5章 第26話
走り続けること、約二時間。
ミネルたちは……雪風が緩やかになりつつある場所まで、やっと辿り着く。
「――なぁ、爺さん。もう少しで、麓に到着するぞ」
ミネルは、汗だくになり激しい息切れを起こす老人を心配に思いながら言った。
この言葉に老人は、苦しながらも穏やかな笑みを浮かべて答える。
「あぁ、そうだな。もうすぐだ」
そんな瞬間。
「……なんか頂上が、ものすごい紅く燃えているよ!」
最後尾を駆けるシュティレドが……後方へ顔を向けながら、多少に声を荒げて皆へ伝えた。
否。
ミネルたちは……駆けていた脚を一旦止めて、背後を振り返る。
「つ、遂に……村が燃やされてしまったか」
燃え盛っている村を遠目で見つめながら、老人が悲しそうに呟いた。
イリビィートも同様に、悲しい視線を向けながら呟く。
「また、燃やされてしまうのね……」
と。
進行先の方向から……聞き覚えのない男の声が、不意に響き渡ってくる。
「あらあら、遂に燃えてしまいましたか……。この場が燃えるのも、時間の問題ですかね?」
『他人行儀』で『不吉』な『気味の悪い』声を鼓膜に響かせたミネルたちは、スグに言葉が発せられた方へと顔を向けてみる。
刹那……。
銀仮面で目元を隠し、両腕全体に包帯をグルグルと巻き、白いマントを羽織った不気味な一人の男が……ミネルたちの瞳に映った。
「お、おい……。誰だよ、お前?」
ミネルが多少に強張った声で問い掛けるなり、謎の男はニヤリと白い歯を見せながら喋りはじめる。
「ワタシの名が、知りたいのですか? だとするのならば、それは叶えることはできませぬ。何故ならワタシは、王宮魔導師。一般庶民に、名を知られてはならぬのですよ。……ただし、秘匿名ならば教えることが可能です。ワタシの秘匿名は、『煉獄』でございますよ!」
煉獄と名乗る男は、静かに口を閉じて語りを終えた。
……と、ミネルたちが思った瞬間だった。
煉獄は、語尾に付け足すかのように……再び唇を動かして声を発する。
「狐っ子は見当たりませんが……貴方が、例の老人なのでしょうかね? 街人達によると、冒険者と共に行動しているというコトを聞いておりますし……。もうコレは、獲物で確定で間違いなさそうで、ございますねっ!」
語尾が堅苦しい言葉を吐き終えるなり、煉獄という男は……包帯が巻かれた右腕をピンッと天に高く向け伸ばしはじめる。
否。
天に伸びる手先から……大人の顔一つ分程の大きさはある炎玉が、三個もつくられていく。
「今、つくりだしているのは煉獄の炎でございます。ワタシの秘匿名の由来となったモノなんですねぇ!」
煉獄男は、こんな事を大声で叫びながら……三つの炎玉を老人に向かって、投げるように放射した。
三つの炎玉は老人に向かって、曲がることなく一直線に向かっていく。
「ゔぅ、うわぁぁー!?!?」
速い速度で真っ直ぐ向かってくる炎玉に対して……老人は逃げる時間を見つけれず、叫び声を上げた。
……このままだったら、爺さんが燃え死ぬ。
ミネルとシュティレドが、そう感じた時だった。
「……どうして、こんな事になってしまったのかしら?」
白く長い九つの尾を生やした、巨大な白狐が……メンドくさそうに呟いながら、老人を炎玉から庇うように突然現れた。
三つの炎玉は、巨大狐の美しい毛並みが目立つ白い身体へと、吸い込まれるように消えていく。
消えないはずの炎が消えていく光景に、思わずミネルの口から声が漏れ出てしまう。
「ほ、炎が消えた……」
不意に漏れ出た発言に、突然現れた巨大白狐が返答する。
「あたしの身体は、再生能力が凄いのよね。きっと焼き尽くす前に、炎が燃え尽きてしまったに違いないわ」
「そ、そうなのか……。スゴイな」
巨大狐の発言にミネルが感動をしていたら、煉獄男が申し訳なさそうに細々と口を動かして言う。
「え……いや。故意的に、ワタシが消火したんですけれども」
この発言に、巨大狐は少しばかり恥ずかしそうに言葉を返す。
「そ、そうだったのね……。まぁ、どちらでも良いわ」
多少に残念な会話を目前で聞いている中で、ミネルは不意に思う。
……ん? このデッカい狐。もしかしたら、狐っ子なんじゃないのか!? なんか想像と違ってデカイけれど、きっとそうなんだろう!!
こう感じたミネルは急いで、腰を抜かし尻餅をついている老人に向かって叫ぶ。
「なぁ、爺さん! この目の前にいる狐って、狐っ子なのか!?」
「あぁ……そうだ! やはり狐っ子は、まだ生きておったんだ!!」
老人は歓喜のあまり涙腺を崩壊させながら、ミネルの質問に答えた。
確かな答えを耳にしたミネルは……狐っ子を探すのに協力をしてくれたイリビィートへと礼を伝える為、周辺を見渡す。
周辺を見渡して、イリビィートの姿を探すのだが……。
「アレっ……?」
イリビィートの姿は、どこにも見当たらなかった。




