?」


「城の入り口は許可なく通ることはできないわ。もしこれ以上、無礼を働くのなら相応の報いを受けることになるでしょうね。ただの辺境の女だと思うと痛い目に遭うわよ、ザンドル監査官」


 殺気にも似た冷たい響きがあった。ザンドルは眼差しに一瞬だけ怯んだように見えたが、すぐに嘲笑を浮かべる。


「ほう、脅しですかな? こちらは、国から認められた中央の監査官ですよ。辺境伯夫人の脅しなど何の役にも立ちません」


 言い放ち、再び城の中へ足を踏み入れようとした。その時、ルカスが前に立つザンドルに向かって、小さな積み木のブロックを投げつける。

 積み木はザンドルの足元にカラン、と音を立てて転がった。


「僕のお家を壊さないで!」


 ルカスの震える声にザンドルは鼻で笑う。


「生意気な小僧め」


 ザンドルがルカスに手を伸ばそうとした瞬間、先に彼の腕を掴んだ。


「この子に、指一本でも触れることは許さない」


 怒りに燃えていた。ザンドルは力に驚いたように目を見開く。手を振り払い、ルカスを背中に庇った。


「あなたのような卑怯者がヴァルター伯爵領に、私の家族にこれ以上手出しはさせない。たとえディートリッヒが不在でも、私が城を守ってみせる。家族の務めなんだから」


 ザンドルの顔から完全に笑みが消え、怒りと焦りの色が浮かぶ。だが、こちらの睨み返す眼差しに、監査官ザンドルの顔から血の気が引いた。


 だが、すぐに彼は不敵な笑みを。


「ほう、随分と吠える雌犬ですな。所詮は伯爵不在の城。あなたに何ができるというのです?」


 ザンドルは侮蔑するように一歩踏み出した。従者らしき男たちもぞろぞろと城門に近づいてくる。背中でルカスの体が震えるのが伝わってきた。


「何ができるか、ですって? フン、あなたの腐った頭では想像もできないことでしょうね」


 ザンドルから視線を外し、従者たちの方へゆっくりと歩みを進めた。足元には先ほどルカスが投げつけた積み木が転がっている。

 それを拾い上げ、ザンドルの目の前で、小さな音を立てて砕いた。


「これを見なさい。小さな積み木も積み上げれば立派な城になる。心ない者が手を出せば、いとも簡単に崩れ去るわ」


 ザンドルの顔色が変わった。


 言葉が単なる脅しではないことを悟ったようだった。


「伯爵領は辺境ではあっても、確固たる秩序の上に成り立っている。あなたのような中央の虫けらが勝手に踏みにじって良い場所ではないわ。もし、これ以上無礼を働くのなら伯爵の怒り、ひいては領地全ての怒りがあなたたちに降りかかることになるでしょう」


 静かな声が城門に響き渡った。従者たちの間に動揺が走るのが見て取れ、彼らは目の前の辺境伯夫人から放たれるただならぬ気迫にたじろいでいる。


「な……何、を、言うか!」


 ザンドルが焦りと怒りで声を荒げた。


「この期に及んで虚勢を張るとは笑止千万! 伯爵不在の今、貴女にできることなど何もない!」


 叫び、こちらに向かって手を伸ばす。


「そこまでだ、監査官殿」


 城門の奥から低い声が響いた。ザンドルの手がピタリと止まる。城門がゆっくりと開くと立っていたのは、ディートリッヒ。

 旅の埃を被ったまま、冷たい眼差しでザンドルを見据えている。隣には数人の屈強な騎士たちが控えていた。視線は全てザンドルと従者たちに集中している。


「ディートリッヒ……!」


 思わず呟くと彼はちらりと視線を向けた。

 剣呑な瞳の奥には安堵と信頼の色が浮かんでいる。


「伯爵様!? なぜ、ここに……」


 ザンドルはディートリッヒの突然の登場に、顔を青ざめさせた。計算は完全に狂ったのだろう。


「領地を許可なく荒らす者がある、と聞き及んでな。それが中央の監査官殿とは、驚きだ」


 ディートリッヒの声は氷のように冷たかった。

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